あれから二日の時が過ぎた。その間、町の中央に放置されたネロは、昼夜問わず町の住民たちから好奇の視線を受ける日々を送っていた。
魅力的な女性が全裸で往来のど真ん中に居るのだ、注目されないはずがない。元々露出癖のあるネロはその視線を悦んで受け、逆に自分の体を見せつけて彼らの興奮を煽る日々を送る一方で、自信を囲う結界の破壊にも尽力していた。
薄い、されど十分な耐久力を持つ見えない壁にひびを入れ、小さな穴をあける。深夜にひっそりと行われたその工作によって、ネロは既に二枚の結界を貫通させることに成功していた。
そして今宵、ネロは三つ目の結界に穴をあけることに成功した。あとは、この三つの結界を同時に破壊するだけだ。
(待っていてくださいませ、ソロモン様……! 余は、今戻ります!)
ソロモンへの変わらぬ思いを胸に、ネロは剣を握る。後はそれをあけた結界の穴に突き刺し、思い切り振り抜くだけだった。
しかし……そこに、予想外の来客が姿を現す。
「お、お姉さん……!」
「む? お前たちは……?」
人の寝静まった夜、ネロの元にやって来たのは年端の行かぬ少年たちだった。もう子供たちはとうに眠っているであろう時間にやって来た彼らが、三日前に初めて自分の裸体を見に来た観客であることを思い出したネロは、一度壁の破壊工作を中断して彼らの前に立つ。
「よく来たな。余の裸でシコシコしたくなったのか?」
「う、うん! またお姉さんの裸が見たくって、それで……!」
「うむ! 素直な良い返事だ! その返事に免じて、今宵は特別なことをしてやろう……♡」
意味深な笑みを浮かべたネロは、自分が結界にあけた穴の前へと子供たちを手招きした。目には見えない壁の穴、ちょうどネロの握り拳が通るほどの大きさのその穴は、子供たちの小さな肉棒を通すには十分な広さだった。
「よいか? この位置にお前たちのちんぽを突き出すのだ。そうすれば、余が存分に愛でてやろう♡」
「え……? わ、分かった!」
仲間たちの前で性器を晒す事に少し怯んだ子供たちであったが、そのうちの一人が一歩前に出ると、ネロの言う通り己の陰茎を露出させた。
子供の幼いそれは、小さいながらも痛いほどに腫れ上がり、ぴくぴくと震えている。皮を被った可愛らしい肉棒が穴を通って自分の目の前に突き出されたことにうっとりとした笑みを浮かべたネロは、さっそくそれに口付けをした。
「ちゅっ……♡ おぉ、なんと愛らしいことか……♡ ソロモン様のおちんぽと比べれば小さいが、この歳の子供にそれを求めるのは酷と言う物だな……♡」
「はぁ、うぅぅっ……!?」
子供の肉棒を指で摘み、軽く扱く。初めて与えられる肉棒への刺激に目をぎゅっと瞑って喘ぐ少年の顔を見たネロは、大きく口を開けると幼い肉棒を頬張ってしまった。
「うわぁぁぁぁっ!? お、おちんちん、お姉さんに食べられてっ……!?」
「んふふふふ……♡ じゅっ♡ じゅっ♡ じゅぅぅぅぅっ……♡」
「う、うわぁぁぁぁっ!? このお姉さん、やっぱり妖怪だったんだ! 俺たちのちんちんが食べられちゃうよぉっ!」
容赦なく、本当に容赦なく、ネロは子供の肉棒を吸い上げる。バキュームの様な吸引力を以って幼い陰茎を責め、舌を激しく動かして刺激し続ける。
ソロモンに性技を叩き込まれたネロのバキュームフェラをこの歳にして受けてしまった少年は、体をがくがくと震わせてその快感に喘いでいた。少年の仲間たちは少年のただならぬ様子に驚き、泣き叫びながらこの場から逃げて行ってしまった。
(こんなに愛らしい余を妖怪とは……この町の子供は、美醜の価値観がわかっておらぬようだな!)
