潮風とほんの少しの火薬の匂い、そしてさんさんと輝く熱い太陽の光を感じたカルデアのマスターは、自分が問題無くレイシフトを行えた事を確信した。
すぐに瞳を開けて周囲を確認すれば、今回選抜したサーヴァントたちも全員存在していた。全員そろってオケアノスに到着したことを確認したマスターは、カルデアと連絡を取って現状を報告する。
「こちらレイシフト班、無事にオケアノスに到着しました。今の所、問題は見受けられません」
『こちらも君たちの現在位置をしっかりと確認出来ているよ。うむ、順調な滑り出しだねぇ!』
ダヴィンチちゃんの明るい声を聞いたマスターは、僅かに緊張感を解らせると笑顔を見せた。ダヴィンチちゃんもまたリラックスした彼の様子に安堵の笑みを見せるが、そんな雰囲気を引き裂く様なロマニの声が響く。
『大変だ! 周囲にサーヴァントの反応在り! それらしい奴はいないかい!?』
「げげっ!? いきなり戦闘ですか!?」
「主殿、私の後ろに! この命に代えてもお守りいたしますっ!」
ロマニの叫びを聞いた沖田と牛若丸が瞬時に反応を見せ、周囲へ警戒を払った。他の面々もまた、油断なく構えを取ってマスターを守る様に陣形を築いている。
ぴりりとした緊張感が走る戦場。そんな中、ローブを被った一人の女性が彼らの前に姿を現すと、両手を上げて降伏の構えを見せながら話しかけて来た。
「……待ってたわ、マスター。随分と時間がかかったじゃない」
「その声は……!」
聞き覚えのある女性の声にマスターが反応を返せば、その人物は被っていたローブを脱ぐと自分の顔をマスターたちに見せつけて来た。
薄水色の長髪と特徴的な尖った耳、ややきつめの顔立ちを見たマスターもまた、驚きつつも彼女の名前を呼ぶ。
「め、メディア……!?」
「……久しぶりね。本当に久しぶり……」
懐かしそうに微笑むメディアは、自分に戦う意思が無い事を示すかの様に己の宝具である短剣をマスターへと放り投げた。それを掴み、彼女の視線を向け直したマスターに代わって、ロビンフッドが問いかける。
「……何の真似っすかねぇ? アンタは、ソロモンの配下じゃないって事か?」
「ええ、そうよ。まあ、簡単には信じられないでしょうけどね」
「当然だ、我々を騙し討ちしようとしている可能性だってあり得る訳だからな」
メディアに対して油断なく視線を向ける牛若丸は、威圧感を伴った声でそう吐き捨てた。彼女はまだ、メディアを信じてはいない様だ。
それはこの場にいる全員が同じ……未だに戦いの構えを解こうとしないカルデアのメンバーを見たメディアは、深く溜息を吐くと再度口を開く。
「……その懸念は当然の物よ。それを解消しきれるかはわからないけど、私も出来る限りの判断材料を見せる事にするわ」
「判断材料……?」
「それじゃ、まずは僕からかな?」
「っっ!?」
優し気で陽気な声がメディアの後ろから響く。彼女の後ろからひょっこりと顔を出した男性の姿を見たマスターは、驚きと共に彼の名を叫んだ。
「だ、ダビデ!? お前も一緒に!?」
「まあ、色々あってね……今はメディアと仲良く逃避行の旅って所さ」
面倒そうに頬を掻いたダビデは、マスターに短い言葉で自分たちの置かれている境遇を伝えた。
あまりにも短いその言葉だけでは彼の言っている意味を理解出来ないマスターたちが首を傾げていると……
「……急がなくて良いのか? 敵が来ないとも限らんぞ」
「えっっ!?」
再び、メディアの背後から聞き覚えのある男性の声が響き、その声の主が姿を現した。
彼の姿を見たカルデアのメンバーたちは先ほどまでとは違った意味で驚く。それは、自分たちの予想が外れた事と見たことの無い
浅黒い肌に銀色のスキンヘッド、二丁拳銃をホルスターに差し、黒衣を身に纏った彼には見覚えがあった。
