※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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ロムルスの真実、そして……

「……正気か、お前?」

 

 王座の間、そこで戦う土方はマスターの言葉に目を丸くして問いかけた。

 この場に残ったサーヴァントたちも同様の視線をマスターへと向けている。

 

「先輩、それは余りにも危険な賭け過ぎます! もしものことがあれば……」

 

「そうですよ! そんなことをする必要なんてありません!」

 

 マスターの護衛を担っているマシュと土方と共に前線を張っている沖田もまた彼の意見に反対の言葉を述べた。残るモードレッドもまた難しそうな顔をして話し合う面々を見守っている。

 そんな風に戦闘の最中に話し合いを行うカルデアのサーヴァントたちを真っすぐに見据えるロムルスはと言うと、微動だにせずにその場で仁王立ちしているままだった。

 

「………」

 

 威風堂々、そんな言葉がぴったりなロムルスの姿。今の彼を見れば、人の上に立つ皇帝とはどう言う物なのかと言う事がよくわかるだろう。

 子細は問わぬ、ただ全力でかかって来い……自分たちを見つめるロムルスの無言の主張を感じながら、マスターは軽く首を振ってもう一度自分の思いを告げた。

 

「ごめん、どうしてもそうしなきゃいけないんだ。危険な賭けなのは分かっているけど、それでもそうしたいから……」

 

 強く、真っすぐなその眼差し。それを見た土方はマスターの覚悟が硬い事を感じて取った。

 彼の言う通り、どうしてもこの博打は打たなければならないものなのだろう。少なくとも彼にとってはそうなのだ。

 

「……わかった、お前の策に乗ってやる。詳しく話せ」

 

「ありがとうございます、土方さん」

 

 礼を口にする彼に小さく手を振る。そんな言葉など必要ないと暗に告げた土方に対し、他のサーヴァントたちもやや不満ながら納得した様な表情を見せた。

 

「……じゃあ、説明するよ。皆の動きは……」

 

 静かに、マスターは自分の策を解説する。黙って彼の計画を聞いた4人は、頭の中で自分の動きを再確認してからロムルスへと向き直った。

 

「……来るか」

 

「ああ、行くよ!」

 

 ロムルスと短い会話を交わし、マスターが右手を掲げる。

 そしてそこに刻まれた令呪を光らせながら、彼は命令を発した。

 

「令呪を以って命ずる、土方歳三、沖田総司、全霊を持って宝具を開放せよ!」

 

 右手の甲から二画の令呪が消えた瞬間、それが刻まれていた本人の周りに居た二人のサーヴァントから爆発的な魔力が解放された。令呪がその効果を発揮し、二人の魔力を急速に上昇させたのだ。

 

 立ち上る魔力の奔流による青いオーラと人斬りとしての威圧感を放ち、沖田と土方が刀を構える。

 流麗と剛毅、そのどちらもを併せ持つ構えを見せる二人は、同時に床を蹴った。

 

「抜刀……突撃……っ!!!」

 

 鬼……そう表現するに相応しい形相を浮かべ、土方が直進する。遮る物を全て粉砕する勢いでただ前へと突き進み、屠るべき敵へを間合いに捉える。

 

「一歩音越え、二歩無間―――三歩絶刀!」

 

 部屋の中から沖田の姿が消える。凄まじい衝撃波と空気の震えだけを残した彼女が姿を現した時には、もう既に彼女はロムルスの目の前にまで迫っていた。

 

「っっ……!!!」

 

 強靭なる剛剣、俊敏なる絶刀。天念理心流の真髄を極めた二人の剣士の全力の剣技は、真祖ロムルスですら驚愕を隠せぬ程の威力を誇っていた。

 

 ロムルスはすぐ目の前にまで迫った二人の剣士に対し、回避でも迎撃でも無く防御と言う選択肢を取る。

 完全に防ぎ切れる自信はなかった。だが、背を向けても不用意に手を出しても自分の体は叩き切られてしまう予感が感じられたからだ。

 

「ぬぅぅぅんっ……!」

 