子供たちの叫びに内心で憤慨しながらもネロはここに一人残った少年へのフェラチオを続けていた。激しい吸いつきに加えて顔を前後に動かして快感を与えるネロの口吸いは少年に未知の快感を与えている。その快感の虜になってしまった少年は、他の仲間たちの様に逃げ出すこともせずネロに肉棒を差し出していた。
「お、おにぇしゃん……すごい……っ、あぁぁぁぁっっ!!?」
ネロのフェラを受ける少年は既に二度の絶頂を迎えていた。精通したばかりの青臭い精液をジュースの様に飲み干しながらのフェラを続けるネロは、少年の肉棒がまたしても硬くなったことから絶頂が近いことを感じ取った。
(……出血大サービスだ、受け取れっ♡♡♡)
ネロは絶頂が近い少年の肉棒を口から吐き出すと、すぐさま尻をその肉棒に押し付けた。間髪入れずに膣の中に少年の肉棒を迎え入れたネロは膣に力を籠め、少年の肉棒をきつく締め上げる。
「あ、あぁぁぁぁっ!? なにこれっ!? なにこれぇぇぇっっ!!?」
「ふははははは! 初めての性交の相手がこのネロ・クラウディウスであるとは! 少年よ、お前は非常に運が良い! 一生分の幸運を使い切る勢いで、余の膣に精液をぶちまけよ!」
「は、はぁぁぁぁぁぁんっっ!!!」
男であると言うのに雌の様な甲高い叫びをあげた少年は、ネロの言う通り彼女の膣の中に自分の欲望を解き放った。
三度目の射精は正直に言って量は少なく、濃さも薄まっていたが、年端の行かぬ少年にセックスの快感を教え込んだと言う背徳感に溺れるネロを達させるにはその弱い快感で十分だった。
「んっ♡ んんんんんっっっ♡♡♡」
びゅくびゅくと放たれた精液を膣から絞り出し、少年の前で己の性器を見せつけながらネロは絶頂した。ひくつく尻の穴や振動する膣も見せつけ、露出の快感を味わいながらの絶頂に気を良くしたネロは振り向くと歌うような口調で少年に囁きかける。
「……さぁ、今日は帰るが良い……♡ またの機会には、もっと気持ち良い事を教えてやろう……♡」
「は、はい……!」
ネロの言葉を受けた少年はふらふらとおぼつかない足取りで家路に着く。まるで夢遊病者の様なその後ろ姿を見たネロは愉快そうに微笑むと、今度こそ愛剣を結界の穴に突き刺した。
「ふんっ!!!」
気合一発。結界に突き刺した剣を振り抜き、見えない壁を粉砕する。意外にも静かに壊れた結界を確認したネロは、自由を取り戻したことに満足げな笑みを浮かべた。
(これでローマ領に戻れる……! カルデアの者共め、この屈辱は数十倍にして返してくれよう!)
口の端から漏れる精液を舐め取り、愛液を軽く拭いたネロは周囲の状況を確認した後で結界で囲われていた部屋の外へと足を踏み出した。その間、彼女の脳内ではいやらしい妄想が繰り広げられている。
この町を占拠した暁には、先ほどの子供たち……いいや、この町の少年たちを集めて自分のハーレムを作り上げよう。城の中に幼い少年たちを集め、日々愛で続けるのだ。
数十、下手をすれば百を超えるかもしれない数の少年たちの筆下ろしを自分がする光景を思い浮かべたネロは、興奮に胸を高鳴らせ子宮を疼かせた。
楽しい妄想を繰り広げる彼女は荒れた地面に足を下ろし、そのままもう一歩足を踏み出そうとする。
「……あ、れ……?」
だがその瞬間、彼女の世界が反転した。不意に力が抜けて地面に倒れこんだネロはすぐさま立ち上がろうとするも、指一本動かせない自分の状況に愕然とする。
「な、なぜ……? 何が起きている? 余は、何故動けない……?」
自由を取り戻したはずだった。だが、外に出た途端に自分の身に起きた異変はまたしても自分の体を縛ろうとしている。
いや……それどころか、もっと悪い事態をネロに引き起こしているのだ。
「く、苦しい……くるしぃ……!」
息が出来ない。いや、息が出来てはいるが、全身に酸素が行き渡っている感覚が無いのだ。
全身に伝わるはずの力が全く感じられない。じわじわとネロを嬲る様に広がるその苦しみの正体がわからぬまま、ネロは迫りくる恐怖に怯えて泣き出し始めた。
「だ、誰か……! 誰か、余を助けよ……! 誰でも良い! 誰か、助けを……!」
弱々しい声で助けを求めるネロ。先ほどの少年でも、ずっと自分を視姦していた男たちでも、誰でも良い。誰でも良いから、自分の窮地を救って欲しかった。
しかし、彼女の声は虚空に消え、誰の耳にも届くことは無かった。段々と弱くなる脈拍を感じながら、ネロは生前の記憶を思い出す。
(あの時と、同じ……!)
