「おいおいおいおいおい! なんだよありゃあ、聞いてねぇぞ!」
目の前に降下して来た大英雄の姿を見たロビンフッドは、カルデアのメンバーの胸中を代表した叫びを上げた。誰もが、あのヘラクレスと相対することになるとは思ってもみなかったのである。
いや、敵としていつかは戦うかもしれないとは思っていたのだ。しかし、何の前情報も無くこうやって敵として彼が姿を現すとは、思ってもみなかったと言う方が正しいだろう。
「お、オレたちも初めて奴を見たんだよ! ああ、もうお終いだぁっ! ヘラクレス相手に誰が勝てるって言うんだよ!?」
「黙ってなさい! まずはどうにかしてこの窮地を脱するのが優先よ!」
イアソンの情けない叫びを一喝したメディアであったが、彼女もまた動揺を隠しきれてはいなかった。無理もない話だろう、かつてアルゴー船の乗組員であった彼女ならば、ヘラクレスの強さはしっかりと理解出来ているのだから。
しかも、敵は彼一人だけでは無い。メアリーやクロエ、アステリオスたちも一緒に相手をしなければならないのだ。状況は絶望的に近いというものだろう。
「……ちなみに、降伏すれば命は助けてあげますわよ? 裏切り者たちはもう一度ソロモン様の忠実な奴隷にして、元マスターはそれを眺めて暮らす負け犬として飼ってあげますわ」
「ソロモン様の最後のお慈悲だよ……さあ、どうする?」
「な、なあ、降伏しないか? もしかしたら、美味い汁を吸わせて貰えるかもしれないし……あ痛いっ!?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、そんな事しても助かる保証なんて無いわ」
「生き地獄を味わう可能性の方が高いだろうな。お前がそうしたいと言うのならば、俺は止めはしないが」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」
メディアとエミヤ・オルタにそう告げられたイアソンはすごすごと引き下がって丸まってしまった。子犬の様に震える彼は、どう見ても英雄と呼ばれる存在には見えない。
そんなイアソンを無視して戦いの構えを取っていたメンバーであったが、乱入者の登場で速度が落ちたアルゴー船にドレイクたちの艦隊が接近して来ている事に気が付いて苛立ちの表情を見せる。
そして、アルゴー船に十二分に接近した黄金の鹿号の船首から顔を出した元仲間の姿を見た時、その苛立ちは更に増す事になった。
「ふふふふふ……♡♡♡ 何処を逃げ隠れしていたかと思えば、イアソン様が手を貸していたのですね……これは、しっかりオシオキしませんと……♡♡♡」
「ひ、ひぃぃぃっ!? 悪魔だ! あそこに悪魔がいるぞっ!」
淫らな衣装に身を包んだメディア・リリィが冷たい笑みを浮かべる。その瞳に捉えられたイアソンは、誇張無しに飛び上がると更に船の奥へと逃げて行った。
「……ああ、ようやくお出ましかい。そんじゃ、ここでアンタらの旅を終わりにしてやろうかね」
そしてもう一人、前張りとアナルバイブ付きの尻尾を生やしたドレイクが姿を現した時、マスターは胸の内に怒りの感情が湧き上がって来ている事を感じていた。あのドレイクが、自分の誇りを奪い取られた姿を見て、ソロモンへの怒りが強まって行くことを感じる。
しかし、彼はそんな自分の怒りを必死になって押し殺すと、ドレイクに向けて軽い呼びかけの言葉を発した。
「久しぶりだね、ドレイク。随分と楽しそうじゃあないか」
「そう見えるかい? まあ、やっと目的のお宝を見つけられてウキウキしてるってのは間違いないけどさ……ああ、殺す標的も見つけられて喜んでるってのも確かさね」
そう言って、ドレイクは冷たい笑顔と殺気をカルデアのマスターへと向けた。体を走り抜ける凍えた感覚に身を震わせたマスターであったが、それにも負けぬ様に心を奮わせるとドレイクへと視線を返す。
だが、そんな彼の耳に聞こえて来た嬌声が、彼の意識と視線をその声がした方向へと吸い寄らせた。
「おほぉっ♡♡♡ ほぉっ♡♡♡ おっほぉぉっっ♡♡♡」
