幕間の物語 英霊更正施設カルデア ①
「……起きろ。起きろよ、相棒」
「うぅん……?」
謎の声を耳にした俺が目を開けて周りを見ると、そこに広がっていたのは真っ暗な闇であった。確か昨日はちゃんとカルデアの自室で寝たはずだと思ったのだが、これはどういうことだろうか?
「あー、安心しろよ相棒! ここはお前の夢の中、俺はお前の意識の部分に語りかけてるだけだからよ!」
「なーんだ、そういうことか! これは夢なのね、なるほど~!」
再び聞こえてきた謎の声が俺の疑問を解消してくれたことに安堵し、俺は再び目を瞑って眠りに就こうとした。最近疲れてるし、ゆっくり休める時に休むに限る。
だが、そんな俺に慌てた口振りで謎の声の主がなおも語りかけてきた。
「ちょっ!? お前っ!? 人がこうして出てきてるのに無視するのかよ!?」
「んあ……? え、何? 君は夢じゃないの?」
「当たり前だっつの! お前に話があるから、こうしてお前の夢の中に出張って来たんだろうが!」
「あ、そうだったんだ……ごめん、てっきり夢の一部なのかと……」
「はぁ……まあ良いさ、お前も色々大変だろうしなぁ……」
妙に俺の事を知っている様な感じがする謎の声の主は、姿が闇の中に溶けているためにはっきりと見る事は出来ない。せいぜい輪郭がぼんやりと見える程度だ。
せめて声だけでも聞き取ろうとして集中していた俺は、はたとある事実に気がついた。
「もしかして君、タマモキャットの時に助けてくれた人?」
「おお! 覚えてんじゃねえか! そうだぜ、俺はお前の味方だ!」
「それはありがたいんだけどさ……君、誰なの?」
自称、俺の味方を公言した声の主に当然の疑問をぶつける。姿の見えない協力者って格好良いけど、実際に出てくるとなんとも胡散臭い。
そんな俺の質問に対して、声の主は心なしかドヤった声を出して返答をした。
「俺は、あれだ、もう一人のお前的な奴だ!」
「も、もう一人の俺?」
「そうだぜAIBO! お前が俺で、俺がお前的なあれだよ!」
「おお……! もう一人の僕……!」
俺はそのなんとも中二心をくすぐられる返答に目を輝かせた。胡散臭さは変わらないが、頼もしさが増した気がしてくる。
声の主の輪郭もぼんやりとしてはいるが、なんだか髪型がヒトデみたいな形をしている様にも見えてきた。
「実はな相棒……今日はお前に話をしに来たんだ」
「は、話って何? もう一人の僕」
「ああ、それはな……もうちょい肩の力を抜いたらどうだ? ってことだよ」
「は……?」
自称、もう一人の俺はそう言うと自分の意見を話し始める。俺は素直にその話を聞くことにした。
「確かにお前がヤバい状況にあることはわかるぜ。でも、いつまでも緊張しっぱなしってのも疲れるだろ?」
「うん……でも、そうは言ってられないしさ……」
「わかるわかる! だからよ、せめて気を抜く時を作ったらどうなんだよって話だよ」
「気を抜く時って……?」
俺のその言葉を待っていたと言う様に声の主の気配が近づいて来たことがわかる。先ほどよりも近い場所で発せられる声が、俺の質問に答えた。
「ずばり……セックスの時だな!」
「はぁ!?」
身も蓋も無いその一言に唖然とする俺。しかし、声の主は大真面目な声で話を続ける。
「良いか相棒? お前さんは今、最低5人の女の相手をしなきゃならねえはずだ。そん時も気を張り詰めとくつもりか?」
「う……! で、でも、皆まだ傷ついてると思うし……」
俺は奪い返した女サーヴァントたちの事を思い返しながらそう答える。ある程度癒えたとは言え、皆にはまだソロモンに支配されていた時の心の傷が残っているはずだ。
セックスをする時にはその傷を抉らない様に慎重にしようとしていた俺だったが、その考えを声の主はばっさりと切り捨てる。
「ばっか、お前! それは逆効果だろ! お前が女の立場だったとして、自分を抱く男が腫れ物を触るみたいな態度を取ってきたらどう思うよ?」
「うっ……!?」
一理ある、そう考えた俺に向けて声の主は畳み掛ける様にして自分の考えを述べてくる。
「逆なんだよ! セックスって本当は楽しくって幸せなものなんだ、って思わせるためにもメリハリはつけなきゃなんないんだよ! 女を奪い返した時点で気を張る時間は終わり! 後は頭空っぽにして楽しめば良いんだよ!」
「な、なるほど……!」
「それにな……惚れた男がしてみたいって事は、女も案外受け入れてくれるもんだ。ちょっと変態的なプレイでも、あいつらなら喜んでしてくれると思うぜ!」
