「アルテラ……!?」
「いかにも、破壊の化身にしてお前に死をもたらすものだ」
感情の無い声でそう呟いたアルテラは、手にした剣から破壊の光をマスター目掛けて飛ばした。
唸りを上げて飛び来るその光をマシュが盾で防ぎ、マスターを抱えて後退する。
「マスター、お怪我はありませんか!?」
「だ、大丈夫、ありがとう、マシュ……」
突然登場し、敵対する様子を見せたアルテラの姿に動揺を隠せないマスターは視線をマシュに移さないままそう答えた。その目は、アルテラから離れないでいるままだ。
元より感情を表すことが苦手なアルテラは、無表情のままマスターたちのことを見つめている。
彼女が何を考えているか、それをまったくわからないまま微動だにしないマスターであったが、沖田に肩を掴まれてはっと我に返った。
「どうしますか、マスター!? ここは一時撤退を試みますか!?」
「こっちは大分消耗してる、退いた方が良いんじゃねえのか!?」
沖田とロビンが冷静な意見を述べる。この場にいるカルデアのサーヴァントたちは、全員がローマ皇帝たちとの戦いで少なからず消耗していた。
ここに来るまでも何度か戦闘を行い、既に全力を出せる状態とは程遠くなってしまったサーヴァントたち。こんな状態でアルテラと戦うことは危険だと判断した彼らは、マスターに撤退を進言する。
しかし、マスターはその意見に対して静かに首を振った。驚く面々に対し、土方もまた撤退に対して反対意見を述べる。
「無駄だな、ここで逃げても追撃されて一人一人消されるだけだ。なら、全戦力が揃ってる今に賭けるしかねえ」
「で、でもっ、この状況で勝算はあるんですか!?」
「バーロー、勝算なんざなきゃ作れば良いだけの話だろうが。……おい小僧、さっきはお前の無茶な策に乗ってやったんだ、今度はお前が俺の策に乗れ」
「……何か考えがあるんですか?」
「もう一度宝具を使う。ただし、ぎりぎりまで溜めてからだ。俺の宝具は俺自身の負傷が大きければ大きい程威力が上がる代物だ。今の状態なら、かなりの威力が出る」
「なら、令呪を使って魔力の充填を……!」
「いや……この状態で更に威力を上げる為、神経を研ぎ澄まさせて貰うぜ。急速に魔力を充填されちゃあ、勘が冴えねえからな」
「……つまり、私たちは土方さんが宝具を撃つまでの時間稼ぎをしろってことですね」
自身の真意を理解した沖田の言葉に土方は頷いた。そして、マスターの顔を真っすぐに見ながら問いかける。
「良いな、小僧? これが俺の最終策だ。乗らねえとは言わせねえぞ」
「……はい」
肯定の意を示したマスターに満足げな笑みを浮かべ、土方が腰に差した刀の柄を掴む。そして、瞳を閉じて魔力を練り上げながら神経を集中し始めた。
「……何か仕掛けるつもりだな。だが、そんな時間は与えん」
戦うと言う選択をした面々と、その中で動きを見せた土方の姿を見たアルテラが彼目掛けて飛び掛かる。
剣を構え、それを真っすぐに突き出しながら落下する彼女が、土方の胸に向けて渾身の一突きを繰り出そうとしたその時だった。
「させませんよっ!」
「……ほう?」
自身の両脇から現れる二人の英霊、俊敏さに自信がある沖田と牛若丸がアルテラの隙を突いてその両隣から攻撃を仕掛けたのだ。
しかし、アルテラは一切の動揺を見せずに空中で一回転して剣を振るう。鞭の様にしならせた
「がっ!?」
「ぐわっ!」
「二人……残りは何人だ?」
土方への攻撃を中断したアルテラは床に着地すると同時に周囲を警戒する。瞬間、彼女に向けて鋭い手刀が繰り出され、アルテラはそれを軽く体をひねることで躱すことに成功した。
「オォォォォッ!」
「……狂化された者か。激しいが、単調だ」
二度、三度と繰り出されるカリギュラの攻撃を躱し、アルテラが地を蹴る。オーバーヘッドの様に空中で縦に一回転しながら、アルテラはサッカーボールの代わりにカリギュラの頭を蹴り飛ばした。
「ゴォォォッ!?!?」
「三……次は、誰だ?」
呟きを口にしながら剣を振るい、飛び来る矢を切り払う。撃ち出された矢の方向から敵の位置を予測したアルテラは、剣の先から光線を放った。
「がふっ!?」
「……これで四だな」