「あ、あれは……!?」
「あぁっ♡ ますたぁっ♡♡♡ み、みないでくれぇっ♡♡♡ ケツ穴穿られて感じる浅ましい私の姿を、見ないでくれぇっ♡♡♡」
船の甲板に連れられて出て来たのは、尻穴を男根に貫かれて喘ぐアタランテだった。体を持ち上げられ、乱暴にアヌスを穿たれる彼女は、口を大きく開いて野太い悲鳴を上げ続けている。
「おほぉぉっ♡♡♡ んっほぉぉぉぉぉぉっっ♡♡♡」
「はっ! 何が見ないでくれだ、ケツの穴こんなにきつく締め付けやがって! 元マスターに見られながらケツの穴穿られんのが気持ち良いんだろ?」
「や、やめへくれぇっ♡♡♡ ケツ穴、ずぼずぼしないでぇ……んおぉぉっっっ♡♡♡」
「駄目だね! これは矢を外したお前へのお仕置きなんだ! だらしねえアクメ面元マスターに見られながら、きっちりケツアクメ決めちまいな!」
「んほぉぉぉぉぉぉぉっっ♡♡♡ おほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ♡♡♡」
アタランテの体が大きく仰け反る。カルデアのマスターに己の痴態を見られていると言う羞恥が、彼女の感じている快感を増幅させていた。
男たちによって顔を真正面に向く様に固定されたアタランテは、涎と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったアヘ顔をマスターたちに見せつけながら、段々と快感の高みに追い詰められていく。
「ほら、言うんだよ! イク時はイクって言って、情けない元マスターたちに無様なケツアクメ姿を見て貰いなっ!」
「おっ♡ おぉぉぉぉっ♡ イクっ♡♡♡ いぐぅぅっ♡♡♡ ま、ますたぁっ♡♡♡ みてくれぇっ♡♡♡ わたしがなさけなくけつまんこでイク所、しっかりみてくれぇぇぇっ♡♡♡」
肉と肉のぶつかる音と、アタランテの無様な叫びが響く。彼女もまた、肉欲に堕ち切ってしまった雌だと言う事をマスターたちに見せつけた後、男たちは思い切り腰を彼女の尻へと叩き付けた。
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ♡♡♡」
腸内の奥、そこに太い肉棒を叩き込まれたアタランテは、その一突きでとうとう絶頂へと達してしまった。性器から激しく潮噴きをしながらの肛門絶頂姿を見せつけた彼女は、同時にだらしないトロ顔も晒していた。
「ん、お……♡♡♡ ケツアクメ、良い……っ♡♡♡ んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ♡♡♡」
絶頂の余韻に浸っていたアタランテであったが、尻穴を肉棒で激しくかき混ぜられて再び獣の様な叫び声を上げて体を仰け反らせた。
男たちはそんなアタランテの尻から肉棒を抜くと、彼女を持ち上げて船の縁に尻を置く。そして、両手で彼女の尻肉を掴み、今しがた射精したばかりのアタランテのアナルを広げてその内部を見せつけて来た。
「ほらよ、元マスターくん! お前の昔のお仲間のケツ穴はこんなにも広がっちまったぜ!」
「前の穴が使えねえ分、こっちの穴を使い込んでやってなぁ……! 今では、こんなに緩いケツ穴便器になっちまったよ!」
「もう君の小さいちんぽじゃあ感じられないかもなぁ! ぎゃははははははっっ!!!」
「お、おお……♡♡♡ ケツ穴、ひろがるぅ……♡♡♡」
ごぷっ♡ ぶぽっ……♡ アタランテの尻穴から響く卑猥な音は、波風に乗ってマスターたちの耳へと届いていた。自分たちの前で痴態を晒す羽目になった彼女を見たマスターは、拳を強く握りしめて男たちへの怒りを募らせる。
男たちはアタランテを弄び、下卑た笑い声を上げていたが、自分たちに甘える様にして擦り寄る一人の少女の姿を見止めると、その笑顔はまた肉欲の炎を灯らせたものに変わった。
「ねえ、おじさんたち……♡♡♡ お姉さんだけじゃ無くって、私ともおまんこして欲しいなぁ……♡♡♡」
「おほぉ!? イリヤちゃんは積極的だなぁ!」
