※この作品はR-18です。

カルデア女英霊奪還作戦   作:野比のび太

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果たされた約束 (スカサハ)

 

 

 

「……ところでダヴィンチちゃん、スカサハはほとんどの記憶を失ってるって言ってたけど、その状態で本当に元に戻せるのかな?」

 

「確かに先輩の言う通りですね。上手くソロモンの洗脳を解除したとして、今までの記憶すべてを失ったまま生きるのは、スカサハさんが可哀想です……」

 

「ああ、その点なら問題ないよ。ちょっと待っててね……」

 

 コンソールをポンポンと叩き、機械に命令を出しながら俺たちの話を聞いていたダヴィンチちゃんは、一つ大きな伸びをした後で俺たちの方へ振り向く。

 スカサハがカルデアを襲撃してから約2時間……作戦は、第二段階へと進んでいた。

 

「ゴメンよ、これで何とか準備は整った。さてと……スカサハの記憶の事だね。それは心配いらないよ」

 

「何でですか? もしかしてダヴィンチちゃんの発明で何とか出来るとか?」

 

「いやいや、そんなことする必要は無いさ。そもそもスカサハは記憶を失ってなんかいないんだよ」

 

「……どういう意味?」

 

 俺とマシュが首を傾げたのをみたダヴィンチちゃんは手元のボタンを一つ押す。すると、目の前の画面にはスカサハを描いたと思われる女性の絵が浮かび上がって来た。

 

「いいかい? 二人はスカサハの記憶が消えたと思っているようだけど、人間の記憶を完全に消すだなんて事は簡単にできる事じゃないんだよ。それがかの魔術王ソロモンですら易々と行えることじゃないんだ」

 

「でも、実際にスカサハは俺たちの事を忘れて……」

 

「う~ん……言葉を変えると分かり易くなるかな。スカサハは、記憶を『消去』されたんじゃなくて『封印』されたんだ」

 

「……つまり、完全には俺たちの事を忘れてないって事?」

 

「そうとも! ソロモンの奴は上手くやったよ、手段は非常に巧妙で狡猾だ。だが、つけ入る隙が無いわけじゃない」

 

「……ダヴィンチちゃん、私たちにも一から説明して頂けませんか?」

 

「良いよ。じゃあ、まずはソロモンが何をしたかを説明させて貰おうかな」

 

 ダヴィンチちゃんがボタンを押すと、画面には非常に悪い顔をしたソロモンの絵が映し出される。まるでアニメの様に動くその絵を見せながらダヴィンチちゃんは俺たちに説明を開始した。

 

「良いかい? さっきも言った通り、人の記憶を完全に消すなんて事はそう容易く出来る事じゃない。ましてや、その人の記憶の一部分を残した状態でなんて不可能に近い話さ。人の脳をこのパソコンの操作で例えるなら、ソロモンが出来るのは完全初期化だね。その場合、スカサハは自分の名前や戦い方はおろかこの世界がどういったものなのかすら思い出せなくなっていたはずさ」

 

「でも実際はそうじゃなかった。ソロモンは一体彼女に何をしたんだ?」

 

「簡単だよ。ソロモンは一度スカサハの脳内からほとんどの情報を封印したんだ。パソコンで言うとゴミ箱に突っ込んだって事かな?」

 

「……デスクトップ上からは消えますが、実際はパソコンのメモリーには残っているという考え方で大丈夫でしょうか?」

 

「そう言う事! さて、ソロモンはそうしてすっかり空っぽになったスカサハの脳内デスクトップに新たな情報を書き込んだ。ファイル名を付けるとするなら『ソロモン様に忠義を誓った記憶』とか『ソロモン様に仕える理由』とかだね」

 

「……他には何の情報も無いから、スカサハはその偽の記憶に簡単に順応してしまった。こうしてソロモンは、スカサハって言うパソコンのスペックを維持したままに自分好みのマシンへと改造を完了したって事?」

 

「加えてあのホムンクルスに抱かれ続けた記憶があるのも大きいね。パソコンと違って人には感情がある。ホムンクルスのせたんた君と一緒に過ごすうちに得て行った感情や新たな記憶は、ソロモンの暗示を強化するのに一役買ったと思うよ」

 

「でも、そんな大掛かりな事をソロモンはどうやって……?」

 

「それも簡単だよ。例えばマシュ、君が何か景色を見たとして、気になる部分に注目すると他の部分はぼやけて見えるって経験はない?」

 

「ありますね。聴覚で例えると、今、ダヴィンチちゃんの話に注目しているので、この部屋の機械音やほかの物音には気にも留めない。と言う事でしょう?」

 

「うんうん! そこまでわかってるなら話は早い。ソロモンはそれをスカサハの記憶に応用したのさ」

 

「えっと……いまいち意味が……」

 

「……ソロモンが消さなかった兄貴との記憶か!」

 

 俺の叫びにダヴィンチちゃんは頷く。マシュもその言葉を聞いた事で話を理解したらしく、驚き顔で口を開いた。

 

「そうか……クー・フーリンさんとの記憶に意識を集中させる事でほかの記憶への注意を逸らしたんですね!」

 

「そう言う事さ、ご丁寧にソロモンは君の一番大事な記憶は保護したって言ってただろ? でも、それが何なのかは言わなかった。それは残す記憶をスカサハ自身に決めさせるためだったんだ」

 

「……消したくない一番大事な記憶を、ソロモンはスカサハに無意識の内に決めさせたって事か」

 

「頭の中でクー・フーリン君との記憶を思い浮かべたスカサハは他の記憶への注意が曖昧になった。そこを逃さずソロモンは自分の暗示と快楽を併用して彼女の記憶を次々と無意識の奥へと封印していったんだ」

 

「……ソロモンはただスカサハさんを痛ぶっていたわけでは無かったんですね」

 

「恐ろしい奴さ、自分の考えている事を相手に悟られずにここまで見事な作戦をこなしたんだからね。だが、その方法自体が私たちの突くことが出来る隙になるんだ」

 

 カタリ、とダヴィンチちゃんがボタンを押すと、画面からはソロモンの顔が消え、代わりに兄貴の姿が現れた。

 笑顔でくるくるとスカサハの周りをまわる兄貴の絵を見ながらダヴィンチちゃんは俺たちに作戦の説明をする。

 

「……私たちはソロモンの行ったその暗示を利用してもう一度スカサハの記憶を封印した。これで彼女の中にはソロモンに従っていた記憶も、快楽に飲まれて過ごした3ヶ月の記憶も無くなった。あるのはクー・フーリン君の記憶だけだ」

 

「じゃあ、その状態でクー・フーリンさんがスカサハさんを抱けば……!」

 

「どっこい話はそう上手く行かない。下手に記憶を封印したせいでスカサハはなんで自分がクー・フーリン君に抱かれているのかもわからないだろうさ。無論、彼女は困惑するだろうね」

 

「つまり、兄貴がスカサハを無理なく誘導できればこの作戦は成功って事?」

 

「加えて、彼女が本来の正しい記憶を思い出せば成功さ。でも、もしもクー・フーリン君の作戦が上手く行かなくて、抵抗の感情からソロモンに植え付けられた偽の記憶が呼び起こされてしまったら……」

 

