大掛かりな策だ、とマスターは思った。
沖田、モードレッド、ジャンヌリリィと順調に三人の英霊を解放できたカルデアであったが、最後にして最大の難関である牛若丸の心の解放にはやや手こずっている。頑なにマスターを避ける彼女は、ただ彼に罰して貰うことしか考えていないのだ。
優しい言葉も温かな触れ合いも牛若丸は望まない。ただ愚かな自分を罰して欲しいと願い、それだけを求めて生きている。そんな彼女の心をどう癒すべきなのかを考えた一同が辿り着いたのは、かなり大掛かりな策であった。
「まさか、そう来るとはな」
「ですが、それが最善の策かもしれません。問題は上手く行くかどうかですが……」
「……やるしかない、よな」
発案者であるマスターの策に乗る姿勢を見せる英霊たちが口々に感想を述べる。この策は自分たちの力だけでは成功しない、もっと大勢の力が必要だ。
「……本格的に動くのは明日からだ。それまでに出来る限りの細かい部分の作戦を煮詰めよう」
マスターの言葉に頷いた英霊たちは己の知識の全てを持って話し合いを続けた。カルデアの職員やダヴィンチちゃんも協力して作戦の筋書きが決まった頃には、丁度空には太陽が昇り始める所であった。
「……それじゃあ、始めようか」
瞳に強い光を灯しながら、マスターは呟いた。
赦しが欲しいと願うことは無かった。ただ、死ねと言われたなら死ぬだけだった。
不要になったから。恐ろしいから。理解出来ないから……そんな理由で死を望まれた時も、自分は迷うことなくそれを受け入れた。そうすべきだとしか思えなかったからだ。
そして、今回もそう思っている。自分は死ぬべきだ、見るも無残、聞くも残酷、地獄の様な苦しみと痛みの中、自分は己の罪を思い知りながら無様に死ぬべきなのだ。
それが自分の迎えるべき結末……慕っていたはずの主を裏切り、あまつさえその心を傷つけた自分が受ける、当然の報いなのだ。
暗い地下牢の中で、牛若丸はそんな考えを何度も思い浮かべた。この牢獄の中で動かないまま、延々と残酷な処刑方法を考えることが彼女の日課だった。
自分の事を心配してくれる仲間や主にさえ、彼女は心を開くことをしなかった。皆の優しさが酷く辛く、苦しかったからだ。
仲間たちの優しさを無下にする自分はやはり罪深い狗だと思いながら、牛若丸は孤独の中で膝を抱えて毎日を過ごしていた。ただ自分が死ぬその日まで、そんな日々が続くと思っていた。
「出ろ、雌犬。お前に罰を与えてやる」
そんな彼女の日々に変化が起きる日がやって来た。牢獄の中にやって来た土方によって叩き起こされた彼女は、土方の冷たい視線を受けて喜びの笑みを見せる。
(あぁ……ようやく、この日が……!)
罰を与えられると言うのにも関わらず、牛若丸の心には幸せの感情しか無かった。ようやく己の罪を裁いて貰えると思うと嬉しくて仕方が無かったからだ。
待ち望んだ時がようやくやって来た……その喜びに打ち震える牛若丸の背を土方が木刀で叩く。そして、視線に負けない冷たい声で、彼女を詰問する様に言った。
「何がおかしい? お前は、自分がしたことの重大さがわかっているのか?」
「っっ……! も、申し訳、ありませ……」
「勝手に喋って良いと誰が言った? 犬は犬らしく、人の顔色を見て黙ってろ」
両頬を土方に押し潰される様にして顔を掴まれた牛若丸は、彼の言う事に従って口を閉ざす。幾分従順になった彼女の姿を見た土方は無造作に牛若丸を牢屋の床に放り投げると手を叩いて合図を送った。
「では、処置を開始します」
土方の合図を受けて牢屋に入って来たのはナイチンゲールだ。幾つかの器具を手に牛若丸の横に座ったナイチンゲールは、てきぱきと道具を牛若丸の体に取り付けていく。
牛若丸の両腕の肘の部分と両膝にバングルの様なものを取り付けたナイチンゲールは、それがしっかりと固定されている事を確認してから手元のスイッチを押した。すると、一体何が行われているのかと訝しんでいた牛若丸の体に変化が起こる。
「これ、は……!?」
自分の両肘、そして両膝からの先が文字通り消えてなくなったことに驚愕した牛若丸は、消え去った自分の四肢を眺めて茫然としている。
