結果としては同じ流れになるとは思います。少し特異点のお話も長くはなると思います。でも、こっちが自分の本当に書きたかった流れなので大目に見て下さい。
すいません、許して下さい。何でもしますから!(何でもするとは言ってない)
「大丈夫? 無理はしてない?」
「ぼくは、だいじょうぶ。えうりゅあれこそ、だいじょうぶ?」
「大丈夫よ……だからそんな泣きそうな顔をしないで、私まで悲しくなっちゃうじゃない」
牢獄の柵の間から手を伸ばしたエウリュアレは、心配そうな表情で自分を見つめるアステリオスの頭を優しく撫でた。姉の様に、母の様に、そんな慈愛に満ちた表情を浮かべる彼女であったが、その体には幾つもの傷と痣が刻み込まれ、見ていられないほど痛々しい姿を呈していた。
そんなエウリュアレに慰められながらアステリオスは思う。どうにかして彼女をここから助け出したいと……しかし、今の自分にはそんな事が出来る訳が無いと言う事も分かっていた。
「泣かないで……私は、あなたがいてくれるだけで救われているわ。だからそんな顔をしないで……」
「……ごめん、えうりゅあれ……ぼく、ぼく……っ」
自身の無力さを悔やみ、自分よりも辛い状況に置かれているであろうエウリュアレに慰められている事にまた悔しさを募らせるアステリオス。彼女を慰め、励ますつもりが立場が逆になっている事がその思いに拍車をかけていた。
彼女を労わらなければならない。この拷問などと言う言葉が生易しく感じられるであろう状況に苦しむ彼女の心が完全に崩壊してしまう前に……拙い言葉を紡ぎ、何とかして励ましの言葉を口にしようとするアステリオスであったが、無慈悲にもそれよりも早くにやって来た男たちが強引に彼を引きずって面会を終わらせにかかった。
「オラっ! 子供のお喋りは終わりだよ! こっからは大人のお楽しみのお時間さ!」
「ま、まって! ぼく、まだえうりゅあれにはなしたいことが……!」
「残念ながらそれは無理ですね。アステリオスさん、あなたは今から作戦会議に出て貰います。だからエウリュアレさんとのお話はまた今度にして下さいね」
「っっ……!? めでぃあ……!」
必死に男たちに訴え、もう少しだけエウリュアレとの面会の時間を伸ばそうとして貰うアステリオスであったが、そんな彼に有無を言わさぬとばかりに笑みを浮かべたメディア・リリィが声をかけて来た。逆らえば自分だけでは無く、エウリュアレの立場も悪くなると言う事が分かっているアステリオスは、その言葉に従う他無い。
「へへっ……っつー訳だ、怪物くん。お前はさっさと戦いの準備に行きな」
「女神さまは俺たちがたっぷりと可愛がってやるからよ……!」
がっくりと肩を落とし、メディア・リリィの後を追うアステリオスの背中に男たちの心無い言葉が浴びせかけられる。悔しさを感じようとも何の反応も返す事が出来ないアステリオスは、ただ鬱々とした気持ちのまま廊下を歩いて行った。
十数歩アステリオスが足を進めた時、今まで自分が居た船室から悲痛な悲鳴が響いて来た。それを耳にしたアステリオスは、エウリュアレが先ほどの男たちの手で辱められている事に怒りと悲しみの感情を浮かべる。
嬲られ、汚され、ボロ雑巾の様に扱われ……苦しめられる彼女に対して、自分は何もすることが出来ない。ただこうやって、自分に優しくしてくれたカルデアのマスターと敵対し、手柄を立てて少しでもエウリュアレの待遇を良くしてくれと頼むことしか出来ないのだ。
「う、く……くぅ……っ! えうりゅあれ……えうりゅあれ……っ!」
ぼたぼたと大粒の涙を零し、アステリオスが嗚咽を漏らす。優しい彼女が苦しめられている姿を想像した彼の胸に鋭いナイフが突き刺さった様な痛みが走る。
このままでは救いなんてあるはずも無い。だが、こうし続ける他無い。改めて自分の無力さを噛み締めながら、アステリオスは暗い廊下をただ歩き続けることしか出来なかった。
「……作戦会議を始めよう。皆の意見を聞かせて欲しい」
アルゴー船の会議室に集まったカルデアのマスターたちは、円卓を囲んでの会議を始めた。無論、話す内容はこれからの動きについてだ。