だが、今、目の前にいる彼は自分たちの知る彼とは明らかに違っている。困惑を隠せないマスターたちに対し、メディアが簡潔にその人物の事を紹介した。
「……彼はオルタ化した無銘の彼よ。カルデアに居たあの弓兵とは同一人物であり、別人とも呼べる存在ね」
「エミヤさんの……オルタナティブ……!」
「……そうジロジロと見られても良い気分がするわけでも無い。むしろその逆だ」
「あっ! す、すいませんっ!」
メディアの説明を受けてしげしげとエミヤ・オルタを見つめていたマシュに対し、彼は冷たい声色でそう告げた。あまりにも冷酷なその態度に若干傷つきつつ、マシュは深々と頭を下げる。
「二人は私が聖杯を使って召喚したサーヴァントよ。だから、ソロモンの支配からは逃れている……そして、あともう一人仲間が居るわ」
「もう一人……? それって、だ――」
「あぁぁっ! もう、早くしないか! 敵がオレたちを見つけたらどうするつもりだよ!?」
メディアへの問いかけの言葉を遮る様にして響いたその声を聞いたカルデアのマスターは、やっぱり聞き覚えのあるその声の主が誰であったかを必死になって探る。
記憶の中にある思い出を辿り、この特徴的な声の主を探ったマスターは……ここ、オケアノスで遭遇したあの屑英雄の事を思い出すとその名を叫んだ。
「まさか、イアソン!?」
「そうだよ! まさかのイアソン様だ! ああ、こんな最悪な状況に追い込まれるなんて聞いてないぞ!」
「うるさいわね、少し黙ってて頂戴」
「ひぃぃっ!?」
泣き言を言うイアソンであったが、メディアに一睨みされると蛇に睨まれた蛙の様に固まってしまった。カルデアのマスターは、彼は見事にメディアの尻に敷かれているのだなと妙に感心してしまう。
そんな中、周囲を警戒していたエミヤ・オルタが表情を一際険しくさせると、この場にいる全員に向けて簡潔に情報を伝えた。
「……複数の気配が接近している。恐らくは敵だ」
「あらら、思ったより早かったねえ……んじゃ、そろそろ行こうか?」
「そうね……マスターたちとの合流は果たせた、ならば長居は無用よ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちは、何が何だかさっぱりで……」
「御免なさいね、マシュ。じっくり説明してあげたいんだけど、今ここでは無理そうなの。だから――」
マシュの言葉を受けたメディアが、ゆっくりと海を指差す。そして、その指を鳴らした瞬間、彼女が指し示した先に巨大な船が出現した。
「これは……まさか……!」
「アルゴー船、ですか……?」
「ええ、そうよ。そして、この船が私たちの拠点になっているわ」
「さっさと乗り込め! 貴様らみたいな凡人が、多くの英雄が集ったこのアルゴー船に乗り込めることを感謝しろよ!」
かつてと変わらぬ口調でマスターたちを急かしたイアソンは、我先にと自分の船へと乗り込む。ダビデ、エミヤ・オルタと彼に続いて舩に乗り込むと、最後に残ったメディアが振り返りつつマスターたちに言った。
「……この特異点と私たちが置かれている状況の説明は、この船の中でするわ。だから、今は私たちを信じて乗り込んで頂戴」
マスターたちは、暫し悩んだ後でメディアを信じる事を決め、かつて敵対した勢力の拠点であったアルゴー船へと乗り込んだ。
「……正直助かったよ。特異点での移動方法は船だと思ってたけど、俺たちにはその確保方法が無かったからさ……」
「助かったのはこっちの方よ。なにせ、まともな戦力はここに居る4人のサーヴァントしかいなかった訳だしね。さあ、話の本題に入りましょうか」
アルゴー船内部、こじんまりとしていながらも豪華さが良く分かる一つの部屋の中に案内されたマスターは、護衛役のマシュと牛若丸を伴ってメディアと相対していた。