「……スカサハはもう一度私たちの敵に回る。彼女ほどの英霊だ、二度も私たちが勝てるとは限らない。正真正銘の一発勝負ってところだね」

 

 作戦概要を説明し終えたダヴィンチちゃんは、最後にカルデアの訓練システムの電源を入れた。すると、そこには立体映像で作られたヴァーチャル空間が広がって行く。

 

「……クー・フーリン君の描いたこのシナリオが上手く行くことを祈ろうじゃないか、私たちにはそれしか出来ないからね…」

 

「兄貴……」

 

 俺たちは、監視カメラの映し出した兄貴たちを見守る。ケルトの大英雄の孤独な戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んっ、んん…?」

 

 永い眠りから目覚めたスカサハはゆっくりと目を開いた。自身の双眸が映し出した景色が、自分の住まう影の国の城である事に気が付くのは、それからほんの少しだけ間が空いてからだった。

 

 普段住んでいた城は住んでいる人間が自分ひとりだけなこともあってほどほどきれいだったが、今のこの光景はだいぶ酷い物だ。柱は折れ、壁は抉られ、床は凹んでいる。一体この城で何が起こったのか?それを思い出そうとしたスカサハだったが、頭の中が霧でもかかったかの様にぼやけて何も思い出せなくなっていた。

 

 一体どうした事だろうか?今までの事のほとんどが思い出せない。心の内にあるのはたった一つの感情、敗北感のみだ

 ……いや、違った。あともう一つ心に刻まれている物がある。それはスカサハにとって譲れないとても大事なもの。

 

 唐突に自分の元にやって来て、自分を弟子にしろと言ったその男。

 自分の教える技を次々と吸収し、あっという間に強くなっていったその男。

師弟としても男女としても絆を深く結び、自分を抱きしめ愛してくれたその男。

 そして……死ねなくなった自分をいつか殺しに来ると約束して、自分の前から去ったその男。

 

 男の名はセタンタ……大事な一番弟子との記憶はスカサハの中に色あせぬ思い出としてしっかりと刻まれている。だが、何故この記憶なのだろうか?

 その答えが導き出せず首を傾げるスカサハの目の前に、見覚えのある朱槍が突き出された。

 

「……ついに決着だなスカサハ。俺の勝ちだ」

 

 聞き覚えのあるその声の主の顔を見た時、スカサハは体に電撃が走ったかの様な衝撃を受ける。自分に対して槍を突き付けるその男こそ、自分が深く愛してやまない一番弟子そのものだった。

 

「……あぁ、そうか……そうだったのか……!」

 

 ボロボロに傷つき、息も荒いクー・フーリンの姿を見たスカサハの脳内に断片的に記憶が蘇ってくる。それは、ほんの少しだけ前の話の様な、もっともっと前の事だった様な気もする。

 

 この影の国で死ねぬ体を持て余し、心を徐々に腐らせて行くだけだった自分の前に彼がやって来たのだ。この城から去り、英雄として名を上げ、かつて自分に教えを請っていた頃よりも強くなった彼は、城の門を蹴破り、奥に居る自分の顔を見るなりこう言った。

 

「約束を守りに来た。アンタを殺してやるよ」

 

 その言葉はスカサハが待ち望んだものであった。自分が与えた朱槍を構え、スカサハ目掛けて飛び掛かる弟子を迎え撃ち、心行くまで二人は戦った。

 城は壊れ、互いに傷つきボロボロになった。何合も何合も槍を打ち据え、永遠にこの戦いは続くかと思われた。

 

 だが、決着の時は来た。クー・フーリンの渾身の一突きが自分の槍を捉え、それを粉々に打ち砕いたのだ。

 そのまま吹き飛ばされ、壁に激突した彼女は気を失って倒れた。自分は敗北したのだ。全霊で戦い、そして敗れた。

 

 壊れた城や胸の内の敗北感の正体はそれだったのだ。ようやく合点が行ったスカサハはすべてを思い出すと同時に身震いした。

 こんなにも幸せなことがあって良いのだろうか……? スカサハにとって、この状況は夢にまで見た光景と言っても良い。

 

 死ねない身となってから、彼女は何度も自分の死に様を空想した。こうであったら良いとか、きっとこうなのかだろうとか、こうはなりたくないとか……内容はともかく、彼女は待ち望んだ自分の死を何度も思い描いた。

 

 戦いの中に身を置き、今日じゃと会いまみえる事を喜びとする自分だ、いつか自分よりも強い者と戦い、その命を散らせるかもしれない。

 はたまた遠い未来……自分を化け物か何かと思い違えた者たちが寄ってたかって名を上げる為にこの城に来て、戦いを挑みに来るやもしれない。そう言った者たちに倒され、武勇伝の一つとして語り継がれるのも乙なものだろう。

 逆に望まない事と言えば……自分が、自分を誰だかわからなくなってから殺される事だろう。悠久の時を生きる内にすべてを忘れ、武人では無く名もなきただの女として事故の様に死ぬのは勘弁願いたい。

 そんな空想を何度も何度も繰り返しては……スカサハはそれは適わぬ夢だと自分で笑い飛ばしてきた。そう易々と死ねるものかと、自分の望みなど、簡単に叶うものでは無いのだと……

 

 だが今の状況はどうだ? 自分を倒し、喉元に槍を突き付けているのはかつての弟子だ。それも、自分の朱槍を送った唯一の弟子……彼女が愛して止まない一番弟子である。

 

 何度も思った。最上の死に方は、自分が送った槍を持つ者が自分を打ち倒してくれる事だと。

 そんな事はある訳が無いと思いながらも心の何処かでその思いを捨てられなかった彼女は自分の事を自嘲気味に笑ったものだ

 

 しかし今、彼女のその願いは叶ったのだ。自分が思い描いた最高の死に様が、何度も望んだ光景が、今目の前に広がっている。

 スカサハは幸せだった。弟子に乗り越えられると言う師としてこの上ない幸せを感じながら死を迎えられることが、そして、誰よりも深く愛した男に、自分の最後を看取って貰えることが……

 

「セタンタよ、よくぞこの師を乗り越えた。よくぞ私の望みを叶えてくれた……」

 

「ったく、何処まで予想を超えてくれるんだよアンタは、ここまで手こずるとは思ってなかったぜ」

 

 スカサハの口から零れたのは間違いなく本心だった。目の前の弟子にはどんなに感謝してもしたりない位だ。

 自分のその言葉を受けた弟子もまた自分に変わらぬ笑顔を向けてくれる。そのことが、とても嬉しかった。

 

「さて……決着はついた。あとは止めを残すだけだが……最後にどこを貫かれたいとかあるか?」

 

「……ふふ、考えたことも無かったな。だが……特に望みは無いよ。好きにしてくれ」

 

 弟子の好意を受け取りながらも微笑みを浮かべたスカサハはそう言って軽く流す。そんな事を考え始めたらきりが無くなってしまう。望んでいた死が目の前にあると言うのに、それを受け取るまでに時間がかかりすぎるのも酷なものだ。

 だから、彼女はあまり詳しい死の在り方にこだわらない事にした。彼の手にかかって死ぬだけで、十分自分は幸せなのだから……

 

「……ついでに言っておこう。私の亡骸も好きにしてくれ、ここに置いて去るも良し、どこぞの海に放り投げるも良し、剝製にして部屋に飾るのもやぶさかではないぞ」

 

