※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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 ごめんなさい、やらかした。
 あと一話エロは待って! 急いで投稿するから!


裏切り

 カツン、カツンと足音を響かせ、俺は屋敷の地下へと続く階段を下りて行く。土方さんが教えてくれた座敷牢への道を辿る俺の胸中は、夜の闇の様に暗くどんよりとしていた。

 淫乱組の拠点の強襲、及び英霊奪還作戦は無事に完了した。苗床になっていたモードレッドと神腕の中に捕らえられていたジャンヌリリィの二人に加え、戦いの中で捕虜にした牛若丸も連れて帰れたのだから作戦としては大成功と言えるだろう。

 だが、俺にとっての本当の戦いはここから始まるのだ。奪い返した三人をソロモンの手から完全に開放する為には、彼女たちと向かい合うしかない。

 淫乱組の拠点で酷い扱いを受けていたモードレッドとジャンヌリリィは、安全地帯に辿り着いた安心感からか死んだ様に眠っている。俺は、そんな二人をゆっくりと休ませる選択をした後、残る最後の一人である牛若丸の元へと向かっているのだ。

 

「ここか……」

 

 階段を下って行った先にある扉を見つけた俺は、誰に話すわけでも無い独り言を呟いた。緊張感と僅かな恐怖を感じながら、決意を固めた俺は扉の取っ手を掴むと一息にそれを押し開ける。

 扉の先から漂うカビ臭さと薄暗さを感じたながら、俺は幾つか並ぶ牢獄を眺めた後で話し声が聞こえる方向へと歩いて行った。

 

「……おう、来たか」

 

 自分の方向へと向かう俺の姿に気が付いた土方さんがこちらに顔を向けて声をかけて来る。そして、顎で牢屋の中を指し示すと、自分は一歩後ろに退いた位置に立つ。

 彼の好意に感謝しつつ牢獄の前に立った俺は、牢の中で縛られ、身動きを封じられながらも鋭い視線をこちらに向けている牛若丸へと語り掛けた。

 

「……牛若丸、俺が分かる?」

 

「ええ、わかりますとも。ソロモン様に仇成す愚かなる人間、この雌犬の元主ですよね? まったく、こんな下等な存在に尻尾を振っていたことが恥ずかしくなります。私の一生の恥ですね」

 

 俺に対して辛辣な言葉を口にする牛若丸は、淫紋令呪の効果によってソロモンへの忠誠が心に刷り込まれているのだろう。俺のことを主と敵対している者だと理解しているからこそ、こんな態度を取るのだ。

 俺に溢れんばかりの忠誠心を送ってくれていたかつての彼女のことを思うと胸が痛む。今の牛若丸には、その頃の面影はまるで存在していなかった。

 

「牛若丸……お前はソロモンに操られているんだ。本当の牛若丸は、そんな子じゃあないはずだよ」

 

「黙れ、この虫けらが! ソロモン様に対する無礼な言動の数々、もはや許してはおけん! 必ずやこの拘束から抜け出し、貴様の首を掻っ切ってくれるわ!」

 

「牛若丸! 頼むから正気に戻ってくれ……! 今のお前は、まともじゃあ無いんだ!」

 

「……まともじゃない? そう思うのか? ……貴様が下等なマスターであることは、既に証明済みだろう?」

 

「………」

 

 嘲るような牛若丸の笑みを見た時、俺は彼女が何を言いたいのかを理解していた。俺の心の変化を見て取ったのか、牛若丸は俺に対して容赦のない暴言を浴びせて来る。

 

「ソロモン様に敗れ、全てを奪われた貴様が何故ソロモン様のことを馬鹿に出来る? 貴様はソロモン様より遥かに格下……あのお方の足元にも及ばぬただの虫けらなのだ!」

 

「っっ……!」

 

「お? 傷ついたか? 虫けらごときが、ちんけな誇りを馬鹿にされて傷ついたと言うのか? 馬鹿め! 言の葉一つで心を痛める弱き男を誰が主と認めようか!」

 

 痛く苦しい嘲りの言葉に言葉を失った俺の姿を見た牛若丸は上機嫌で罵倒を続ける。彼女は、俺に対してトドメとなる一言を大声で口にした。

 

「貴様の様な男、私は主と認めぬ! かつて主と呼んだことが恥であり、これから主と呼ぶことは決して無いであろう! ソロモン様に抗う愚かさと弱さ、そして矮小さしか存在貴様のことなど、私は二度と主と仰ぐことは無い! あは、あははははははは!」

 