ここに至るまで敵意を見せないでいるメディアたちに対しては最初の頃よりかは警戒心を薄めている。マスターは、彼女の話の中に矛盾点が無いかどうかを確認しながらその言葉に耳を傾けた。
「まず、この特異点に来ているソロモンの手先たちの目的は、この
「……強力な力を秘めた柩、神格が高い英霊が触れれば、世界を崩壊させる程の影響を及ぼす……」
かつての特異点でも戦いの鍵となった宝具を見つめたマシュが呟く。あの大英雄『ヘラクレス』すらも葬り去る力を持つこの柩は、今回も自分たちを悩ませることになるのだろう。
だが、この柩は単体では意味をなさない。マシュの呟いた通り、神格の高い英霊が必要なのだ。
それも並の神格では駄目だ。人でありながら神に近しくなったヘラクレスでも柩の力を完全開放するには至らなかった。世界を滅ぼす程の力を引き出すには、女神レベルの神格の英霊が必要だ。
以前の戦いで柩と同様にイアソンから標的とされていた英霊を思い浮かべたマスターは、メディアに対して質問を投げかけた。
「……エウリュアレが来ているの?」
「おそらくね……でも、来ているのは次女だけじゃあ無いわ。末妹のメドゥーサも、恐らくだけど長女のステンノもこの特異点に居るはずよ」
「メディア殿は敵の戦力を把握しているのですか? よろしければ、詳しく教えてください」
「良いわ、元々話すつもりだったしね……じゃあ、私の知る限りの情報を教えてあげる――」
そう前置きした後、メディアは自分の知る限りの情報をマスターたちに教える。今、このオケアノスで何が起こっているのかを、出来る限り詳しく伝えていく。
ソロモン海賊団と名乗る英霊たちの集団が、オケアノスの町を次々と襲っている事、海賊団はオケアノスの海軍や海賊の現豪軍を打倒し、もうオケアノスには彼らに抵抗する力が残っていない事。
海賊団の目的がメディアとダビデ、そして柩の確保である事、そして……その海賊団のメンバーの全容とそれを率いているのは、あのフランシス・ドレイクだと言う事……
「ドレイク……さん……」
予想はしていたが、こうやって事実として教えられると心に来るものがある。かつては味方として行動し、何度も助けて貰ったドレイクが敵の手先になってしまったと言う事実を耳にしたマシュの口からは、悲痛な声が漏れる。
そして、その思いはマスターも同じだった。あの豪放磊落なドレイクもまた、多くの仲間と同じ様に奴隷に堕ちてしまったと聞いた時、彼の胸には締め付けられるような痛みが走った。
「……稀代の大海賊、黒髭。二人組の女海賊、アン・ボニー&メアリー・リード。元アルゴー船乗組員のアタランテ。あのアキレウスと並ぶ英雄の一人、ヘクトール。ざっと数えただけで、こんなに強力な英雄達が敵として立ちはだかる事になるわ。それに……まだ、恐ろしい敵が残っているのよ」
メディアの話を聞いたカルデアのマスターは、じっと目を伏せて思案に耽った。今現在、このオケアノスに連れて来たカルデアのサーヴァントたちで、どうやって戦うかを考える為である。
さて、少しばかりタイミングは悪いが、ここで今回の選抜メンバーと選抜理由をざっと説明しておこう。所謂、戦力の確認と言う訳だ。
まず、信頼と安定の相棒マシュ。防御の要として、今回も役に立ってもらうつもりで選抜した。
今回の戦いは船上で行われる事を想定して、足場の悪い船の上でも存分に戦える機動力のあるサーヴァントも選択した。牛若丸、沖田総司などがそれだ。
ジャンヌ・オルタやアルテラなどは、強力過ぎる広範囲攻撃で自分たちの乗る船にも損害を与えてしまうかもしれない。そう判断したマスターは、今回のメインアタッカーとしてこの二人を選択したのであった。
