※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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決戦開始

「……来たか」

 

 扉の向こう側に気配を感じ取った彼は、小さく呟く。

 先ほどから騒音や衝撃がこの部屋にまで響いていたことから、何かが起きていることは分かっていた。そして、何が起こっているかもだ。

 

 ゆっくりと開いた扉の向こうから姿を現したのは、彼が予想した顔ぶれだった。多少傷つきながらも闘志を秘めた精悍な表情を自分に向ける彼らの姿を見ると不思議と誇らしい気持ちになる。

 されど彼は動じず、動きもせず……ただ、王としてそこに在り続けた。それが、自分に与えられた役割だと知っていたからだ。

 

「ついにここまで来たか、カルデアの一味よ。その努力は褒め称えよう、しかし、それもここまでだ」

 

 彼の代わりに口を開いたのは、彼の右隣に位置しているカエサルだった。

 今の彼は、自分が知っている彼とは大きく姿が変わっている。肥満体系はどこへやらと言う様に、筋肉質の引き締まった体をしているのだ。

 自身に満ち溢れた表情と不遜な態度はそのままにカルデアの面々を見る彼からは、どことなく邪悪な雰囲気が発せられていた。

 

「オ、オォ……オォォォォォッ!!!」

 

 次いで、自分の左隣に立っていたもう一人の人物が雄叫びを上げた。自分たちと相対する相手の中に、彼が愛して止まない女性の姿を見止めたからであろう。

 凶暴さと獰猛さを感じさせる狂気を放つカリギュラは、その濁った瞳から突き刺す様な視線をネロに向けていた。

 

 カルデアとローマ帝国、両方の有する戦力がこの場に集まった。ならば、今から始まることはたった一つだ。

 最終決戦……黄金の煌びやかなこの王の間にて、この特異点での最後の戦いが始まろうとしている。幸か不幸か、この場所はそれを行うのに相応しい場所に思えた。

 

「答えろ、クレオパトラはどこにいる!? 彼女はどこに捕らえられているのだ!?」

 

「ほぅ……? 贅肉の分際でこの私に不遜な口を利くか。まあ、良かろう。そんなにも奴の居場所が知りたいのか?」

 

 二人に分かれたカエサル同士の会話。同じ声が響き、体型の違う彼らが睨み合う。

 電撃が弾ける様な視線のぶつかり合いを続けた後で愉快そうに笑ったカエサルは一度跳躍した。そして、この王の間から続く廊下の前に立つと、自分を見つめる者共に振り向いてから言う。

 

「ならば私を追って来るが良い! 私の行く先に、お前の求める者は居る!」

 

「ま、待てっ!!!」

 

 ローマのカエサルが廊下の先に消える。セイバークラスの持つ優れた身体能力を遺憾なく発揮した彼は、あっという間に廊下の先へと進んで行った。

 それを追って走り出すカルデアのカエサルだが、身体能力の差ははっきりと表れていた。ぐんぐんと差をつけられる彼であったが、その横をいくつかの影が走り抜けていく。

 自分のことを心配したマスターが援軍を寄越してくれたのだと理解したカエサルは、彼に対して感謝の思いを胸にすると共に、自分もまたその後を追って駆け出して行った。

 

「……どうやら、向こうはこっちの戦力をばらけさせるつもりみたいだな」

 

「ああ、そのようだなっ!!!」

 

 王の間に残るメンバーたち、その中でマスターへと向けた土方の呟きに言葉を返したのはネロであった。

 愛剣【原初の火】を取り出しながら横に跳躍、そのまま剣を防御の構えで突き出した彼女は、自分に繰り出された拳での強烈な一撃を何とか受け止める。

 

「ネロっっ!!!」

 

「案じるな、マスター! 余は平気だ!」

 

 初撃を防ぎ、安堵の息を漏らしたネロがマスターに応える。だが、まだ油断が出来る状況ではない。

 

「オ、オォォォォッッ!!」

 

「叔父上……何と痛ましい姿に……!」

 

 催眠や暗示が消えた思考で今のカリギュラの姿を見たネロは、痛む胸の内でその思いを口にした。

 カリギュラから放たれる狂気は今までの物より強く、そして獰猛であった。瞳からは血の涙が流れ、赤い線を彼の眼尻に引いている。

 それが狂気によるものなのか、それとも自分が敵に回ったことを悲しむが故の涙なのかは、ネロには判断出来なかった。

 

