ローマと淫乱組と黒い鬼
「なんだ、これ……? どういうことだ……?」
目の前の光景を見た俺は、思い浮かんだ疑問を自然と口にしていた。まったくもってどういうことか理解が出来ない。
今朝方、ドクターから第二の特異点が発見されたと告げられた俺たちは、すぐにメンバーを編成してレイシフトを行った。今回の目的地は西暦60年のローマ。前回のフランス同様にかつて旅した土地である。
だと言うのに……俺の目の前には、どう考えてもここがローマだとは思えない光景が広がっていた。
煌びやかさとは真反対の質素な木製の家や黒い瓦の屋根。近くを歩く人々の顔を見てみれば、完全に和製のしょうゆ顔だ。
「ここ……日本? 江戸時代かその辺の日本なんじゃないの?」
俺の素直な感想がそれだ。目の前の広がる光景は、教科書で良く見たそれと酷似している。帯刀して歩く武士や着物を着た町娘なんかを見るに、その考えが正しいと思えてならない。
まさかレイシフトに失敗したのではないだろうか? そう考えた俺はカルデアと通信を取ろうとしたが、何らかの影響かドクターたちと話すことは叶わなかった。
「先輩、どうしましょう? これは明らかに異常ですよね?」
「うん。まさかレイシフトの座標を間違えたりしたのかなぁ?」
「それは……少し考えにくいです。時代も位置も完全に異なるローマと日本を間違えるなんて、余りにも不自然すぎます」
俺に意見するマシュの言う事ももっともだ。いくら人数の少ないカルデアでも、こんな失敗をするとは考え辛い。
なら、これは一体どういうことなのか? その答えを考える俺の周りに、今回のレイシフトに選抜したサーヴァントたちが近寄って来た。
「マスター、ここはローマでは無いですよね? ……これは、一体どういうことなのでしょうか?」
俺と同様の疑問を持ったのはアルトリアだ。騎乗したままだと目立つと思ったのか、ドゥン・スタリオンは消して地に足を付けた状態で他のサーヴァントたちと相談し合っている。
「失敗したんじゃないの? カルデアの奴ら、だいぶ疲れてるみたいだったしね」
「可能性は無くはありませんが……にしては、私たち全員が揃っていることが不自然です。失敗をしたのなら、全員が別々の場所に散っていてもおかしくないわけですから」
ジャンヌとジャンヌオルタはお互いに意見を述べながら周囲の状況を確認している。一応、人目の点かない場所にはいるが、まったく雰囲気に溶け込めないことに多少の気おくれがあるようだ。
「ちょっと待ってよ! ここ、ローマじゃないの!? アタシが来た意味ないじゃない!」
「はいはい、ちょっと静かにしろよ。気持ちは分かるが、下手に騒ぐと不味い」
今回のレイシフトに無理を言って参加したエリちゃんとそのお目付け役のロビンはいつも通りのやり取りを繰り広げていた。
彼女なりに思う所はあるのだろう。ロビンに注意されたエリちゃんは口を噤んだが、ふくれっ面のままだ。
このメンバーにマシュとそこで突っ立っているスパルタクス、そしてオリオンを加えたのが今回の選抜者だ。一応、通信が安定すればサーヴァントたちの行き来は可能らしく、この後で入れ替えがあるかもしれない。
だが、それをする為にもまずはカルデアとの通信を復旧しなければならないだろう。並行してここが本当に日本なのかを調べることも必要だ。
「まずは情報収集ってとこですかね? なら、今回も俺が宝具を使って……」
「それに加えて俺も町の人たちに話を聞いて来るよ。ここが日本なら、俺が一番雰囲気に溶け込める」
「えっ!? そ、それは危険です! 周囲の状況がわかっていないのに、マスター一人で動いてもらう訳にはいきません!」
「大丈夫だよ! いざとなったら令呪で皆を呼ぶからさ!」
心配するマシュにそう言うと、俺は一人で町の中へと歩いて行った。マシュの言う事も分かるが、俺は焦っていたのだ。
皆がソロモンに捕まって、またこの特異点で待っている。早く皆を助け出したかったし、何かの手違いでレイシフトに失敗したのなら、すぐにでもカルデアに戻りたかった。
だから多少のリスクを承知で単独行動をしたわけだが……この後、早速俺は後悔することになる。
「答えろ、お前は何者だ?」