加えて、飛竜などの上空を飛び回る敵を相手にする為に、アーチャーであるロビンとキャスタークラスにチェンジして貰ったクー・フーリンを連れて来た。それに加え、大量の敵を薙ぎ払う事が出来るモードレッドも選択した。力が戻り切っていないと言う事は、逆にメリットにも成り得る。万全で無い故にモードレッドの宝具が船に与える損害も少ないと判断したマスターは、彼女の力を頼りにすることを決めた。
さらに今回は普段とは違う姿で参加しているサーヴァントも居る。思案に暮れているマスターの背後で、扉を開けて部屋に入って来た彼女がそうだ。
「話し合っている所すまないが、どうやら敵が現れたらしい……すぐに戦いの準備をしろ、マスター」
紫色の水着を纏い、その魅力的な肢体を存分に晒す彼女……アサシンクラスに変更したスカサハも、今回の戦いに加わっていた。
ランサーとして力を取り戻そうとしていたスカサハだが、長くカルデアに居る間に少し考え方を変えたらしい。それは、自分たちの戦力を把握しての判断だった。
現状、カルデアには多くのランサーが居る。彼女の愛弟子であるクー・フーリンやアルトリア、自分とほぼ同タイミングでカルデアに戻ったエリザベートもそうであるし、ジャンヌ・リリィもそうだ。
今のカルデアはランサーが飽和状態、自分はそう言ったメンバーに負けるとは思えないが、槍兵として彼女たちと成長してもお互いの成長率を食いつぶすだけだ。ならば、種火は彼女たちに譲って、自分は別クラスとして成長すれば良い。
そうやって考えたスカサハは、水着姿のアサシンクラスを優先して強化することに決めた。幸か不幸か、今のカルデアにはアサシンクラスのサーヴァントは自分とクレオパトラしかいない。そして、クレオパトラはまだ完全に復帰したとは言い難い状況でもある。
そうやってある程度の力を取り戻した結果、広範囲攻撃を持ちつつ船上での戦いも問題無くこなせると言う、オケアノスでの戦いにうってつけのサーヴァントとなったスカサハも今回の選抜メンバー入りを果たしていたのだ。
さて、まだ話の途中ではあるが、先ほどのスカサハの台詞を聞くに緊急事態の様だ。敵の襲来と言う単語を聞きつけたマスターたちは血相を変えて船の甲板に出る。
そうした彼らが見た物は、水平線の向こうに見える幾つもの戦艦だった。その内の二つには、とても見覚えがある。
「黄金の鹿号と女王アンの復讐号……!」
かつての仲間の宝具でもあるその船を目にしたマスターたちは、サーヴァントたちが自分を追って来た事を理解して息を飲んだ。特異点に来て早々、サーヴァント戦をこなす事になると言う事に緊張感が走る。
「っっ!?」
そんな時だった。マスターの背筋にゾクリとした震えが走ったのは。
その感覚を覚えたマスターは、考えるよりも早く行動を起こした。一歩後ろに飛び退くと、空いたその空間に入り込む様にしてマシュが盾を構えつつ一歩前に出る。
その次の瞬間、彼女の盾には一本の矢がぶち当たり、乾いた金属音を響かせた。
「マスター、ご無事ですか!?」
「ああ、サンキュー、マシュ!」
土方との訓練によって、殺気に敏感に反応出来たことが功を奏した。自分を狙っての一撃を何とか防いだマスターであったが、敵の攻撃の手が休まることは無い。
「ほ、砲撃が来るぞぉっ!? 何とかしろっっ!!」
若干涙混じりのイアソンの声、船の上の空気を震わせたその叫びに続いて、敵の艦隊から砲弾を発射する轟音が響く。
宝具である船の砲弾は恐ろしい程正確にアルゴー船を狙って飛来して来た。しかし、マスターは焦る事無くサーヴァントたちに指示を飛ばす。
「兄貴っ! あの砲弾、何とか出来る!?」
「時間稼ぎならなっ! ルーンで持たせてやるよ!」
「私も手を貸そう、しくじるなよっ!」