「マスター! 叔父上の相手は余がするっ! すまぬが、この場は任せるぞっ!」

 

「わかった! 何人かネロの所に援護に行ってあげて!」

 

「助力、感謝する! 必ずや勝利の報をお前に届けることを約束しよう!」

 

 ネロがカリギュラを連れて別の部屋へ消える。それを追って数名のサーヴァントたちもまた姿を消した。

 戦いの喧騒が消えた王の間に残った数名のサーヴァントたちを率いるマスターは、自分の視線の先で玉座に座す王の姿を見る。彼と視線を交わらせた帝王は、ゆっくりと王の風格を感じさせながら立ち上がると、ようやく口を開いた。

 

「……始めるか」

 

 その一言を機に、強大な魔力が王の間を満たす。暴力的な威圧感を放つ王を前にしても、カルデアの面々が怯む事は無かった。

 

「……ああ、始めようロムルス。このローマでの最後の戦いを!」

 

 令呪を光らせ、臆する事無く自分を真っすぐに見つめるマスターの姿を見たロムルスは、もう一度愉快そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カエサルがその部屋に辿り着いた時には、もう戦いは始まっていた。

 もう一人の自分自身が剣を振るい、二人の英霊と戦っている姿を見つけたカエサルは、息を飲んでその戦いを見守る。

 二人の英霊……アルトリアと牛若丸と戦うローマのカエサルは、酷く苦しい戦いを繰り広げている様に見えた。

 

「ぬ、うっ……!」

 

 強烈な聖槍での一撃と、機敏な刀での連撃。その全てを何とか受け切るカエサルであったが、ギリギリで踏み止まっている事は明らかだ。

 ついには攻撃を受け切れなくなったカエサルは、大きく後ろに吹き飛ばされてしまった。見事な連携を披露し、難なくカエサルを圧倒している二人の女英霊は淡々と彼に語り掛ける。

 

「諦められよ、ローマ皇帝カエサル。あなたの剣技は確かに見事だ、無駄のない、相手を倒すための剣術……しかし、それが故にあなたの剣には遊びが無い。あまりにも実直すぎて剣筋が読めるのだ」

 

「つまり、あなたの剣を受け切れるだけの実力がある相手と相対した場合、あなたの勝ち目はほぼ無くなる。後は相手との消耗戦に勝つしか無いだろうが、我々二人を相手にいつまで粘ることが出来るかな?」

 

 冷静にカエサルとの実力差を指摘し、勝負を諦める様に諭す二人。されどその様子に油断は無く、鋭い眼光を見せてカエサルを睨んでいる。

 カエサルもまた二人に対して視線を返すと、自嘲気味な笑みを浮かべる。しかし、その表情には諦める様子などは微塵も感じられなかった。

 

「なるほど……確かに私では貴様らの相手は役不足らしい。そもそも、私が剣を取った所で騎士王と源氏の若武者に勝てるはずもないだろうしな」

 

「分かっているのなら早々に諦め、クレオパトラ殿を開放して投降されよ! 主殿はあなたのことを悪い様にはしないだろう」

 

「ふむ……それも悪くは無いのだろうが、私にもまだ勝ち目はある。投降は、全ての手を打ってからにさせて貰おうか」

 

 不敵に笑うカエサルが指を鳴らせば、彼のすぐ近くにあったカーテンが床に落ち、その先の光景が露になった。

 アルトリア、牛若丸、そしてもう一人のカエサルがそこにある物を見た瞬間、その表情が険しい物へと変わる。

 

「か、カエサル様……! それに、皆様も……!」

 

「く、クレオパトラっ!!?」

 

 そこに居たのは傷だらけの体をしたクレオパトラであった。牢に繋がれ、身動き出来ぬ様に鎖で拘束された彼女は、カエサル達を見て驚きに目を見開いている。

 しかし、カエサル達はそれ以上に驚いていた。それは、彼女のすぐ横には彼女と同じ様に鎖に繋がれた巨大なキメラが居たからだ。

 

「さて、少し話をさせて貰おう。牢の中には絶世の美女と獰猛な獣が居る、お互いに鎖に繋がれている為に今は何も出来ないが……獣の方の鎖は、私がその気になれば一瞬で解くことが出来る」

 

「き、貴様っ!!! 何と外道なっ!」

 

「人質と言う事か……」

 

「その通りだ。察しが良くて助かる」

 

