(県祭りが終わって、また数日経ち…)
今日も、いつもの教室で、コンクール出場者を決めるオーディションのための練習をしていた私達。表向きは、何も変わっていないように見えるが…。
後藤「黄前さん、音良くなったよな」
久美子「…」
あすか「確かに、味わい染み出てきた。
何かあったのー?」
久美子「あ~、いや~…アハハ…」
後藤くんとあすか先輩に以前までとユーフォの音が変わったことを褒められ、適当に誤魔化している黄前ちゃん。
どうやら、私と優子が“あんなこと”をしていたこないだの県祭りで、何かあったらしい。
(回想。県祭りの日…)
久美子「ハァ…ハァ…。
なんで…ユーフォ持ってこなくちゃいけないんだ…」
(麗奈が待つ県祭り会場の待ち合わせ場所に、ユーフォ入りの巨大バッグを抱えて急ぐ久美子)
麗奈「…10分遅刻」
久美子「…あ…」
(久美子が階段を登ると、そこには白いワンピースを着たいつもとは違う麗奈がいた)
麗奈「何?」
久美子「…いや…可愛くてビックリした…」
麗奈「…」
(ザッ…)
(久美子のその誉め言葉に何も反応せず、方向を変えた麗奈)
麗奈「行こ、大吉山。 登るの」
久美子「え?」
麗奈「…イヤ?」
久美子「イヤじゃないけど…。
こういうことよくするの? いきなり山に登ったり…」
麗奈「私を何だと思ってるの? するわけないでしょ」
(麗奈、大吉山の方を向く)
麗奈「でも、たまにこういうのしたくなるの。
18切符でどこかに旅立ちたくなる」
久美子「…」
麗奈「…」
(山を登り始めたと思ったら、突然足を止めた麗奈)
麗奈「…交代。 楽器。
そういうのちゃんとしないと気が済まないから」
(久美子にそう命令しながら、髪をポニテに結び直す麗奈)
久美子「えぇ~…」
…数分後…
麗奈「暗いと思って、ライトのアプリ入れといた。
私、本当は前から思ってたの。 久美子と遊んでみたいって。
久美子って性格悪いでしょ」
久美子「うっ…」
麗奈「中3のコンクールの時、本気で全国行けると思ってたの?って聞いたんだよ? 性格悪いでしょ」
久美子「それ、悪口…?」
麗奈「これは、愛の告白」
(麗奈のその告白に、微妙な反応をする久美子)
麗奈「私、久美子のそういうとこ気になってたの。
良い子の顔して、でも本当はどこか冷めてて。 だから良い子ちゃんの皮…ペリペリってめくりたいなって」
久美子「…」
(図星のようで、胸に手を当てている久美子)
(大吉山頂上に到着)
麗奈「そんなに塚本が気になる?
ねぇ、お祭りの日に山に登るなんてバカなこと…他の人はしないよね」
久美子「…」
麗奈「久美子なら分かってくれると思って…。
私、興味ない人とは仲良くなろうと思わない。
例えば、仲良い女の子同士でシュシュ作って見せ合ったり…。
SNSで交流したりとか…」
麗奈「そんな当たり前に出来上がってる流れに、抵抗したいの」
(麗奈、久美子の方を向く)
麗奈「分かるでしょ?」
久美子「…分かるよ、高坂さんの気持ち…」
麗奈「…」
(麗奈、無言で久美子にゆっくりと近付く)
麗奈「久美子」
久美子「麗奈…って、ちょ…!」
(麗奈、久美子の額に人差し指を当てる)
麗奈「私、特別になりたいの。
他の奴らと、同じになりたくない」
(久美子の唇に人差し指をゆっくり降ろしていって、話を続ける)
麗奈「だから私は、トランペットやってるの。
他の人と同じにならないために」
久美子「…トランペットやってると特別になれるの?」
麗奈「なれる。
もっと上手くなればもっと特別になれる。
自分は特別だと思ってるだけの奴じゃない。
本物の特別になる」
(そう言い切って、後ろのベンチに座る麗奈。風圧でスカートが捲り上がりそうになる)
麗奈「…やっぱり久美子は性格悪い」
(その後、大吉山頂上で麗奈と一緒に中3の時、送別会でやった演奏曲を演奏した久美子)
(回想終了)
あすか「…それより、サファイア川島。
今の気の抜けた演奏は何?」
緑輝「えっ?」
あすか「罰として、新しい譜面台持ってくる!」
緑輝「えぇ~…」
(そう嫌な顔をしながらも、音楽準備室に新しい譜面台を取りに行ったサファイア)
あすか「サファイア川島、何かあったの?」
久美子「え…あ、いや~」
夏紀「…」
(何か隠していた久美子のその反応を見て、両脇から圧力をかけるあすかと夏紀)
葉月「…あ~…実は…。
私が祭りの時に失恋しまして」
あすか・夏紀「えっ!?」
久美子「ちょっと…葉月ちゃん…」
葉月ちゃんのその発言に驚く私とあすか先輩。黄前ちゃんはそんな葉月ちゃんを庇おうと慌てている。
葉月「緑、その時背中押してくれてたから…」
梨子「失恋の責任、感じちゃってるのか」
あすか「どうでもいい。 正直、どうでもいい。
私情で練習できなくなってるような奴に構ってる暇ない」
夏紀「…」
葉月ちゃんの恋路の背中を後押しした責任を感じているサファイアちゃんに対して、急に冷たい目をしたあすか先輩に、私は、恐怖を感じた。