 ソロモンに支配された牛若丸の決定的な宣言。俺への決別と軽蔑をはっきりと口にした彼女は、大声で狂った様に笑い続けている。

 もしかしたら俺は少し泣いていたのかもしれない。自分の無力さを自覚し、それを牛若丸に指摘されたことは苦しく、辛いことだった。

 俯き、何も言えないでいる俺に対し、後ろで成り行きを見守っていた土方さんが無言で肩を叩いて来た。暗にもう休めと言っているその行動に従い、俺がこの場から離れようとしたその時だった。

 

「あは、あははははははは……は……?」

 

 狂った様に笑い続けていた牛若丸の声が一瞬途切れる。笑い声が消えた後、彼女の口から聞こえて来たのは茫然とした呟きであった。

 牛若丸のそんな反応を耳にした俺は、もしかしたら彼女が再び自我を取り戻したのでは無いかと希望を胸にした。すぐさま彼女の前に戻り、声をかけようとした俺を待っていたのは……そんな希望を押し潰す、牛若丸の絶望の叫びであった。

 

「あ、あ……あぁぁぁぁぁっ!!! 違う! 違うんですっ! 主殿! わ、私は、あなたのことを恥だなどとは、思っていない……! あ、あれは、私の本心では……あぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「牛若丸! 落ち着いて! 大丈夫、分かってるよ! 俺は全然気にしてないから!」

 

「違う! 違うぅぅっ!!! あんなの私の本心じゃない! あんなの私ではないっっ! わ、私は、主殿になんてことを……私はぁぁっ!」

 

「大丈夫! 大丈夫だから! 自分を責めないで! 牛若丸っ!」

 

「こ、殺して下さい! こんな、こんな愚かな私のことなど、一息に殺して下さいっ! 忠義を忘れたこの愚かな犬に罰を! どうか無残な死をお送りください! お願いしますっ!」

 

 つい先ほどまで狂った様に笑っていた牛若丸は、今度は狂った様に泣き叫んでいた。俺の言葉も彼女には届かず、牛若丸はただひたすらに自分を責め続けている。

 ほんの数秒前に自分が口にした言葉がどれほど俺を傷つけたのかを自覚しているからこそ、彼女はああなっているのだろう。あそこで俺が動揺を見せなければ、彼女は苦しまなかったのだ。俺は、つくづく自分の弱さが嫌になった。

 

「牛若丸、俺は……っっ!?」

 

 牛若丸が苦しんでいるのは俺の責任だ。何とかして彼女を解放しなければならないと思った俺は、思いつく限りの慰めの言葉を彼女に送ろうとした。しかし、その言葉は突如聞こえた爆発音と地響きに掻き消されてしまう。

 突然の衝撃に驚く俺。狂乱していた牛若丸もいきなりの出来事に逆に驚きを取り戻した様だ。

 一体何が起こったのか……? 疑問を持つ俺たち二人に反して、静かに落ち着いた表情の土方さんは、ニヤリと笑みを浮かべると一目散に地下牢から駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦いに楽に勝つ方法は、敵の虚を突くこと……油断している敵を徹底的に叩けば、戦いの大勢は決まるものですからね」

 

 轟々と燃え盛る炎を見た沖田は黒い笑みを浮かべる。前々から調査していたカルデア側の拠点、それが燃え盛っている光景を見れば、先ほど受けた屈辱も和らぐと言うものだ。

 油断していた隙を突かれ、強襲を受けた自分たちはかなりの被害を受けてしまった。あの地獄の雄叫びで成長途中であった魔獣は全滅し、苗床であるモードレッドと秘密兵器のジャンヌリリィまでもが奪われてしまった。

 言い訳出来ぬほどの完敗。しかし、そこで心が折れる程、沖田達はか弱い英霊では無かった。その敗北すらも武器に変え、こうして焼き討ちを仕掛けて来たのだ。

 

「戦いに勝利した後は誰しも隙を見せるもの……それが大勝ならば、なおさらの話です」

 

「目には目を、歯には歯を……自分たちの行いをそのままそっくり返されて、彼らも大慌てしている頃でしょう」

 

 残された魔獣をすべて率いての夜襲作戦がここまで問題無く進んだことをほくそ笑みながら、沖田はただひたすらに他の二人を出し抜くことだけを考えていた。もはやここまでくれば勝利は確定的……あとは、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う話なのだ。

 燃え盛る屋敷から脱出して来るであろうカルデアのマスターの首を取れば、それは間違いなくこの戦での最大功績となるであろう。そうなればもちろん、ソロモンからの寵愛を一身に受けることが出来る。

 戦いの相手はカルデアの英霊たちではない。今、自分の横に並ぶ他の二人こそが、真の敵なのだ。沖田も清姫も頼光も、全員が集中力を研ぎ澄まして炎の中から気配を感じ取ろうとしていた。