それは辛い記憶、思い出したくも無い、最悪の思い出。愛していた民衆に反乱を起こされ、帝位を追われ、自刃するしか無いと思わせたあの日の記憶。
愛してくれていると思っていた。きっと誰かが助けてくれると思っていた。しかし……それは、自分の勘違いだった。
(嫌だ……嫌だ……っ!)
自分には何もなかった。愛されていると思っていたそれは、ただの幻影でしかなかった。最後の最後には誰かが手を差し伸べてくれると思っていた彼女の心を根底から覆す出来事は、同時に彼女の人生にも終止符を打つ結果を迎えさせた。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!)
自分を愛してくれているはずのソロモンは自分の危機を救ってくれると思っていた。叔父であるカリギュラも、真祖ロムルスも、皇帝カエサルも……自分の事を愛してくれていると思っていた。
だが、誰も助けをよこしてはくれない。誰もネロの危機に駆けつけてはくれなかった。彼女がこうやって本当に死ぬまで、三日もあったのに……。
「いやだ……いやだぁぁ……っ! 誰か、誰か助けて……っ!」
辛い思い出が胸の中に蘇る。同時に恐怖と苦しみがネロを包み、彼女の心を絶望に染め上げた。
ネロは泣きじゃくりながら段々と弱くなる声で助けを呼び続ける。愛した人を、助けてくれそうな人の名を呼び続けた。
「ソロモン様……お助け下さい……! 叔父上、真祖ロムルス、皇帝カエサル……誰か、余を助けて……」
愛したはずだ、彼を、彼らを。なら愛してくれたって良いはずだ、自分の事を。
助けてくれるはずだ、ソロモンは。だって自分は彼の言うことをずっと聞いてきた。従順に、彼だけの愛を求めて従い続けた。
だから助けてくれるはずなのだ。愛する主は、自分を救ってくれるはずなのだ。
「なんでぇ、どうじで……? 余は、あなたを愛しているのに……なんで助けてくれないのです? 余が、これほどまでにあなたを求めているのに、どうして……?」
だが、ソロモンは現れなかった。彼の息がかかった助けもやって来なかった。彼は、自分を助けてはくれないのだ。
それを理解した瞬間、ネロの体は急速に死に向かって動き始めた。指先が、体の芯が、徐々に冷たくなって行く感覚にネロは泣きじゃくりながら助けを求める。
「エリザベート……余を、助けてくれ……友達なのだろう……? カルデアの者共も余を見ているのだろう? 頼む、助けて……」
ついには敵であるカルデアのメンバーにすがり始めたネロは、この行動が無意味なものであることを理解していた。誰が好き好んで裏切った女を助けるものか。しかもネロは脱走までしようとしたのだ、助ける訳が無い。
「たすけて……たすけてよぉ……おねがいします……おねがい、しま……」
無意味だった。無価値だった。自分の新たな生は、今までの行いは、全て何の意味も無いものになってしまった。
死に足を掴まれ、地獄の底に引きずり込まれるその瞬間、ネロの脳裏には一人の青年の姿が浮かび上がっていた。
どうせ無意味だと、そうわかってはいた。だが、ネロは彼に助けを求めることを止めることは出来なかった。
「助けて……ます、たぁ……」
その一言を最後に、ネロの瞳から光が消えた。
「はっ!?」
「ネロ! 良かった、目を覚ましたんだね……!」
その数分後、ネロは再び意識を覚醒させた。自分を抱きしめるマスターの熱を感じた彼女は、ここが天国でもソロモンの城でもないことを悟り、自分が死を免れたことに対して安堵の涙を流した。
「あっ、あぁっ、あぁぁぁぁぁんっ……! うわぁぁぁぁぁんっ……!」
敵であるはずのマスターの体に縋り付き、大声で泣き続けるネロの周囲には数名の女英霊の姿もあった。誰もがネロの事を心配そうに見守る中、落ち着きを取り戻したネロがまだ赤い目をマスターに向けて睨みつけながら問いかける。
「こ、答えろ……! 余の体に、何をした? なぜ余は死にかけたのだ!?」
自分を死の一歩手前まで追い込んだあの罠、恐ろしい記憶を思い出させ、絶望を引き出したあれは、如何にして引き起こされたものだったのか?