 巨大な樹槍を回転させ、二人の振るう刀の軌道に合わせる。それを掴む腕に全霊の力を込めたロムルスは、衝撃に備えて歯を食いしばった。

 

「うっらぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「無明・三段突きっ!!!」

 

 剛斬が、魔剣が、ロムルスに迫る。樹槍がその一撃を受け止め、悲鳴の様な衝撃音を鳴らす。

 

 部屋の床が一段へこむ程の衝撃波を放つぶつかり合いを見せた三者の攻防は、ギリギリの所でロムルスが二人の宝具を受け止めると言う形の決着を見せた。

 だが……そこで、全ての決着が付いた訳では無かった。

 

「ぐ、ぬ……っ!」

 

「お、おぉぉぉぉっ!!!」

 

「はぁぁぁぁっっ!!!」

 

 刀が、槍が、押し込まれる。稀代の天才剣士二人を相手にしたロムルスが、徐々に押され始める。

 正面からこの二人と組み合い、それでも互角に鍔迫り合いを演じていられるのは、彼がただ強靭な肉体と不屈の精神を併せ持つ真祖ロムルスであるからだ。彼だからこそ、二人を相手に踏み止まっていられるのだ。

 だが、それでも今のロムルスには余裕が無かった。次の対処を間違えればこのまま押し込まれてしまうことを重々に理解する彼は、頭を働かせて取るべき行動を考え始める。

 

 ……その時だった。

 

「!?!?」

 

 三つ目の床を蹴る音がした。聞き間違いでも、幻聴でも無かった。

 その音に気が付き、自分に近づく気配に顔を上げたロムルスが見たのは、到底信じられない光景だった。

 

「てやぁぁぁぁっっ!!!」

 

 向かって来ているのだ、カルデアのマスターが。ただの人間である彼が、刀を手にして自分へとそれを振るいながら飛び掛かって来ているのだ。

 それは自殺行為としか言い様が無かった。今は土方と沖田の相手で一杯一杯とは言え、サーヴァントであり、間違いなく強力な英霊であるロムルス相手に突貫を仕掛けるなど馬鹿のすることでしかないはずだ。

 

 しかし、その馬鹿な行動をカルデアのマスターは確かにして見せている。

 驚きに見開かれるロムルスの目の前で、彼は勢い良く刀を自分へと振り下ろして見せた。

 

「っっ……!」

 

 ロムルスは手にした樹槍を回転させ、受け止めている二人の刀を払った。そして、迷うことなく後ろへと跳躍する。

 寸での所で空を切った刀の切っ先を目前にしながら、敵対する相手と距離を取った彼は一度呼吸を整えてから口を開いた。

 

「……何故、そんな行動をした? 命が惜しくないのか?」

 

 ロムルスは当然の疑問を口にする。サーヴァント同士の戦いに直接介入するなど、自殺行為でしかない。たとえそれが優れた魔術師であったとしてもだ。

 しかも、彼はその優れた魔術師ですらない。運動神経は良いが、取り立てて優れた部分の無いただの若者だ。そんな彼が、何故自分に斬りかかって来たのだろうか?

 

 ロムルスの質問を受けたカルデアのマスターは体勢を立て直し、刀を鞘にしまってからロムルスの顔を見る。

 青い瞳がロムルスの姿を捉え、そこに映る自分を見ながら、ロムルスは彼の答えを待った。

 

「……確かめたいことがあったから、かな」

 

「ほう……それは、なんだ?」

 

「その前に一つ、俺からも質問だ。ロムルス……何で、俺を殺さなかった?」

 

「………」

 

 ロムルスの新たな質問に答える前に逆に彼に質問を投げかけたカルデアのマスターは、真っすぐに彼の顔を見つめながらその答えを待つ。

 押し黙ったロムルスは、肩で呼吸をするカルデアのマスターをじっと見つめたまま何も答えないでいた。

 そんな彼の胸中を探る様に……あるいは、全てを理解している様に口を開いたマスターは、自分なりの考えを話し始める。

 

