『あっ♡ ああっ♡ もっとっ♡ もっとぉっ♡』
「ぐ、ぎぎぎっ……!!!」
目の前に映し出されている映像を見たカリギュラは歯軋りをして心の内に燃え上がる炎を抑えた。今、ここで自分が暴れれば、映像に映し出されている彼女の立場が悪くなることが分かっているからだ。
映像に映っているのは愛する姪であるネロだ。今は全裸になり、その美しい体を男たちに差し出して快楽を貪っている。
『おちんぽぉっ♡ 余に、おちんぽをくれぇっ♡ もっと余のまんこをぐちゅぐちゅにしてっっ♡♡♡』
双穴を男根に塞がれ、激しくピストンを受けるネロは顔を醜く歪ませて喘いでいた。その表情にはいつもの愛らしさは無く、変わり果てた彼女の姿にカリギュラの胸が痛む。
あのネロが男たちに汚されていると言うのに何も出来ない自分自身に怒りを燃やすカリギュラは、自分の目の前に立つ男にも同じ怒りを覚えつつその顔を睨みつけた。
「……そう怖い顔をするな、カリギュラよ。なに、少し話をするだけだ」
ニタつきながら子供を諭すようにそう言ったソロモンは、ネロの姿を更に大写しにしながらカリギュラに近づく。
全てを手の平の上で転がしながら、彼はカリギュラへと話を始めた。
「この映像を見て分かる通り、お前の姪は既に我が手に堕ち切っている。このソロモンがその気になれば、ネロは今の数倍酷い扱いを受ける様になるわけだ」
「っっ……!?」
「お前も知っているだろう? 我に従うに相応しくない者どもがどんな扱いを受けているのかを……。お前の姪にも、同じ苦しみを味合わせたいか?」
「ぐ、ぎ……!!!」
カリギュラの脳裏にフラッシュバックする映像。カルデアで共に戦った仲間が、まるで性奴隷以下の扱いを受けている姿を思い出した彼は、胸の内に燃える怒りの炎を更に熱く滾らせる。
しかし、今の彼にはその怒りを表現する方法は無かった。ここで暴れてもソロモンには敵わない。いや、敵わなかったとしても傷の一つはつけられるかもしれないが、そうなれば愛するネロが悲惨な末路を辿ることは目に見えていた。
ソロモンはそれを知っている。カリギュラが、ネロの為ならば自分の命すら厭わないことを理解している。だからこそ、こうして彼に堕ち切ったネロの姿を見せつけて交渉をしているわけだ。
悔しさを滲ませるカリギュラに対して、ソロモンは一つの取引を持ち掛けた。
「さて、カリギュラよ……このソロモンに忠誠を誓え。我が魔術にひれ伏し、全てを捧げるのだ。よもや、嫌とは言うまいな?」
「ぐっ……!」
比較的クリアな思考でその取引の内容を理解したカリギュラは、それが完全に罠であることを悟っていた。恐らく、ソロモンは自分を物言わぬ傀儡にするつもりなのだろう。それくらいは今の自分にも分かる。
誇り、意思、魂、その全てを完全にソロモンに差し出すことなど、決して我慢出来ることでは無い。しかし、カリギュラには選択肢は無かった。
『あ、がっ♡ ぐげげげっっ♡』
「ネロっっ!!?」
映像の中でネロが男たちに首を絞められる。恍惚の表情を浮かべ、失禁するネロは窒息することも厭わずに快楽を貪っている。
男たちもネロの穴が更にきつく締まったことに満足げな表情を浮かべながら、ただひたすらに腰を振り続けていた。
「……どうした? あの程度のことなど奴隷の最下層に堕ちれば日常茶飯事だぞ? お前が首を縦に振らなければ、ネロは毎日あんな目に遭う訳なのだがな?」
「ぐ、お……オォォォォォッッッ!!!」
怒りと悲しみの咆哮が響く。空気を震わせ、聞く者全てを震撼させる様な叫びを上げたカリギュラは、瞳から血の涙を流して己の無力を悔やんだ。
今の自分には何も出来ない。ネロを助け出すことも、醜い姿を晒す彼女を殺すこともだ。かつての彼女を取り戻すことは、自分の力では叶わなかった。
今の自分に出来ることはたった一つ……これ以上の地獄をネロに見せぬ様にソロモンの言葉に首を縦に振ることだけだった。
「ぐ、う……っ!」
「くく……! それで良い、お前は利口な奴だ……!」
力無く恭順の意を示すカリギュラにあくどい笑みを浮かべると、ソロモンは彼の霊基を弄り始めた。段々と遠くなる意識の中、カリギュラは最後に思う。
(ネロ……お前を救えないことを許してくれ……いつか、お前に光を……)
愛するネロと信頼を送る一人の青年の姿を思い浮かべた後、カリギュラの意識はぷっつりと途絶えた。
「叔父上っ! どうか目を覚ましてくださいっ! もうあなたが縛られる理由は何処にも無いのですっ!」
「グガァァァァァッッ!!!」
