学校についた。
車の窓から見た感じ、建物とかに差異は感じられなかったが、やはりと言うか……男性よりも女性の方が圧倒的に数が多く感じられた。感じた、と言うかこれは現実的な問題として挙げられてるだけあって本当にそうなんだろうが、中々に違和感を感じてしまう。
そして高校生という身分についても、だ。
如何に俺が高校生に戻りたいと願望していたとしても、こちとらそれなりに社会人としてやってきたって自負があるし、それなりの大学も卒業している。この世界での就職率がどれほどのものなのか、そこはまだ判明していないが、また大学に通わないといけないかもしれないことを考えると憂鬱ではある。
高卒でも入れる職はあるが、やはり大卒が有利だろう。そんな考えが拭えないのだ。
「じゃあ、ヤス君。授業頑張ってね!」
「うん。送ってくれてありがと。行ってくるね」
「はぁい!」
頬に両手を当てて喜んでいる母親の姿なんて見なかったんじゃ。
しかし……さすがに本来の登校時間が過ぎていることもあってか、俺の他に登校してくる生徒は見受けられなかった。
が、さすがに時間が遅くなってしまったこともあり、校門を締めようと近寄ってきた先生に見つかってしまったのだった。
「君は……もう授業は始まっているが、遅刻か?」
もっと高圧的に話しかけられると思ったが。
教師は女性だった。それも、俺より少し身長が高くてかなりの美人さん。
担当科目は体育だろうか。小麦色に焼けた肌にショートの髪。切り目だけど優しそうな雰囲気を兼ね備えたお姉さん系美人。社会人でもこんな美人さんは見かけなかった。
しかも、あんまり濃い化粧もしていないように見受けられる。
「いやぁ……朝、少し体調が悪くて。今はもう大丈夫ですが、母親がここまで送ってくれたんです」
「そうだったのか。まぁ、あれだ。体調が悪いのなら仕方ないな。何だったら、一緒に保健室まで連れてってやるぞ?」
教師が堂々とさぼらせようとするなよ。
……いや、待てよ?
今の俺の容姿を考えよう。社会人として働いていた時の俺は仕事で歩き回ることが多かったにも関わらず筋肉が付かず、ひょろっとした体格だった。それは今でも変わらない。むしろ、社会人になるまでそこまで運動していなかっただけあって今の方が細長い。
身長は175cmくらいだったか。体重は60kgにも届かない。
そして貞操観念逆転しているかもしれない事を加味すると。
朝から体調が悪かった細長く、しかもか弱そうに見える男子生徒。こりゃ確かに先生が俺の事を心配するのも頷ける。
「あはは……まぁ、大丈夫なんですが。一応保健室の方に行きます。案内、お願いします」
「あ、あぁ。ついてきなさい」
優しくしてくれる美人な先生。
それだけでニヤニヤが止まりませんなぁと友人に自慢してやりたくなるようなもんだが、この体験……この世界では本当に良いシチュエーションに該当するのだろうか?
思い出してみよう――朝のニュースを。
女性が男性を強姦して逮捕されるような世界だぞ? むしろここは、嫌がるような感情を出すのが普通なんじゃないのか?
――まぁ、いっか!
別段取って食われるわけでもないだろうし、ましてや教師と生徒の関係だから問題ないでしょ! さすがに朝っぱらから盛ってるような女性は……いるのか?
男性が朝から勃起している症状。あれの原理がもし女性に当てはまったら?
普通に俺を性の対象として見ているかもしれない! 同人誌のレイプものの登場人物が、女性が男性をレイプというサブタイトルに変換されてるこの世界で、この俺が犯されない安全なんぞどこにも無かったんだ!
ま、役得だしどうでもいっか。
「さぁ、ここが保健室だ」
「ありがとうございます」
昔とクラスが変わってなければ1年3組だったはず。その記憶はその通りだったらしく、俺の下駄箱と内履きは記憶通りの場所にあったのだった。
そして、道すがら先生と自己紹介を交わしたが、予想通り体育担当の先生だったらしい。名前は
と言うことは基本的に学校内で会う機会は少ないという事か……残念だ。
久し振りに見回してみた保健室は真っ白だった。
病院で鼻を突くアルコールの臭いはしないし、綺麗に整理された真っ白なベッドが二つだけ並べられていた。こじんまりとした様相の部屋だが、誰も居ない。
「あれ? 保健室担当の先生は……?」
「今日はこの時間、担当の先生はいないんだ。だから、少しの間我慢してくれ」
「は、はい」
成程。
もう朝練も終わってるし、余程の事態か急に体調を悪くした生徒が出ない限りはいないのか? それとも各授業を受け持つ先生方がそれなりの知識を普及されているとか? まぁ、疑問は絶えないが、この学校はそうだったんだろうと記憶しておこう。
「ですけど、勝手にここの物を使っても良いんですか?」
「ああ、基本的に体調の悪い生徒のためにあるものだ。君が使っても問題あるまい」
「そうですか」
良い先生や……
昔だったら『男の子なんだから大丈夫でしょ?』とか言われて素気無く断られていたような気がする。そんなに体調も悪くない時なんか尚更である。何しにここに来たと言わんばかりの視線で睨まれてたなぁ。
ま、そういう事ならベッドで寝ても良いんだろう。
もし先生に症状を聞かれたら、色々な事が起こりすぎて『頭が痛いんです』とだけ言えば大丈夫に違いない。そう信じたい。てか、間違いじゃないからな。いきなり高校生に戻らされたんだ。そりゃ混乱もするし頭も痛くなる。
……以前の俺はどうなったんだろうか?
色んな事が頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えを連続していたが、手だけは動いていた。さすがにガッチリ制服を着こんだままベッドに横になりたくなかった。寝にくいし、皺も付く。
第一ボタン、第二ボタンと外していき、最後のボタンを外して脱ごうとしたところでいきなり顔を掴まれた。
「君……名前は?」
「え、っと……
「そうか、保志君……か」
両手で顔を掴まれた状態で固まってしまった俺を無視し、牧野先生は俺の顔を撫で始めた。『え? 何このプレイ?』と思った俺は悪くないだろう。何も反応しないでいる俺の顔を両手で撫でているだけなんだから。
「なぁ、保志君……痛くするつもりはない。私と良い事をしないかい?」
「良い事……ですか?」
「そうだよ……とっても良い事だ。君は何もしなくて大丈夫。そのまま黙って座っていてくれれば……いや、このままベッドの方に行ってしまおうか」
この世界の女性積極的過ぎぃ!!
このままベッドって比喩どころの話じゃないじゃないですかぁっ!
「先生、もしかしなくてもモテない、ですよね?」
「うっ……」
「やっぱり」
そもそも男性の数が少ないからこれ以上は言わないが。
しかし……この世界の女性の性欲を侮っていた。まさか朝から一直線でベッドに行かない? なんてお誘いをされることになるとは。
「だがっ! あれは、明らかに私の事を誘っていたんだろっ!? あんな、女の前でいきなり上を脱ぎ始めるなんて……確かに私は教師だが、君は、その……カッコいいし。いや、こんな年増の女に褒められても嬉しくないってのは知ってるぞ!? でも、どうしても自分を抑えることができなくてだな」
いきなり自分語りを始めたこの女性を、俺は今すぐ抱きしめたくなってしまった。