牧野先生は仕事があるので、と言いつつそそくさと帰っていってしまった。
残されたのは俺一人。この時間保健室の先生はいないと言っていたが、それにしてもいなさすぎだろ。この学校にどれだけの男子生徒が通ってるか知らないが、もしこれで男子生徒に何かあったら男性保護委員会に訴えられるんじゃないか?
……そもそも保健室の先生が女性か男性かで変わってくるか。基本的に女性の数が圧倒的に多いんだし、多分女性の先生になるんだろうが。
それにしても、白衣の似合う女医ってエロいよね。
それはともかく。
ちょちょいと愚息の位置を直した。制服のズボンのベルトを少し緩めて愚息を止めるという戦法に出たわけだ。妄想逞しい奴であれば変なことを考えるかもしれないが、俺が堂々としてれば何も言ってこないだろう。
少し違和感はあるが、問題ないだろう。
と言うわけで、自分のクラスと思わしき1年3組までやってきた。締まっていた戸を開け、教室の中を見るとそこには女子、女子、女子。見渡す限り女子しかいない。残念ながら俺のクラスには俺以外の男子はいませんでした、という事なんだろうか?
「……おはよう」
その一言で俄かにざわつき始めた女子たち。
そう言えば朝、母さんが朝に男の子らしくとか言ってた気がするが、何が男の子らしいのか分からない。男女の観念が逆転してるんだったら、元の世界でいう所の女子らしくしてれば良いんだろうか?
(立川君が挨拶してくれた……)
(てか、今日休みじゃなかったんだ)
(あー……男子見てるだけで癒されるわー)
何だろう。
皆して俺を見てひそひそ話をしてる。やはりこ膨らみはおかしかっただろうか?
あれから教室まで歩いてくる最中に少し興奮が収まり、良い感じに柔らかくなった自分の愚息に意識がいかないように注意しつつ、教室の中をくまなく観察する。
出来れば自分の机と一目でわかるような印とかあれば良かったんだが、そう都合の良い物は何もなく。どうしようか悩んでいるうちに後ろから声を掛けられた。
「お、保志君かい?」
「
今日初めて聞いた俺以外の男子の声に、驚いて後ろを見た。
そこにいたのは、中学から友人だった木村智治の姿が。
身長は俺よりも少し低く、少し女顔のこいつは、少し化粧して女物の服を着れば女子に間違われるんじゃないかとからかったものだ。まぁ、そんな俺たちでも普通に友人同士として大学卒業後も友人として付き合っちゃいたが。
「こんな時間にどうしたの? もしかして、何かあった?」
「いや、朝から少し体調が悪かったんだが――」
「ダメだよ? 無理しちゃ。君に何かあったら悲しいし」
なんだこいつ。
いくら女子っぽい顔をしてるからって気遣いまでできる奴になっちまったら、それこそ本当に女の子みたいじゃないか。そんな心配そうな表情までされたら惚れてまうやろ。
「大丈夫だ。一時限目は保健室にいたからな」
「え? じゃあ、朝からずっと?」
「ああ。少し休憩したから大丈夫だ」
「……そっか。でも、本当に無理しないでね?」
「おう」
キーンコーン――
ちょうどチャイムが鳴ってしまった。
そういや俺、自分の席がどこだったか知らなかったんだよな。いや、これはこれでタイミングは良かったか?
女子達がそれぞれ自分の席についていく。ボーっとしてると思い心配したのか「大丈夫?」と声をかけてくれた智治に「大丈夫だ」と返しつつほっこりしていると、そのうち席が俺たち二人分の席を除いてうまったのだった。
「それじゃあ、無理しないでね?」
「ああ、心配性だなぁ」
片方の席に向かった智治を見て、確信した。あそこが俺の席だと。
その後、教室に入ってきた教師が俺の事を心配していたが、適当に保健室で休んでいた旨を伝えた。その際、牧野先生にいくらか看病していただけたので大丈夫ですとも伝えたのだが、目を細めて凄惨な笑みを浮かべた先生に引きつつ、授業をこなしていく。
正直、社会人として働いてた頃は全くこんな知識なんて使わなかったし、昔の事だから少し心配してたんだが、教科書を眺めてたら大体の事は思い出すことができた。
これなら高校程度の問題は大丈夫だろう。
さて、時間は昼休み。
智治が速攻で弁当を持って近づいてきたのでそのまま昼飯に。
授業の合間の小休憩も智治がすぐに駆け寄ってきては心配そうに声をかけてくるもんだから変にドギマギしてしまった。そのせいか、女子は誰も話かけてくることなく周りでひそひそ話に興じていた。
多くの女子は俺たち二人を見ながら話をしていたようだが。
しかし、改めて見てみるが、女子高にいるんじゃないかと思うほど見事に女子しかいない。このクラスは総数38人。うち男子は2人。比率にして1:18という数値だが、他のクラスはどうなっている事やら。
それはそうと、授業中に携帯で男性保護委員会の内容について少し調べてみた。
まぁ、保護委員会と言うだけあって数が少なくなってしまった男性の生活を保障している団体みたいだ。しかも、怪我や事故で何かあってはいけないという事で、特例で男性は働かなくても大丈夫らしい。
その特例と言うのが、性行為向上役員の免許を取得している男性の事らしい。
文字からして大凡の事は把握できてしまうネーミング。やはりと言うか、活動内容は『政府が認める女性と性行為を為す男性』となっていた。少しややこしい説明をしているが、ようは国が設定した基準をクリアしている女性とセックスするらしい。
(容姿、容貌の優れたもの……か)
が、政府が一枚かんでいるだけあって基準として求められるものは高いらしい。
女性の方が圧倒的に数が多いんだ。その女性を見ているのもほぼほぼ女性であることは簡単に想像できる。
なんたって、前の世界ではそれなりに性欲のあった智治でさえ
……これがこの世界の男性の標準なんだろうか?
「どうしたの? まだ体調が悪いんじゃ」
「あぁいや、ただ単に考え事しててな。大丈夫だ」
本当に心配性になてしまったなぁ……今までを通してここまで心配されたことは無かったかもしれないぐらいだ。
「そう? それにしても、今日の授業で少し分からないところあったけど、保志君は分かった?」
「え? あぁ……特に問題は無かったな」
「そうなの!? ねね……なら、あとで僕に教えてほしいところがあるんだけど」
身を乗り出してそう言ってくる智治を見て悪い気はしなかったが、別に教えるのは俺じゃなくても良いような気がするんだが。
「いや、担当の先生に聞けば良いんじゃ」
「嫌っ……僕、女の人……怖いから聞けないよぉ」
なんだこいつかわいい。
「あー……すまん、意地悪しちまったな。俺で良ければ教えてやるよ」
「ホント!? ありがと!」
こいつ本当に男か?
しかし、こいつに何があったかは知らないが、これがこの世界の『女性に対する男性の捉え方』なのかもしれない。送り狼なんて言葉を飲み会なんかでよく聞いちゃいたが、それを実行するのが女性で、される側に男性が立っているのだろう。
こいつはこいつで昔、女性に何かされたのかもしれないがな。ただでさえ女子に見えるんだ。女子一人でも事に及ぶことができるかもしれない。そういう考えに至ってしまってもおかしくないだろう。
しかし……財布にしまった1万円を思い出す。
智治には悪いが、ヤりたい盛りの男子として考える事はただ一つ。
俺は、この世界でビッチになる!
あ……でも、出来れば綺麗な人とかかわいい人とかとヤりたいなぁ……