山積みになっている問題を一つずつ片付け、勝利への道筋を探る為の会議。しかし、事はそう単純には行かない様である。
「まず最初の問題を片付けよう。この特異点での戦いを長引かせるか、短期決戦で行うかだ」
「はあ? そんなの決まっているだろう! 短期決戦が一番だ!」
「何言ってるのよ、普通は逆でしょう? 敵が大軍なら、長期戦に持ち込んで疲弊を待つ方が得策よ」
マスターの提議した議題について、イアソンとメディアの意見が真っ向から食い違った。二人の意見はどちらも正しいのだが、どちらも問題があるのだ。
短期決戦を行う場合、今の途方も無い戦力差を抱えたまま戦いに臨むことになる。サーヴァントの差はまだしも、船員と艦船の差を考えるとこちらが非常に不利だ。しかも敵にはあのヘラクレスも居る。個々の戦力から見ても厳しい戦いになるのは間違い無いだろう。
しかし、長期戦にすると言うのもかなりの博打だ。確かに多対少の戦いなら、数が少ない方が耐えているだけで勝ち目が見えて来る。大軍を動かすと言うのは消耗が激しくなると言う事を意味しており、兵糧や武具の消費もその分多くなるからだ。
そう考えると長期戦の方が正しい戦術に思える。だが、実際の所はそうでも無いのだ。
「馬鹿か貴様は!? 確かに大軍を相手にする時は粘って勝機を見出す事が定石だ。しかし、今はその戦力差があり過ぎるんだよ! 少しでも隙を見せて、そこを敵に突かれたらひとたまりもないぞ!」
イアソンの言う通りだった。今、カルデアとソロモン軍の戦力差はあまりにも大き過ぎる。故に、長期戦をする事すらもリスクが大きいのだ。
例えばこれが籠城戦ならば良い。城に籠り、徹底的に守りを固めているだけで、徐々に有利は出来上がって行くのだから。しかし、今はどちらも遠征状態で戦いに臨んでいる。安全地帯でじっくりと守りを固めると言う事が出来ないのだ。
その状態で戦いを長引かせれば、戦力の多いソロモン軍は多彩な戦略を以ってカルデアを攻めて来るだろう。敵の指揮官はあのフランシス・ドレイク、稀代の名船長にして、太陽を堕とした女だ。どんな方法で攻撃を仕掛けて来るか分かったものでは無い。
「……俺もイアソンの意見に賛成だ。今、俺たちは最大まで戦力を高められたと思う……戦いを長引かせて誰かが負傷したり、倒されたりする可能性を考えると、今の戦力で敵を攻撃した方が良いと思うんだ」
「ははんっ! なかなか良い戦術眼をしているじゃあないか! ……聞いたか魔女、我らがマスター様はこの私の意見に賛成だとさ!」
マスターに意見を支持されたイアソンは得意げな表情を浮かべてメディアを挑発した。そんな彼の様子にメディアは呆れた様に頭を抱え、他のサーヴァントたちは苦笑を浮かべている。
かくして戦術を『短期決戦』と定めたカルデアの一行であったが、次に問題になるのはその戦い方だ。戦力差は歴然としている現状でどう動くのか? 一つ間違えばそのまま敗北まで一直線ではあるが、決して光明が無い訳では無かった。
「要するにだ、今回の戦いは船の中に閉じ込められている女神姉妹とアイリの姉ちゃんを助け出せば良い訳だろう? それさえ出来れば、ヘラクレスもアステリオスもこっちに戻って来るんだからな」
「だが、それが容易く行える訳では無いと言う事も分かっているだろう? 敵船に潜入し、消耗しているであろう三人を連れて逃げだすと言うのは相当に困難な事だ」
ケルト師弟の話を聞きながら、メンバーはその任務の困難さを改めて確認する。敵の本拠地に潜入し、気取られぬ様に人質を奪還すると言うのは、考えている以上に難しいのだ。
これが書類の奪還や、只の敵情視察なら話は簡単だ。こっちにはロビンフッドが居る、『顔のない王』で姿を消して潜入すれば良いし、万が一に見つかってもすぐに逃げ出せば良いのだから。しかし、ここに捕虜の奪還と言う任務を付け加えるだけで、その難度は一気に跳ね上がるのだ。
「……恐らくだが、ステンノたちは大きく消耗している。日々、想像もつかない凌辱を行われているんだ、元々身体能力が高いとは言えないアイツらには厳しいもんがあるだろう」