 

「「「……!」」」

 

 燃え盛る炎に包まれる屋敷を見ていた三人は、同時にそのことに気が付いた。揺らめく炎の中から、一つの気配が見つかったのだ。

 それが誰かまでは分からない。だが、誰であっても一番槍の名誉は変わらないであろう。もしもこれが敵の大将であるマスターであったなら、更に儲けものだ。

 

「ちっ……!」

 

 ちらりと横目に並ぶ仲間を見た清姫が小さく舌打ちをした。同時に気が付いた、と言う時点で他の二人に比べて瞬発力に劣る彼女が先んじる可能性はほぼ0になったからだ。

 遠距離から炎を飛ばすより、他の二人が跳躍する方が早いだろう。そう判断した彼女は、沖田と頼光に後れを取ることを悔しがりながら、最初の獲物を討ち取ることを諦めた。

 

 残るは同じ接近戦型の沖田と頼光……瞬発力と反応ならば沖田、射程範囲と跳躍力なら頼光と言った勝負だ。

 それがわかっている頼光は、沖田よりも早く駆け出そうとした。素早い彼女に先を取られては、一番槍の名誉を奪うことは出来なくなるだろう。故に、自分が先に動かなければならないのだ。

 頼光は脚に力と魔力を込め、跳躍の構えを取る。あとは、地面を思い切り踏みつけて飛び立つだけであった。

 

「っっ!?」

 

 だが、溜めた力を解放しようとした彼女は、自分の足場が急に崩れたことに驚いて体勢を崩してしまった。

 何が起きたのかわからない頼光を置いて、沖田は一目散に駆け出して行く。

 もはや彼女に追いつくことは叶わないだろう。瞬時に諦めを付けた頼光は足元で何が起きたのかを調べようと下を向き、そして般若の様な表情を見せた。

 

「……雌豚め、味な真似を……!」

 

 何時の間にやら開けられていた小さな穴。それを巧妙に石で隠し、頼光に踏ませていたのだ。

 自分が思い切り力を込めて足を踏み出そうとすればその石が陥没する様に仕向けていた沖田の策にまんまと嵌ってしまったことを悔しがりながら、頼光はただじっと彼女の背中を見つめるしか出来ない事に歯痒さを感じていた。 

 

「あはははは! 雌豚さん大勝利~っ! 一番槍、貰いましたっ!」

 

 味方を出し抜き、見事に一番槍の栄誉を得られたことに喜ぶ沖田。あと少しで気配は自分の射程範囲に入る。そこを一息に切り刻めば、それだけで他の二人より一歩優位に立てるのだ。

 味方同士の戦いを制した沖田は晴れやかな気分で跳躍を続ける。気配まであと数歩……菊一文字を抜刀する構えを見せた彼女は、燃え盛る炎の中に確かに人影を見つけた。

 

「お命、頂戴っ!!!」

 

 抜刀、そのまま刀を振るう。人影から察した首の位置に向けて振るわれたその刀は、見事に標的の首に食い込んだ。

 あとはその首を斬り落とすだけ……そう、それだけだった。

 

「……あれ?」

 

 だが、沖田にはそれが出来なかった。がっちりと刀が絡め取られた様に動かなくなってしまったからだ。

 手応えは確かにあった。しかし、何故か刀は動かない……予想外の事態を迎えた事に驚き、思考を停止させてしまった沖田は、ここまでで自分たちが犯してしまったミスに気が付かないでいた。

 

 1つ目のミス、仲間同士の連携が取れていなかった事。功を競う相手でも、味方は味方だ。勝利の為に連携し、共に戦わなくては勝てる戦いも勝てなくなってしまう。

 ただの小娘であった清姫はともかく、源氏の対象である頼光や新選組の厳しい規律に縛られていた沖田がそんな単純なことを忘れてしまっていたことが失敗の一つ。

 

 2つ目、まだ戦いが終わっていないのに勝利を確信してしまった事。正確には、この戦いは始まってもいなかったのだ。

 敵の本拠地に火を点けると言う初動は上手く行ったかもしれない。しかし、それはあくまでその後の戦いを有利にする為の方策に過ぎないのだ。

 敵と刀を交わしたわけでも無いのに勝利を確信してしまったこと。つまり、相手に突くべき虚を見せてしまったこと。それが2つ目のミス。

 