 あくどい笑みを浮かべたカエサルは、クレオパトラを人質に取られている事で身動きが出来なくなったアルトリアと牛若丸に剣を向けた。そして、その笑みのままに下種な視線を送る。

 

「さて、ここで交渉だ。私が獣を開放するかどうかは私の気分一つ……私をその気にしたくないのなら、武装を解除して投降しろ」

 

「くっ……!」

 

「おや? 源氏の若武者は私の交渉を蹴ると言うのかな? であれば……」

 

「ま、待てっ! ……分かった、貴様の言う事に従おう……」

 

 カエサルが手を振り上げたことを見た牛若丸が血相を変えて叫ぶ。手にした刀を床に置き、カエサルの方に蹴飛ばした彼女と同様にアルトリアも聖槍を手放して武装を解除した。

 二人の得物を奪い、圧倒的優位に立ったカエサルは愉快そうな表情を見せて笑う。そして、更に屈辱的な命令を二人に発した。

 

「はて……お前たちが身に纏っているその鎧は、武装では無いのか? それも脱ぎ捨てねば、ついうっかり獣を開放してしまうかもしれんなぁ……!」

 

「な、何をっ!? 貴様、そこまで堕ちたかっ!?」

 

「いけません! 私のことなど気になさらず戦って下さい! ここであなた方が敗北したら、全ては水の泡になってしまうのですよ!」

 

「ふむ、そうかもしれんな。しかし、ここでクレオパトラが死んだ場合のことを考えてみてはどうだね? 貴様らが肉体のクレオパトラを保護していることは分かっている。しかし、ここで精神のクレオパトラを保護できなければ何の意味も無いだろう? そうなれば結局クレオパトラは死に、ソロモン様の元に戻る……そうなれば、彼女を待っているのは凄惨な地獄だぞ?」

 

 カエサルのその言葉に全員の神経が昂る。暗にクレオパトラが便所行きになることを示している彼の言葉に、もう一人のカエサルは怒りを隠せずにいた。

 

「貴様、貴様っ……! 愛する者にその様な仕打ちをして、それでも貴様は男かっ!?」

 

「愛? 確かに私はクレオパトラを愛しているとも! 私に勝利をもたらす道具としてな! 玩具にも計略の道具にもなるこの女は、私に多くの利益を与えてくれている! 感謝するよ!」

 

 カエサルの言葉を聞いたクレオパトラは瞳に涙を浮かべた。それは、自分が仲間たちの足を引っ張っている事へと不甲斐なさから来るものであり、愛する人が自分を道具としか見ていない事へと悲しみから来るものでもあった。

 ある者は怒り、ある者は悲しむこの部屋の中で、カエサルは視線でアルトリアと牛若丸に決断を迫る。自分たちがクレオパトラの命を握っていることを理解している二人は、お互いに顔を見合わせ、瞳を閉じ、そして……

 

「……わかった。貴様の言う通りにしよう」

 

「ふふ……! それで良い」

 

 カエサルの言う事に従って、身に纏っている衣服を全て消滅させた。

 目の前で全裸になった見目麗しい女性たちの姿を見るカエサルは、下卑た視線を彼女たちに送って二人の裸体を堪能する。

 

「これはこれは……どちらも趣の違う素晴らしい女体だ。この後、存分に躾けて味わってやろう……!」

 

「くっ……!」

 

 二人に近づいたカエサルは、手を伸ばして二人の柔らかな体に触れた。アルトリアの大きな乳房を揉み、牛若丸の引き締まった尻を撫でる。存分にその温もりと感触を楽しみながら、カエサルは下卑な言葉を彼女たちに向けた。

 

「騎士王様はなんともいやらしい乳首をしているのだな。くくく……これに顔を出させるのが今から楽しみだ……!」

 

「っっ……!!」

 

 アルトリアの陥没乳首を見ながら彼女を言葉責めしたカエサルは、今度は牛若丸の尻を何度か叩いた。

 ぺちぺちと言う音を立てる張りのある牛若丸の尻を打ち鳴らした後、カエサルは牛若丸のことを言葉責めする。

 

「この尻で何度醜い畜生の肉棒を飲み込んだ? 源氏の天才武将ともあろう者が、人外の獣に股を開いても良いものなのかね?」

 

「くっ、うぅ……っ!」

 

 羞恥と屈辱に染まる牛若丸の表情を見たカエサルは満足げな笑みを浮かべ、そして、頭の中でこの後の情事について妄想を繰り広げる。

 