「つまりは迅速な行動は出来ないってこってすね……宝具の中に隠せる人数としてはギリギリだが、動きが遅いんじゃあ逃げ出すも何も無い。俺一人じゃあ無理臭いっすねぇ」
人質の奪還と言う超高難度任務、アサシンクラスのサーヴァントが多数いれば話は別なのだろうが、残念ながら今のカルデアには逆に人目を惹いてしまうスカサハ以外のアサシンは在籍していない。気取られずに敵本拠地に潜入することはほぼ不可能だ。
ならばどうするのか? ……答えは至極単純で、明確なものだった。
「ごり押しだな。と言うより、徹底的に時間を稼ぐっきゃねえ」
「少数の侵入班とそれ以外の戦闘班に部隊を分け、戦闘班が戦いながら敵戦力の大半を相手する。その間に潜入班が黒髭の『女王アンの復讐号』に潜入、出来る限り迅速にアイリたちを助け出す……って所か」
「次第点の策だ、最良と呼ぶには程遠い。だが、これしかあるまいな」
アルゴー船とそこに残るサーヴァントたちが派手に戦って敵の目を惹き付ける。その間、ロビンフッドを始めとした突入班が人質を奪還する……策とも呼べぬ力押しの作戦だが、もはや打つ手はこれしか残されていなかった。
この場合、重要なのは戦力の分散だ。どちらにどの程度の戦力を分けるかによって、戦いの行方が決まってしまうのだから、これを決定するのは非常に責任が重い役目と言えるだろう。
「……マスター、最終的にそれを決めるのはあなたです。あなたにはアメリカ大陸での戦いの前例もあります。その戦術眼には信頼がおけるかと……」
「……わかった、考えてみるよ。でも少しだけ時間が欲しい。あと、皆と一人ずつ話をさせて貰いたいんだ」
「ああ、それは構わないぞ。じっくり悩むと良い! なにせこの作戦の実行タイミングは敵の攻撃に合わせてのカウンターが望ましいからな! 存分に悩むと良いさ! なにせこちらには敵の攻撃タイミングを知る方法があるわけだ!」
この重大な役目を請け負ったマスターに対して、イアソンは上機嫌な声で語り掛けた。先ほど自分の意見を肯定された事も嬉しかったのだろうが、それよりも彼を喜ばせているのはその手に握り締められた一枚の手紙だ。
つい先日にアタランテから受け取ったその手紙には、戦いにおいて彼女の協力を約束することが記載されていた。敵の中に協力者がいると言う事実が、イアソンの心を弾ませていたのだ。
「敵の中に裏切り者が居るんだ、これは大きなアドバンテージになる。まあ、じっくりと悩みつつ戦力の分け方を考えると良い! ははははははは!」
非常に上機嫌なイアソンは手紙を団扇代わりにして自分を扇いでいた。悪いニュースばかりの状況で得られた一つの良いニュースは、普段よりもずっと素晴らしい物に感じられる。大英雄が敵に居るとしても、旧知の仲である英霊が自分に協力してくれていると言う事は、イアソンの心の十分な慰めになっていた。
「……それを抜きにしても作戦を立てられる様にしよう。『良い不確定要素は頭の片隅に留めておくだけに、悪い不確定要素は確実に起きると仮定して策を立てろ』……俺はそう教わったからね」
イアソン同様にアタランテの協力に感謝しながらも、カルデアのマスターは師の教えを思い浮かべて油断無く冷静に思考を働かせ続けたのであった。
「……さぁ、作戦会議だ。どうやってカルデアの連中を叩き潰すかを考えようじゃあないか」
『黄金の鹿号』の一室に集まったドレイクたちは、海図を広げて作戦会議を始める。話の指揮を執りながら、ドレイクは自分の策を披露した。
「アタシが考えてんのはこっちの有利を活かした戦い方……つまりは、数の暴力ってやつさ」
「お言葉ですが船長、向こうにはジル・ド・レェが居ます。数の差と言うのは、あまり役に立たないのでは?」
「あ~、違うでごじゃるよリリィちゃん。BBAが言ってるのは、人じゃあ無くって『艦』の数の差でごじゃる」
黒髭の言葉にドレイクが大きく頷く。彼女は船の形をした駒を取り出し、それを海図の上に並べてから詳しい説明を始めた。