「え、いや、その~……」
「答えろと言っている! 怪しい奴め! お主、まさか外の奴らの回し者か!?」
マシュたちと別れてから数分後、俺は謎の侍たちに囲まれてしまっていた。
完全に敵対心をむき出しにして俺に詰め寄る彼らの中には、刀の柄に手をかけている者もいる。なんでこうなってしまったかと言うと、俺は自分の服装のことを失念していたからだ。
日本人同士なら怪しまれないだろうと思ったのだが、今の俺が着ているのはカルデアの制服、いわば洋服だ。周りが和服を着ていると言うのに、それで目立たないわけが無い。
という訳で因縁を付けられ、こうやって囲まれてしまったわけだが……俺は、彼らの台詞の中に気になるフレーズを聞き取っていた。
「あの……外の奴らって何ですか?」
「お前は質問をする立場ではない! 我々の質問に答える立場だろうが!」
彼らの口にした
何か気になることであるのは確かだが、彼らに聞いても答えてくれなさそうだ。
「答えろ、お前は何者だ? 外の奴らとどういった関りがある?」
「え~っと……」
鋭い眼光で睨まれる俺は、この場合の正しい回答について必死に考えていた。
適当に誤魔化すか、それとも真摯に対応するか……この場の対応について悩んでいる俺だったが、視線の先から一人の男がこちらに向かって来ることを見止めるとその人物へと視線を集中させた。
「な、なんだ!? 貴様は何者だ!?」
「……そいつは俺の顔見知りだ。怪しい奴じゃねえよ」
こちら側にやって来たその男は、俺を取り囲む男たちに向けて低い声で唸る様にして言った。
まるで狼の威嚇の様なその声に男たちは多少気圧されたようだが、それでも納得しない者が負けじと刀の柄に手を伸ばして男に挑みかかろうとする。
しかし、それをすべて理解していると言う様に視線をそちら側に向けた男は、鬼の様に鋭い目を見せながら静かに言った。
「それを抜くってことは……命が惜しくないってことだな?」
「ううっ!?」
重い、余りにも重い重圧が空気を支配する。視線を向けられていない俺ですら肩に何かが圧し掛かって来ている様な錯覚を感じるのだ、真っ直ぐに眼光を受ける男の感じている重圧は計り知れないだろう。
微動だにしなくなった侍たちの間をすり抜け、男は俺の腕を掴む。そして、後ろを振り向かないまま俺をその場から連れ出してくれた。
「あ、あの……ありがとう、ございます……」
「気にすんな。俺もお前に用があったからああしたまでだ」
「え? 俺に、用って……?」
「……調べてるんだろ? この町に起きている異変をよ」
俺の腕を掴み、前を向いたまま男は言う。そんな男の後ろ姿を眺めたままの俺は、彼に対して一つの質問をした。
「もしかして、あなたも何かを調べてるんですか?」
「ああ……お前はその手助けになると踏んだ。だから助けた。それだけだ」
「な、なるほど……」
「……命を助けたんだ、手を貸して貰うぞ。その珍妙な服を着替えたらすぐに聞き込みだ」
「は、はい!」
有無を言わさぬ男の迫力につい返事をしてしまった。しかし、決して悪い話では無いだろう。
この男の素性はわからないが、彼と一緒に居れば先ほどの様に絡まれることも無くなる。情報も集めやすくなるかもしれない。
俺は取り合えずこの状況を利用することを決めると、男の後ろについて歩いて行った。
それから更に1時間ほど経った頃、俺たちは集めた情報を整理していた。
一緒に行動して分かったことだが、この男は聞き込みが下手だ。と言うより、放つ威圧感が周囲の人を遠ざけてしまうのだ。
俺が居なければ聞き込みなんて出来やしなかっただろう。確かに俺は役にたったなと思いながら、集めた情報を纏め始めた。
「……まさか、町全体が神隠しにあったとはな」
「なんて言うか、変な話ですね」
一つ一つ、俺は頭の中で集めた情報を繋ぎ合わせて行く。簡潔にまとめるとこうだ。
この町は間違いなく日本の町だ。時代的には江戸時代、俺の予想とぴったり合う。
だが、この町の外はローマなのだ。ローマと言う世界の中に、江戸時代の町が飛び込んできてしまっているのだ。
いきなり町の周囲の光景が変わったことを町の人々は自分たちが町ごと神隠しに合ったと噂した。実際、そう判断するほか無かったのだろう。