そんな彼女に説明を始めながら、ナイチンゲールは取り付けたバングルに鉄板を嵌め込み始めた。
「そのバングルはミス・ダヴィンチが制作した霊基遮断装置です。取り付けてから起動すれば、そこから先の霊基を消滅させることが出来ます。本来は捕らえた英霊の反抗を防ぐ為の物らしいですが……今回は、あなたの治療に使わせて貰いましょう」
「は、ぐ……」
痛みも無く自分の四肢が消え去った事に驚く牛若丸の体を無理矢理起こしたナイチンゲールは、そのまま彼女を四つん這いの体勢に固定した。
先ほど彼女がバングルに嵌め込んだ鉄板が馬の蹄の様な役目を果たしているのか、非情に不格好な形ながらも牛若丸は安定してその姿勢を取り続けている。
「仕上げです。そのまま動かない様に……」
「んっ……!!?」
ぬるり、という感触と共に尻の穴に挿り込む異物。玉が連なったアナルビーズを挿入される感覚に牛若丸が体を震わせて呻き声を上げる。
牛若丸のアナルにビーズを最後の一つまで埋め込んだナイチンゲールは、最後に用意していた首輪を彼女に巻き付けた。ぶるぶると震える牛若丸の姿を見た土方が、侮蔑交じりの笑みを浮かべながら言う。
「はっ、良い格好になったじゃねえか……まさに雌犬、だな」
土方の言う通りであった。四つん這いで地面に立ち、尻には犬のしっぽを模した張り子を挿入し、首輪をつけられた今の牛若丸は犬としか表現のしようがない。アナルの刺激で荒くなっている呼吸もまた、興奮した犬のそれを想起させた。
「さあ、行くぞ。お前に罰を与える場所にな」
土方とナイチンゲールは犬と化した牛若丸を牢屋から連れ出すと、共に屋敷の外へと出て行った。リード代わりの鎖を掴むナイチンゲールに行き先を指示されながら、牛若丸は全裸よりも恥ずかしい格好で日本の町を白昼堂々歩いて進む。
「は……うぅ……っ」
当然、町の中には沢山の人々が居た。無様な牛若丸の姿を奇異の目で見つめる彼らの視線に牛若丸は顔を赤らめる。
小ぶりだが、形の整った美乳。固く尖った乳首。ビーズを咥えているアナル。雌犬の文字が刻まれている尻。そして、湿り気を帯びた女性器。その全てが、この市中の人々に視姦されているのだ。牛若丸は恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうであった。
(これが……この辱めが、私への罰……)
少しだけ熱で浮かれた頭のまま、牛若丸はぼんやりとそんな思いを浮かべた。少し形を変えた市中引き回しと言う奴だろうか? まるで犬の散歩の様で洒落が効いているなと思いながら、牛若丸はただその辱めに耐え続ける。
(ああ、そうだ……これは私にぴったりではないか……! ソロモンの手で雌犬に堕とされ、愚かにも主殿に牙を剥いた私に相応しい罰では無いか……!)
自分はもう人ではない。愚かで、無様で、救いようのない雌犬なのだ。それを多くの人々に知らしめるのにこの罰は最適だろう。
もっと見て貰え、この腐った雌犬の姿を……。狂った思考の元、数多くの命を奪った自分は、彼らに嗤われなければならないのだから。
ローマ兵を殺すため、自分はこの日本の町を徹底的に利用した。建物を焼き、町を壊し、必要があれば市民を盾にもした。彼らに恨まれる理由は十二分にある。
そんな自分の無様な姿を見れば、この日本の市民たちの留飲も下がると言うものだ。牛若丸は恥ずかしさに耐えながら、更に無様な自分を演出すべく口を開く。
「わ……わんわんっ! わんわんわんっ!!!」
自ら雌犬に堕ちようとする牛若丸は、大声で犬の鳴きまねを披露してみせた。姿だけでなく行動すらも犬の様に振る舞う彼女に無数の視線が突き刺さる。
牛若丸に向けられる視線には、裸の女性を見ていると言う興奮の色はまるで無かった。彼女に向けられるのは哀れみや嘲笑、もしくは嫌悪の感情が籠められた視線ばかりだ。
それでもなお牛若丸は犬として振る舞い続ける。ソロモンの手で壊された彼女もまた、その壊れた思考のままに狂った行動を取り続けている。
「わんわんっ! う~っ、わお~~んっ!!!」
(もっと……もっと見てくれっ! こんな愚かな私の事を、もっと嗤ってくれっ……!)