「ロムルスほどの英霊なら、あの瞬間に俺を殺す事だって出来たはずだ。何でそれをしなかった?」

 

「………」

 

「他にも沢山聞きたいことがある。何で全戦力を持って日本の町を襲わなかったのかとか、厳しく徴兵して軍備を補強しなかったのかとか……色々と疑問に思うことはあるんだ」

 

 少しだけ……ロムルスは、視線の先の青年へと微笑みを見せた。目聡く、賢い彼へと笑みを見せる彼の視界に、新たな景色が映る。

 

「マスター、ご無事ですか!?」

 

「遅くなった! 余たちは無事だぞっ!」

 

 ネロが、アルトリアが、他のサーヴァントたちが、この部屋へと集う。囚われていたクレオパトラや正気を失っていたカエサルとカリギュラの姿もそこにはあった。

 全戦力が集った王座の間の中で変わらぬ視線をロムルスに向けるマスターは、深く息を吐いた後で彼に告げる。

 

「もう終わりにしよう、ロムルス……()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……ク、ククク……ハハハハハハハハ!」

 

 至極愉快そうにロムルスは笑った。集った面々はそんな彼のことを驚きの表情で見つめている。

 そんな中、只一人だけ真顔であったカルデアのマスターに対し、ひときしり笑ったロムルスは穏やかな表情を向けてこう呟いた。

 

「……ネロ、カエサル、カリギュラ、クレオパトラ……我が愛するローマの子たちもソロモンの呪縛から解放されたか。ならば……もう、こんなことをする必要は無いな」

 

「ああ、そうだよ。もう、終わりにしよう」

 

 ロムルスの手にした樹槍が、放つ威圧感が、消える。戦いの構えを解いた彼は、聡明さと力強さを感じさせる光を瞳に灯しながら、カルデアのマスターへと微笑んだ。

 

「流石だ、愛しき我が子よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……再び、(ローマ)はソロモンに利用されることになった。だが、今回は私にも自由があった。奴に従うか、従わないかのな。実際は有って無いような自由ではあったが、その中で私は出来る限りの反抗をさせてもらった」

 

「うん、わかってるよ。ロムルスがここにいたからこそ、この特異点は焼却されて無かったんだもの」

 

 カルデアのマスターの言葉にロムルスが頷く。そして、全てを悟っているであろう彼に対して改めて自分の取った行動を説明し始めた。

 

「ソロモンは、ローマを征服するのはローマ皇帝たちに任せると言った。すなわち、(ローマ)、ネロ、カリギュラ、カエサルの元ローマ皇帝たちを向かわせるということだ。その中で、奴の手に堕ちていない英霊は私だけだった」

 

「……申し訳ありません、真祖ロムルス。余たちが力不足であったが故に、あなたにこんな真似を……」

 

「良い、全ては(ローマ)の罪だ。結局、私は愛するローマの民全てを守ることは出来なかった」

 

 そう呟いた後、ロムルスは悲しそうに顔を伏せた。後悔と悲哀に心を痛める彼に対し、今度はマシュが口を開く。

 

「しかし、あなたが居たからこそ救われた命は無数にあるはずです。街の治安は守られ、日本の町や淫乱組との戦闘は最低限に抑えられていました。その結果、人理の崩壊も為されなかった……その全ては、ロムルスさんの功績のはずです」

 

「確かに……正気を失ったネロやカエサルなんかがローマの舵を切ってたら、とっくに町は火の海になってたはずだ。しかし、実際はそうじゃなかった。おまけに町もかつてとほとんど変わりがない」

 

「ジャンヌ達に支配されていたフランスはソロモンを崇拝する国家になっていた。けど、このローマではそんなことはなかった。それは全て、ロムルスがきちんとこの国のことを守ってくれたからなんだ」

 

「あなたがソロモンに降ったふりをしていたのは、洗脳された私たちを正気に戻し、人理焼却を防ぐ為……そうだったのでしょう、真祖ロムルス?」

 

 カエサルの言葉にロムルスは小さく頷いた。その姿を見たネロは、すぐさま跪いて頭を下げる。

 