なんにせよ、カルデアのメンバーたちを許す訳にはいかない……そう思い、怒気を強めて詰め寄るネロに対して、カルデアのマスターたちは得意げになって仕掛けの説明を……始めはしなかった。
「それ、は……」
「なんだ? なぜ黙り込む!? 余にした事を説明すれば良いだけなのに、何故っ!?」
誰もが顔を伏せ、ネロに対してどう現状を伝えるべきか悩んでいる様な表情を見せている。その光景は、ネロが想像していたものとはまるでかけ離れていた。
何かがおかしい。何か、自分の予想を超える悪い事態が起きている予感がする……そうネロが考えた瞬間だった。
『……切り捨てられたんだよ、君は』
「……は?」
「だ、ダヴィンチちゃん!?」
突如として声が響いたかと思えば、マスターの隣に青い映像が映し出され、その中に映るダヴィンチちゃんがはっきりとした口調でネロにその事実を突き付けた。
彼女の言った言葉の意味を理解できないネロに対し、ダヴィンチちゃんはもう一度言葉を繰り返す。
『君はソロモンに切り捨てられた。魔力の経路を切られ、一切の魔力供給を行っていない状態にされたのさ。君がこの部屋を出た瞬間に死にかけたのはそう言うことさ』
「は、は……? 何を、言って……?」
『私たちがここに君を置いたのは、ここがカルデアとの魔力通信が行えてかつ魔力の噴き出ると言う条件を満たした唯一のスポットだったからさ。魔力を供給されなくなった君をこの部屋の中に保護し、そして死なせないために魔力と共に結界で閉じ込めたということなんだよ』
「保護……? 死なせない……? ここは、余の独房では無かったのか……? お前たちは、余を助けようと……?」
『この部屋の結界を解除すれば、君に注ぎ込まれているカルデアからの魔力は霧散し、君は死に至る……どうだい? 君が置かれた現状は理解できたかい?』
「あ、あ……わからん、わからないっ! 余はなにも理解できな……」
頭を抱え、これ以上ダヴィンチちゃんの言葉を聞くまいとするネロには、彼女が言いたいことがわかっていた。その事実から目を逸らそうとするネロであったが、ダヴィンチちゃんの無情な言葉が胸に突き刺さる。
『じゃあ、もっと分かり易く言ってあげるよ。
「う……うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
結界で覆われた部屋の中にネロの慟哭が響く。この状況を予見して防音効果が施されていなければ、この町の住民たちはこの泣き声を聞いて目を覚ましてしまったことだろう。
愛する主に裏切られたという事実が信じられないネロは首を振って否定の言葉を繰り返す。そんなことはありえないと自分に言い聞かせる様に……。
「そ、ソロモン様が余を切り捨てる訳が無い! これはお前たちの策略だ!」
『だとしたら、こんな面倒な手を使う訳が無いだろう? 閉じ込めるなら普通に独房に居れるし、逃げだされるかもしれないリスクは犯さないさ』
「な、なら! なぜ余にこの事実を早く伝えなかった!? そうすれば、余の心をもっと早く折れたはずだ!」
「……ダヴィンチちゃんに頼んでこの問題の対策を行ってたんだよ。早く伝えればネロは動揺して、この部屋から無理にでも出ようとするかもしれないから……だから、伝えられなかったんだ」
「そ、ソロモン様は余を助け出してくれようとしたはずだ……そうに決まっている! お前たちが邪魔しなければ、余は今頃……!」