「だってぇ……♡♡♡ 可哀想な元マスターさんに、私の成長した姿を見て欲しいんだもん……♡♡♡」
甘く蕩けた表情を浮かべて男にしなだれかかるイリヤは、まるで長年娼婦として生きて来たかの様に蠱惑的に男を煽っている。彼女もまた、クロエと同じ様に尻穴にステッキを突き刺した小悪魔の様な格好をしていた。
「んふっ♡ んふふふふふ……♡♡♡」
腰をくねらせ、男たちに肉棒に頬擦りし……愛おしそうにそれを舐める今のイリヤは、かつての無邪気な少女と同一人物とは思えない。淫らに堕ち切った彼女の姿をカルデアのマスターたちは悲痛な表情を浮かべて見つめている。
だが、そんな時に彼は唐突に気が付いた。自分たち以外にも、今のイリヤを見て苦悶の表情を浮かべている人間が居ることに……
「■■■……」
それに気が付いたのはカルデアのマスターただ一人だけだった。あの大英雄、ヘラクレスが声にならない呻き声を上げたのだ。
それはちょうどイリヤが男の肉棒を口に含んで奉仕を始めた瞬間に漏れた呻きだった。ただの偶然とは思えないその呻きに一瞬意識を取られたマスターであったが、すぐに他の英霊たちへと意識を切り替える。
「……イリヤ、まだ戦いの最中です。敵が目の前にいるのですから、それはまた後にしてください」
「ええ~!? ……いいじゃん、メドゥーサのお姉さんも一緒に遊ぼうよぉ……♡♡♡ 気持ち良くって、楽しい事をしましょう……♡♡♡」
三人目の英霊、メドゥーサは冷静にイリヤを窘めると彼女を男たちから引き剥がした。その行動にイリヤは不満たらたらだが、メドゥーサは彼女の言葉を聞くつもりは無い様だ。
兎にも角にも、彼女の行動のお陰で目の前でイリヤが犯される姿を見なくて済んだ。心の中でメドゥーサに感謝しつつ、一行はドレイクやアルゴー船に乗り込んで来た英霊たちへと視線を向ける。
「如何です? 艦船も英霊も、どちらも戦力はこちらが上……あなた方が勝つ未来が、この状況でもあるとお思いですか?」
「早く柩を渡して降伏しな! 素直にすりゃあ、ソロモン様もそこまで酷い事はしないと思うよ?」
「……やはり、あなたたちの目的は柩と女神を使って、このオケアノスを滅ぼす事なのね」
「ふふふ……! それが分かっているから、あなたはダビデ王を自分の宝具で殺してから再召喚した。手元に柩が来る様に仕向けたってことですよね? 流石は成長した私、と言う事でしょうか?」
メディア・リリィが成長した自分自身を褒め称える。しかし、その口調には無駄な努力を嘲る様な感情も含まれていた。
大方予想をつけていた敵の目的は、彼女のこの反応で確信に変わった。だが、マスターはそこから一歩踏み込んだ情報を引き出すべく、一つの言葉をドレイクたちに投げかける。
「……ステンノが、来ているんだな?」
「………!?」
マスターのその一言にメディア・リリィの表情が一瞬強張った。それを見たドレイクは、小さく舌打ちをして彼女を叱責する。
「嬢ちゃん、素直なのは良い事だが、あんまり顔に答えを出すと敵に要らん情報を与える事になる、気を付けるんだね」
「あっ……!?」
ドレイクの言葉にしまったと言う表情を浮かべたメディア・リリィは、マスターの今の一言が一種のカマかけであったことに気が付く。自分の反応を見て、マスターは今の質問の答えを探ろうとしていたのだ。
このオケアノスでかつて争奪戦の一端を担ったエウリュアレでは無く、ステンノの名前を出したマスターの言葉にメディア・リリィが驚きの反応を見せても仕方が無いだろう。何を隠そう、彼の言う通りにステンノもまたこの特異点に来ているのだ。
マスターもまたその事を半信半疑と言う形で考えていたのだろう。しかし、今のメディア・リリィの反応でその思いを確信に変えたのだ。
「……小賢しい手を使ってくれますね、元マスター……!」
「少し前に色々と教わってね、ハッタリをかます時は堂々としていた方が良いって聞かされたんだよ」
「ははっ! 随分と良い師に会ったみたいじゃないか! ……でもま、全部無駄になるだろうけどさ」