「最後の怖くねぇ!? 俺ってそんなことする奴だと思われてたのか!?」

 

「はっはっは、安心しろ、半分冗談だ」

 

「半分は本気かよ!?」

 

 軽い冗談を言い合った後で、二人は顔を見合わせて大笑いした。かつて何度もこうやって笑いあったものだと思いながら、スカサハはもう二度とこのやり取りが出来なくなる事に心が少しだけ傷んだ。

 せっかく望みが叶うと言うのに、そこにあるのは悲しい別れだ。長い間死を望んでいた自分ですら少しは悲しいのだから、目の前の彼はもっと悲しいのだろう。

 自分は死んで楽になる。だが、目の前のこの男は生き続けるのだ。師を殺したと言う思いを引きずりながら、これからも生き続ける………それが、スカサハにとっての唯一の心残りであった。

 

(……いけないな。しんみりとしてしまっては死が惜しくなるではないか)

 

 暗くなる自身の思いを無理やりに振り払うと彼女は決意する。こうして話していると昔を懐かしんでばかりだ。

 終わりにしよう……いや、終わりにしてもらおう。彼女はそう思った。

 

「……セタンタ、そろそろ頼めるか? 覚悟はできている」

 

「……おう」

 

 ぎゅっ、と彼が槍を握りしめる音が聞こえる。待ち望んだそれがやって来ることに歓喜しながらもほんの少しだけ恐怖したスカサハは目を閉じてその時を待つ。

 あとは彼が自分の体にその朱槍を突き立てるだけだ。それですべてが終わる。呪われた自分の人生に、終幕が訪れるのだ。

 

「……一応確認するけどよ、俺の好きにしちまって良いんだな?」

 

「ああ、構わんよ。すべてお前に任せる」

 

 心配性な弟子の確認に目を瞑ったまま頷くと、再び彼女は待つ。自分の死を、彼が自分に槍を振るうその時を………しかし――

 

「そうかい……んじゃ、お言葉に甘えてっと!」

 

「なっ!?」

 

 弟子は槍を振るう事はしなかった。その代わりに自分の体をひょいと持ち上げると、まるで米俵を担ぐかのようにスカサハを抱えて歩いて行く。

 

「おいセタンタ! 貴様、何を考えている!?」

 

「俺の好きにして良いって言ったろ?だから、最後にお楽しみといかせて貰おうと思ってさ」

 

「なっ!?」

 

 ぽんっ、と自分のいつも寝ている寝台へと体を放られる。一見、乱暴な扱いの様だが力加減や体の運び方には注意を払っていた様だ。

 存外に女の扱いも上手くなったものだと舌を巻く師匠の横で、クー・フーリンは己の戦装束を脱ぎ始めた。

 

「おっ、おい! まさか本当に私を抱くつもりなのか!?」

 

「さっきからそう言ってんじゃねぇか、アンタも初めてじゃああるまいしなんでそんなに慌ててんだよ?」

 

「お前はたわけか! いや、お前はたわけであったな……」

 

 がくりと頭を抱えたスカサハは己の弟子がこういう人物であったことを思い出した。何と言うか、大事な場面でも自分の思いを優先させてしまう男なのだ。

 待ち望んだ死の前にまさかこんな出来事が待っていようとは……そう落ち込んだスカサハだったが、自分を物欲しそうに見つめる弟子の姿を見た瞬間、ちろりと心の中で眠っていた欲望が鎌首を上げるのを感じた。

 

 まだこの弟子が若輩者だった頃、自分はこの男に女と言う物を教え込んだものだ。女の責め方も喘がせ方も尽させ方もすべて自分がこの男に叩き込んだ。

 それが修行の一環だったかと聞かれると怪しいものだ、どちらかと言えば恋慕の情を抑えきれなかった自分が強引な形でクー・フーリンに自分を抱かせたと言った方が正しいだろう。

 初めは緊張と慣れてないせいでぎこちなかった弟子だったが、回を増すにつれて徐々にその手の動きは女を知った男の物へと変わって行った。

 

 修行を終え、血が滾った時には彼は良く自分を求めたものだ。その思いを、自分は一度たりとも拒んだことは無かった。嬉しかったのだ、恋い焦がれたこの男に求められるが。故に何度も肌を重ね、快楽に溺れた。

 今のクー・フーリンの目はその頃の彼の目によく似ていた。自分を求め、甘える子犬の様な可愛さと雌を組み敷く獰猛な猛犬としての力強さ、その二つが合わさった心を揺さぶられる目でスカサハを見ている。

 

「……なぁ、良いだろ? もうアンタを抱くことも出来なくなるんだ。最後の一回くらい許してくれよ」

 

 戦っていた時の荒々しさは何処へやら、甘い声で囁くクー・フーリンは誘いの言葉を口にしながら慣れた手付きでスカサハの服を剥ぎ取って行く。

 ゆっくりと裸に剥かれながら、スカサハは心の中で生まれた声に耳を貸していた。

 

(……良いではないか。どの道、今生の別れはすぐそこまで迫っている。多少の恥くらいならば晒してやれ)

 

(自分の望みを叶えてくれた男に対して、まさか礼の言葉一つで終わりにするつもりか? 体の一つや二つ、望まれたら与えてやらねばわりに合わないだろうが)

 

(自分は敗者で彼は勝者だ。敗者は勝者に従って、すべてを差し出せば良いのだ)

 

(断る理由など何もないだろうに……こやつの言う通り、男を知らんわけでもあるまい)

 

 心の中から湧き出してくる言葉の数々に否定の思いは一つもない。そして何より、スカサハ自身がクー・フーリンを求めだしている。ならば、その思いに従うのも一興だろう

 

「……良かろう。セタンタよ、お前のその思い聞き遂げた」

 

 程なくして身を包む衣装を全てクー・フーリンの手で脱がされた後で、スカサハは柔らかな笑みを浮かべる。憎めないこの弟子を慈しむ様な、すこし呆れた様な笑顔を浮かべながら彼女は言った。

 

「影の女王、このスカサハの躰を存分に貪るが良い。勝者として私を組み敷き、好きなだけ求めよ。それが私がお前に出来る最大限の感謝の思いだ」

 

 自分を抱く男の胸の中に自ら体を寄せると、潤んだ瞳で彼を見る。数秒見つめ合った二人は、お互いの中に燃え上がる炎がある事を確かめると……どちらからともなく唇を重ねた。

 

「んっ……ふっ、はぁっ……っ」

 

 頭の後ろを抑えられ、上から唇を塞がれる。舌が自分の口の中に潜り込み、暴れる様にして自分を狂わせる。

 甘く蕩ける様な口付けでも、ねちっこく責める様なキスでもない。獰猛に単純に、自分を求め、味わうその接吻はスカサハの欲望を燃え上がらせた。

 

(求めてくれるのだな、こんな私を……)

 

 確かな充足感を感じながら自分を押し倒すその手に身を任せる。寝台に転がった後で唇を離した二人の間には銀色の糸が引いていた。

 クー・フーリンの口から垂れ、重力に従って落ちてくるその糸をスカサハは口で受け止める。自分と彼の唾液の混合物を嬉々として受け止めると、喉を鳴らして飲み込んだ。

 

「ふっ……はあぁ……!」

 