「残念ながら……私たちはこの三日間、一度も戦闘を行っておりません。それは町の様子を見てもわかるでしょう? ……私たちも一緒です。カルデアに捕縛された時、ソロモンは私たちの救援を行おうとしなかった……私たちもまた、敗北を咎められてソロモンに切り捨てられてしまったんです」
「そ、そんなの……ソロモン様が、そんな非道な事をするわけが……」
「するんですよ、あいつは! ……ソロモンは縋り付く私に霊薬と令呪を使って生き地獄を味合わせたんです! 血を延々と吐いて、地獄のような苦しみの中に放り込まれて……マスターさんに助けてもらってなければ、今頃私の心は……っ!」
「……そうだ、死ねばいいんだ。死ねば、ソロモン様の下に戻れる! そこで真実を問いただせば!」
ダヴィンチちゃんが、マスターが、牛若丸が、沖田が……自分の言葉を真っ向から否定する。その言葉に反論が出来ないでいたネロは、名案を思い付いたとばかりに自分の死を求めた。
戻ればいい。戻ればすべてが明らかになる。ソロモンは本当に自分を切り捨てたのか、それを知ることが出来る。早速この部屋から出て死のうとしたネロであったが、その頬をモードレッドに叩かれて床に転がってしまった。
「な、なにをする!? 余は、死なねばならぬのだ……!」
「……目を覚ませよ、赤セイバー! この状況で戻って、ソロモンがお前を歓迎してくれると思うか? お前はもう、切り捨てられてんだぞ!?」
「そ、そんなことない! それを知る為にも、余は戻らねばならないのだ!」
「いいや、お前はもう切り捨てられてんだよ! 現実を見ろ! そして考えろよ! ……切り捨てたお前が戻って来たら、ソロモンはどうすると思う? 笑って抱きしめて、お前を迎え入れてくれると思うか?」
「う、う……!?」
「魔力経路を繋いで貰えず、そのまま延々と苦しんで死んで再召喚されてを繰り返すか、良くて便所行きになるとは思わねえのかよ!?」
その言葉を聞いた瞬間、ネロははっきりとその光景を思い浮かべてしまった。なぜなら、自分にそう告げるモードレッドこそが、その扱いを受けていた張本人だからである。
苗床として出産し、殺されてを繰り返して来たモードレッド。そんな彼女を監督役として見て来たネロだからこそ、彼女の言うことは理解出来た。
「……オレみたいになりたいのかよ? それとも、オレがギリギリで避けられた最悪の事態を迎えたいってのか? もうお前には……ソロモンの下で迎えられる明るい未来なんてねえんだよ!」
「あう、あうぅ……あうぅぅぅぅぅぅ……っ」
モードレッドの言葉を聞き、現実を受け入れたネロは激しい頭痛を感じてその場に蹲った。
頭を押さえて苦しむネロに向けて、ダヴィンチちゃんが静かに言う。
『可哀想に……きっとソロモンの力で抑えられていたマイナススキルが再発したんだね……』
「私の病弱スキルと同じです……ネロさん……!」
ぐるぐるとネロの世界が回る。目まぐるしく回る世界の中、マスターが悲しそうな表情を浮かべてネロにこう告げた。
「ネロ……君は、信じる人を間違えたんだよ。愛しちゃいけない、最悪の人間を愛して、信じてしまったんだ」
「あ、あ、あ……!?」
ネロの世界は崩壊した。彼女を取り巻く全てが崩れ去り、終わりを告げ始めた。
いや、彼女の世界はとっくに終わりを迎えていたのだろう。ソロモンを主と認め、愛したその瞬間に、この結末を迎えることは決定していたのだ。
決して裏切られない道を選んだつもりだった。愛され続ける人生を選んだはずだった。しかし、その選択は間違いだった。
