※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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11月の頭には投稿すると言っておきながら大幅な遅刻、本当に申し訳ないです。

モチベーションが落ちているわけではなく、自分自身が納得出来る内容が書けずに何度も書いては消してを繰り返した結果、このような大幅な遅刻を招いてしまいました。その癖、今回の話も完全に納得出来る仕上がりというわけではないというね。

しかし、待ってくださっている皆さんからありがたいお言葉を頂けたり、完成させない限りは納得のいく出来も糞もないという大前提を思い出しましたので、とにかく物語を先に進めさせていただきます。
重ね重ね、遅くなってしまい本当にすいませんでした。


急襲、アタランテ

 降り注ぐ矢の雨を目視したアヴィケブロンの反応は素早かった。即座にゴーレムを盾とした岩の壁を生成し、自分やマスターたちを守るように上空からの攻撃に備える。

 マスターが自分の頭上に岩の天蓋が出来上がったことを見て取った次の瞬間には、轟音と共にそこに幾つもの亀裂が出来上がっていった。

 

「ギリギリ間に合ったようだね。だが……」

 

 初撃は防げた。しかし、今もなお降り注いでいるこの矢の雨から身を守り続けることは到底不可能だ。

 アヴィケブロンに出来るのは、あくまでゴーレムの壁を生成し続けることだけ……その強度を越える攻撃が繰り出され続ければ、いつかはそれが自分たちの身に届くことになるだろう。

 そして、アタランテには宝具を打ち続けられる見込みがある。でなければ、こうして闇雲に矢を射続けることはせず、自慢の俊足を活かした戦法に切り替えているはずだ。

 

「マスター、長い間は防げないと思ってくれ。他のサーヴァントたちからの救援を待つか、どうにか君だけでも離脱する方法を見つけ出すことをお勧めするよ」

 

「離脱するのなら全員でだ。誰も、見捨てることなんて出来ない」

 

 戦術的に正しいアヴィケブロンの言葉にそう返すマスター。彼の発言を耳にしたアヴィケブロンは、仮面の下で小さく頷いた。

 

 別に、ここでカルデアのマスターだけが安全地帯へと離脱することは何も間違った選択ではない。彼が死んだ時点でカルデア陣営の敗北が決定してしまう以上、彼を生かすことを最優先とすることはおかしな判断ではないはずだ。

 それに、アヴィケブロンをここに残しても令呪による命令権がある。安全地帯へ移動したマスターが令呪を行使してアヴィケブロンを呼び寄せれば、彼もまた無事にこの窮地を乗り切ることが出来るだろう。

 マスターがそれをしないのも、アヴィケブロンがその行動を黙認するのにも、勿論理由がある。それは、今現在マスターに抱えられているジャックであった。

 

「……見捨て、られた。また、捨てられちゃった……」

 

 生気のない瞳で、ぶつぶつとうわ言を繰り返すジャックは、自分を巻き添えにすることがわかっていて繰り出されたアタランテの宝具での急襲に心が折れてしまっていた。

 彼女にとってこの事態は、カルデアのマスターの暗殺に失敗した以上、もう自分が不要な存在であるということをソロモンから暗に宣告されてしまったものだ。彼を崇拝し、縋り、従順に命令を聞いてきたジャックの心を磨り潰すには十分……いや、彼女の出自を考えれば、今まで一番の絶望を感じているのは間違いないだろう。

 

「いらないんだ……ソロモン様は、わたしたちなんて必要なくなったんだ。わたしたちの居場所はもう、どこにもないんだ……」

 

 幼い心をへし折られ、魔術による洗脳や調教があったとしても、自分たちがカルデアを裏切ったことは紛れもない事実。

 カルデアのマスターは自分たちを捨てたとソロモンに唆され、こんなに辛い思いをしているのに助けに来てくれないことがその証拠と言い包められ、彼に対する憎しみの感情を募らせたこともまた事実だ。

 

 そんな風に甘言でジャックを乗せたソロモンは、優しさを装って彼女を篭絡して自身の手駒とした。力を与え、快楽を与え、いつの日か彼女の持つ刃がカルデアのマスターを解体することを願って、仮初の温もりをジャックへと与え続けた。

 カルデアを裏切ったジャックは、その温もりと快楽を享受して幸福を味わい続けていたが……彼女の心が満たされることなど、あるはずがなかった。

 

 本当はわかっていた、ソロモンが自分たちを愛していないことなど。彼は自分たちの母親ではない。自分たちは彼の子供ではない。ただの道具で、利用価値が無くなればこうして捨てるだけの存在だということは理解していたはずだ。

 

 本当はわかっていた、カルデアの皆が自分たちを見捨てたりなんかしないことを。ただ苦しかったから、辛かったから、楽な方へ逃げたかった。助けに来ない彼らが悪いと、そう思ってソロモンに従っていれば楽だったから、自分たちの中で彼らを悪者にしただけだ。

 

 そして、わかっていたはずだ、絶対にこんな日が来るなんてことは……暗殺に成功しても、失敗しても、もうその時点で自分たちは用済みとなる存在。そうなった時点でソロモンは自分たちに対する興味を失い、ただの性奴隷、肉便器として、部下たちに下賜するだけだなんてことは理解出来ていたはずなのだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 優しかった人たちを、大好きな友達を、全部裏切ってまで進み続けた末路に待っている運命が残酷なものであることくらい、ジャックにだってわかっていた。それでも、抗うことは出来なかった。拒むことも出来なかった。