 震えるスカサハの体の至る所にクー・フーリンはキスの雨を降らせる。細い喉に、たわわに実った胸に、引き締まった腹部に、白く伸びる脚に、次々と唇を触れさせては赤い跡を残していく。

 一つ一つ彼の手によって自分の体に愛されている証を刻まれていく度にスカサハの体には満足げな痺れが走って行った。

 

「……さっき言われた剥製にして飾るってやつだけどよ。案外悪くねぇかもとか思い始めて来た」

 

「……ん?」

 

「アンタを傷跡を残さない様に綺麗に殺すんだ。んで、体ごと持ち帰って魔術で綺麗なまま保存しておく……こうやって、俺のもんだって印を刻んだアンタの体をずっと残しておくんだ」

 

「ふふふ……やはりお前はそういう奴ではないか。私の言った事は当たるんだ」

 

「良く言うぜ、アンタだって正直満更じゃねぇんだろ?」

 

 クー・フーリンのその一言にスカサハは心臓を高鳴らせた。彼のいう事は間違いではない。それどころか大正解だ。

 もしも彼が自分が死んだ後、髪の毛の一本、骨の一かけらでも形見としてとっておいてくれたのならばスカサハにとってこれ以上ない程の供養となる。愛した男の傍で寄り添えるなら、体の一部でも嬉しいことこの上ない。

 

 だが、今言われた通りに自分の体をまるまる持って帰られて飾られるとしたなら……それは、まさに天にも昇るほどの喜びだ。

 愛した証を刻まれた体を芸術品の様に飾られ、愛でられる。在りし日の思い出をその体を見ながら思い返すクー・フーリンの姿を想像しただけでゾクゾクとした震えが背中を走る。

 

「ほら、呆けてないで体起こせよ。アンタの好きだった責め方してやるから」

 

 そう言う愛しい彼の声に応えて体を起こして膝立ちになれば、クー・フーリンはそっとスカサハの豊かな胸の谷間へと顔を埋める。

 ふにゅり、ふにゅりと頬でその柔らかさを確かめる彼に対して、スカサハは呆れた様に笑った。

 

「ふふふ……お前は昔から乳が好きであったなぁ……」

 

「俺が特別ってわけじゃねぇよ。男だったらこんな立派な胸に抱かれたいと一度は思う物さ………ま、アンタの胸が好きだって事は認めるがね」

 

「ふふ……正直で良し、なれば、気の済むまで堪能せよ」

 

「言われなくてもだ」

 

 言うが早いがスカサハの胸の先端を口に含んだクー・フーリンは奥歯でそれを甘噛みする。痛みをまるで感じさせない絶妙な力加減に、スカサハの口から甘い吐息が漏れた。

 

「良い反応だぜ。アンタ、こうされるの好きだったもんな」

 

「くふぅ……っ、よくもまぁ、そんなことを覚えているものだな」

 

「初めて抱いた女の事を忘れる訳がないだろ?……それに、アンタがもっと好きな事も覚えてるぜ」

 

「あっ……!」

 

 くちゅり、と音を立ててクー・フーリンの手が自分の秘所に触れる。先ほどのキスだけで十分に濡れたその部分を軽く撫でた後、そのまま2本の指が膣へと侵入してきた。

 

「くあぁぁぁぁっ……♡」

 

 突き入れられた2本の指はまっすぐスカサハの膣内の一点を責める。少し奥の腹側にあるその部分の膣壁を指で擦り挙げられると、スカサハの口からは蕩けた嬌声が勝手に漏れる。

 

「……な? アンタの弱い所は全部覚えてんだよ。んで、さっきの責めとこれを一緒にやるのがアンタの大好きな組み合わせだろ?」

 

「くひっ…っ! くふぅぅっ……!」

 

 背中側から回された手がスカサハの乳房を優しく揉む。空いている右胸を吸われる快感に身を任せていると、膣に挿っている指がじたばたと暴れ出した。

 

「あぁぁ…っ♡くっ……あぁぁ……♡」

 

 クー・フーリンが自分の弱い所を責める度に背筋が勝手に伸び、口からは自分の声とは思えない甘い嬌声が漏れる。

 もう体に力が入らなくなったスカサハは自分を抱くクー・フーリンの腕にもたれ掛かると、彼から与えられる快感を享受し始めた。

 

 胸を中心に寄せられて乳首を重ね合わされる。こりこりと左手が二つの桜色の突起を弄ったかと思えば、次の瞬間にはそれが彼の口の中へと放り込まれていた。

 

「はひぃぃぃぃぃぃっ……♡」

 

 固く尖った乳首を同時に甘噛みされ、同時に吸われる。じんじんと痺れる様に感じていたそこはその強い快感を余すことなくスカサハの体全体に伝えて来た。

 

(もうっ……イクっ!)

 

 先ほどから膣の振動が収まらない。軽い絶頂を何度も繰り返しては押し寄せる大きな快感の波の予兆に身を震わせる。

 突き入れられている彼の指をきつく締め付けながら喘ぐスカサハの体の中で爆発しそうになっている快感は淀み、渦巻きながらもその勢いを増して行く。

 

「……すげぇ感じてんな。我慢するなよ、イッちまえ」

 

「はっ……♡ くぅぅっ……♡」

 

 弟子の甘い声と共に自分を責める手が激しくなる。弱い部分を何度も擦られ、舌で乳首を弄られると自分の口から嬌声があふれ出る。

 まるで弱々しい女性の様な喘ぎ声……自分が発しているとは思えないそれを耳にしながら高められていったスカサハは、自分の奥を責める指の感触についに屈した。

 

「ひあぁぁぁぁぁぁ……っ♡」

 

 膣が何度も収縮し、彼の指を痛いほどに締め付ける。溢れ出す白い愛液が自分を愛してくれている彼の手を濡らしていく。

 普段の彼女の姿からは考えられない痴態を晒した後、未だ体を震わせる快感を感じながらスカサハはクー・フーリンの手で寝台に横たえられた。

 

「随分派手にイッたな。快感に弱くなったんじゃねぇか?」

 

「そう……かもしれないな……」

 

 茶化す様に自分を責める弟子のその言葉を肯定する。事を始めるまでは自分がここまで乱れるとは思ってもみなかった。

 別に耐えようと思っていたわけでは無い。だが、師匠として彼との性交を上位に立ってやろうと思っていた節もあった。

 しかし、今その思いは完全に掻き消えてしまっている。自分は彼に敗北して体を差し出したのだ、もっと言うなら、この身は彼に報酬として貪られる為にある。

 ならば、彼の手にすべてを預けて満足してもらう事こそが己が使命と思えた。

 

「んじゃ、そろそろ頂きますかね」

 

「ふふ……随分とがっつくじゃないか、辛抱できなくなったか?」

 

 口ではそう言いながらもスカサハは自ら脚を開いてクー・フーリンを迎え入れる。濡れそぼり準備は万端となった自らの女性器の入り口に彼の分身が触れる感触に、スカサハの胸が高鳴った。

 

「くあぁぁぁぁぁぁっ……♡」

 

 自身の媚肉を割り裂いてクー・フーリンが侵入してくる。熱い肉棒が膣を穿ちながら奥へと進んでくる。かつて何度も味わったその快感にスカサハは震え、嬌声を上げた。まだ彼は動いてもいないのにこれだけで達してしまいそうな幸福感がある。