だが、彼らにとっての不幸はここからだったのである。
突然現れたこの町に対し、ローマ帝国は攻撃を開始した。ある意味では当然の対応であろう。いきなり出現した町など、不気味でしょうがないのだから。
数千人ものローマ兵に対し、こちらはせいぜい町が一つか二つ分の人数しかいない。あっという間に町は破壊されつくされると思ったのだが……そうはならなかった。
どこからか現れた魔獣とそれを率いる4人の女性たちがローマ兵を打ち倒したのだ。圧倒的な力で兵を退けた彼女たちだったが、町の人々は彼女たちを英雄としては迎え入れなかった。
それもそのはずで、彼女たちは町の被害など考えずに戦っていたのだ。家が壊れようと人が傷つこうと関係無し。ただローマ兵を倒すために戦っていたのだ。
それに……彼女たちは、到底信じられない姿だったらしい。俺が話を聞いた人はこう言っていた。
「……ほぼ裸なんだよ。いい歳のべっぴんさんが、全裸に近い光景でいたら興奮するだろう? でもな、そんな気分には全くならねえんだよ。人を斬り殺して、焼き殺して、返り血と砂埃で体を汚すあいつらを見ているとな、化け物としか思えないんだよ……」
彼女たちはほぼ裸で、体の何処か一部分に雌と書かれた漢字が刻まれていたらしい。そして、全員が化け物じみた強さを持っている。
つまり……その4人は、サーヴァントだ。ソロモンに洗脳されたサーヴァントが、この町に少なくとも4人は居るのだ。
そしてこの町の外には間違いなく西暦60年代のローマがある。そこにもまだサーヴァントたちがいるだろう。
「すいません、色々とありがとうございました! 俺はこれで失礼します!」
俺は急いでマシュたちと合流してこの情報を伝えようとした。男に別れを告げ、この場を離れようとした時だった。
「待て……あれ、見てみろ」
「え……?」
男に呼び止められた俺が指さされた方向を見ると、そこにはもうもうと黒煙が昇っていた。
あの下で何かが起きている……男がそう告げたいと理解した俺は、彼と視線を交えた後で頷く。
「急ぐぞ! お前にお仲間がいるなら、きっとあそこに向かっているはずだ!」
「はいっ!」
風の様に走り出した男の背を追って俺も全力で駆け出す。息を切らせながらも必死に駆ける俺は、あの煙の下に居るであろう仲間たちのことを考えながらただ走り続けた。
「これ……は……!?」
ようやく辿り着いた煙の真下で、俺は息を呑んだ。目の前には死屍累々と言うに相応しい数の人間の死体が転がっている。
装備を見るに、彼らはローマ帝国の兵士なのだろう。無残な姿になった彼らを見た俺は、込み上げて来る吐き気を必死になって押さえつけた。
「マスター! ご無事でしたか!」
「アルトリア! やっぱりみんなもここに来てたんだ!」
一目散に俺の元へと駆け付けて来たアルトリアと、彼女に続いてこちらに向かって来る仲間たちの姿を見た俺は、ほんの少しだけ表情を綻ばせた。
だが、明るくなった気分をぶち壊す出来事が、すぐに起きてしまう。
「……おや、誰かと思えば……元主どの、ではないですか」
「っっ……!?」
淡々と、なんでもない様な口調で俺に向けて声をかけて来る女性。斬り落とした敵兵の首をまるでサッカーのリフティングでもするかの様に蹴り続けている。
普段の彼女もかなり過激な格好をしていたが、今の姿に比べれば大分ましだなと心の何処かで思いながら、俺は彼女の名前を口にした。
「牛若丸……!」
「ええ、お久しぶりですね、元主どの。早速で悪いのですが、その首を頂きますね。ソロモン様に喜んで頂きたいのでっ!」
「っっ!?」
膝を折り曲げた牛若丸は、次の瞬間には猛スピードで俺目掛けて跳躍していた。逸話にも残る瞬発力と跳躍力を活かしたその突撃をすんでの所でマシュが盾で止める。
「おおっと! ……ふむ、やはり簡単にはいきませんか」
自分の突撃を止められた牛若丸は瞬時に反転、元居た場所に向かってバックステップを踏んだ。
俺はほんの一瞬の間に起きた攻防に冷や汗を流す。気が付けば、牛若丸は先ほどと同じ様にローマ兵の頭をリフティングしていた。
「……牛若丸、俺が分かるんだろう? もうやめてくれ! 俺は、お前と戦いたくなんか無いんだ!」