瞳に涙を湛えながら犬の鳴きまねを続ける牛若丸。そんな彼女の事を引き摺る様に連れまわす土方とナイチンゲールは、目的地に向かってただ真っ直ぐに歩き続けた。
それからそう長くない時間が過ぎた。市中を歩き回っていた牛若丸は、自分を引っ張るナイチンゲールが足を止めた事に気が付いて自分もそれに倣う。クルリと振り向いて牛若丸の方を見たナイチンゲールは、淡々とした口調で彼女に告げた。
「着きました。ここが目的地です」
鎖を引っ張られた牛若丸が数歩前に出る。そして、目の前に広がる光景を見て愕然とした。
「こ、これは……!?」
自分からやや離れた位置、視界は通るが声は届かないであろうかという距離には、大勢の人々が集まっていた。全てこの町の住人であろうと思った牛若丸の目は、彼らの中心にいる人物へと吸い寄せられる。
そこに居たのは敬愛する主、カルデアのマスターであった。浅葱色の羽織を纏うその姿も凛々しいなと牛若丸は思い、彼の姿を見続ける。
「……ここで処刑されるのですか? あの人々の前に連れ出され、憎悪の言葉を浴びながら……」
自分の迎えるであろう結末を想った牛若丸が口を開く。次いで、土方から喋るなと言われていた事を思い出したが、彼はそれを咎めることはしなかった。
だが、その代わりに……彼女にとって、信じられない様な言葉を口にする。
「……何勘違いしてやがる? お前を殺すつもりなんてさらさらねえよ」
「……は?」
牛若丸は言われたことの意味が分からなかった。自分を処刑する為にこの様な格好をさせ、ここまで連れて来たのではないのか? であるならば、彼らは何の為にここにやって来たのだろうか?
疑問を浮かべる牛若丸だったが、突如としてナイチンゲールに顔を掴まれて無理矢理に視線を固定された。視線の先には主に群がる群衆の姿がある。
「なっ……!?」
そんな光景を目にしていた牛若丸は、突然驚きの声を上げた。視線の先で、主が地に頭をつけて土下座を始めたからだ。
町民はそんな彼の元に殺到し、手当たり次第に石や木の棒などを投げつけている。雰囲気から察するに、マスターは彼らの気分を害する行動を取った様だ。
「あ、主どのっ!!! あぐっ?!」
このままではマスターが住人たちに殺されてしまうのではないかと危惧した牛若丸は、彼の元へと走り出そうとした。しかし、駆け出した彼女に繋がる鎖をナイチンゲールに引っ張られ、その行動は未遂に終わる。
噎せ込み、涙を浮かべる彼女に対して近づいた土方は、冷酷な声で何が起きているのかを牛若丸に説明し始めた。
「……あいつが何であんな事になっているのか知りたいって顔をしてるな? ……全部、お前のせいだ」
「わ、私の、せい……!?」
「今、あいつは、この町を滅茶苦茶にしたお前が自分の仲間だったってことを町の住民に伝えている。そして、お前を許して欲しいと頼んでるんだよ。友人や家族をお前に殺されたかもしれない奴らに、ぬけぬけとそんなことを言ってやがるんだ」
「は……? な、なぜ、そんなことを……!?」
牛若丸にはマスターの行動の意味が分からなかった。こんな自分のことなど見捨て、さっさと殺してしまえば良いはずだ。
なのになぜ、彼はそうしないのか? 困惑する牛若丸が茫然としていると、ナイチンゲールに再び顔を掴まれて顔の向きを固定された。
「あ……っ!」
視線の先ではマスターが住民たちに痛めつけられている。直接的な暴力を振るう者は居ないが、住民たちは手当たり次第にマスターに向けて物を投げつけていた。
拳ほどの石が、尖った木片が、彼の頭や体にぶつけられる。彼が血を流し、痛みに苦しむ姿を牛若丸ははっきりと見て取ってしまった。
「や、やめ……っ」
