エロ無いよ~!
今回の特異点、そこまで長くなる気配が無いよ~!
「……じゃあ、敵の戦力の事を教えて貰って良いかな?」
「はい……」
アルゴー船の船室、そこに集まったカルデアのメンバーたちは、先日奪還したばかりのアナへと視線を送っていた。
マスターの促しを受けたアナは、小さく頷いた後でこの特異点に送り込まれたソロモン側のサーヴァントたちの情報を話し始める。
「まず、先ほどの戦いで皆さんが対面したサーヴァントたち……アン・ボニーさんとメアリー・リードさん。アタランテさんにクロエさんとイリヤさん。そして……成長した私は、ソロモンに堕ちた英霊と言って良いでしょう。彼女たちは、ほぼ毎晩ソロモンに従う男たちに犯されています」
「やはり、と言うべきか……予想はしてた事だが、聞くと心が痛むな」
かつて自分も同じ境遇に陥った事を思い出しているのか、スカサハが沈痛な面持ちを浮かべてそう呟く。他の英霊たちもほぼ同じような反応で、部屋の中は重い空気に支配されていた。
だが、そんな空気を読まずに声を荒げる男も居た。この船の船長であるイアソンは、苛立った様子でアナを問い詰める様にして叫び声を上げる。
「そんな雑魚の事はどうだって良い! 問題はヘラクレスだ! 何でアイツが敵に居る? その時点でこちらは絶望的なんだぞ!」
「あなたね……少しは空気を読むって事をしない訳?」
「だが、それは重要な情報だ。かの大英雄が敵に居るのなら、こちらの戦力では太刀打ちできない可能性が高いからな」
やや感情的な叫びではあったが、その情報も今の自分たちには重要だ。エミヤ・オルタの冷酷とまで思える一言によって感傷に浸っている場合では無い事を自覚した面々は、その答えを求めてアナへと視線を注ぐ。
アナは、その質問の答えを口にする前に悲しそうな表情を浮かべ……そして、口を開いた。
「……ヘラクレスさんがソロモンに手を貸しているのは、イリヤさんとクロエさんと……アイリスフィールさんの為なんです」
「アイリスフィール? どこの英霊だ? そもそも、俺はイリヤだとか言う小娘の事も良くは知らんぞ? どんな英霊なんだ?」
「その情報はどうでも良い。大事なのは、大英雄には自我があり、今名前が挙がった三名の為にソロモンに与していると言う事だ。つまりは、その三名の身柄を拘束すれば彼はこちらに味方するだろうと言う事だろう?」
イアソンの疑問を一刀両断したエミヤ・オルタは、冷静に事実だけを拾い上げて一つの結論を出す。その一言にはっとした表情を浮かべるメンバーの中で、カルデアのマスターは一瞬だけ顔色が変わったエミヤ・オルタの事を見つめていた。
(もしかして、あんな風になったイリヤの事を話したくは無かったのかな……?)
例え冷酷になろうとも、心の中にはイリヤに対する感情が僅かにでも残っているのだろうか? 単純に必要の無い話を省いただけの様にも見えるが、そうであったならば彼は自分が思った以上に人間味があるのかもしれない。
その答えはエミヤ・オルタ自身にしか知る由も無いが、カルデアのマスターはそうであったら良いなと言うある種無謀な希望を胸に抱いていた。
「なあ、もしかしてなんだけどよ……アステリオスの奴も、エウリュアレの為にソロモンに従ってるんじゃねえのか?」
「……その通りです。そして、成長した私も姉さまたちの為に戦っています。しかし、もう心は折れ、男たちの成すが儘になっているのです」
オリオンのその一言を肯定したアナは、自分の無力さを悔いる様にして拳を握り締める。彼女の脳裏には男たちに蹂躙された苦い記憶が蘇っているのだろう。その胸中を思うと、彼女になんと言葉をかければ良いのかが分からなくなってしまう。
そんな中、あくまで冷静に話を進めるエミヤ・オルタは、アナに向かって別の質問を投げかけた。
「それで? その人質たちは何処に居るんだ? この特異点に居ないのなら、奪還すると言う計画も机上の空論となる訳なんだが?」
「……それなら大丈夫だよ。アイリさんたちはこのオケアノスに来ている筈さ」
「……ほぅ?」
アナに代わり自分の質問に答えたカルデアのマスターに訝し気な視線を向けたエミヤ・オルタは、鋭い視線を彼に送りながら軽く声を出してみせた。
そこまで言い切れるのならば、それなりの確証があるのだろうな? ……暗にそう言っている様なその呟きを受け、マスターは自分の考えを述べ始める。
「ソロモンの目的はダビデの持つ
「神性の高い英霊。それも女神クラスの方、ですよね?」
マシュの言葉に頷いたマスターは、続けてエミヤ・オルタへと視線を向けた。賢い彼の事ならば、この会話だけで全てを理解してくれただろう。
「……目的の達成のために必要なのは柩と女神。であるならば、女神もこの特異点に送り込んでいて当然だと?」
「ああ、その通りだよ」