もうネロがソロモンの下で迎える結末は一つだけ……徹底的に利用され、使い捨てられるだけなのだ。
「ゆる、して……」
すべてを理解したネロがまず思ったのは、
だから彼女は縋り付いた。醜く、浅ましいことだと知りながら、彼女はマスターの足に縋り付いて彼に許しを請ったのだ。
「余が、余が悪かった……! もう裏切らない! 良い子にする! だから、余を許してくれ、マスター……!」
「ネロ……」
「何でも言うことを聞く! お前……貴方様が言うことには全て従う! 家畜にも肉便器にもなる! なんだってするから、だから……余を見捨てないで……!」
裸土下座の体勢でマスターの足元に跪いたネロは、彼の足に舌を這わせて丁寧にそれを舐める。
絶対的な服従の証として自分の足を舐めるネロの姿を見たマスターは歯を食いしばると……ダヴィンチちゃんから渡されていた首輪をネロに取り付けた。
「あ……っ! これ、は……!?」
「……ネロ、俺を見て……」
「犬か? 余は犬になれば良いのか? 犬になれば、余を見捨てないでくれるのか?」
「ネロ、良いから俺を……」
「四つん這いになれば良いのか? 脚を上げて小便をすれば良いのか? 耳は? 尾は? どうすれば良い? 余はどうすれば貴方様に見捨てられないで……」
「俺の目を見ろ、ネロ・クラウディウス!」
「ひっっ!?」
声を荒げ、自分に怒鳴ったマスターの姿にネロは体を縮み上がらせて怯えた表情を見せる。そこには、天真爛漫な本来の彼女の面影はどこにも残っていなかった。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……気分を悪くしたなら謝ります。だから余を見捨てないで……」
びくびくと子犬の様に震え、怯えながらネロが謝罪する。ただ見捨てられ、全てを失うことを怯える彼女は、伸びて来たマスターの手が自分を痛めつけることを覚悟して硬く目を瞑った。
だが……覚悟した痛みは、やって来ることは無かった。代わりに温かい彼の手で頭を撫でられる感覚を覚え、それに驚いたネロが顔を上げて見れば、自分を見つめる優しいマスターの顔が瞳に映った。
「やっと俺を見てくれたね、ネロ」
「あ、う……ます、たぁ……余は……」
「大丈夫、怒ってなんか無いよ。それにネロを犬にするつもりもない。この首輪は携帯用の魔力補充機で、一日くらいならネロがこの部屋から出ても大丈夫な様にするための物なんだよ」
「そう、なのか……?」
「うん……大丈夫だよ、俺はネロを見捨てたりなんかしないからね……だから、落ち着いて良いんだよ……」
裸の体にマスターが纏っていた羽織を被せられたネロは、久々に感じる他人の温もりにわずかに落ち着きを取り戻す。ネロの瞳に光が戻ったことを見て取ったマスターは、彼女の頭を撫でながらじっくりと言い聞かせた。
「ネロ……今からネロの事を助け出すから、俺の言うことをちゃんと聞いてね? 大丈夫、ネロが良い子にしてれば、酷い事なんかしないからさ……」
「……わかり、ました……」
温かい彼の言葉に心をときめかせたネロが熱を帯びた吐息と共に答える。頬を染めた乙女の表情になったネロの事を抱きかかえたマスターは、そのまま自分たちの住む屋敷へとネロを運んで行く。
「大事にするからね、ネロ……安心して良いんだよ……!」
「ん……くぅ……っ♡」
月光に照らされたマスターの横顔にどうしようもなく胸を弾ませながら、ネロは彼の腕の中でその温もりを享受し続けたのであった。