「ああ、元主どの……その名前はもう捨てました。私は、牛若丸ではありません」
「え……?」
突然意味の分からないことを言い出した牛若丸に対し、俺や皆がその言葉の意味を探ろうと視線を集中させる。
牛若丸は、その視線を心地良さそうに感じながら四つん這いになると……その場でゆっくりと体を反転させた。
「くっ……!?」
「どうですか、元主どの? これが今の私の名前です。もう二度と、お間違えの無いようにお願いします」
ふんどし一丁。いや、それよりも酷い姿の牛若丸は、全く隠れていない自分の尻肉を俺たちに見せつける。そこには、大きな文字で『雌犬』と描かれていた。
かねてより犬の様であった彼女はその文字を大事そうに撫でると、淫らに微笑みながら俺に話しかける。
「……もう、英雄であった牛若丸は何処にも存在しません。今の私はソロモン様の忠実なる雌犬……命に従い、股を開き、畜生にも抱かれて感じるただの雌犬なのです」
「牛若丸、そんなっ……!?」
「……だ~か~ら、牛若丸なんて存在しないと言っているでしょう? 元主どのはソロモン様と違って愚かで物覚えが悪いですねっ!」
苛立ち紛れの言葉を吐き捨てた牛若丸は、リフティングしていたローマ兵の頭を俺目掛けて蹴り飛ばして来た。アルトリアの槍に払われて消え去ったそれを残念そうに見ながら、牛若丸は大声で叫ぶ。
「元主どの……ソロモン様に従う雌畜生は私だけではありません。他にもおります。その方々に注意を払わなくてよろしいのですか?」
「っっ!!? マスター、私たちの後ろにっ!!」
目の前の牛若丸に注意を惹かれていた俺は、突然叫びながら俺の肩を掴んだジャンヌに引かれて彼女とマシュの後ろに押し込まれた。
次の瞬間、二人の目の前に雷と炎が舞い、防御の為に繰り出した宝具にぶち当たって消滅する。
「炎と、雷……? って、ことは……!」
「はい、私たちですよ……嘘つきの元ますたぁ……!」
「ソロモン様に逆らうなど……母は貴方の愚かさに涙が禁じえません……」
マシュ、そしてジャンヌの正面に立つ二人の女性。水色と黒の長髪を靡かせる彼女たちの名を俺は知らず知らずのうちに口にしていた。
「清姫……! 頼光さん……!」
「いいえ、今の私は雌蛇ですよ。ソロモン様に頂いた立派なお名前で呼んでくださいまし」
「同じく、雌牛でございます……。古き名で呼ぶのは禁忌ですわよ?」
清姫が舌を伸ばし、頼光さんが乳房を見せつけてそこに刻まれた文字を俺に晒す。
悪夢としか思えないその光景に茫然とする俺だったが、そこであることを思い出した。
「……これはこれは……懐かしい顔が勢ぞろいですね」
全裸に近い姿で戦う女性たちは4人居る……そのことを思い出した俺の耳に聞き覚えのある女性の声が届く。
ゆっくり、ゆっくりと振り向いた俺は、牛若丸の隣に立つ桜色の髪の女性を目にして苦し気に呻いた。
「沖田……さん……!」
「いえいえ、雌豚です。次にその名前で呼んだら心臓を一突きしますので、覚悟してくださいね!」
いつもと変わらぬ明るい口調でそう言った彼女の言葉は、ともすれば冗談にも聞こえるだろう。だが、決してそんなことは無いと言う事はわかっていた。
裸体を血で汚し、狂気を湛えた瞳を見せながら俺たちに笑いかける今の沖田さんは、完全に人斬りとしての彼女になっている。今の彼女が殺すと言えば、それは間違いなく本気の宣言なのだ。
「いかがですか、元主どの? 雌犬、雌蛇、雌牛、雌豚とその他もろもろ……我らはソロモン様仕えし忠実なる畜生、人呼んで淫乱組です」
「淫乱組の使命は三つ。一つはこの町をローマ帝国の手から守る事、この町を滅ぼさぬようにする事……」
「二つ目はソロモン様やその配下の方々の性処理。私たちの様な畜生を抱いて下さる方々には、天上の快楽を与えなくてはなりませんね……♡」
「そして三つめは……ここ特異点にやって来るであろうあなたたちを捕らえる。もしくは斬り殺す事! あなたを捕らえれば褒美は望みのまま……! 誰よりも早く、あなたを捕らえた者が勝者なんですよ!」
牛若丸が跳躍の構えを見せ、清姫が扇子を開く。頼光さんと沖田さんも刀を構え、いつでも戦える構えを見せた。