その言葉は主を痛めつける住民に対してのものでもあり、自分に凄惨な現場を見せつけている二人に対しての言葉でもあった。自分のせいで大切な主が傷つく姿など、見たくもない光景なのだ。
しかし、土方もナイチンゲールも決して牛若丸が目を逸らす事を許しはしない。がっちりと彼女を拘束し、傷つくマスターの姿を見せつけ続ける。
「これがお前への罰だ。自分のせいで苦しむあいつの姿をきっちりと目に焼き付けろ。自分の犯した罪の深さを、良く思い知るんだな」
「あ、あ、あ……!」
わなわなと震え、涙を流す牛若丸の耳にイヤホンを取り付けながら土方は言った。彼の言葉に衝撃を覚える牛若丸の耳には、イヤホンから沢山の物音が聞こえて来ていた。
それは罵声であり、痛々しい物音であった。牛若丸の事を侮蔑し、それを庇う主に対する怒りの言葉も聞こえる。時折聞こえる鈍い音は、彼の体に何かがぶつけられる音なのだろう。
痛く、苦しい音だった。そんな中で何よりも牛若丸の心を抉ったのは、住民たちの声に紛れて聞こえる主の言葉だ。
『すいません、すいません……! 全部、俺のせいなんです。俺がもっと上手くやれていたら……!』
「ち、が……! 違います、主どの……! すべては、この私の心が弱かった故に起きた事なんです……! あなたが気に病む必要は、どこにも……」
住民に向けられた主の言葉に反論した牛若丸は、何度も首を振りながら届かない己の思いを口にした。しかし、その言葉が紡ぎ終わる前に耳に鈍い音が響き、マスターの呻き声が聞こえて来た。
自分のせいだ。自分の責任だ。全て自分が悪いのだ……。彼の心ばかりか体すらも傷つける事態を引き起こしたと言う事実に耐えられなくなった牛若丸は、涙交じりの叫びを上げて土方に懇願する。
「殺して下さい……! こんなの、耐えられません……! 私が死ねば、主殿が責められる言われは……」
「……お前が死んだら、どうなる?」
「え……?」
「このままお前が死んだらどうなる? そんなことも想像出来ないのか?」
土方のその言葉に牛若丸は声を詰まらせた。瞬時に天才武将の聡い頭脳が働きだし、ここで自分が死んだ後の出来事をシュミレートし始める。
ここで自分が死ねば、確かにこの暴動は治まるだろう。住民たちは牛若丸に唾を吐きかけ、彼女が死んだことを喜ぶだろう。
しかし……次の特異点ではどうだろうか? ここで自分が死を選べば、勿論自分はソロモンの元に再召喚される。そうなれば、自分はまたしてもマスターたちの前に敵として立ちはだかる事になるのだ。
そうなればまた同じことの繰り返し……敵として彼と戦い、その心を傷つけ、最後には消滅する。何かの奇跡で自分がカルデア側に捕らえられても、自分が死を望んでしまえば何の意味も無い。
そう、今の様にだ。
「……お前は何度あいつに同じことをさせるつもりだ? 何度お前を殺させ、何度お前を手放せさせるつもりだ? ……お前は、自己満足の為にあいつを何度傷つけるつもりなんだ?」
「あ、ぐ……うぅぅぅぅぅっっ……」
それは苦しく辛い現実だった。彼の事を真に思うならば、自分はここで死んではならない。だが、そうであるならば自分はどうやってこの不始末の責任を取れば良いのだろうか?
死ぬことで彼に対する贖罪をするつもりだった。しかし、それは何の意味も成さないどころか彼にとって不利益な行動でしかない……自分はどう足掻いたって彼に謝ることは出来ないのだと絶望する牛若丸は、声を震わせて泣きじゃくった。
「あ、あぁ……主、どのぉ……っ……! 私は、わたしはぁ……っっ」
死ぬことは許されない。罪を贖う事も出来はしない。なら、自分はどうすれば良いのだろうか?