その通りかもしれない。良い例がマシュだ。お尻の開発の時、俺は彼女の思いつく限りの責めを行ったが、マシュはそのすべてを喜んで受け入れていた。開発が終わった後もアナルセックスはマシュの大のお気に入りのプレイになっている。
それに、俺がいつまでも皆がソロモンに捕らえられていた事を気にしていては、皆もその考えから離れられないかもしれない……声の主の言うことに納得した俺は、笑顔を浮かべて彼へとお礼を言った。
「ありがとう、もう一人の僕! おかげで何か掴めた気がするよ!」
「そうかそうか! それじゃあ、次のプレイの考えは思いついたか?」
「う~ん、そうだなぁ……」
何か無いだろうか? 楽しめるセックスの仕方、皆を満足させられるプレイ……
「……あっ!!」
「おっ!? 何か思いついたか?」
ある思い付きを得た俺はニンマリと笑って声の主の輪郭を見つめた。そんな俺を見た声の主も楽しげな声を出す。
良い事を思いついたと満足した気分になった俺は、起きたら早速この考えを実行に移そうと決意をしたのであった。
「テストプレイ、ですか?」
「そうそう、そんなんだよ! ちょっと協力してもらっても良いかな?」
翌日の夜、ダヴィンチちゃんに呼び集められた女英霊たちは彼女から黒いメモリースティックを受け取り、話を聞いていた。
なぜか姿の見えないナイチンゲール以外の女性たちが集まった部屋の中、ダヴィンチちゃんは詳しい事情を説明する。
「何人かには渡したと思うけど、私が作った『ダヴィンチちゃんVR』あるだろう? あれ用のソフトを作ったんだけど、そのテストプレイに協力してほしいんだよね」
「はぁ……。構いませんが、何故私たちに?」
「深い意味は無いよ。ただ女性の意見を聞いてみたかっただけさ。気軽に楽しんで貰えればそれで良いから!」
にっこりと笑うダヴィンチちゃんの様子に戸惑いながらも彼女の申し出を承諾した女性たちは手渡されたゲームソフトを手にして自室へと戻って行く。最後の一人が部屋を出て行った直後、ダヴィンチちゃんはニヤリと笑って後ろに振り向いた。
「これで良いんだよね?」
「ああ、OKだよ!」
こっそりと物陰に隠れていたマスター、クー・フーリン、そしてロビンフッドが彼女と同じ様な笑みを浮かべながら姿を現す。
間違いなく何かを企んでいる彼らは、女性英霊たちが出て行った部屋の扉を見た後で顔を見合わせ、ニシシと笑ったのであった。
「んっ……ここ、は……?」
それから十数分後、自室でゲーム機を起動したマシュが目を開くとそこは良く知っているカルデアの廊下であった。
周囲には一緒にゲームを受け取った女英霊たちの姿もある。しかし、その姿を見たマシュは目を丸くした。
「な、なんで皆さん、裸なんですか!?」
「それを聞きたいのはこっちよ! どうなってんのよ、これぇ!?」
羞恥で半泣きになっているエリザベートの叫びが部屋の中に木霊する。何故か全裸に剥かれた自分たちは、その状態で廊下に放置されているのだ。
しかも良く見て見ると全員の尻には番号が書かれている。スカサハの尻には「002」、エリザベートには「003」と言うように書かれているそれが
「落ち着け……どうやら私たちは、万能の天才に一杯食わされたようだ」
「ど、どういう意味ですか?」
「これは普段のVRソフトとは違う。いつものソフトは誰かの記憶を疑似体験するもの、いわばビデオソフトだった。しかしこれは自分の意思で行動し、動くことが出来るゲームソフトだ。どうやら奴は、私たちにこのゲーム空間で何かをさせたいらしい」
普段から自分の記憶を見て自慰のオカズにしているスカサハは冷静さを保ったまま仲間たちにそう告げた。マシュたちは彼女の言葉に納得し頷いていると……
「はっはっは! 良く来たね、罪深き女英霊ども!」
聞き覚えのある声とともにドアが開き、見覚えのある仮面を身につけたダヴィンチちゃんが姿を現した。
今の彼女に名前をつけるなら、『ダヴィンチちゃん仮面』だろうなと思いながらマシュは彼女に声をかける。
「あ、あの、ダヴィンチちゃんさん、これは何なんですか?」
「ああ、私はダヴィンチちゃんでは無いよ。彼女そっくりのプログラム、このゲームの案内役さ」
そう言いながらダヴィンチちゃん仮面が腕を開く。自分に注目する英霊たちの視線を浴びながら、彼女は自分の役目を果たし始めた。
「ようこそ、『英霊更正施設カルデア』へ! このゲームの中で、君たちにはたっぷりとお仕置きを受けて貰うよ!」
「え、英霊更正施設……?」