見事なカマかけで情報を引き出したマスターに賞賛を送ったドレイクであったが、次の瞬間には冷酷な表情を浮かべて彼の事を睨んでいた。それはメディア・リリィも一緒で、怒りを感じながらもそれを必死に噛み潰した様な表情を浮かべている。
「……少しばかり情報を引き出せたからと言って、図に乗らないで下さいますか? まだ戦力的にはこちらの方が有利なのですから」
ギリリと、歯を食いしばった後で余裕の笑みを取り戻したメディア・リリィは、自分たちの船とその乗組員、そして自分たちのサーヴァントを指差してカルデアのマスターに告げる。彼女の言葉を受けた戦闘員たちは、揃って戦いに臨む構えを見せた。
すぐにでも戦いが始まってもおかしくない一触即発の雰囲気、囲まれた状況の中でどう動くべきなのかをカルデアのメンバーたちは必死になって考え続ける。
だが、そんな状況で動いたメディア・リリィは、誰もが予想しなかった言葉を口にして微笑んだ。
「……ですが、やられっぱなしと言うのは気に入りませんので、すこしばかり仕返ししておきましょうか?」
「えっ……!?」
彼女の言葉を耳にしたマスターが、その真意を理解出来ないと言う様な表情を浮かべた次の瞬間、閃光が走った。
そして、何がなんだか分からない間に……彼は、その表情のままに首を斬り落とされていた。
「なっ、なっ……!?」
マシュもメディアも他のサーヴァントたちも、何一つとして反応出来なかった。それ程の一瞬の間に、それは行われていた。
ころころと転がるマスターの首は、そのまま後方に隠れていたイアソンの元まで転がり、彼と目を合わせる。イアソンは、光の無いガラス玉の様になったマスターの目を見て、恐慌に陥った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?」
「……はい、これで全部お終いですね! ソロモン様に逆らう愚か者は、死んでしまいましたので!」
「ます、たー……?」
胴体と首が泣き別れしたマスターの姿を見た沖田が茫然とした呟きを零す。目の前で起きた惨劇を受け入れられないと言った表情で、彼女は首を細かに振っていた。
何の前触れも無く訪れたマスターの死……誰も、何も反応出来ない間に、それは終わってしまった。
静かな絶望感がマシュたちを包み、じわじわと心の中を侵食して来る。メディア・リリィは、そんな彼女たちを嘲笑うと非常に愉快そうな表情で降伏を勧める。
「さて、これで希望は潰えました。これ以上の無駄な抵抗は止め、ソロモン様に永遠の忠誠を誓いなさい。そうすれば、全員便器扱い位はして頂けるでしょう」
勝者としてカルデアのメンバーに降伏勧告をするメディア・リリィは、冷たい笑みを浮かべている。目の前にいる英霊たちの運命を握っているのは自分であると言う事が、彼女に愉悦を感じさせているのは明らかだった。
彼女に与する海賊たちも、彼女の愉悦を感じ取っていやらしい笑みを浮かべる。そして、マシュを始めとした女英霊たちを見て、彼女たちを犯し尽くす妄想を繰り広げては股間を大きくした。
「全員、良い体してんじゃねえか……! たっぷり可愛がってやるぜぇ……!」
「ああ、涎が止まんねえなぁ!」
勝利の喜びが海賊団に伝播する。自分たちは戦いもせずに美味しい汁を吸えるのだから、彼らからしてみれば最高の一言だろう。
もはや全ての決着はついたと信じ、彼らは醜い欲望を隠そうともせずに居る。勝者と敗者の関係を築こうとしている彼らの中にあるのは、女性英霊たちへの凌辱方法だけだ。
「……さあ、武装を解除して柩を私たちに引き渡しなさい。それを拒否するのなら、大軍を以ってあなたたちを踏み潰すまでです」
締めの恫喝、これでマシュたちは心折れて降伏するだろうと言う思いが透けて見えるその言葉に海賊たちが意識を集中させる。拒めば戦い、受け入れれば凌辱……どの道、自分たちの勝利は確信しているのだと言う思いが、彼らに余裕を持たせていた。
どんな反応を見せてくれるだろうかとマシュたちの反応を楽しみにするメディア・リリィたち。そんな中、小刻みに震える沖田が怒りの感情を爆発させて敵戦に飛び込もうとしたその時だった。