その答えが見つからずに崩れ落ちる牛若丸の体をナイチンゲールはしっかりと固定する。痛めつけられるマスターの姿を牛若丸に見せつけながら、彼女は口を開いた。
「あなたは、罰と言うことに関して思い違いをしています」
「えっ……!?」
「罰とは、死ぬことではありません。己の罪を自覚し、二度と同じ過ちをしない様にするための儀式なのです。すなわち……前を向く為の、儀礼の様なものなのです」
ナイチンゲールの真っ赤な瞳が牛若丸の姿を映している。珍しく、他の誰かにナイチンゲールが話をしているのだと言う事に牛若丸は軽く衝撃を受けた。
「領地を没収された、罰金を払った、地位を剥奪された……この様な罰は、周囲への見せしめと言う意味もあります。見せしめ、というのは、決して脅しを目的としたものだけではありません。この人物はこう言う罰を受けた。故に、再びこの汚名を雪ぐために努力すると言う意味合いも込められているのです。これは、上に立つ者がその人物に見せる温情であり、信頼でもあります。この人物ならば必ず逆境を乗り越えられると信じているからこそ、除名では無くほかの処分を下すのです」
「しん、らい……? 主殿が、こんな私を……?」
「如何にも。彼のあの土下座は貴方の為のものです。貴方を信じるからこそ、彼は痛みにも屈辱にも耐えられる。貴方が再び自分の元に戻って来てくれるのならば、マスターは幾らでも頭を下げ、怒りを受け止めることでしょう」
「主、殿……」
ナイチンゲールの言葉を受けた牛若丸はもう一度マスターの姿を見た。地べたに這い蹲り、惨めな姿を晒す彼の事を牛若丸は欠片も無様とは思えなかった。
彼がああなっているのは自分のせいだ。そして、
「しかし……それに対して、貴方はどうでしょうか? その信頼に応えようとしていますか?」
「あ……!」
牛若丸は愕然とした。自分は、自分の事しか考えていなかったことをはっきりと自覚した。自己満足の為に死を選ぼうとし、愚かな雌犬のままで在ろうとした。主が、あそこまでして自分を元通りにしようとしているのにも関わらず、自分は変わろうともしなかった。
「……申し訳、ありません……申し訳ありません、主殿……っ!」
自分はやはり愚かだった。こんな愚かな自分は、やはり死ぬべきなのだ……とは、もう思えなかった。
そうとも、自分は愚かな雌犬だ。四肢を失い、首輪をつけられ、尻尾代わりのバイブを尻穴に突き刺した今の自分の姿は、まさにそんな自分の性根を表しているのだ。
だが、このままでは終われない。終わって良いはずが無い。自分は、ソロモンの雌犬では無いのだから。自分は、彼に信頼される牛若丸と言う名の英霊であるはずなのだから。
『牛若丸は本当は良い娘なんです! 本当の彼女は、こんな事をする奴じゃないんです!』
「ええ、そうですとも……! 私は、雌犬なんかじゃない。例え犬だったとしても、ソロモンのでは無く、あなたの忠犬なのです……!」
ナイチンゲールに強制されること無く、牛若丸は前を向いた。本当の意味で、彼女は前を向き始めた。
その目に痛々しい主の姿を焼き付ける。もう二度と、彼をあんな目には遭わせない。そして、この町の住民に彼が正しかったのだと思わせてみせるのだ。
もう死ぬ方法など考えない。自分が考えるべきは、雌犬から人に戻る方法、彼の傍にもう一度居られる様にする為の方法だ。
そのことに気が付いた牛若丸の目に強い光が灯る。同時に首輪が外され、自由に動けるようになった牛若丸は四つん這いのまま土方とナイチンゲールの事を見た。
「……もう首輪は必要ねえな。屯所に戻るぞ、んで……そこで、自分が何をすべきか良く考えろ」
「はいっ!」
誰に導かれるわけでも無く、牛若丸は歩き始める。己の進む道を見つけ出した牛若丸は、一歩一歩力強くその道を歩き出した。
取りあえず、帰ったら今までの事をしっかりとマスターに謝ろう……そう決めた牛若丸の顔つきは、つい数刻前のものとは明らかに変わっていた。