クリーンヒット、三色の光線を胸に受けたロビンが崩れ落ちる。姿を消していた彼を仕留めたアルテラは、彼が倒れながらも微笑みを浮かべている事を見て取ると背面へと剣を回す。
ガキィッ、と言う音と確かな手応えを感じた彼女は振り返る事無く自身の体から魔力を放つ。彼女の全身に刻まれた
「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」
「五……いや、六か」
「ぐうっ!?」
衝撃の余波で体勢を崩したカエサルへと接近、そのままふくよかな彼の体を蹴り飛ばしたアルテラは、カウントを続けながら残る敵を見る。
彼女の背後では、無謀にも蹴り飛ばされたカエサルを受け止めようとしたクレオパトラが彼の巨大な体に押しつぶされてしまっていた。
「七、儲けたな……残りは……?」
「ああっっせぇぇぇえいっ!!!」
咆哮を上げて迫り来る灰色の巨人の姿を見つめ、アルテラは剣を構えた。バーサーカーに連携を取らせることは難しい、ならば単独で突っ込ませるのは有意義な策だろう。
だが、そんなことは彼女には関係ない。ただ剣を振るい、目の前の物を破壊するだけのアルテラには、細かな策も反骨精神溢れる英雄の突貫も関係なかった。
「……ふんっ」
跳躍し、突っ込んで来るスパルタクスの背後に回る。巨大な体が反転する前に二連続の斬撃をその背中に見舞ったアルテラは、噴き出す真っ赤な血を浴びながら呟く。
「……これで八だ。残りは纏めて吹き飛ばそうか」
真っすぐ、自分の目の高さに軍神の剣を掲げる。腰を落とし、膝を曲げ、全力の一撃を放つ構えを取る。
回転し、輝きを増す光を横目にしながら、アルテラは真正面に見える土方に向けて己の全力の一撃を撃ち出した。
「……
破壊の化身による静かな宣告、物質を、文明を、その全てを壊し尽くす光が彼女の剣より放たれる。
真っすぐに土方に向けて飛んでいく光を目にしながら、アルテラは腕に力を込めて彼を破壊するべく突き進む。
手応えを感じ、衝撃音と爆発に身を包まれたアルテラは目を細めて光を遮った。しかし、瞼の裏からでも遮り切れぬ光の奔流が確かに感じられている。
そして……渦巻き、全てを飲み込む光が王座の間一杯に広がり、収束した後、アルテラは目の前の光景を見ながら淡々と呟いた。
「……王手とは行かなかったか。しかし、これで十だ」
自身の宝具を同じく宝具で防ぎ、力を使い果たして床に倒れ込むマシュとジャンヌの姿を見たアルテラは残る敵の姿を捉える。
全力の攻撃を放った後の隙を見逃してなるものかと迫る敵影が三騎、上空のアルトリア、側面のネロ、真正面のジャンヌオルタの三人を目にしたアルテラは、深く息を吐いて迎撃の構えを見せた。
三騎は全員が熟練の強兵、声も交わさずに見事な連携を見せながらアルテラへと迫って来ている。
しかし、アルテラはただ黙々と彼女たちとの距離を測り、自分の取るべき破壊の為の行動を感じ取るとその思いのままに体を動かした。
「……はっ!」
まず、上空目掛けて牽制の光線を放つ。標的にされたアルトリアは、軽い動きでその攻撃は払った。
それを見たネロが好機と見て全力でアルテラへと跳躍する。アルテラは正面と上空に気を取られていると思い込んだネロであったが、鋭い眼光が自分を捉えた時にその考えが間違いであることに気が付いた。
「うわぁっ!?」
衝撃が体の側面に走る。しなった軍神の剣に打ち払われたネロは、そのまま勢い良く部屋の壁に叩き付けられてしまった。
「……次」
「ぐっ!?」
ネロを吹き飛ばしたアルテラがオルタへと標的を移す。彼女が攻撃に出る前にその旗を払い飛ばしたアルテラは、無防備なオルタの胴に強烈な蹴りを撃ち出した。
「が、はっ……」
「……終わりだ」
ラスト、突き出した脚に力を込めてオルタの腹を踏みつける。彼女にストンピングを決めながら宙へと舞ったアルテラは、残る一騎であるアルトリアよりも高く跳ぶとその上空から光の奔流を発射した。
「ぐわぁぁぁぁっ!!!」
騎乗する馬ごとアルトリアの体が光に飲み込まれる。そのまま落下した彼女は床に倒れ伏すと、そのまま動かなくなった。
「……十三、残るは二人か……」