「感謝します、真祖ロムルス……! 貴方が居なければ、余は愛するローマの民を皆殺しにする所だった……。そして、多大なる苦しみと責任を貴方一人に背負わせてしまったことを改めて謝罪させて下さい……!」

 

 平服し、頭を垂れるネロと同様の格好をカエサルとカリギュラも取る。

 皇帝でありながら無力だった自分たちの不甲斐なさを責める彼らに対し、ロムルスは力強い声で励ましの言葉を送った。

 

「まだ、終わりではない。愛するローマを守る為、我らは戦わねばならない……全ての罪は、(ローマ)とローマが受け止めよう。お前たちはただ、前を向けば良い」

 

「……ははっ!」

 

 ロムルスの言葉に大きな声で返事を返した三人は、目に浮かべた涙をそれぞれ拭った。真祖ロムルスの器の大きさに触れた英霊たちもまた、彼の偉大さに感服の意を示す。

 

「……ついて来るが良い、我が子よ。ソロモンが(ローマ)に預けた聖杯、それをお前に手渡そう。それでこの特異点は消滅するはずだ」

 

「う、うんっ! ありがとう、ロムルス!」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。よくぞローマの皇帝たちと民を守ってくれた……お前たちのことを、(ローマ)は誇りに思うぞ」

 

 柔和な笑みを浮かべるロムルスを見たカルデアの面々は、戦いが終わったことを感じ取って安堵した。また一つ、ソロモンのたくらみを阻止できたのだ。

 緊張を解き、それぞれが徐々に神経を落ち着かせていく。これで、全てが終わった。

 

 ……はず、だった。

 

「がっ!!?」

 

「えっ!? ま、マスターっ!?」

 

 突如として起きた出来事にサーヴァントたちは目を丸くした。先ほどまで笑みを浮かべていたロムルスが、カルデアのマスターを殴り飛ばしたのだ。

 宙を舞ったマスターを急ぎマシュが受け止める。頬を強く打たれた以外に目立った外傷はなかったものの、今のロムルスの行動は流石に不可解だ。

 

「し、真祖ロムルス! なぜあんな行動、を……!?」

 

 一早く硬直を解いたネロがロムルスへ非難と疑問の入り混じった声を上げる。だが、その言葉は途中で途切れることとなった。

 

「ぐ、うっ……!!」

 

 突然マスターを殴り飛ばしたロムルスの姿よりも驚愕の光景が、そこには広がっていた。彼の胸からは、眩い光を放つ剣が顔を出していたのだ。

 

 胸の中心を突き破るその剣を見た時、その場にいた全員が何故ロムルスがマスターを殴り飛ばしたのかを理解した。彼は、マスターを守ったのだ。もしも彼がマスターを自分から遠ざけなかったら、あの剣はマスターの頭をも貫通していただろう。

 その事を理解した英霊たちの目の前でロムルスが倒れる。時を同じくして立ち上がったマスターは、彼の背後に立つ一人の女性の姿を目にした。

 

「……ゲームオーバーだ。淫乱組もローマ皇帝たちも、目的を果たすことは出来なかった」

 

 淡々とした機械の様な口調。白い、無垢である破壊の意思を全身から放ちながら彼女は言う。

 三色に輝く剣を構え、倒れたロムルスの体を踏み越えながら彼女は話し続ける。

 

「また新しいゲームを始めることは出来ない。これは、一度きりの遊戯だった……リセット出来ないのなら、取るべき手は一つしかないだろう?」

 

 ゆっくりと彼女が剣を持ち上げる。その切っ先をカルデアのマスターへと突き付け、殺意を漲らせる。

 その重圧を確かに感じるマスターは、まだ戦いが終わっていなかったという事を理解した。

 

「偉大なるソロモン王の意思を伝えよう……全て、()()だ」

 

「アル、テラ……!」

 

 まるで悪夢でも見ているかの様に、カルデアのマスターは自分の目の前に立つ破壊の王の名を茫然と呟いた。 

 

 

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