三方向から迫る爆発的な殺気……それから俺を庇う様にサーヴァントたちが陣形を取り、4人を見据える。
「雌犬だかなんだか知らないけど、子犬に手を出そうなんて言い度胸してるじゃない! アタシたちが相手になってやるわよ!」
エリちゃんとロビンが武器を構え、牛若丸と相対する。広範囲攻撃と遠距離支援攻撃が特異な二人なら、牛若丸相手でも十分に戦ってくれるだろう。
「蛇ぃ? はっ! そんなちみた炎が通用すると思ってるの? こちとら竜の魔女よ? ……その腐った炎ごと、焼き尽くしてやるわよ!」
情欲の炎VS憎悪の炎……清姫と戦うのはジャンヌオルタだ。
口ではああ言っているが、彼女は非常に冷静だ。清姫を殺さずに捕らえる方法を模索してくれるだろう。俺はオルタを信じ、次のマッチアップへと視線を移す。
「雌牛か、大層な名前だな。では、こちらは雌馬が相手になってやろう。マスターに仇成すつもりなら、この聖槍の錆にしてくれるまでのこと!」
アルトリアは頼光さんとのパワー勝負に挑む様だ。遠近どちらの距離にも対応でき、彼女と力比べが出来るのはアルトリアしかいないだろう。
間違いなく油断できない相手である頼光さんのことを睨みながら、アルトリアは聖槍を構える。頼光さんもまた微笑みを消してアルトリアのことを睨んでいた。
「ふふふ……! これでお相手が決まったと言う訳ですね。では、始めましょうか」
そして最後に沖田さんが刀を構えて俺たちをまっすぐに見つめて来た。彼女に立ち向かうのはスパルタクスだ。
マシュとジャンヌは俺を守るべく周囲を警戒して俺から離れないでいる。周囲を取り囲む敵に対し、警戒を怠らない構えだ。
俺はそんな二人に対して一つの頼みごとをした。それは、この戦いに巻き込まれてしまった男性の身を案じてのことだ。
「マシュ、ジャンヌ。この人も守ってあげて欲しい。難しくなるのはわかるけど……」
「勿論です。もとよりそのつもりでした」
「ありがとう! ……すいません、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないんですが、俺たちから離れないで……」
「……いや、その必要はねえよ」
「え……?」
サーヴァント相手にただの人間が叶うはずも無い。だから、俺は男性を二人に守って貰うつもりだった。
だが、男性は俺の言葉を無視して沖田さんへと向かって行く。腰に差した刀を抜き、切っ先を彼女に向けた男性は苦々し気な声を出した。
「沖田……! てめえに何があったかは知らねえが、そんなふざけた真似をする以上は粛清される覚悟は出来てんだろうなぁ?」
「ははっ! 本当に驚きましたよ! まさかあなたまでここに現れるなんてねぇ!」
「え? 何? 知り合い……なの!?」
片や親し気に、片や怒気を孕んだ声で会話を続ける二人。まさかこの二人が知り合いであったと言う事に驚く俺に向けて、更なる驚きがもたらされる。
『……みんな、聞こえるかい!?』
「あ、ドクター!」
『良かった! やっと通信がつながった! そしていきなりだけど戦闘中かい!? 周辺の状況を計測するに……敵サーヴァントは5体か!?』
「え……? 4体、だけど……」
『えっ!? で、でも、君たち以外のサーヴァント反応は確かに5つある! どこかに視認できてないサーヴァントは居ないかい!?』
ドクターの言葉を聞いた俺は今まで一緒に行動していた男性へと視線を向けた。
もし、この場にもう一人サーヴァントが居るとすればこの男以外ありえないだろう。であるならば、この男性の真名は何なのだろうか?
そんなもの、考えるまでも無い。沖田さんと知り合いであり、鬼の様な威圧感を放つこの男性の名は、俺の考えが正しければ……
「……土方歳三!」
「沖田……! 新選組副長として、法度に背いたお前を斬るっっ!」
「だからぁ! 私は沖田じゃあないんですって! 本当に、馬鹿の集まりだなぁっ!!!」
鬼の副長……その名に相応しい怒気と重圧を放つ男性、土方歳三は怒りの形相で沖田さんへと駆け出す。沖田さんもまた刀を振るい、それを迎え撃つ。
元新選組同士の白刃煌く剣劇を見つめながら、俺はまた厳しい戦いが始まったことを肌で感じていたのであった。