「アタシたちの船はソロモン様から頂いた特注品、風や潮の流れも関係なく自由に動かせる物さ。この特性を活かし、手頃な場所でアルゴー船を取り囲む。逃げ場のない状況に奴らを押し込んだら、そこで集中砲火を浴びせるのさ!」
「なるほど……! それならば、奴らの脚を止める事も可能ですね!」
「アルゴー船に航行不能なダメージを与えたら白兵戦に移行する。船を突っ込ませ、四方八方から戦闘員を乗り込ませ……そのまま、サーヴァントとカルデアのマスターの首を取って、この戦いは終わりだ」
「ついでにダビデから『
ドレイクの策を聞いた黒髭がその上質さに笑みを浮かべる。有利さを活かし、確実に息の根を止める策を考え付くのは流石としか言い様が無いだろう。
他のサーヴァントたちもドレイクの作戦に不満は無い様だった。一人一人の顔を見まわして頷いたドレイクは、更に策を煮詰め始める。
「さて、問題は陣形をどうするかだ。お前らの中に妙案を持つ奴はいないかい?」
「なら、BBAの船と吾輩の船は正反対に位置した方がいいですな~。船の大半がソロモン様の特注品とは言え、宝具級の火力を持っている訳ではごじゃらぬ。決定打になるのは我々二人の宝具での一撃でしょう」
「横に並んでるとマシュの宝具で受け止められる……なら、正反対の位置でいっぺんに受けられない様にするって訳だね?」
「そういうこっと~! マシュ殿の盾が守れるのは一方向のみ、前と後ろからドドンとやられたら、防ぎ切れる訳が無いって寸法よ!」
「……なら、黒髭の言う通り『黄金の鹿号』と『女王アンの復讐号』は対角線に位置する様に陣形を整えよう。問題は、どちらの船にどれだけのサーヴァントを乗せるかだ」
コトリ、と音を鳴らして海図の上に駒を置いたアタランテが顔を上げながらそう尋ねた。正反対に位置する以上、戦闘が始まってから船の移動は出来ない。どう戦力を分散するかは非常に重要な問題に思えた。
「……普通に考えて、アナちゃんやメアリー殿が向こうに奪われた以上、こっちの戦力や捕虜の居場所を知ってると考えた方が良さそうでごじゃるね。と来れば、向こうは間違いなくこっちの船に乗り込んで、アイリたそたちを奪いに来るだろうな~」
「なら……今の内に捕虜を他の船に移動させますか? 奴らが『女王アンの復讐号』に乗り込んで来た所を罠にかけ、無駄な労力を使わせた所で――」
「ああ、それダメ、絶対」
メディア・リリィの提案を短い言葉でバッサリと切り捨てた黒髭は、ドレイクへと視線を送った。意味深なその行動の真意を悟ったドレイクは、この場の空気を切り替えるべく口を開く。
「今考えてんのは戦力の分け方だ、捕虜の収監場所の変更じゃあない……その事は置いておいて、議題を語っておくれよ」
「ふむ、その通りだな……捕虜の居場所を今のままにしておくと仮定するのなら、黒髭の船に多くの戦力を置くことは必須事項だ。私はそちら側に乗るとしよう」
「おじさんも当然こっちだ。守戦には自信がある、捕虜は必ず守り切ってみせるよ」
「どちらにどれだけのサーヴァントを乗せるかも大事ですけれど、敵の船に乗り込むサーヴァントの方も大事じゃありませんこと? まさか船員だけに突撃させるわけにもいかないでしょう?」
「ん~……なら、アン殿とメドゥーサ殿にはアルゴー船へのカチコミをお願いしようかな~? メドゥーサ殿の天馬に乗って、二人で攻撃を仕掛けて貰うって事で!」
「……了解しました。ですが、私たち二人だけでは戦力が心もとないのでは? ヘラクレスさんは同行出来ないのでしょうか?」
メデューサが呟く様な声量で発したその疑問に黒髭は手をひらひらとさせながら答えた。
「あ~……出来たらヘラクレス殿にはこっちの船で守りを担当して貰いたいのよね。向こうの奪還作戦を失敗させれば確実に勝ちって言える訳だし、その為に一番の戦力を使いたいって言うか~……勿論、BBAが良いって言えばの話だけど」
「構わないよ。でも、突入班の戦力が少ないのはどうするんだい?」
「アステリオスくんが居るでしょう? 後、イリアたんとクロたんも使えばOKじゃない!?」
「それなら近距離、遠距離の担当も機動力も確保できますわね。私はそれで良いと思いますわよ」