 

「……もう、動いても大丈夫か?」

 

「ふふ……私を気遣うとはお前も女の扱いが上手くなったものだな」

 

 口ではそっけなく流しながらも弟子の気遣いの言葉にスカサハは胸を躍らせていた。自分を大切に扱ってくれる彼のその思いが、何よりも嬉しかった。

 

「……好きに動け、今宵はお前にこの体を預けよう。お前の望むままにこの体を貪ると良い」

 

「そうかい、んじゃ、遠慮なく!」

 

 クー・フーリンはスカサハを組み敷くと上から押しつぶす様にして腰を振り始める。押さえつけられて何度も突き入れられるスカサハはその度に歓喜の声を上げた。

 

「はあぁぁっ……♡ ふっ、くぅぅっ……♡」

 

 スカサハは巨大な犬と交尾している様な錯覚を覚えていた。荒々しいその動きは女を責める事に余念がない。しかし、その中にも幾つもの愛情を感じる所がある。

 例えば自分の彼を求めて伸びる舌に応えてくれる唇だったり、力強くも決して痛みを感じさせない様にと加減された腰の動きだったりと、クー・フーリンがスカサハを大事に扱ってくれている様に感じるところは幾らでもあるのだ。

 

 自分を求め、大事に抱きしめて、たっぷりと愛してくれる………長らく覚えていなかったその愛情を受け取る度にスカサハの胸の中に何か温かい物が溢れてくる。自分をしっかりと抱きしめる男の腕に身を任せると、止めどない幸福感がこの身を包む……

 一突きごとに高められていったスカサハの体は、上と下の口を両方を塞がれたままにクー・フーリンを受け入れて行く。そして、彼に弱い所を擦られた彼女は、体を大きく震わせながら絶頂した。

 

「ん~~~~~~~~っっっ♡♡♡」

 

 快感に震える体を無理やり押さえつけられてその動きを封じられる。まるで快感を逃す事を許しはしないと言っている様な彼は、スカサハのアヌスへと指を向かわせるとそこにも栓をしてしまった。

 

「んむぅっ!?」

 

 口、膣、尻……すべての快感の出口を塞がれてしまったスカサハは、体の中で逃れられない快感が暴動を起こすのを感じていた。体の外へ出ようとした快感が逃げ場を無くして体の中心に戻って来る、その度に快感はその強さを増してスカサハを責め立てる。

 あまりの快感に再び体を揺すって抵抗しようとしたスカサハだったが、自分を押さえつける男の目を見てその動きを止めた。

 

――自分は彼に体を捧げたのであった……

 

 その事を思い出したスカサハは抵抗を止めて体の中の快感に身を任せる。先ほど言葉にした様に彼の望むままにした彼女は絶頂の余韻に何度も身を震わせた。

 一度受け入れると決めてしまえばあとは簡単だった。自分の中に渦巻く快感はその形を変えて甘く痺れるものへとなり、優しい絶頂を彼女に与えてくれる。

 

 物足りない訳では無い、だが、もっと欲しい……スカサハはそんな思いを抱えると強請る様にして体を動かす。それを見たクー・フーリンは彼女の思いに応えるかのようにして責めを再開した。

 スカサハを抱きかかえて自分の腰の上に座らせるとそのまま下から突き上げる様にして彼女を愛する。先ほどの暴力的なまでの快感とは違う甘く蕩けるその行為に、スカサハの口からは柔らかい快感の声が漏れた。

 

「あっ……♡はっ、あっ……♡」

 

 リズミカルに自分を突き上げる弟子の肉棒は的確に自分の弱い所を責めている。快感を押し付けるのではなく、優しく快感を与えられているその行為に幸せを感じてしまう。

 

(これでは……どちらが体を捧げているのか分からないでは無いか……っ!)

 

 自分が彼に満足してもらう為にしていた行為のはずなのに、自分ばかりが快感を貪っている。

 今の状況などその典型的な例だ、自分に対してたっぷりと愛情を捧げてくれているクー・フーリンとそれをただただ受け取るだけの自分。これでは、彼への褒美になどなりはしない。

 

「せたっ、んた……お前は、幸せか? 私を抱く事に喜びを見出しているか……?」

 

 不安な胸の内を彼に打ち明けて問いかける。この状況は彼の望んだものではないのではないかと……

 しかし、そんな彼女に向かっていつもと変わらぬ笑みを浮かべたクー・フーリンは、そっと彼女の頭を撫でながらこう答えた。

 

「ああ、勿論だ。アンタが快感に震えている姿を見る度に俺は幸せになるぜ、もっともっと、アンタを狂わせてやりたいと思う」

 

「そう、か……そうなのか……」

 

 これで良いのだ、自分は彼の望む様に出来ている。そう思ったスカサハは心から安堵した。そして、彼の次の言葉を耳にする。

 

「だからスカサハ、俺はアンタをここから連れ出すぜ。俺の傍に置いて、俺の物にしてみせる」

 

「……なんだと?」

 

 一瞬、その言葉の意味が分からなかった。理解できた今でもその真意がわからない。自分はこの後彼に殺されるのだ。彼に連れ出されることも彼の物になる事も無い。

 なのになんだ今の言い様は?今の言葉ではまるで、そう、まるで……

 

「……冗談は止せ、セタンタよ。さてはあれだな? 先ほどの剥製の一件をまだ根に持っておるのだな?」

 

 だから急いでスカサハは彼の言葉を冗談で流そうとした。本気にしてしまえば終わりだ、自分の生の最後に未練が生まれてしまう。

 今すぐこの思いを振り切って彼の手で殺されなければならない。そう考えたスカサハはクー・フーリンの手から逃れようと力を籠める。しかし――

 

「……今の俺が冗談を言っている様に見えるか?」

 

 真剣な彼の眼差しを受け、抱きしめられた瞬間に体から力が抜けて行ってしまった。  今、自分は呆けた顔で彼を見ながらその唇が言葉を紡ぐのを待っている。それはいけない事だと分かっているのに、胸がうるさい位に高鳴って体が言う事を聞いてくれない。

 そんな困惑とも期待とも取れる反応を示す体を持て余しながら、スカサハは弟子の次の言葉を待った。

 

「……いつでもアンタを殺せる男が傍に居てやる。これじゃ不服か?」

 

「ふざけた事を言うな。お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

「分かってるさ、そういうアンタこそ俺が何を言っているのか分からないんじゃねぇのか?」

 

(何を馬鹿な事を言うのか? もうとっくにその言葉の真意はつかめている。だから、改めて口に出さないでくれ、そんなことをされれば私は……)

 

 心の中で思い浮かべた思いは紛れもない本心だ、だが、それを裏切って欲しいという思いも自分の中に生まれている。

 目の前の愛する弟子がもしも自分の考えている事と同じことを考えているとしたら……そうしたら、自分は……

 

 恐れ、期待する彼女の前でクー・フーリンが口を開く。そして、その唇から言葉を紡いだ。

 

「スカサハ、俺の妻になってくれ」

 

「……何を言うのだ、お前は……?」

 

 震えた声が自分の口から出てくる。それは、彼女が死と同様に思い描いたもう一つの望み。決して叶う事が無いと諦めていたかつての夢。

 