 クレオパトラ同様、この二人も自分の玩具に仕上げてやろう……ソロモンに献上しなければならないかもしれないが、それまでたっぷりと楽しむのだ。

 もしかしたら、このローマでの活躍の褒美として自分に与えて貰えるかもしれない。そうなったならば三人纏めて可愛がってやろうと決めたカエサルは、視線の端に映る不愉快な存在へと嘲りの言葉を口にした。

 

「ああ、そこの贅肉。気配を消してクレオパトラの牢に近づいているつもりだろうが、全てわかっているぞ。まあ、好きにしろ。お前の力でどうこう出来る代物では無いからな」

 

「ぐっ……!」

 

 クレオパトラが捕らえられている牢に近づき、それを破壊しようと力を籠めるもう一人のカエサルであったが、牢の守りは硬く、自分の力ではどうにもならないでいた。

 無駄な努力を続けるもう一人の自分を嘲るカエサルは、柔らかい女体の感触を楽しみながらその光景を見世物として楽しむ。既にこの戦いが自分の掌の上で行われていることに満足する彼は、勝利を確信していた。

 

「さて、のんびりと楽しもうでは無いか。他の全ての戦いが終わり、貴様たちの仲間が全滅するまでの間、こうやって私を楽しませてくれよ? クハハハハハハハハ!!!」

 

 部屋の中にカエサルの勝利の笑い声が響く。自分に歯向かえる者が居なくなった戦場の中、彼は勝者としてその栄誉を愉しんでいた。

 しかし……!

 

「……私が、何も出来ないと言ったな?」

 

「む……?」

 

 突然、もう一人の自分が声を発したことに気が付いたカエサルは、動きを止めて彼に視線を向けた。

 もう一人の自分はどこか苛立つ笑みを浮かべたまま、同じく自分のことを見つめ返している。その自信ありげな表情にカエサルが訝し気な視線を向けていると……

 

「確かに私は非力だ。この牢を壊すことも、クレオパトラを助け出すことも出来ん……だが、何も出来ないと決めつけるのは、些か早計では無いかな?」

 

「ほう……? ならば、貴様に何が出来ると言うのだ? 只の贅肉である、貴様に!?」

 

 カエサルはもう一人の自分に意識を集中させながら、周囲の状況にも注意を払う。彼が何も出来ないと言うのは間違い無い。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 であるならば、自分の両脇に居る二人に何かをさせようと言うのか? カエサルは二人の挙動に注意しながら、もう一人の自分の企みを潰すべく全神経を集中させた。

 

「それで? どうするつもりだ? 貴様は何をしようとしている? この状況で、何をしようと言うのだ!?」

 

 威圧感を孕む叫びをもう一人の自分に向け、カエサルは剣を握る。相手が何をしようとも、その企てを阻止する準備は出来ているつもりだった。

 だが、もう一人のカエサルはただ笑うだけだ。なんの行動も起こさない彼に対し、もしかしたら只のハッタリをかましているだけだったのかとカエサルが思っていると……

 

「……いや、何。私は何をするわけでは無いさ。と言うより、もう既に私の行動は終わっているのだよ」

 

「は……?」

 

 その言葉を聞いたカエサルは、理解出来ないと言う様な表情を見せた。

 一体彼は何を企んでいるのか? 何一つ理解出来ないままカエサルが硬直していると……

 

「……!?」

 

 一つ、カエサルは違和感を感じた。正確には、()()()()()だ。

 足音が一つ、この部屋の中に聞こえた。しかし、部屋のどこを見てもその音の主は見えない。

 だが聞き間違いでは無い事は確かだ。ならば何故、足音の主は見えないのか? まさか宝具を使ったロビンフッドが居るのかと警戒を強めるカエサルであったが、その目の前で信じられないことが起きた。

 

「グガァァァァァァッッ!?!?」

 

「なっっ!?」

 

 牢屋の中、鎖に繋がれた獣が咆哮を上げる。叫びと共に口からは血反吐を吐き、苦し気な表情を見せて床へと倒れ込む。

 檻を貫通し、獣のどてっ腹にぶつかる赤と緑の光弾を見るカエサルは、事ここに至っても一体目の前で何が起きているのかを理解出来ないでいる。そんな彼に対し、もう一人の彼が種明かしとばかりに得意気に口を開いた。

 

「何、私は贅肉だ。この図体以外に取り柄もあるまい……せいぜい私に出来るのは、この背に一人の少女を隠すこと位のものさ」

 

