(夏紀が久美子とお互いの秘密を共有する仲になった夜から翌日…)
夏紀「…このまままた銅取ったら、私と葉月ちゃんがオーディション落ちた意味ないんですけどー」
後藤「…」
梨子「…」
表向きは、いつもと変わらない日の昼下がり。しかし、私は、いつもの3年3組教室で、またやる気を失って、いつもの窓際でだらけていた。後藤くんと梨子達が気まずそうにしている。そうなっている原因は…。
(数時間前)
「やっぱりさ、贔屓するつもりなくても、知ってる知らないじゃ違うと思うんだよね」
「結局、高坂さんをソロにするためのオーディションだったって話もあるらしいよ」
「高坂さんのお父さんて、有名なトランペット奏者なんでしょ?」
「じゃあ先生、嫌とは言えないね」
(校内の各場所で、滝先生が麗奈に贔屓でソロパートを任せたことを気にくわない女子部員達が悪口を交わしている)
(挙句の果てには…)
「いっくよー!」
(バッ!)
(ボフッ!)
(音楽室にて。滝先生の指示で敷いていた毛布を勝手に片づけて、1人の女子部員がその毛布の山の上に飛んで遊んでいる)
「アハハハ!」
(その時…)
(ガラッ!)
「…あ…」
滝「………」
「………」
滝「…どうして片づけてるんですか?」
「あ…いえ…これは…」
滝「…私は取って良いなんて一言も言ってませんよ!!」
「………」
滝「…敷き直しなさい」
「…はい…」
(そんな感じで、吹部は今、かなりピリピリムードになっていた)
緑輝「あすか先輩は…」
葉月「…! だね!! あすか先輩なら皆のことノせてくれそう!!」
夏紀「…」
夏紀(フッ)
緑ちゃんと葉月ちゃんのその提案を聞いて、あすか先輩だったら何か進展させてくれそうな予感を感じた私も、一瞬笑みを浮かべた。
(その頃、副顧問の松本先生との二者面談を終えた久美子は…)
久美子「…はぁ~…。 緊張したぁ~…」
(某所の廊下で、一息吐いていた)
久美子「…ん? あれは…。
香織先輩…?」
(久美子が外を見ると、そこにはトランペットの練習をしていた香織の姿があった)
香織「~~~♪♪」
久美子「…ソロのところだ…」
(その時…)
(ピタッ)
(バッ!)
久美子「ひゃっ!」
(突然、何者かが背後から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを太ももに当ててきた。情けない声を上げながら、久美子は慌ててその人物の方を振り返る)
あすか「…へっへ~♪ 驚いた?」
久美子「…もう! ビックリしたじゃないですか!」
あすか「ごめんごめん」
(そうあすかとやり取りしながら、一緒に外で練習中の香織のことを見つめる)
香織「~~~♪♪」
あすか「…オーディションに不満があるとかじゃない。
ただ、納得してないんだろうね、自分に」
久美子「…あすか先輩はどっちが吹いた方が良いと思ってますか?」
あすか「それは答えられないかな。 私的な意見はノーコメンツ」
久美子「…」
あすか「…」
(あすかがそう答えたあと、数秒ほど、お互い沈黙が続き…)
あすか「……正直、心の底からどうでもいいよ。
誰がソロとか、そんなくだらないこと」
久美子「…」
(そんなあすかの闇を感じながら、久美子はその後、あすかと別れた)
(その日の夕方…)
(ザワザワ…ガヤガヤ…)
(パンパン!)
(部長の晴香が手を叩いて、音楽室の吹部部員達を静まらせた)
晴香「皆に話があります。
最近先生について、根も葉もない噂をあちこちで聞きます。
このままじゃ、銅どころか銀も怪しいと私は思っています」
「………」
「………」
(静かに晴香のその話を聞いている部員達)
晴香「不満があるなら裏でコソコソ話さず、ここで手を挙げてください。
オーディションに不満がある人」
優子「…」
「…」
「…」
晴香「…」
(香織こそが選ばれるべきだと思っていた優子は、真っ先に挙手。他の部員達もそれに続いて手を挙げる。それを無言で確認する晴香)
(ガラッ!)
滝「…おや…今日は随分静かですね。
この手は?」
優子「…オーディションの結果に不満がある人です」
香織「ちょっと…優子ちゃん…」
夏紀「…」
タイミングを図ったかのように、音楽室にやって来た滝先生に、例のオーディション結果の件のことを話した優子。
私は、チラッとそんな優子の後ろを見つめ、香織先輩が麗奈ちゃんが真ん中の席に座っている中で、小さな声で優子のことを注意していた。
滝「…そのことで…今日はお話があります。
希望者には、再オーディションを行いたいと考えています」
「!」
「!」
(滝先生のその発言に、驚きの表情を浮かべる部員達)
滝「来週全員の前で演奏し、全員の挙手によって合格を決定します。
全員で決定する。 これなら異論はないでしょう。
聞きます。 再オーディションを希望する人」
(数秒、沈黙が流れる中…)
(スッ…)
香織「…ソロパートのオーディション、もう一度、やらせてください」
私達は、そんな香織先輩の勇気ある決断とも取れる挙手に、またもや不穏な空気に包まれていた…。
ただ1人…ほくそ笑んでいたあすか先輩を除いて。