「……大分耄碌してるみたいだな、嬢ちゃん。まだ気が付かないのか?」
「……何を言ってるんですか?」
不意に、煙草をふかしながら口を開いたクー・フーリンの言葉にメディア・リリィは訝し気な表情を見せた。
彼が何か負け惜しみを言っているのか、それでも窮地を脱するハッタリを口にしているのだと思い込んでいたメディア・リリィであったが、彼女の隣に居るドレイクは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて苦々しい声で叫んだ。
「あの野郎……一杯食わせやがったなぁ!?」
「え……? な、何を……?」
「あいつの死体を見てみな! 血の量が明らかに少ない! ありゃあ、偽物だ!」
「えっ!?!?」
ドレイクにその事実を指摘されたメディア・リリィは、血相を変えてマスターの死体へと視線を落とす。言われてみれば、首を切断されたと言うのにも関わらず、彼の体からは非常に少ない量の血しか流れていなかった。
つまり、今の今まで自分たちと話していたカルデアのマスターは偽物……またしても、自分は彼に騙されたと言う事だ。
「えっ!? マスターさん、死んで無いんですか!? 良かった~っ!」
「当然です、主殿にむざむざあんな死に方をさせる訳が無いでしょう!」
「先輩は私が命を懸けて守ります。絶対に、死なせることなんかさせません!」
マシュと牛若丸はマスターが偽物であることを知っていた様だ。どうやら、彼らが別室で会話をしている時にすり替えが行われていたらしい。
神代の魔女であるメディア・リリィを騙せる程の替え玉を用意出来るのは、当然自分自身しかいないだろう。二度も騙された屈辱に打ち震えるメディア・リリィは、もう一人の自分自身に向けて怨嗟の声を上げた。
「よくも……! こんな手の込んだ真似をしてくれましたね……!」
「それはこっちの台詞よ。まさか、マスターの読みが当たるなんてね……」
「読み……? カルデアのマスターは、この状況を読んでいたとでも言うのですか!?」
「違うよ、これも教わった事なんだ。敵の考えを読んで、先手を打てって……その為に、保険をかけておいたんだよ」
「!?!?!?」
背後に一人の男性を伴って船室に続く扉から姿を現したマスターは、メディア・リリィに静かにそう告げた。
連れられた男性は飛び出た目玉をぎょろぎょろと動かしながら周囲の状況を確認すると、ぱんぱんと手を叩いてマスターへと賞賛の言葉を送った。
「流石はマスター! 素晴らしい読みです! ……ええ、本当に素晴らしい! 命の危機を乗り越えただけ無く、敵の戦力も削ぐことに成功するとは!」
「戦力を削ぐ……? それは初耳ね、あなたは何をしたの?」
メディアの質問を受けつつ歩みを進めたマスターは、自分を救う偽物を作ることに一役買ってくれたジル・ド・レェに視線を送る。マスターに合図を受けた彼は非常に良い笑みを浮かべると、手を振り上げて何かを操った。
「これも教わった事なんだ。一つの情報を得たら、それだけで満足するな……その先を考えて、敵の手を読み切れって、俺はそう教わった。だから、そうさせて貰ったよ」
「くっ……!?」
メディア・リリィはマスターの言葉を耳にして小さな呻きを上げた。それは、彼に自分の立てた策を看破されたことを察したからだ。
マスターはメディア・リリィの瞳を真っすぐに見ながら、自分の考えを述べる。ここまで得た情報を元に組み上げた、自分の考えを……
「敵は柩に触れさせる為の女神を連れて来ている。じゃあ、それは誰なのか……? 普通に考えればエウリュアレみたいな非力な女神を生贄にするのが正しいだろう。加えて、保険の為にステンノを連れて来ている可能性も高いと思ったんだ」
そこまで口にしたマスターはちらりと視線をアステリオスに向けた。そして、彼が戦う理由を思い、その胸中を想像してに心を痛める。
だが、彼がここに居るが故に確信出来た事柄もある。アステリオスが、自分に