突貫を開始するカリギュラをスパルタクスが抑える。力自慢の狂戦士のぶつかり合いを目にしながら、ネロはカリギュラ目掛けて大声で叫んだ。
ネロの援護の為にやって来たのは、彼女が思ったよりも多くのサーヴァントたちだった。エリザベートとロビンフッドをはじめ、スパルタクス、ジャンヌとオルタまでもが彼女の為に駆けつけたのだ。これはカリギュラを倒すのでは無く、生きたまま抑え込むことを目的としたネロの為にマスターが送った出来る限りの援軍であった。
ネロはマスターの思いやりに感謝しながら、その思いに応えるべくカリギュラへと叫びかける。もう自分はソロモンの呪縛から脱した、カリギュラが彼に従う理由は無い、と……
しかし、カリギュラに施された魔術は彼の思考を深く蝕み、ネロの言葉は彼には届かずに空しく響くだけであった。
「ゴ、オォォォッ!!!」
「ぬぅっっ!?」
力任せに腕を振るったカリギュラがスパルタクスを吹き飛ばす。そのままネロへと真っすぐ突っ込んだ彼は、剛腕を唸らせて彼女へと殴り掛かった。
ネロはそれを剣で切り払い、ギリギリの所で防ぐ。火花が舞い散る攻防を繰り広げながら、ネロはなおもカリギュラへと叫び続けた。
「叔父上っ! 余はもう大丈夫ですっ! あなたがそうなったのは、間違いなく余の為なのでしょう!? どうか、どうか目を覚ましてくださいっ!」
重い拳での一撃を防ぎ、ネロはカリギュラの瞳を見つめながら叫んだ。記憶の中の優しい彼を思い出し、彼をこうしてしまったであろう自分の弱さを呪うネロの瞳には涙が浮かんでいる。
必死の思いを込めたネロの叫び。しかし、それすらも届かぬままカリギュラはただ暴れ回るだけだ。
「オオォォォッッ!!!」
「きゃっ!?」
カリギュラの渾身の一撃を防ぎきれなかったネロの体が宙に舞った。追撃を仕掛けようと彼女を追って跳躍したカリギュラの姿を見たネロは、襲って来るであろう痛みを予想しそれを耐えるべく歯を食いしばる。
しかし、視界の端に映ったいくつもの矢がカリギュラの体を射抜き、そちらに気を取られたカリギュラが攻撃を中断した為にネロはそのまま地面へと落下して行った。
「よ、わっ、しょっ!!!」
「んっ……! すまぬ、エリザベート」
「礼は後! 今はあいつをどうにかするのが先決よ!」
地面に叩き付けられそうになった自分の体を受け止めてくれたエリザベートに感謝の言葉を述べるネロ。エリザベートはそんな彼女の言葉を軽く受け流し、カリギュラへと視線を移す。
今は二人のジャンヌと激しい戦いを繰り広げているカリギュラは、正に暴力の嵐となって戦場に君臨していた。
「叔父、上……! 余が、弱かったばかりに……っ!」
自分が快楽の毒に負け、ソロモンに忠誠を誓ってしまったばっかりにカリギュラはあんな風になった……その事を苦しむネロの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
不甲斐ない自分の弱さが恨めしく、快楽に負けた自分が情けなくて仕方が無かった。今もこうしてカリギュラに何も出来ないでいる自分にネロが嫌気をさしていると……
「何泣いてんのよ、この馬鹿っ! 泣いてたって何も変わらないでしょ!」
「え、エリザベート……」
頬を両手で挟まれ、顔を持ち上げられたネロは目の前に立つエリザベートに叱責を受けて少しだけ狼狽えた。エリザベートは弱気になるネロのことを奮い立たせるべく、彼女へと言葉を投げかける。
「まさか諦めたわけじゃあ無いでしょうね!? アンタが諦めたら、全部お終いじゃない! 子犬も、マシュも、皆も、アンタのことを信じてんのよ!? その信頼を裏切る様な真似、するわけ無いわよね!?」
「っっ……!!」
エリザベートの言葉に自分の背負う物を思い出したネロは、ぐっと拳を握り締めて心を奮い立たせた。そうだ、まだ自分は諦める訳にはいかない。
沢山の戦力を与えてくれたマスターの思いや、自分に力に貸してくれる仲間たちの思いを裏切る訳にはいかない。そう思い直したネロは、弱った心に活を入れて涙を拭った。
「誰が諦めるものか、この愚か者めっ! 余はまだまだやれるぞっ!」
「トーゼンでしょっ! それで? 何か策はあるの?」
「うむっ! ……これしか無いであろうな」
覚悟を決めた表情を見せたネロは、視線の先に居るカリギュラを真っすぐに見つめると呼吸を整えてタイミングを計り始める。自分のすべきことを頭の中に思い浮かべ、その責任を果たすべく意思を固める。
なにより、自分を愛してくれる叔父のことを救いたかった。瞳を閉じたネロは、優しかったカリギュラの笑顔を思い出し、その光景を胸に瞳を開ける。