 これは因果応報の結末で、自分たちが悪いことをしたからこうなっている……もう何処にも自分たちの居場所はない。もう誰も自分たちを愛してはくれない。

 絶望に浸るジャックの口からは謝罪の言葉が絶え間なく漏れ続け、光の無い瞳からは静かに涙が溢れ出す。孤独に震え、自分自身の悪行に苦しむジャックは、最大のトラウマを抉る出来事にただ咽び泣くことしか出来なかった。

 

 カルデアのマスターは、そんなジャックを強く抱き締めると共に唇を噛み締める。もっと早くに彼女を助け出せていればこんな苦しみを味わわせることもなかったと自分を責め、こうして自分の腕の中で震える少女を今度こそ守り抜こうと決意を固める彼に力を貸すアヴィケブロンもまた、かつて自分が命を奪ってしまった少年とジャックの姿を重ね、その償いとして彼女を救い出すことを自身に誓う。

 

「アヴィケブロン、限界まで矢を防ぎ続けてくれ。魔力切れは、令呪で補ってみせる。たとえ何画使おうとも、救援が来るまで持ちこたえよう」

 

「わかった。幸い、宝具の威力にも慣れてきたところだ。限界はあるだろうが、君の期待に応えられるよう尽力してみよう」

 

 頭上の天蓋を覆うようにもう一つの岩の壁を、更にそれを覆うように大きな壁を……というように重厚な防壁を何重にも重ねるアヴィケブロン。しかし、多少の魔力が込められているだけの(ゴーレム)の壁など、アタランテの宝具を以てすれば十数秒で粉砕されてしまう。

 その度にアヴィケブロンは魔力を消費して新たな壁を作り出し、出来る限りの時間を稼いだ。同時にマスターも何時でも令呪を使えるように準備をし、もう片方の腕でジャックを強く抱き締める。

 

 今の彼には、ほんの少しだけの希望が残っていた。ジャックを取り戻せるという希望と、あと一つ……自分の考え過ぎかもしれない。確証もない。だが、もしかしたらそうであるかもしれないという願望にも近い希望を胸に、彼はアヴィケブロンと共にこの苦境を凌ぎ続ける。自分の仲間たちが、アタランテを止めてくれることを信じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒一色と表すに相応しい出で立ちと、見る者に鋭さと冷たさを感じさせる銀の髪。彼女のその姿には、見覚えがあった。

 自身を蝕むとわかっていても苦しむ子供たちの残滓を己が身に受け入れ、誰かのための憎悪に突き動かされて変貌した魔獣……報われなくても、救われなくとも、それを理解していたとしても、ただただ自分の愛する物のために突き進み続けた不器用で美しい夢こそが、その姿の根底にある彼女の想いだったはずだ。

 

「……何してるんだよ、姐さん。アンタって人は……」

 

 ここに彼女が来たことも、彼女が何をしたのかも、カルデアのマスターから令呪を通して聞いていた。俊足を売りとする自分が他の誰かに先を越されることなどあり得ないとは思っていたが、こうして彼女と一対一で対面することが出来ている現状を考えると、何処か運命的なものを感じてしまう。

 

 ……ロマンティックなものではなく、悪夢の再現という意味での話だが。

 

「………」

 

 無言で、弓を射る手を止めた彼女がこちらへと振り向く。感情を感じさせない瞳に自分の姿を映し、ただ黙ってこちらを見た後に、手にしている弓の照準を自分へと合わせてくる。

 それを見て、ようやく彼も確信した。自分が敬愛し、憧れ、想いを寄せた女性と、目の前に在る彼女は別物であると……今、自分の前に立ちはだかるアタランテには心がない。肉体だけのがらんどう、空っぽの抜け殻であることを感じ取り、泣き笑いにも近い表情を浮かべ、彼は口を開く。

 

「なあ、なあ……どうしてだ? なんで、こんな真似するんだよ。あそこには、()()()()()()()()?」

 

 返事なんてしないことはわかってる。理由がないことも理解している。だが、そう問わずにはいられない。聞かずにはいられない。

 どうしてあれだけ愛した子供をその弓で射ることが出来るのか? その命令を拒まないのか? 心の無い人形と化したアタランテにそう尋ねても無駄だということはわかっていても、彼女のした行動が信じられない彼にとっては声に出して聞かざるを得ないことだった。

 

 もう見たくない、こんな彼女の姿など。もしも彼女が最も愛していた存在をその手にかけることとなったとしたら、誰よりも苦しむのはアタランテ本人だ。心を失い、感情を奪われた存在と化していたとしても、そんな罪を彼女に背負わせるわけにはいかなかった。

 

 例え苦しかろうとも、辛かろうとも、彼女を止めるのは自分の役目だ。再びあの救いのない、ほろ苦い終わりを迎えることになったとしても、それが自分の役目だ。

 

 本当の彼女の夢を知る自分が、これ以上彼女が自分自身の夢を汚す前に、止めてやらなければならない。

 

「アンタの夢は……美しく温かいその夢は、何処に消えたんだ!? アタランテっ!!」

 

 吼える、感情のままに。爆発させる、感情を。全ての迷いを振り払うために。

 今はただ、自分の役目を果たすだけ。自分と彼女の悪夢を終わらせるために、この槍を振おう。

 

 怒りと悲しみの入り混じった叫びを響かせ、敵となったアタランテと向かい合いながら、騎兵(ライダー)、アキレウスが戦いの構えを取る。憧れ続けた女性の魂を解放するための戦、聖杯大戦第二戦……ギリシャ神話の英雄同士の戦いが今、始まろうとしていた。

 




忘れてました。今さらですが、明けましておめでとうございます。
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