残る敵、神経を研ぎ澄ます土方とその前に立つジャンヌリリィの姿を見つめながらアルテラは前進する。彼女を迎え撃とうとするリリィの手は震えていたが、それでも気を強く持ってアルテラへと挑みかかった。
「てやぁぁぁぁっっ!!!」
「十四だ」
短めの槍を手にアルテラへ攻撃を仕掛けるリリィ。しかし、そんな攻撃など造作も無いとばかりにアルテラは彼女の体を切り払い、吹き飛ばした。
これで護衛は全員仕留めた。残る土方へと視線を向けたアルテラは、その瞬間に圧し潰されそうなほどの重圧を感じて体をこわばらせる。
この圧倒的なプレッシャーを放つ存在へと視線を向けたアルテラは、視線の先に居た黒き鬼の姿を見て初めて緊張とわずかな恐怖を感じていた。
「……待たせたな。今、お前を叩っ斬ってやるよ」
「……面白い、やってみろ」
「ああ……行くぜっ!」
勢いよく刀を鞘から引き抜いた土方が瞳を光らせてアルテラを睨む。歴戦の勇士ですら怯むであろうその眼光は、倒すべき敵をただ標的に収めていた。
「抜刀……突撃っっ!!!」
「っっ!?」
銃弾と剣劇が飛び交う戦場、その中を土方が駆ける。
砂埃、血飛沫、断末魔……幻覚と幻聴が感じられる程の激しい戦場において、新選組の鬼となった土方はアルテラですら見極められぬ素早さで彼女の元へと接近した。
「おぉぉぉぉぉっっ!!!」
防御に出した軍神の剣を斬って弾く、守る物の無くなったアルテラの眼前に長銃を突き付ける。
黒く光る銃口を目にしたアルテラの耳に届いたのは、慟哭にも近しい土方の叫びだった。
「これが……新選組だぁぁぁっっ!!!」
痛みと誇りと決意と……その全てを込め、土方が引き金を引いた。途端、二人を爆発と煙が包む。
この攻防を見つめていた誰もが土方の勝利を確信していた。いくらアルテラと言えど、至近距離からの超攻撃力による一撃を耐えられるはずが無いと思っていた。
だが……もくもくと煙っていた爆炎が消えた時、彼女たちは信じられない物を見ることになる。
「くそ……っ、失敗したか……」
「……危うかった、な。仲間が倒されるのを見て気がはやったか」
大方の予想を裏切って、アルテラは立っていた。体はボロボロで、決して無傷と言う訳では無いが、それでも立っていた。
淫紋令呪による強化と不完全な状態で放たれた宝具の威力の問題、そして彼女自身の高い能力値が土方の一撃を受けてもなお立てる程の力を彼女に残していたのだ。
「これで、お前の策は尽きた様だな。戦える者も他には居ない……」
「……ああ、その通りだ。俺の策は失敗に終わった。そして、満足に戦える奴はもうこの場には居ない」
「そうか……つまりは、詰みと言うことで良いのだな?」
ゆっくりと、アルテラが剣を持ち上げる。瀕死の、されどまだ戦える体で戦闘の姿勢を見せ、敵を威圧する。
彼女の言う通り、この場にはもう満足に戦えるサーヴァントは残っていなかった。この場に居る全員は、彼女に蹂躙されるのを待つだけなのだ。
……そのはず、だったのだ。
「……さて、それはどうかな?」
「……なに?」
目の前で土方が笑ったことにアルテラは少し戸惑った。彼の表情には、ハッタリや虚勢と言った強がりの様な色が見えなかったからだ。
間違いなく、彼は何かを隠している。だが、この状況で何が出来ると言うのだろうか?
「ああ、一つ言っとくぜ。確かに俺にはもう策は無い。だが、俺以外の奴で、まだ足掻こうとしてる奴がいるみたいだぜ?」
「何だと……?」
戸惑うアルテラに対してそう囁いた土方の表情は、只の悪餓鬼の様に意地悪く恐ろしいものであった。
彼の言葉を受けたアルテラは、先ほどから視界に映っていないカルデアのマスターの姿を探し始める。
もしもこの場で何かをするとすれば、その仕掛け人は彼に違いないだろう。だとすれば、それよりも早く彼を見つけ出して始末しなければならない。
アルテラがそう思った時だった。
「っっ……?」
目の前で何かが弾ける。僅かな痛みをアルテラに与えたそれは、ほんの一瞬だけ現れた。
勘違いか、気の迷いが産んだ幻覚か……アルテラがそう思い直そうとした時、彼女は気が付いた。
(なんだ、この巨大な魔力は!?)