 そして3つ目。相手の戦力をしっかりと考慮していなかった事。普通ならば絶対に気を付けなければならないことを彼女たちは幾つも見逃していた。

 敵には油断ならない斥候(ロビンフッド)が居た。沖田に戦略を叩きこんだ男(土方歳三)が居た。自分たちの動きを見透かすことなど朝飯前の人材は揃っていたのだ。

 そしてもう一人……決して忘れてはならない人物のことを彼女たちは忘れていた。彼のことを覚えていたなら、絶対に焼き討ちなどはしなかったであろう。

 

「あ……」

 

 刀を振るった体勢のまま動けないでいた沖田を一陣の風が包む。その風に吹かれ、目の前の炎が巻き上げられた時、彼女は見た。

 自分の刀を首に受け、全身に火傷の跡を残しながらも、満面の笑みを浮かべる灰色の巨人(スパルタクス)の姿を。

 彼の姿を見た途端、沖田の表情が凍り付いた。目の前のこの男は、受けた痛みをそのまま力に代えられる。一撃で殺さないとどんどん強くなる驚異の反逆者なのだ。

 そんな彼の存在を知っておきながら、炎などと言う死まで時間のかかる方法を取ってしまった事。それこそが最大のミスと悟った沖田だったが、もう既にすべてが遅すぎた。

 

「……我が愛を受けよ!」

 

 短いセリフと共に、沖田の目の前ですべてが弾ける。炎の中で溜められた力、強靭性、魔力……その全てが解放され、周囲の全てを飲み込んでいく。

 自分たちの犯した失敗ののツケとしては些か大きすぎる物を払うことになった沖田は、至近距離で炸裂した力の奔流に飲まれて高く天を舞った。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ……!」

 

 痛みに叫ぶ声すらも力が無い。強襲時に受けた傷や疲れもあった。そんな状態の体で行った作戦は見事に失敗、そうなれば精神的なダメージも少なくない。

 全身を叩く痛みと全てを見透かされていた敗北感に全身を支配されながらも彼女が死ななかったのは偏に淫紋令呪のお陰だ。ギリギリの所で命は救われた彼女だったが、被害は余りにも甚大だった。

 

 スパルタクスの宝具をもろに受けた体は満足に動くことも出来ない有様だ。無論、戦いなど出来る訳も無い。

 連れて来た魔獣たちも全滅した。苗床の奪還も果たせない今、包囲網どころか今後の戦いも不可能になってしまったのだ。

 自分より離れた位置に居た清姫と頼光の被害は軽微ではあるが、それも自分と比べての話だ。このままカルデアのサーヴァントたちと戦い、勝利することは絶対に不可能だろう。

 

「……王手だ、沖田。お前たちの負けだよ」

 

 そんな現実を突きつける声に顔を上げた沖田は、自分を見下す土方やマスターの姿を見つけて唇を噛みしめた。完全に彼らの手のひらの上で踊らされていたことが悔しくて堪らなかった。

 

「良い策だったが、その戦略をお前に教えたのは何処の誰だ? そんなことも忘れたのか?」

 

「くぅ……っ」

 

 もっともな指摘に何も言い返せないでいる沖田の頭の中には、この後の行動をどうするかと言う考えしかなかった。当然、取るべき先は一つだ。

 もう自分たちは戦えない。悔しいが、戦力もそれを補充する方法も失ってしまった。となれば……もう、逃げるしかない。つまりは自害するしか無いのだ。

 正確には自害では無くお互いに殺し合い、ソロモンの元に帰還するわけだが、そんな些末な違いはどうでも良いと沖田は思っていた。自分たちは三人居る。二人以上居れば、お互いを殺し合うことは可能なのだからそこはどうでも良いと思っていた。

 だが……それこそが一番の問題であると言う事を、彼女はこの後嫌と言うほど理解することになる。

 

「あっ!!?」

 

 突如、目を見開いて叫び声を上げたマシュに続き、カルデア側の英霊たちは次々に驚きの表情を見せた。

 彼らが自分では無く、自分の後ろを見ている事に気が付いた沖田もまた視線をそちらに送り、彼ら以上の驚きの表情を見せることになる。

 

「なっ……!?」

 

「ふ、ふふふ……!」

 

「ククククク……!」

 

 沖田が見たもの。それは、お互いの胸を手刀で貫き合った清姫と頼光の姿であった。

 どう考えても致命傷である一撃を受けている二人の霊基は消滅を始めている。確かにそれは正しい行動であったが、沖田にとっては予想外であった。

 

「ま、待て! お前たち、何で私を殺さない!? 私たちは自害が出来ないんだぞ!? お前たちが死んだら、誰が私を……」

 

「……雌豚さん。なんで私たちがあなたを殺さないといけないのですか?」

 

「……は?」

 