「せやぁぁっ!!!」

 

 太ったカエサルの背中から聞こえる可憐な声。その声を聞いた時、カエサルはようやくもう一人の自分の策に気が付いた。

 確かに、あの時点で彼の行動は終わっていたのだ。彼の目的は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。それが終わったなら、後は背中に隠した少女に全てを託せばいい。

 目に見える物にだけ気を配り、文字通りその裏側に隠れている者に注意を払わなかったことを悔やむ彼が、自分の失態に気が付くと同時に自分を守る盾が消え去ったことを悟った瞬間だった。

 

「はっ!!」

 

「ふんっ!!」

 

「ぐおぉっ!?」

 

 両脇から聞こえる気合の声、その声と同時に二発の拳を受けたカエサルは苦悶の声を漏らしてその場に崩れ落ちた。

 良い様に体を弄ばれたことに怒りを燃やすアルトリアと牛若丸は、もう二、三発ほど拳と蹴りを彼に食らわせて完全にその意識を刈り取る。それが終わった後、二人は自分たちに味方するカエサルの方へと視線を向けた。

 

「よい、しょっと!」

 

「……感謝する、幼き聖女よ。君のお陰でこの状況を打破できた」

 

「お安い御用です! でも、もっと感謝しても良いんですよ!」

 

 キメラにとどめを刺し、檻を破壊したジャンヌリリィに対して感謝の言葉を述べたカエサルは、大きく胸を張る彼女に深々と頭を下げた後でクレオパトラへと近づく。

 彼女を縛る鎖を破壊したカエサルは、少し後ろめたそうな表情を浮かべつつクレオパトラの髪を撫で、口を開いた。

 

「……すまない、君を助けるのが遅れてしまった……それに、君を傷つけたのは他ならぬ私だ。どう謝罪すれば良いのか分からないが……ただ謝らせてくれ、すまなかった」

 

 自分の犯してしまった罪に胸を抉られるカエサル。しかし、俯く彼に対してクレオパトラは優し気な笑みを見せ、その手を取る。

 

「……貴方もカエサル様なのですね。私が思う、私の知る貴方様なのですね……」

 

「その質問に首を縦に振ることは出来ないだろう。事は難解で、複雑だ」

 

「いいえ、簡単な事ですわ……貴方が私を助けに来てくれた、私にはそれで十分です」

 

 そう口にしたクレオパトラはカエサルのことをそっと抱きしめた。彼女のその行動に瞳を潤ませたカエサルは首を振ると、覚悟を決めた表情で立ち上がった。

 

「……では、最後の仕上げと行こう。全てを元に戻さなくてはな」

 

「元に戻す、とは?」

 

「……贅肉である私とそれをこそぎ落した私、その二人を融合させて元に戻すと言う訳だ。その際、どちらの意識が優先されるかはわからんが……どうか、私を信じて待っていて欲しい」

 

 ふっと小さな笑みを見せ、カエサルは意識を失ったもう一人の自分へと近づいた。そして、その腕を取って小さく呟く。

 

「さあ、勝負と行こうじゃないか。私とお前、どちらのカエサルが勝つかな?」

 

 カエサルがカエサルを自分の元に引き込む。その光景は、太ったカエサルがもう一人の自分を飲み込んだ様にも、痩せたカエサルがもう一人の自分を纏った様にも見えた。

 蠢き、融合を続ける二人を見守る面々は、ただ黙ってその光景を見つめている。

 

「……これが終わり次第マスターの元に迎えるか、それとももう一勝負と行くかは分からない。油断はするなよ」

 

「承知! もしもまだ世迷い言を抜かすならば、この牛若丸が斬って捨てるまで!」

 

「いや、斬っちゃダメですからね!」

 

「……大丈夫ですよ、だってカエサル様ですもの」

 

 警戒を続けるアルトリアたちに対し、クレオパトラは根拠のない自信に満ちた言葉を口にした。

 彼女の言葉と、カエサルを信じる姿を見た三人は、気の抜けた様な表情を見せる。

 

「……そうですね、信じましょうか。彼も一応、私たちの仲間ですし……」

 

「もしもその信頼を裏切ったのならば、首を取るまでです!」

 

「いや、だから殺しちゃダメなんですって!」

 

 戦いの中とは思えない気の抜けた会話を繰り広げながら、四人はカエサルの帰還を待ち続けたのであった。

 

 

 

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