「なによそれ? どういう意味だかまるでわからないわよ! ちゃんと説明なさ……っっ!?」
意味不明の状況に怒りを露にしたジャンヌオルタ。しかし彼女の声は途中で途切れてしまう。
ぱくぱくと口を開閉しながらも声が出ないことにオルタが驚いていると、ダヴィンチちゃん仮面はにっこりと笑って彼女に声をかけた。
「……ここはゲーム空間、何でもアリの空間だよ? 君たちのステータスは、私たちの管理下にあるってことを忘れないで欲しいな」
「……っっ!!!」
悔しそうな顔をしたオルタだったが、ダヴィンチちゃん仮面はどこ吹く風と言った様子で彼女の事を見ている。やがて自分の役目を思い出したダヴィンチちゃん仮面は、詳しい説明をするべく女英霊たちの方へと向き直った。
「ここはね、カルデアを裏切った悪い子である君たちをお仕置きして、しっかりと調教する為の施設って言う設定なんだ。無論、ゲーム空間だって事は忘れないでね」
「お、お仕置き……!? ま、マスターは、私たちの事を許してはいないのですか!?」
「そんなわけ無いだろう。彼らは君たちの事をちゃーんと許しているよ」
「じゃ、じゃあ、何故……?」
「そりゃあ勿論……君たちと遊びたいからさ」
「えっ……!?」
ジャンヌの質問に悪戯っぽい笑みを返しながらダヴィンチちゃん仮面はそう答える。彼女はそのまま一人一人の顔を見つめながら話を続けた。
「ここで君たちが受けるお仕置きはね、君たちのマスターが一生懸命考えたものなんだよ。君たち一人一人にどんな事をするか? それを考えて、欲望のままに設定したんだ」
「ま、マスターたちが……?」
「そうだよ……。ねえ、知りたくないかい? 彼らがお仕置きの名の下に君たちにどんな変態的な事をしようとしているのか? 彼らが自分たちにどんな欲望を抱いているのか? 知りたくはないかな?」
ごくりと喉が鳴る音がした。女性たちの間に謎の緊張感が流れ、誰もが周りの様子を伺っている。
自分たちのマスターが自分たちにしてみたい事を正直に描いた。このゲームをプレイすれば、その欲望をこの身を以って体験出来る……淫紋令呪によって多少なりとも淫らさを得た彼女たちがその欲望を跳ね除ける訳が無かった。
「……質問だ。我の目には今、謎の矢印が映っているのだが……これに従えば良いのだな?」
「そうだよ、タマモキャットちゃん。その矢印が導く先が、君のお仕置きを執行する場所だ」
「なるほど……では、早速我は行くとしよう。悪い犬は仕置きを受けるもの……たっぷりと躾けて貰って、ご主人に可愛がって貰わねばな……!」
タマモキャットはそう言い残すと部屋から出て行ってしまった。彼女に続く様に次々と英霊たちは部屋を出て行き、お仕置きを受けに行く。
そんな中、最後に残ったマシュはダヴィンチちゃん仮面に戸惑った表情を向けて一つの質問をした。
「あ、あの……私には矢印が見えないのですが……」
「ああ、それで良いんだよ! せっかくだ、マシュは私と一緒に皆がどんなお仕置きを受けているのか見て行こうじゃないか!」
笑いながらそう言ったダヴィンチちゃん仮面が手をかざすとマシュの背後にあった壁が左右に開いて道が出来上がった。
隠し扉があったのかと驚くマシュに向かってダヴィンチちゃん仮面はあるものを差し出す。
「こ、これは……!?」
「見ての通りバイブだよ、自分の膣に挿入してしっかりと固定してね」
留め具のついたバイブを差し出されたマシュは、ダヴィンチちゃん仮面の言う事に従ってそれを膣へと深く挿入すると抜け落ちないように固定した。振動もせず、さほど大きくも無いため動きは阻害されないが、やはり異物感はある。
膣の中に潜り込んだバイブの感触に表情をしかめているマシュを見たダヴィンチちゃん仮面は、彼女の耳元へと顔を寄せると小さく囁く。
「……それはとっても大事な物だから、絶対に抜いちゃだめだよ」
「えっ!?」
それはどういう意味なのか? そう問い掛けようとしたマシュだったが、それよりも早くダヴィンチちゃん仮面に手を引かれて無理やり歩きだす羽目になってしまった。
困惑した表情を浮かべているマシュに向けて、ダヴィンチちゃん仮面は楽しそうに言う。
「さあ、一緒に楽しもうじゃあないか! 凛々しく強い女たちが性に溺れ、快楽に蕩ける様をね……!」
完全に悪役の台詞なのだが不思議と悪い感じはしない。悪戯っ子が何か悪さをする程度の黒さを醸し出しながら先へと進むダヴィンチちゃん仮面に手を引かれ、マシュは淫らな施設見学ツアーへと招待されて行ったのであった。