 口の端から血を垂らしながら清姫が口にした一言に沖田が困惑の表情を見せる。そんな彼女のことを楽し気に見ながら、消滅していく二人は口々に彼女へと別れの言葉を口にした。

 

「ずっと前から思っていたんです。どうすればソロモン様の寵愛をもっと受けられるだろうか、って……」

 

「功を上げれば褒美は頂ける……しかし、その機会があまり与えられないのが問題点でした」

 

「折角頂いたこの機会も残念ながら無に帰してしまいましたし……どうしたものかと考えて、一つの結論に達したわけです」

 

「ま、まさか……お前たち……!?」

 

 二人の考えが読めた沖田は、自分の声が震えている事に気が付いた。今まで自分も浮かべていた邪悪な笑みを見せる清姫と頼光が恐ろしく見えて堪らなかった。

 満身創痍の体をガタガタと震わせる沖田へと視線を向けながら、二人はねっとりとした声で自分の邪な考えを述べる。

 

「ソロモン様にもっと愛される方法……そんなの、考えるまでもありません」

 

「自分たち以外の奴隷を消してしまえば良いのです。機会を見つけ、少しずつ彼の周りから消してしまえば良い」

 

「そして丁度良い機会が今訪れました。雌豚さん、ここであなたとはお別れです」

 

「雌犬と合わせて二匹の奴隷が居なくなったわけですから……その分、私たちはソロモン様に愛されると言う訳ですね」

 

「ふざ、けるな……! 連れて行け! 私も殺せ! わ、私を……私を殺してくれぇぇっっ!!!」

 

 戦場に響く沖田の悲痛な叫び。数分前に牛若丸が口にしたものと同じ自分の死を望むその叫びは、痛々しく見ていられないものであった。

 

「殺せ……! 私もソロモン様の元に戻りたいんだ……! だ、だから! だからぁっ!」

 

 清姫と頼光のまさかの行動に驚いているのは沖田だけではない。あまりにも非情な二人の行動には、カルデアのマスターたちも言葉を失っていた。

 今、この場で動いているのは沖田だけだ。動かぬ体を無理に動かし、這ってでも二人の元に向かおうとしている。二人に殺してもらうべく、必死の行動を続けているのだ。

 しかし……清姫と頼光には、そんなつもりは毛頭無かった。自分たちの利益の為に、ここで沖田を見捨てることは決まっていたことだからだ。

 

 沖田の、彼女だけが犯した最大の失策……それは、彼女たちが狂戦士(バーサーカー)だと言う事を忘れていた事。主の愛を得る為なら、例え味方だろうと簡単に見捨てる女だと言う事を失念したいた事。

 轡を並べても彼女たちは仲間では無かった。ソロモンの手でより欲望に忠実になった彼女たちは、仲間を思いやると言う気持ちすらも失っていたのだ。

 

「……では、おさらばです」

 

「ごきげんよう、雌豚さん……」

 

「あ、あぁ……」

 

 最後の最後まで慈悲の心を見せないまま、清姫と頼光は消滅した。周囲に自分以外の味方は誰も居なくなったことに絶望した沖田の口から乾いた声が漏れる。

 もう自分は死ねない。曲がりなりにも仲間であった二人に裏切られ、自分は主の元に戻れなくなった。

 そう、自分は裏切られた。自分がカルデアを裏切った様に、自分もまた裏切られたのだ。

 

「あ、あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 木霊する叫びは、先ほど彼女が上げたものより更に悲壮なものであった。涙交じりの嗚咽を上げる沖田の心は、絶望に染まり切っている。

 カルデアのマスターたちもまた、敵であり味方である彼女のそんな姿を見ながら、どんな風に彼女に声をかけるべきかわからないまま、ただじっと見つめることしか出来ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ローマでの作戦による被害と戦果報告

 

 戦果

・モードレッド、ジャンヌリリィ、牛若丸、沖田総司の奪還の成功(清姫、源頼光は逃亡。追跡は現状不可能)

・淫乱組の崩壊により、ローマ内の日本地域の治安の安定(町人はカルデアのマスターたちに協力的である)

 

 被害

・屋敷の全焼(代替品有、問題無し)

・奪還した4人の英霊の精神的被害、及び肉体的な問題が重大(全員が重度の心理的外傷を負っている)

 

 上記の現状を報告すると共に、彼女たちの精神と肉体の治療の為に時間的猶予と医師としてフローレンス・ナイチンゲールをこちらに送ることを要望する。

 作戦の方向性が決まり次第、また報告を送るものとする。

 

 レイシフト責任者 マスターより

 




 急いで続きを投稿するので、下着姿で待っててね!
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