ケルトの師弟コンビがルーンを行使し、空中に飛来する砲弾を防ぐ盾を生成する。決して安心出来るものでは無いが、砲弾を数発防ぐには十分だろう。
5発、6発……段々と盾にひびが入り、壊れそうになって来る度にイアソンが女々しい呻き声を上げてはいるが、もう大丈夫だ。何故なら、最強の盾の解放準備が整ったのだから。
「……準備完了! 宝具、解放しますっっ!!」
全身に魔力を漲らせたマシュが船の甲板に盾を振り下ろす。そして、全力を以って己の宝具を発動した。
「
「お、おおっ!? おぉぉぉぉぉぉぉっっ!!?」
船の後方を覆う巨大な城門を見たイアソンが驚きの叫びを上げる。マシュの作り出した盾は、その巨大さに違わぬ堅牢さを誇っていた。
敵船団の砲撃もなんのその、まるで羽虫に刺された程度の衝撃すらアルゴー船に通さない無敵の盾は、かつて自分が見た物よりも更に強大になっている……身の安全を確保されたイアソンは先ほどとは打って変わって上機嫌になると、マシュを褒め称えた。
「良いぞ、女! お前は頼りになる奴だと私は信じていたっ!」
「イアソンさん、今の内に船を全速力で前進させて下さいっ! 急いでこの海域から撤退しましょう!」
「分かってる! このアルゴー船の速度を舐めるなよぉっ!」
イアソンの叫びと共に、船が全速力で撤退を始める。所持者はあれだが、この船は間違いなく一級品の宝具だ。その速度もまた、驚くほどに早い。
マシュが砲弾を防いでいるお陰でアルゴー船はぐんぐんと加速していく。このまま、撤退は容易に行われる……そう、誰もが思った時だった。
「~~っっ!?」
船の上に影が舞った。まるで天馬の様な形をしたそれは、一瞬だけ影を落として船の上を通り過ぎる。
次の瞬間、アルゴー船全体が揺れ、立っていたマスターたちはその衝撃に船の上に膝を付いてしまった。
「な、何だっ!? 何が起きたっ!?」
「……どうやら客人の様だ。大胆な襲撃だな」
再び怯えの感情を見せたイアソンに対し、エミヤ・オルタが淡々とした口調で告げる。ホルスターから拳銃を取り出した彼は、アルゴー船に飛び乗って来た襲撃者たちにその銃口を向けた。
「はぁい、元マスター。お元気かしら?」
「ソロモン様に逆らう元マスターを殺しに来たよ」
それぞれの得物を取り出しながらそう告げたのはアンとメアリーだ。息ぴったりに殺し文句を口にしながら、二人は武器をマスターへと向ける。
「んふふふふ……♡ 早く死んで貰えないかな~? そうすれば、ソロモン様にたっぷりご褒美貰えるんだもん……♡」
蕩け、熱を帯びた声でクロエが囁く。尻穴にステッキを突き刺し、まるで小悪魔の様な淫らな衣装に身を包んだ彼女の姿を見たマスターは、知らず知らずのうちに悔しさを感じ歯軋りをしていた。
「………」
無言で立ち尽くす巨大な男性。拳は震え、その目もまたぎゅっと閉じられたままになっている。
彼の名はアステリオス、その巨体に相反した子供の様な心を持つ英霊。そんな彼もまた、ソロモンの手先としてこのオケアノスにやって来ていたのだ。
そして……残る一人の英霊の姿を見た瞬間、イアソンの表情が絶望に染まった。恐怖で彼の体は痙攣し、瞳には涙が滲んでいる。
「な、なんで……なんでアイツがここに居るんだよ……!? も、もう、終わりじゃないか……!」
岩の様な灰色の体、乱れた黒い長髪と筋肉隆々の化け物の様な男性の姿を見たイアソンが頭の中に浮かんだ言葉を口にする。
ゆっくりと、動き始めたその男は、顔を上げて大きく口を開くと……このオケアノス全体に響くのではないかと思う程の大声で叫んだ。
「■■■■■■■■■ーーー!!!」
この場にいる全員が認める大英雄『ヘラクレス』は、胸の内に眠る感情を爆発させるかの様な雄叫びを上げ、戦いに臨もうとしていた。