「……エリザベート、援護を頼む。少し、無茶をさせてもらうぞっ!」
「了解よ! 思いっきりやっちゃいなさいっ!」
頼もしい好敵手の言葉を背中にネロは駆け出す。キャスタークラスにクラスチェンジしたエリザベートの光弾が自分の横をすり抜け、標的であるカリギュラの周囲に着弾して行く。
「叔父上ぇぇぇっっ!!!」
「っっ!!!」
喉を震わせて自分を呼ぶネロへと視線を向けたカリギュラは、自分に真っすぐに突撃して来る彼女へと標的を変えた。
拳を固く握りしめ迎撃の構えを取るカリギュラは、鋭い眼光でネロを睨みつける。
「グオォォォォォッッ!!!」
咆哮。びりびりと空気が振動し、凄まじい圧気が部屋を埋め尽くす。対決の時を迎える二人は、それぞれの思いを胸にその距離を一気に縮ませた。
「ガァァァァァァッッ!!!」
唸る拳、振るわれる剛腕。ネロへと拳を突き出したカリギュラは、彼女の攻撃を警戒しながらその身体を打ち抜く一撃を放つ。
しかし、彼の目に映ったのは、にわかには信じられない光景だった。
「がっ!?」
ネロの手から、剣が消える。地面へと落下する【原初の火】を見たカリギュラは、一瞬だけ動きを止めてしまった。
このまま腕を振り抜けば彼の勝ちは確定するだろう。ネロの身体は彼の拳に打ち抜かれ、無残な死を遂げる。
その勝利を掴むために再度動き出そうとしたカリギュラであったが……ネロの顔を見た途端、彼の脳裏には在りし日の光景が浮かび上がって来た。
『叔父上』
太陽の様に輝く愛らしい笑み。幼き彼女が見せるその笑顔は、カリギュラの心にしっかりと残っていた。
何にも代えがたい大切な存在だった。幸福と栄誉が彼女の未来に待っていることを心の底から望んだ。それほどまでに、大切だった。
だから彼女への愛が消えるはずも無かった。どんなに何かに上書きされようと、自分の中で輝くネロの笑顔を掻き消せるだけの強さは、ソロモンの魔術には無かったのだ。
「オ、お、おぉ……」
温もりが広がる。胸の奥、きっと心があるであろう部分からじんわりとした温かさが広がって行く。
優しく、暖かな感覚を覚えたカリギュラは、そこで初めて自分が抱きしめられている事に気が付いた。
「……叔父上、余はもう大丈夫です。あなたの愛のお陰で余は生き永らえ、マスターのお陰で闇の中から救い出された……今度は、余があなたを救う番、あなたに光を見せる番です……!」
「おぉぉ……おぉぉぉぉぉぉっっ……!」
無防備なネロの頭を潰す事など簡単だった。首をへし折ることも、胸を貫くことも出来た。
だが、自分の中の何かがそれをさせるまいと抗っている。その抗いは段々と強く、そしてはっきりとした感覚に変わっていた。
「オ、ォ……!」
愛しい者を傷つけるなと何かが言っていた。いや、そう言っているのは自分自身だとカリギュラは気が付いた。
そして……惑い、壊れ、作り出された自分自身が、本来の自分自身の拳の前に打ち砕かれる瞬間を、カリギュラははっきりと自覚した。
「ネ、ロ……」
「叔父上っ!」
そっと目の前の目の前のネロの名を呼びながらその身体を抱き寄せる。確かな温もりを感じた時、カリギュラは自分の体から力が抜けて行くことを感じていた。
(ネロ……お前に、光は訪れたのだな……)
かつてと同じ感覚、されど胸の中に生まれるのは確かな満足感。
意識を遠のかせながらも微笑んだカリギュラは、そのままぐったりと床にその身を横たえたのであった。
「叔父上、どうか気を確かにっ!」
「……大丈夫、命に別状は無いわ。気を失っているだけみたい」
冷静に脈を取ったオルタの言葉に胸を撫で下ろしたネロは、膝の上にカリギュラの頭を置いてそっと目を閉じた。潤んだ瞳から涙を零し、彼が自分を思い出してくれたことに安堵する。
「良かった……! 本当に、良かった……!」
悲しみでは無く喜びの涙を流すネロ。そんな彼女の頭をくしゃくしゃと掻き回したエリザベートは、頬をぷくりと膨らませてから彼女に言った。
「ちょっと! 何泣いてんのよ!? アイドルなんだから、ファンには笑顔で応えなさいよね!」
「む……! そうだな、そうであったな!」
再びエリザベートに叱責されたネロは、愛らしい笑顔を浮かべて周りの味方の顔を見回した。そして、誇らしげに胸を張りながら言う。
「皆の者、ご苦労であった! 余が褒めてつかわすぞっ!」
輝く笑顔を浮かべるネロのことを呆れ半分で見つめながら、きっとこの笑顔を見ればカリギュラも喜ぶに違いないと彼女の仲間たちは思ったのであった。