「……メディアから話を聞いて、メドゥーサがオケアノスに来ている事は分かっていた。エウリュアレとステンノも居る事は簡単に想像出来た……この特異点には、ゴルゴン三姉妹が揃ってる。そこまで考えれば、一つの仮説が導き出せる。絶対に……あの子だって来ているはずなんだ」
そう、ここに至るまでの全てはメディア・リリィの作戦だった。彼女は意図的に自分たちの持つ戦力を秘匿していたのだ。
隠していた戦力の内、アステリオスとヘラクレスを大々的にアピールすることでカルデアの一行の意識をそちらに向けさせる。そして、残していた最後の戦力でカルデアのマスターを闇討ちするのだ。
その策は上手く行ったかと思われた。
しかし……その全ては、カルデアのマスターに看破されていたのだ。
「ゴルゴン三姉妹は、ステンノ、エウリュアレ、そしてメドゥーサの三人の事を指す。でも……ゴルゴン三姉妹は、三人じゃあ無いんだ。だって、彼女が居るから……その彼女だけが、この特異点で存在を感じさせないなんておかしいと思った。そこから考えを巡らせれば……そちらが、俺を暗殺する為にわざと隠している事は想像出来る」
「お見事な策です。しかし、その策は看破されればそれは暗殺者の孤立を招きます。本気でマスターを殺す気ならば、アサシンクラスのサーヴァントを用意すべきでしたね」
「あ……う……」
ジルの指示の元、一体の海魔が姿を現す。その海魔の腕の中には、幼い少女が抱かれていた。
年端も行かぬその少女は、非常に可憐な印象が感じられる。今は海魔の麻酔で弛緩している身体は、小さくびくびくと痙攣していた。
「ごめんね、アナ……少しだけ我慢してね……」
「う……ぅ……」
小さく呻き声を上げるその少女、幼き姿のメドゥーサの愛称を口にしながら、マスターは彼女の頭を撫でた。ジルに頼み、自分を暗殺した後の油断した彼女を海魔に捕らえて貰う様に指示していたお陰で、彼女の捕縛に成功した。敵の策を破りつつ、その戦力を手中に収める事に成功したのだ。
メディア・リリィは念入りに準備した策を破られた事に軽い絶望感を感じていた。しかし、すぐに気を取り直すと船員たちに怒声を飛ばす。
「全員、突入なさい! カルデアのマスターを殺せば、この戦いは実質的に勝ちなのです! 戦力はこっちの方が圧倒的に上……」
「……ほう? 戦力は圧倒的に上? 私の姿を見てもそう言えるとは、お嬢さんは随分と用意が良いのでしょうな?」
数を頼りに戦いに臨もうとするメディア・リリィ。しかし、その言葉はにこやかな笑顔を浮かべたジルによって途切れさせられた。
手に持つ魔導書を開き、魔力を放った彼の周囲には紫色の光が迸っている。妖しい光に照らされながら笑顔を浮かべるジルの横顔は、非常に恐ろし気な物に見えた。
「……さて、先ほどのレディ・アタランテの扱いを見るに、あなたたちは女性を凌辱することを平然と行って来た様子……勝手な予想で申し訳無いのですが、あなたたちの中にはジャンヌを汚した方もいらっしゃるのではないでしょうか?」
ジルのその言葉に覚えがある男はドキリと心臓を跳ね上げた。柔和な笑みを浮かべているジルだが、あの反応を見るに完全に怒ってる。確実に、滅茶苦茶、怒っている。
「ええ、ええ! わかりますよ! ジャンヌ達は非常に魅力的で美しい存在ですからね! 俗物であるあなた方が、汚したくなる気持ちもわかります! ええ、ですから――」
ジルの持つ魔導書が光を放つ。闇の色をした光を船の上で放つ。
その輝きが収まった時、船を取り囲む青い海は、黒と紫の毒々しい色に染まっていた。
「な、なんだ、ありゃあ……!?」
「ば、ば、ば……化け物だぁっ!?」
その色の正体に気が付き、叫んだ男の口に一本の触手が突き入れられた。喉を貫通し、体を持ち上げ下られたその男は、海へと放り投げられて姿を消す。
船を取り囲む様にして召喚された数十体の海魔は、じわじわと包囲網を狭める様にして黄金の鹿号の乗組員へとにじり寄る。
恐ろしい化け物に迫られる恐怖に怯え、震えている男たちの狂乱が最高潮に達した時……ジルの無慈悲な声が海に響いた。