「だが、二人の女神が同時に送り込まれている可能性はあるか? どちらか片方だけかもしれないだろう? もしくは、別の女神が送り込まれている可能性は?」
「前者の可能性はかなり低い、先ほどの戦いでメディア・リリィはステンノが来ているのか? と言う俺の質問に肯定的な反応を見せた。と来れば、彼女がこの特異点に居ることはほぼ確定的だ。そしてアステリオスがメディア・リリィの言う事を聞いているのなら、そこにはエウリュアレの影が必ずある……自分が歯向かえば、エウリュアレに危害が加えられる事になると言う事をあの子は理解しているからこそ従っているんだ」
「……なら、後者の質問に関してはどうだ?」
「そっちに至っては0と言っても良い。こう言っては失礼だろうけど、エウリュアレとステンノは他の女神に比べて戦闘能力がとても低い。わざわざ戦力になる女神を犠牲にする必要は無いし、戦力になる女神が居るのならば戦いに参加しているはずさ」
「……ふん、なるほどな。どうやら、こちらのマスターは馬鹿では無い様だ。だが、アイリスフィールがここに来ている可能性までは確立できていないぞ?」
「……それもさっきのアナの説明で確信したよ。アイリさんもここに来ている。理由は、ヘラクレスが裏切らない事がその証明だ」
「へ、ヘラクレスが裏切らない事が証明だと……? 一体どう言う事だ?」
「……アイリさんの性格を考えれば、自分を犠牲にしてでもイリヤとクロの事を救おうとするだろう。そして、それが察せないヘラクレスじゃあない……隙があれば、ヘラクレスは二人を連れて逃げているはずだ。例えば、今回の戦いでだとかね」
「だが彼はそうしなかった。その理由をお前は何と考えている?」
「……苦しんでいるアイリさんが目の前にいるから。だから、ヘラクレスは二人を連れて逃げる覚悟がし切れないんだと思う。行動を起こせば二人は救えるけど、アイリさんはもっと酷い地獄を見ることになるってことを教えられ続けているから……」
「つまり、折檻を受け続けている淑女を思いやって大英雄は行動を起こせないと言う事か。ならば、その三人は何処に居る? 戦力にならない者を何処に隠しているんだ?」
「女王アンの復讐号……! 黒髭さんの宝具ですよ!」
ここまでの話を黙って聞いていたマシュが興奮気味に叫ぶと立ち上がり、仲間たちへと視線を送る。その様子に面食らったサーヴァントたちであったが、落ち着いているカルデアのマスターがマシュの言葉を継ぐ様にして説明を始めた。
「黒髭の宝具は自分の船である女王アンの復讐号を呼び出す物だ。そして、その船には『乗っている部下の力量が上がると性能が上がる』と言う能力がある。つまり、戦闘であまり役に立たなかろうとサーヴァントは乗っているだけで意味があるって事になるんだ」
「なるほど……サーヴァントの中では弱くとも、そんじょそこらの人間や使い魔よりかはよっぽど強い。その分、船の能力も上がるって訳か」
「つまりだ、今推測出来る情報を整理すると……アイリスフィール、ステンノ、エウリュアレの三人は、黒髭の旗艦である女王アンの復讐号の中で嬲られつつ、船の性能を上げる為に利用されてるって事だな。……クソッタレめ」
情報を纏め、結論らしい物を出したロビンが憎々し気に汚い言葉を吐き捨てた。その思いは他の皆も同じで、言葉には出さないが仲間たちにその様な仕打ちを受けさせている敵への憎しみを募らせている。
再び重苦しい空気に支配された部屋の中で暫くアナは黙っていたが、自分が知る別の情報を語るべく口を開いた。
「今のお話で分かったとは思いますが、黒髭さんもこの特異点に来ています。そして……彼に付き従う様にヘクトールさんも……」
「……あのオッサンか。こりゃまたしんどい奴が来てるもんだ」
「アナさん、お二人は何故ソロモンに従っているのですか? ヘラクレスさんたちの様に誰かを人質に取られているとか……?」
「……いいえ、あの二人は強いソロモン王に寝返り、カルデアを捨てたんです。いつもの様子で飄々として、もうカルデアの事なんて忘れた様にしていて……この特異点での戦いも自分から志願したと聞きました。きっとソロモンに認められる為に手柄を立てるつもりなんです」
沈痛なアナの表情を見たマスターはそっと彼女の頭を撫でる。下手な慰めは不要だと考え、彼は再確認としていくつかの質問を彼女に投げかけた。
「アナ……エウリュアレたちは黒髭の船の中に囚われている、そうだね?」
「はい、そうです……」
「基本的に敵艦隊の指揮はドレイクが取ってる、それは黒髭の船もそうなの?」
「それは……違ったと思います。特別な指示が無ければ、黒髭さんが自分の船を指揮していました」
「……ヘクトールは黒髭の傍に居て、二人はいつも通りの態度でいる。間違いない?」
「はい……」
質問に答える度にどんどん沈んで行くアナの表情。それに対し、カルデアのマスターの表情はアナの答えを聞く度に明るいものになっている。