「私を娶る? ふざけたことを言うな。私の願いは、お前に殺させることなんだぞ…?」

 

「ああ、だからそれも叶えてやる。けどその前に俺の願いも叶えてくれ、スカサハ」

 

「……正気か? 貴様、あほさ加減に磨きがかかったのではないのか?」

 

 未だにこの状況を受け入れられない。もしかしたら夢なのではないかとすら思ってくる。自分の思い描いたとおりに弟子が自分を打ち倒し、死を与えてくれると思ったら求婚してくるなど、あまりにも出来過ぎた状況だ。

 だが、自分を貫く彼の分身が、自分を抱く腕が、見つめる瞳が、彼から与えられるそのすべてが、これは現実だと伝えてくる。紛れもない現実だと、自分に訴えかけてくるのだ

 

『ダメだ、出来る訳がない。今すぐ私を殺せ、セタンタ』

 

 そう言おうとした彼女の口が開く、自分の死を望む思いが彼女に抵抗をさせている。しかし、その思いを押さえつける様にして現れたもう一つの感情が、彼女の口から飛び出してきた。

 

「……本気か? 本気で私を求めているのか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 意思に反した言葉を口にしてしまった事を悔やむと同時に彼の温かな回答が胸に染み入る。これでは駄目だ、このままでは自分がおかしくなってしまう。

 そう思ったスカサハは必死に否定の言葉を紡ぐ、しかし、クー・フーリンはそれを一つ一つ潰していった。

 

「私はこの影の国に幽閉された身、外に出る事など叶わぬぞ?」

(だから諦めろ、私を愛そうなどとは思わないでくれ)

 

「んなもんやってみなきゃわかんねぇだろ? 俺に負けて呪いも解けたかもしれねぇしな」

 

「だとしても……私は化け物と相違ない女だ」

(お前の思いに応える様な女ではないんだ)

 

「それを倒した俺だった同類だろ? 丁度いいじゃねぇか」

 

「私は死にたいんだ! もうこれ以上私をおちょくるのは止めろ!」

(これ以上言わないでくれ、そんなことをされたら私は……)

 

 否定の言葉を口にし続ける唇が急にその役目を変える。彼の口で塞がれ、言葉を紡げなくなった己の唇が再び自由になるまでの間に、スカサハは気が付いてしまっていた。

 

 もう、自分の願いが書き換わってしまった事に、死ぬことよりも欲する願いが胸の内に生まれてしまった事に……

 

「……外の世界には私よりも若く美しい女は幾らでもいるぞ? こんな年増でも良いのか? 可愛らしくない女で良いのか?」

 

「何言ってんだ、俺が欲しいのは若い女でも美しい女でもねぇよ。アンタ一人だ、スカサハ」

 

 口から出るは先ほどまでの否定ではない確認の言葉、前向きに彼の思いに応えようとする思い。

 それをまっすぐに受け止められたスカサハの中からは、彼の思いを否定する感情は無くなってしまった。もう、自分を縛るものがなくなってしまったのだ。

 

「もう一度言うぜ、スカサハ、俺の妻になってくれ」

 

 二度目の求婚に胸が高鳴る。溢れんばかりに感じる愛情が胸を突き破りそうになる。

 手を伸ばせば届くところに自分の望みがある。ならば、正直になっても良いだろうか? スカサハは、涙を一粒だけ零して、それを拭う。そして……

 

「……はい。このスカサハ、その思いに応えましょう。身も心もあなたに捧げて、あなたを愛しましょう。クー・フーリン……私は、あなたの妻となります」

 

 ゆっくりと微笑むと、彼の思いを受け入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ♡はっ♡あんっ♡」

 

 クー・フーリンの腰の上で腰を動かす。彼の自分を突き上げる動きに合わせて腰を上下し、互いに快感を得る。

 引き抜かれる時に腰を上げ、突き上げられる時に腰を下ろせば、自分を深く貫く衝撃に嬌声が漏れる。

 

 目の前に居るのはこの世で一番愛しい人、生涯の愛を誓い、この身と心を捧げた唯一の男。

 その彼の顔が快感に染まる度に胸の中に何とも言えない幸せが広がる。自分の体を堪能し、快感を得ていると思う事がこんなにも嬉しい事だとは今まで知ることも無かった。

 

「セタンタっ……!」

 

 愛しい人の名前を呼びながら体を寄せる。鍛えられ、引き締まったその胸に顔を埋めながら小さく震える。

 交わり、一つになり、思いを重ね合わせ、そして今、心をも繋げようとしている。狂おしい程に暴れる心の内をスカサハは何の迷いも無くさらけ出した。

 

「私は、お前を愛する。死ぬまでお前に心を捧げて愛を送ろう。だから……」

 

「……あぁ、俺もそれに全霊で応える。安心しろ、アンタを置いてどこにも行かねぇよ」

 

「そうか……そうか……っ!」

 

 彼女の言葉を継いで彼が口にしたのは、スカサハが最も望む答えであった。またも望みが叶った事に涙したスカサハは、愛しい男に自分が彼に抱かれてから何度も感じた幸せを分け与えるべく動きを速める。

 

 深く、ただ深く。すべては自分の為では無く、目の前のこの男の快感の為に。胸の中に抱かれ、この身を受け入れてくれた彼に極上の快感を得て貰うために……

 

「スカサハ……もう……っ」

 

「ああ、私にお前の愛を受け入れさせてくれ、深くこの身にお前と言う存在を刻み込んでくれ……!」

 

 自分ももう限界が近い。だが、出来る事なら同時に達したい……

 必死に歯を食いしばって絶頂を堪えるスカサハの膣が感じるのは徐々に硬さと熱さを増して行く彼の肉棒の感触、自分と同じく絶頂が近い彼の鼓動

 

「せた、んたっ……! 私は幸せだ、お前に幸せにしてもらったっ!だから、私もお前を幸せにする……ずっと、ずっと……っ!」

 

「……アンタが傍に居てくれりゃあ俺は幸せさ、ずっと傍に居てくれんだろ?」

 

 その質問の答えにスカサハは唇を重ねる。舌を絡めるわけでは無い軽いキス、だが、自分の愛情を示すのには十分だろう。

 熱い抱擁と接吻に身を焦がされ、まるで小娘の様に熱に浮かされたままの自分を貫いたクー・フーリンは一際奥まで分身を突きさすと、そのまま達した。

 

「くあぁぁぁぁぁぁぁ……♡」

 

 自分の最奥に熱いものが迸っているのを感じる。内側から自分を焦がし、蕩けさせるのは彼の愛そのもの……それを受け入れられる事はこの上ない喜びだ。

 彼と同じように絶頂したスカサハはこの日一番の快感に身を任せると、脱力しきった体をクー・フーリンに預ける。へたり込んだ自分の体を難なく受け入れた彼の手が自分の頭を撫でるのを感じながら、スカサハは戯言の様に同じ言葉を繰り返していた。

 

「……愛している。愛しているぞセタンタ、私は、お前を愛しているからな……♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱いお湯が自分の体を伝って流れる。浴室に入ったスカサハは自分の秘所からクー・フーリンの精液が零れ落ちるのを勿体なさそうに見ていたが、首を振って体を洗い始めた。