土方の宝具解放のせいで気が付かなかったが、もう一つの大きな魔力の気配があったと言う事にアルテラは今更ながら気が付いた。
その気配を辿り、正体を探る彼女の耳に土方の声が三度届く。
「本当に諦めの悪い連中だな……まったく、抜け目のねぇ奴らだ」
その言葉を耳にしたアルテラの目の前で、赤雷が弾けた。
一つ、確認をしよう。現在の状況の再確認だ。
今、この場に戦えるサーヴァントが居るかと聞かれれば、その答えはNOだ。もうこの場には、満足に戦えるサーヴァントは存在していない。
だが、
実質的に戦力外であり、戦う事が出来ない彼女はただ護衛としてマスターの傍に居ることしか出来なかった。今の彼女に出来るのは、
しかし……言い換えれば、彼女は一回だけなら全力で剣を振れると言うことだ。その一回だけならば、強かった彼女本来の力を再現出来ると言うことなのだ。
もしも彼女がその一振りに全力をかけたならばどうなる? 足りない魔力を何らかの方法(例えば、令呪による補填だ)で解消した彼女が、全力で宝具を開放しながら一撃を繰り出したならばどうなるだろうか?
もしもこの場に土方の宝具開放を隠れ蓑にして魔力を充填させ、仲間たちにも知られない間に全ての準備を整え、マスターの隣で今にも最強の一撃を放とうとする
その答えは今、他ならぬ彼女たち自身の手で導き出されようとしていた。
「なあ、一つ聞いても良いか?」
「何?」
「何でオレを信じた? こんな弱くなっちまったオレに、令呪を使ってまで全てを託したんだ?」
その質問に対して、人の良い気さくな青年は少しだけ困った様な表情を見せ、こう答える。
「何でって言われてもな……信じることに理由なんて必要ないでしょ? 最初から言ってたじゃない、信じてるって」
「……そっか、そうだったな」
あんまりにも単純で、意味の無い答え。だが、それでもその答えには自分に対する絶対的な信頼が込められていた。
今の自分にとって戦う理由はそれで十分だ、彼女はそう思った。
「お前、やっぱ馬鹿だわ。でもま、賢い馬鹿だ」
「何それ? 矛盾してない?」
「こまけーことは気にすんな! 褒めてやってるんだからよ!」
照れ隠しに暴言を一つ吐き、剣を握る手に力を籠める。自分のことを信じられないとでも言う様に見つめるアルテラの顔を見ていると、なんだか愉快な気分になった。
「……後悔させねーよ、オレを信じたことをな」
「後悔なんかするつもり無いよ、勝つんでしょ?」
「当然だっ!」
空気が唸りを上げる。雷が紅く激しく光る。
全ての準備は整った。この場にいる全員の手で繋がれたバトンが今、自分の手の中にあるのだ。
「悪いな、美味しい所は貰って行くぜ!」
不敵な笑みを一つ、仲間に対する詫びを兼ねた言葉を一つ……そして、最強の一撃を放つ構えを取る。
防がれるかもしれないだとか、耐え切られるかもしれないなどと言う考えは持たなかった。何故なら、自分は強いからだ。絶対に負けるはずが無いからだ。
「……終わりにしよう、モードレッド」
「了解だ、マスター!」
頼りになる、自分を信じてくれる主に言葉を一つ。胸の内に浮かべた、彼には告げない感謝の思いが一つ。
信じてくれて、見捨てないでくれて、ありがとう。口には出さぬその思いを胸に、狂犬はその牙を破壊の申し子に剥いた。
「これこそは、我が父を滅ぼし邪剣―――」
走る稲光、轟く雷鳴……普段の自分の力が戻っていることを感じて笑ったモードレッドは、何一つとして自分の中に力を残さぬ勢いでその剣を振るう。
轟音と赤雷が響く王座の間で、彼女は渾身の一撃を放ちながら叫んだ。
「
愛剣から戦いに終止符を打つ一撃を放ったモードレッドは、その光がアルテラを飲み込んだことを見てただ笑い、そして……その場に崩れ落ちたのであった。