いや、彼だけではない。黒髭とヘクトールの人柄を知るメンバーたちは、彼女の答え聞いてマスター同様に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「……そうか、嬢ちゃんはカルデアに来てから日が浅かったもんなぁ。なら、知らねえか」
「え……?」
クー・フーリンの言葉にアナが顔を上げる。自分の周囲にいる人々の表情が明るいものである事に気が付いた彼女は、驚いた様子で仲間たちの顔を見まわしていた。
「大丈夫ですよ、アナさん。彼らが普段通りだと言うのなら、間違いなく大丈夫です!」
「まあ、あの様子を見ていれば不安なのも分かるが……私たちが知る黒髭とヘクトールと言う男の性格を考えれば、だな……」
「……アナ、取り合えず一つだけ教えておくとね……世の中、本当に怖いのは『馬鹿のふりをした天才』なんだよ」
かつて仲間が口にした黒髭への評価をアナに教えながら、カルデアのマスターは彼女に向けてウインクをした。
「え~……と言う訳でぇ! 我らが偉大なるソロモン艦隊は、本日をもちましてカルデアの船と戦闘に入りま~す! そこんところ、よろしくでごじゃるよ~!」
「……何故、それを私に言うのかしら? そう言う演説めいたものは、お仲間にすべきなんじゃないかしら?」
「まあまあ、アイリ氏も戦闘には出ないにせよ、治療やバフ掛けなんかで出番があるでしょうし~? その辺の心構えを固める為にも、言っておいた方が良いんじゃないかな~と言う、拙者の粋な心遣いってことで!」
デュフフ、と言う奇妙な笑い声をあげる黒髭は、牢に繋がれているアイリに向けて現在の状況を報告する。こうして特異点に連れ出されてから、彼は何度もアイリに向けてこう言った事をしていた。
黒髭が基本的にドレイクに逆らう事は無いが、何も言われていない時には自分たちの処遇は彼に一任されている。不思議な事に彼は部下たちにアイリやステンノたちを抱かせることはしなかった。
「だってぇ~、戦闘に役立たない奴とヤリ過ぎていざって時に役立たなかったら意味無いでごじゃるし~? 奴隷代わりの女の子なんて山ほど居るんだから、このメンバーを抱く必要性が無いですぞ~」
アイリが一度彼にその疑問をぶつけた際、黒髭はそう言った。おどけた態度の裏に隠れている本気の戦略は、彼が優れた指揮官である事を証明している。だからこそ、ドレイクも彼にアイリ達の処遇を任せているのだろう。
「オレたちは海賊よ? それが何であれ、奪って、殺して、暴れて生きて来た奴ら……こっちのが性に合ってるって言えば、そりゃそうでしょ!」
カルデアを裏切った事を心苦しく思わないのかと言う質問に対してそう答えた彼は、非常に悪役らしい笑みを浮かべつつ今の自分を肯定していた。その隣に立つヘクトールも、何も言わずにただ微笑んでいただけだ。
確かに彼の言う通りだ。黒髭『エドワード・ティーチ』は、かつて残虐性と悪名を轟かせた大海賊だ。たとえ元仲間であろうと、奴隷を奴隷として扱い、暴れるだけ暴れられる今の生き方を悪く思わなくても不思議ではない。
自分に手を出させないのも彼なりの考えがあっての事であろうと考えるアイリは、牢の鉄格子の隙間から顔を覗かせると黒髭に向けて新たな質問を投げかけた。
「あなたは……あの子たちを殺すつもり? マスターやマシュたちを……!?」
「……さぁ、どうだろうねぇ? 必要があれば殺す、今はそうとしか言えないな」
「必要があれば……? それって、どう言う意味?」
「さて、どう言う意味でごじゃろうな~? そんな事より、今はもっと心配することがあるんじゃないですか~? 今もむさい男たちに腰を振っているイリヤちゃんたちの事とか……!」
「っっ……!!」
愛らしい少女たちが汚い男たちに抱かれている姿を思い浮かべたアイリは、苦悶の表情を浮かべて歯を食いしばった。代われるものならば代わってあげたいと思う程の凌辱を受けるイリヤとクロエだが、彼女たちはそれを悦んで受け入れているのだ。
思考も心も、何もかもが狂ってしまった。今の自分に出来ることと言えば、傷ついた彼女たちの治療と支援を行う事、そして祈る事だけだ。
「……ま、次のニュースを待ってなよ。それがアンタにとって良いニュースになるか、悪いニュースになるかはわからないがな……」
今まで黙っていたヘクトールが最後にそう言葉を発すると、二人はアイリに背を向けて部屋から出て行ってしまった。一人残されたアイリは、胸の前で手を組んで誰にも届かない祈りを捧げる。
「ああ、どうか……あの娘たちに救いを……! 私はどうなっても良いから、あの娘たちだけは……!」
自分が足枷になっている事を理解しているが故の涙を流しながら、アイリはただひたすらにイリヤたちが救われる日が来る事をひたすらに祈り続ける他無かった。