 彼の愛情が流れ落ちて行くようで心苦しいが、これから先何度だって味わえる物だ。むしろここでもたつく方が時間の無駄だろう。そう冷静に判断しながらも、口元には笑みが浮かんでいた。

 

(……まさか、こんなことになるとはな)

 

 目まぐるしくすべてが変わった一日だった。欲しがっていた死の望みを塗り替えるほどの甘美な出来事にまだ心がときめいている。これでは普通の女子ではないかと苦笑しながらも、彼女はそんな人生も悪くないと思い始めていた。

 

 もしかしたら、いや、かなりの確率で自分はこの影の国から出る事は出来ないのだろう。そうだったとしても悔いは無い。一時とは言え、彼に楽しい夢を見させてもらった事を感謝しながら消えるだけだ。

 だがもし、本当に彼の言うとおりにこの国から出て、普通の人生を送れるようになったとしたなら……本当に普通の女として生きるのも悪くは無い。

 

 槍を捨て、騎士として生きる彼の人生にただ妻として寄り添うのだ。愛され、望まれて彼の子を産み落とすのも良い。自分と彼の子だ、きっと強い子になるだろう。

 女として愛されることも、母としての幸せを得ることも自分には到底不可能だと思っていた。しかし、もしかしたらそれが叶うかもしれないのだ

 

 そう考えた自分の口元にはまた笑みが零れた。鏡に映る締まりのない顔を見ながら、こんな顔をする女になってしまったのかと苦笑した彼女は、もう秘所から零れ落ちる精液が無いかを確認しようとして……それに気が付いた。

 

「……なんだ、これは?」

 

 自分の下腹部、丁度今の今まで彼の精を留めていた部分の表皮に見慣れない紋章が刻まれているではないか。黒く、どこか禍々しく感じるそれをスカサハは暫し見つめる。

 これはいったい何なのだろうか?愛する彼の戯れだろうか?

 答えの見つからないままにそれを見ていた彼女の心の中に、えも知れぬ嫌悪感と恐怖が湧き上がって来た。そして、それは徐々に深みを増して自分の身を包んでいく。

 これがあってはいけない。これを身に刻んでいる以上、自分には彼の愛を受け取る資格など無い……

 

 そんな考えを思い浮かべながら必死に手を動かしてその部分を布で擦る。しかし、スカサハの肌が摩擦で赤くなっても、その紋章は欠片も消える事は無かった。

 

(駄目だ……駄目だっ!)

 

 何故、自分がこんなにも焦燥感を感じているのかも分からない。何故、涙を流すほどの恐怖をこの紋章に感じているのかも分からない。

 だが、スカサハは確信に近い程にこの紋章が自分に刻まれておくべき物ではない事が分かっていた。だから、彼女は傍らに置いてあった剃刀をその手に取る。

 

 拭いて拭えないなら皮膚ごと削り取るまで、それでも現れる様なら肉ごと抉り取るまで……

 そう考えて剃刀を持つ手を振り上げたスカサハは、その瞬間、本当の意味で『全て』を思い出した。

 

「あ……あぁぁぁぁぁ……っ!」

 

 頭の中に浮かび上がる光景、今までの事、その全てが自分の記憶の扉を開いていく。

 

 そう、彼女は死んでいたのだ。正確に言えば存在が影の国ごと消え去ったと言った方が良いだろう。愛しい彼も、ケルトの国々も、もうとっくに滅んでいるのだ

 

 次々と浮かんでは消えて行く数々の思い出、存在が消え去った自分が英霊としてカルデアに召喚された事、そこで出会った新たな仲間達の事、かつての弟子がそこで力を振るっている事、そして自分もまた同じように戦ってきた事……

 皆と過ごした楽しかった思い出が溢れては自分を満たして行く。同時に何故こんなに大切な事を忘れていたのかと言う理由も彼女は思い出していた。

 

 戦いに敗れ、ソロモンに連れていかれた自分は脅しに屈してこの忌むべき令呪をこの身に刻んでしまった。そして、快楽の罠に捕らわれて心すらも堕としきってしまったのだ。

 そうして自分はかつての仲間に槍を向けた。自分を信頼してくれるマスターや後輩のマシュ、裏方で戦っていたDr,ロマン、そして……愛していた彼に。

 

「私は……私はっ!?」

 

 全てを思い出した彼女の手から剃刀が零れ落ちる。震える体を自分が抱きしめるよりも先に、誰かがそっと後ろから自分を抱いてくれた。

 

「……思い出したんだな、全て……」

 

「セタンタ……!私は、私は……っ!」

 

 スカサハは本当は泣きたかった。敵の傀儡となってかつての仲間を殺そうとした後悔に、心を落とされ奴隷となった自分の弱さに、愛する者たちに敵意を向けた悲しみに涙を流したかった。

 しかし……鏡に映る自分を抱く男が、もうすでに涙している事に気が付いた時、その感情は海の波の様に引いて行った。

 

「すまねぇ……!俺は、アンタの気持ちを知っていて、それを利用した……!何度謝ったって許される事じゃねぇ……っ!」

 

 彼が涙を流したところをスカサハは数えるほどしか見たことが無かった。そして、そのどれも彼は自分の為では無く、誰かのために涙を流した。

 友の死、師の不幸、どうしようもない不運……その一つ一つに彼は顔を歪ませて涙を流した。誰かのために涙を流す彼の泣き顔は、不謹慎だが美しかった。

 

 今の彼はその時と何も変わらない。かつて自分の元に居た時と同じ様に美しい顔で自分の為に涙を流してくれている。

 本来謝罪すべきは自分のはずだ。なのに、彼は自分の心の痛みを察して涙を流してくれている。その事に胸を熱くしたスカサハは、泣きじゃくる愛弟子の頭を撫で、背中に彼の涙を感じながら我が子をあやす様な口調で囁く。

 

「……セタンタよ、お前は私の心を蹂躙して、私を奴隷に堕とそうとしたのか?私を意のままに操ろうとしたのか?」

 

「違う……!ちげぇよ!俺は、俺はただ……っ!」

 

 アンタに戻って来て欲しかったんだ。彼の心の内の叫びが、確かにスカサハには聞こえた。そして、彼女にとってはそれだけで十分だった。

 

「……ありがとうセタンタ。お前はこの愚かな師を止めて、心を救ってくれた。私はお前に何度感謝してもしたり無い位だ。良い夢を見させて貰った。ありがとうな……」

 

「でも、俺は!」

 

「良いんだ、本来謝るべきは私……泣きじゃくるのも私の方だぞ? 男がいつまでもぐじぐじと泣いているでない!」

 

「……師匠」

 

 クー・フーリンはその喝を受けた時に確信した。あの厳しくも優しかったスカサハは戻って来たのだ。ソロモンの呪縛から解かれ、かつて自分を導いてくれた師が、その心を取り戻したのだと。

 だが、彼は分かっていた。彼女がそんな自分を許すはずも無い事を、この後、悲しい別れが待っている事を……

 

「……生憎自害は許されていない様だ。最後まで世話をかけるが……頼めるか?」

 

「ああ……アンタがそういう女だって事は分かってた。覚悟はしてたさ」

 

 涙を拭って槍を握る。彼女から授かった朱槍の切っ先が震えるのを必死に抑える。

 優しく自分を見守るスカサハの笑顔を見る度に曇りそうになる心を必死に奮い立たせるクー・フーリンに対して、スカサハは言った。

 