「十分、良い思いは出来たでしょう? 夢の様な甘美な出来事の支払いは、あなた方の命で十分です……破格の値段でしょう? あなた方の命一つで、聖女と呼ばれた英霊を好きにできたのですから……ねぇ?」
恐怖が、狂乱が、爆発した。同時に、黄金の鹿号の甲板が真っ赤な血で染まる。肉が、骨が、臓物が……海に飛び散り、赤い色を残して沈んで行った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!? ぐわぁぁぁぁぁぁっっ!?」
「だずけっ! だずけてぇぇぇぇっっ!!!」
「……う~む、素晴らしい! 最高にCOOLと言うものですなぁ!」
響く悲鳴と骨が砕ける音を聞いたジルは、満足げな笑みを浮かべて頷いていた。この狂喜乱舞の戦場で、こんな表情が出来る彼は非常に恐ろしく思える。
ジルが味方で良かった……そう心の中で思うマスターたちは、彼の機嫌を損ねぬ様に気を付けようとこの日決めた。
「……あ~あ、これは負け戦だねぇ。戦力差がデカいからって油断し過ぎたなぁ」
「なっ!? ドレイク船長! まだ私たちの方が有利なのは変わりありません! サーヴァントたちはほぼ無傷ですし、戦闘を仕掛ければ……」
「……嬢ちゃん、よく覚えときな。例え勝ったとして、その為に払った損失がデカいのなら、それは負けと同じさ。まだ戦いは始まったばかり、普通にやりゃあ勝てる戦で、大きな損失を出すのは馬鹿のやる事さね……ここは退いて、確実に勝てるタイミングで仕掛けりゃ良い。そうだろう?」
「ぐっ……!?」
堕ちているとは言え、フランシス・ドレイクは有能な指揮官だった。今、この瞬間に取るべき選択肢がはっきりと分かっている。
ギャンブルと同じ……少し負けを出したからと言って、ムキになって金をつぎ込めばあっという間に破産してしまう。メドゥーサを捕らえられたからと言って、無理に戦いを仕掛ければそれ以上の損失を出す可能性の方が高いのだ。
「有利だってことが分かってんなら、焦る必要なんて無いんだよ。ここでの負けをチャラに出来る位にデカく勝てば良い、だろう?」
「……はい」
ドレイクの言葉に納得したメディア・リリィは、冷静さを取り戻すと撤退を開始した。アルゴー船に乗り込ませたサーヴァントたちを呼び戻すと、船に侵入した海魔の駆除に当たらせる。
敵が戦いを終わらせようとする姿を見たアルゴー船の乗組員たちもまた、離脱の為に全速力で航行し始める。逃げ出したくて仕方が無かったイアソンが舵を取っているお陰か、その速度は信じられない程に早かった。
「……初戦は負けだ、それは変わりない。だが、最終的に勝つのはアタシたちさ」
「ええ、わかっていますとも……! この屈辱は、必ず倍にして返して見せます!」
遠くに消えて行くアルゴー船を睨みながら、船団の指揮官と副官は小さく呟いたのであった。
「初戦は凌いだ。だが、まだまだこちらが不利だと言う事には変わりはない」
「分かってるよエミヤさん。状況の打破のためにも、アナから情報を引き出さなきゃ」
「そうですね……では先輩、今回もお願いします」
マシュに促されたカルデアのマスターは、海魔からアナの小さな体を受け取ると彼女を抱えて歩き出す。用意された一室に彼女を運ぶと、ベッドの上に丁寧にその体を置いて頬を撫でた。
「ん、あ……ねえ、さま……」
麻酔を投与されて眠るアナは、寝言で姉たちの名前を呼んでいる。今、彼女はどんな夢を見ているのだろうかとマスターは思い、僅かな笑みを浮かべた。
「……待ってて、アナ。君も、お姉さんたちも、必ず救い出してみせるから……!」
届かないと知っていながらも、マスターは彼女に向けてそう口にせざるを得なかった。こうしている間にも苦しめられているステンノとエウリュアレを思うと、胸が締め付けられる様な痛みを感じる。
「……必ずだ、必ず……皆を救ってみせるから……!」
もう一度自分の決意を口にしたマスターの瞳には、強い意志の光が灯っていたのであった。