何も問題なく二時限目が終わった。
が、速攻で近寄ってきた智治に驚いたものの、我が身を心配してくれる友人の存在をありがたく思っていた。教室に2人しかいない男子の存在をどう思っているのか知らないが、女子連中のほとんどが俺たち二人を見つめてきているんじゃないかと誤解してしまうほど見つめてくる。
「あー授業かったりぃわー」
「ホント、ダルいよねー」
なんて声が聞こえてくる。
一見、普通の女子高生のような発言。しかし、実際に声が聞こえてきた方向を見てみると制服の胸元を少し肌蹴させながらパタパタと前後に服を揺らしていた。まだ4月。そこまで熱い季節じゃないが、何故あんな事をしているのだろうか?
智治との会話を話半分に、例の女子二人を盗み見ているが、次第に二人がチラチラとこっちを見ているのに気が付いた。俺が二人の事を見ている事に気付いてるかどうかは不明だが、彼女たちは俺たち二人がどんな反応をするのか見ていたいのだろうか?
それとも単にからかっているだけとか。
まぁ、どちらにしても二人の胸元から下着、ブラジャーが見えている事に変わりはない。しっかりと記憶させていただきますかね。
が、普通の会話をしているだけの女子の中にも大っぴらに股を開いている女子がいたりだ何だと、別に俺たち二人の事なんて関係ない張りの勢いで過ごしているものだから驚くしかなかった。
さすがに羞恥心はないのか、と。
それで興奮しているのであれば何も言うことは無い。それは個人の性癖だから。
しかし、それをもし同性に指摘されたら……いや、女子同士の嫉妬妬み何やらは正直関わり合いたくないほどに怖いものだと知っているから、やるなら他でやってほしいから何も言えない。
智治には悪いが、このまま会話をしているフリをしたまま眼福を継続させてもらおうかな。
今日一日の授業がすべて終え、放課後になった。
例の如く颯爽と近づいてきた智治が一緒に帰りましょう? なんて言ってきたが、丁重にお断りして校内探索を実施することに。いくら昔の母校だとしても全校舎を記憶しているわけじゃないので、改めて把握する旅に。
と言っても、単純に校舎を練り歩くだけの簡単なお仕事なんですが。
それにしても……一人で歩いていると女子から送られてくる視線の数が凄い凄い。
チラ見ガン見ひそひそ話。意味もなく歩いているだけだというのにこの注目度。思わず一旦立ち止まって可笑しい所がないかどうか自分の姿を確認してしまう。トイレに入って鏡を見ても特に変わりなし。
これが、この世界の女子たちか。
しっかし、一切話かけられることが無いもんだからどうしたもんか。
朝先生が俺に話しかけてきたのだって実は稀な事だったんじゃ? と思うほど。実際、遅刻かどうか確かめに来てたことを考えると、仕事じゃなければ話かけられることもなかったかもしれん。
まさか『男性の気分を害するような発言、行動を取り、男性にそれと認められる行為を為した場合実刑に処す』みたいな条例でも男性保護法に明記されてるんですかねぇ?
……まさか本当に無いよね?
「立川君か……?」
聞き覚えのある声。
生徒指導室と明記されたプレートのある部屋から出てきた先生は、一人の女子を伴っていた。あちゃぁ……何か指導でもしてたかな。
金髪にピアス。一般的な女子よりも長いレディース的な制服を着ている女子。
煙草が似合いそうな切れ目の顔だち。綺麗系の女子ではあるものの、どう見ても不良少女ですありがとうございます。
「あ、牧野先生」
「どうしたんだ、こんな時間に。もう放課後だぞ? 帰らなくて良いのか?」
「いやぁ、恥ずかしながらまだ校舎の造りを覚えてなくて。少し歩いていたんです」
「歩いてたって……もしかして一人でか? そんな、男子なんだ。少しは気にした方が……あ」
と、注意をしてくれた先生の頬がすっと赤く染まった。
俺の唇でも見ているのか? もしかして、朝のキスを思い出したとか。何というか、乙女ですな。可愛らしくてついつい抱きしめたくなってしまう。
「センセー、もう帰って良いっすかー? セッキョーはマジもう勘弁なんすけど」
「あ、ああ。もう帰って良いぞ。が、しっかりとした制服を着ること。分かったな?」
「はいはい。分かりましたよ」
「あと、煙草も止めろ」
「へーい」
あーマジかったりーわーなんて呟きながら歩き出した少女。
男子の俺がいるというのにあんまりこっちに興味を示していないようだった。
……いや、チラチラこっちを見ていた。それなりに興味はあるらしい。
それにしても思った通りの不良少女だったわけだが。
想像通りというか、テンプレの不良娘であれば一人か二人。少人数で屋上に行き、煙草を咥えているに違いない。その煙草を俺の愚息に置き換えたら……?