「セタンタ、私は幸せだった。ほんのわずかの間でも、たとえ夢物語だとしても、お前と共に過ごせる人生を思った時は確かに幸せだった。ありがとう、そして、また会おう……愛する我が弟子よ……」

 

 その言葉を最後に、弟子の槍に貫かれたスカサハは光の粒となって消滅した。立体映像が消え去ったカルデアのトレーニングルームの中には、崩れ落ち、慟哭するクー・フーリンだけが残されたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……兄貴、大丈夫?」

 

「……おう、まあな」

 

 スカサハが消滅してから数時間後、俺は仕事を終えた兄貴と一緒に彼の私室で話をしていた。

 兄貴は復活したゲイ・ボルクを片手に持って遠くを見ている。まるで消え去ったスカサハを探している様なその眼差しに俺の心が痛んだ。

 

「ゴメン、俺が兄貴にスカサハを抱く様に言ったから、こんなつらい思いをする事に……」

 

「気にすんなよマスター、最初から予想は着いてた。きっとこうなるだろうって思ってたんだ。むしろお前さんには感謝してるぜ、やっとあの師匠との約束を果たせたんだからな」

 

 そう言った兄貴は俺を見て笑った。いつもと変わらない快活な笑み……どこかすっきりした様なその笑顔は過去の後悔を一つ無くせた事に対する安堵からくるものだろうか?俺には分からなかった。

 

「……辛い別れなんぞ生きてる時から何度でもあった。もう慣れっこさ、だから気にすんな。俺は平気だからよ」

 

 俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら兄貴は言う。そして、笑いながら言葉の続きを口にした。

 

「それにな、俺は思うんだ。きっと……」

 

「先輩!クー・フーリンさん!大変です!」

 

 兄貴がそこまで言いかけた時だった。部屋に駆け込んできたマシュが興奮した様子で俺たちを呼んだのは。

 最初はまた敵襲かと思ったが、マシュの顔にはありありと喜びの色が現れていた。ほんのちょっぴりの涙を目に湛えながら、マシュは俺たちに向かって話し続ける。

 

「ついさっき、カルデアの召喚システムが作動したんです! それで、それで……!」

 

 カルデアの廊下を歩く足音が聞こえる。マシュのすぐ後ろのドアが開く音もだ。

部屋に入って来たその女性の顔を見た俺と兄貴は言葉を失った。そして、マシュ同様に涙を浮かべながら笑顔を見せる。

 

「……何を呆けた顔をしている。言っただろう?『また会おう』と」

 

 それだけ告げたその女性は踵を返して部屋を後にした。ほんの数拍後にベットへと腰掛けた兄貴は、目頭を押さえながら呟く

 

「……思ったんだよ。きっと、また会えるって……にしても早すぎんだろうが、馬鹿師匠……!」

 

 涙を流して喜ぶ兄貴の姿を見た俺とマシュもまた部屋を後にした。部屋のすぐ横に待機していたロビンとオリオンも笑いながらサムズアップをする。

 頼りになる仲間が戻って来た。大切な仲間をまた取り戻すことが出来た。その事を喜ぶ俺たちは、声を出さないままに手を挙げると、それを叩き合わせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅い。まだ戻らんのかあの二人は!?」

 

 一方その頃、ソロモンは居城で未だに戻らないマシュとスカサハの二人の事を待っていた。なにかトラブルがあってもスカサハならば心配ないだろうと高を括っていたが、そんな彼の予想に反してどんなに時間がかかっても二人が戻って来る気配はない。

 カルデアの様子を探りたいところだがあの地を見るのは魔術王の自分と言えど容易い事ではない。よしんば見えたところでもしもマシュとスカサハがカルデアの残党を殺すことに夢中になって時間をかけているのだとしたらそれは大いなる徒労となるだろう。

 

「どうする……? 増援を送るか……?」

 

 だが、何かあったという可能性も否定しきれない。ならば助けを送るのが基本だろう。しかし、二度も自分の送った刺客をどうにかしたのであれば、カルデアには何らかの策があるという事だ。

 そんなカルデアに無暗に兵を送り込んでいいものだろうか? 一気に大量の兵隊を送り込めるなら良い。しかし、大侵攻作戦を行い、数々の英霊を堕とす為に魔力を使い過ぎたこともあってか、今の自分には到底それは不可能な事である。

 強力な力を持つ英霊なら最大でも3名が限度だろう。それを送り込んでカルデアの息を止められるのならば良い。しかし、それを確実に行えるという保証は無いのだ

 

「……様子を見よう」

 

 総合的に状況を判断したソロモンの出した結論は『静観』であった。何も心配することは無い。送り込んだのはマシュとスカサハの立った二人だけ、もしも彼女たちがカルデアの罠にかかって捕らえられていたとしても淫紋令呪がある限りは自分を裏切る事は無いのだ。

 

 未だにそう思っているソロモンは自分を落ち着かせると再び堕とした英霊たちでこの苛立ちを紛らわせようと部屋を出た。頭の中からはすでに心配事は消え去り、どうやって女どもを辱めてやるかの算段で一杯になっている。

 

(触手たちに同じ騎士王たちを同時に襲わせるか? 幼い英霊共に奉仕させるのも良いな……!)

 

 かつての仲間たちの不始末は彼女たちに拭わせれば良いだろう。そう考えたソロモンはルンルン気分で部屋を出る。そして、英霊たちを捕えている地下牢へと歩いて行った。

 

 彼の考えはある意味では正解だった。確かにカルデアは二人の英霊を取り戻したが100名近くいる英霊の内たった二人を取り戻しただけだ、ソロモンにとって大した被害ではない。

 それに、彼らには反撃の手段が無い。時間をかければかけるほど、回復したソロモンに再び攻撃を仕掛けられる可能性だって上がるのだ。

 

 だからソロモンは安心していた。まだ自分が圧倒的に優位だと、そう思っているから。それが事実だから。

 だが、また彼はミスを犯していた。それは、この城の中を堕とした英霊たちが自由に動き回れる様にしていたことから始まるミスだった。

 

 堕とした英霊の管理が雑であること……言ってしまえば部下の管理が出来ていないソロモンは英霊の誰がどんな考えを持っているかを把握しきれていない。だから、彼にとっての不幸が起きる。

 

「ふふふ……! なんだか面白い事になってるじゃないの、これ、あたしの力を見せるチャンスなんじゃない!?」

 

 今のソロモンの一人苦悩を扉の隙間から見ていた一人の少女は、彼の主と同じ様にルンルン気分で城の廊下を歩いて行く。

 ここで手柄を立てれば新たな主だって自分の事を認めるだろう。そんな浅はかな考えを浮かべた彼女はマシュたちの帰還に備えて開きっぱなしになっているカルデアへのゲートを確認すると準備を始める。

 

 だって彼女はアイドル、観客を楽しませる為には工夫が必要なのだ。その前準備を怠る訳にはいかない。

 腰から生えた尻尾を楽し気に振りながら、少女はコンサート会場へと向かう準備を進めて行ったのであった。

 

 

 

 




出来る限り甘く、前の話の絶望感を吹き飛ばせるような内容に仕上げてみました。
いかがだったでしょうか?次の女の子はおぼこなあの子です。お好きな方はご期待を
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