「同じくだ。私とヘラクレス、ヘクトールで潜入して来たサーヴァントを迎え撃とう。船長と黒髭は陣頭指揮に注力してくれ」
「敵船の脚を止めて、砲撃でダメージを与えた後、サーヴァントを乗り込ませつつ
「そもそも取り囲んだ時点で『女王アンの復讐号』に近づく事すら困難だと思いますけどね。でも、十分な備えを行うのも当然のことでしょう」
「……よし、結論は出たね。なら、アタシと黒髭がもっと深く策を考えるから、他の奴らは休んで構わないよ」
議論の決着はついた。後は自分たちに任せろとばかりに笑顔を浮かべたドレイクは、仲間たちを労いつつ船室の外へと追い出す。そうした後、黒髭と二人きりになった彼女は、表情を一変させて険しい顔をしながらドレイクへと質問した。
「アンタ、何で捕虜の移送を反対したんだい? 決して悪い策じゃあなかったと思うが?」
「またまた~……BBAも分かってるでしょう? 分かってて聞くなんて人が悪いでごじゃるな~!」
鍵爪をカチカチと鳴らして手を叩き、黒髭は笑う。腹を抱えながら面白くて堪らない、と言う様子を見せる彼に対し、ドレイクは自分のこめかみをトントンと叩きながらその理由を口にした。
「……
「そう言うこと! ……仮に女神様たちを移動させても、それは間違いなく向こうに知られる。サーヴァント三体を失えば、『女王アンの復讐号』の動きが鈍くなるのは目に見えてるでごじゃるからな」
「捕虜を有象無象の船に移動して、それがバレてたら奪還は容易になる。かと言ってアタシの船に乗せたら、それは全戦力をぶっこんでの突入戦と言う選択肢を向こうにあたえちまう……だからアンタは反論したって訳かい?」
「なんだよ、やっぱわかってんじゃねえか。あの場で裏切り者が居るだなんて言う訳にもいかねえから理由は言わなかったが、そこまで察してんなら話が早い……で? アンタは裏切り者の目星はついてんのか? ああ?」
試す様にドレイクへとあくどい笑みを向ける黒髭。彼女がどう答えるかを期待している様なその表情を見たドレイクは、ふっと笑みを浮かべた後で拳銃を構えた。
「……アタシが疑ってんのはね、アンタとアタランテさ。アタランテは十中八九間違いない、対してアンタは確信は何も無い……でも、こう言う時のアタシの勘ってのは当たるんだよ」
「クハハ! わざわざ今、それを言うかね? ……でも、それでこそフランシス・ドレイクだ! このオレが憧れた大海賊だ!」
腹を抱え、先ほどよりも嬉しそうに大笑いする黒髭は、銃を突き付けられている人間にはとても見えなかった。自分が撃たれないと言う事を確信しているかの様なその態度を見たドレイクは、自分の考えは既にお見通しなのだろうと思いながら銃を下ろす。
「……既にメドゥーサにアタランテの監視は命じてある。おかしな動きをしたら、アイツは即殺すつもりさ……そして、アンタにはアタシが目を光らせる。妙な真似をするんじゃないよ」
「さあ、どうだろうな? オレは海賊、裏切りなんて日常茶飯事よ! ……でもま、そこまで馬鹿じゃあないってのも確かだけどな」
「……なあ、アンタの事は買ってるんだ。アンタは良い男で、優秀な副官だよ。だから、アタシはアンタを失いたくない……もしこの戦いに勝てたのなら、アンタが望む全てをやろう。宝物も女も、地位も名誉も……このアタシの命だってくれてやっても構わない。だから裏切るんじゃ無いよ、ティーチ……」
「……なら、負け戦をしなけりゃ良い。状況が五分なら、俺はアンタを裏切りはしねえよ」
「ははっ! 危なくなったら裏切るってことじゃあないか……ま、良いか。そっちのがアンタらしい」
黒髭の肩を叩き、頬に唇を落としたドレイクは、彼の背中を押して船室から追い出した。扉を閉める寸前にらしくない笑みを浮かべた後、ドレイクはそっと額を抑える。
「打てる手は打つさ……だが、どうしようも無い時もある。それでも……勝つのはアタシたちさね……!」
ソロモンの配下だとか、人類の未来などは関係ない。ただ負けたくないと言う思いだけで闘志を燃やすドレイクは、瞳に鋭い光を走らせて勝利を誓った。