あ。これはいかん。いかがわしいな。
「ところで先生、少し相談したい事が」
「ん? どうした」
「ここでお話しするのもあれなので、そこで、良いですか?」
「え……あ、ああ。良いぞ」
今まさに先生と少女の二人が出てきた部屋を指で示した。
またしても頬を赤く染め、わたわた慌てだした先生の様子にほっこり。キスでイってしまう人だ。二人きりの状況というだけで慌てたのだろう。可愛い。
さて、生徒指導室の中。
少し狭い小部屋のような造りだ。広さとしては大体6畳くらいだろうか。
真ん中にテーブル。挟むようにして二つのソファ。上座には机と椅子が置いてある。一応、長くなりそうな時用にインスタントの飲み物が数種類置いてある。
部屋の入り口は一つ。小窓が付いていたらが、中に誰がいるのか分からないように小さなカーテンらしき布で中の様子が分からないように塞がれていた。
「でだ……その、立川君の相談というのは?」
「センセ、二人きりなんだし、そんな他人行儀にしなくて良いんですよ。朝みたいに保志君って」
「うぁ……や、保志君、そ、相談って言うのは……?」
可愛い。
名前を呼ぶだけで顔が赤くなるって。
どんだけ男性に対する免疫が無いんですかねぇ。
「先生には僕が童貞だって言いましたけど、先生はどうなのかなって」
「へっ? いや、わわ私は、その……一応……しょ、処女だ」
人差し指同士をくっつけては離しを繰り返しながら恥ずかしそうに喋る先生。
視線を逸らしながらもしっかり応えてくれる辺りが可愛らしかった。
「そうなんですか? 朝、いきなり僕を押し倒してきたから経験済みなのかと」
「うわーっ!? そ、それを言わないでくれぇ!! わ、私だってあんなことをするつもりはなかったんだ! 確かに三十路を手前にして未だに処女ってのは気にしてたけど、それを、保志君があまりにも無防備だったから」
「そうですか。いやまぁ、朝も言った通り、僕は誰にもあの事は言いませんし、訴えるつもりもありません」
「ほ……で、その、相談ってのは、私が処女かどうか確かめたかっただけなんて言わないだろうな?」
恨めしそうに睨み付けてくる先生。
しかし、そうか……まだ三十路じゃないんだ。
もしかすれば、30歳まで童貞だったら魔法使いになれるみたいな話が女性の方にそのままスライドしているのかもしれないが、俺としては先生がまだ誰のお手付きにもなってないって話が聞けただけ嬉しかった。
「もちろん。それで、もし先生が良ければ、追加料金で僕の筆卸ししてくれないかなって思って」
「ふっふふ、筆卸し……」
筆卸しという言葉だけで軽くトリップしてしまった先生を無視して、ソファから立ち上がり、先生の隣に座った。
二人掛けのソファとは言え、真ん中に座っていた先生の隣に座るとなると少し狭い。が、それがかえって密着感を創り出していた。
「いや、その、恥ずかしい話なんだが……もう、後1万くらいしか無いんだ。さすがに、それでお前の初めてを貰うって言うのは申し訳ないんだ……」
いきなり隣に座られて驚いていた先生だが、すぐに顔が赤く染まり、しかしながらしゅんと落ち込んだ表情に。いや、朝に1万貰ってますし、それと合わせても男子の筆卸しってのはかなりの価値があるんだろうか?
残念そうな顔をした先生を慰めるべく、腰に腕を回し、抱き寄せた。
少し背の低い牧野先生だと、ちょうど俺の胸に顔が来るくらいだった。
「センセ……そんなに落ち込まないで? 俺、そんなに多く貰おうなんて思ってないです。先生の事、俺、結構好きですから」
「や、保志君!」
「わっ」
宙ぶらりんとしていた両腕で俺を抱きしめてきた。
ぎゅぅっと強く抱きしめてきたが、そんなに苦しくない。逆に、先生の豊かな双丘が押し付けられて心地良い感覚に囚われていた。頬を制服に擦り付けてくる様子を見て、小動物を思い浮かべてしまった。ご主人様にくっつく柴犬みたいな感じで。
ついつい苦笑を漏らしたが、これはこれで可愛いので良し。左手で頭を撫でてやる。いきなりの行為にビクッと吃驚したようだが、すぐに身を委ねてくれる。
「や、保志くん……」
「センセ、上向いて」
「ん」
潤んだ瞳。紅く染まった頬。
期待に応えるように軽くキスを落としたのだった。