(回想)
(脳内で、数日前の再オーディション時の麗奈の演奏のことを思い返していた久美子)
久美子『…上手くなりたいって気持ちは前より強くなった』
久美子『熱いのか…冷めているのか…』
久美子『あのオーディションの麗奈を見て、あの音を全身で受け止めてしまってから、私は侵されてしまったのだ』
久美子『上手くなりたいという熱病に』
葵「…久美子ちゃん?」
久美子「…! 葵ちゃん…」
(帰り道のいつものお気に入りの場所で、ユーフォの練習していた久美子。そこをたまたま通りがかった、かつて吹部を退部した斉藤葵が声をかけてくる)
葵「んね、全国行けそう?」
久美子「…分かんない。
でも上手くなったと思う。
春に比べたら段違いだよ」
葵「…」
久美子「…」
(多少の沈黙が続き…)
久美子「…吹部辞めたこと、後悔してない?」
葵「してないよ。
私は受験の方が大切だったから」
(久美子に背中を向け、引き続き言葉を発する葵)
葵「…私には、続ける理由がなかったから」
(葵と別れた久美子)
(現在に戻り…)
(関西大会予選10日前の音楽室。いつもと同じく練習中の中…)
滝「…トロンボーン塚本君、今のを常に吹けるように」
秀一「…」
(無言だったが、明るい表情になっている秀一)
滝「…では、158小節目から」
(数分後…)
滝「…トランペット、音を区切って。
ホルンは、もっと下さい。
そして…」
(数秒沈黙が流れ…)
滝「…ユーフォ、ここは田中さん1人でやってください」
久美子「!!」
滝「では、もう一度」
久美子ちゃんが脱落したという情報は、私の耳にも入って来た。
それは一瞬の出来事だったらしい。反論の隙も猶予もなく…。
今すぐにでも、久美子ちゃんをこの手で慰めに行ってあげたかった。しかし、私は数日前の久美子ちゃんとの例の一件以来、麗奈ちゃんにそのポジションを譲ったので、到底そんなことは出来るはずもなかった。
そう…。これは関西大会進出を賭けた戦いなのだ。
(その日の夜…)
久美子「…」
久美子(あのあと、私は帰り道、思い切り涙を流した。
上手くなりたいという気持ちで、誰にも負けたくなかった。
その時、私は知ったのだ。
1年前の南中の京都府コンクール予選を麗奈と一緒に見に行って…。
あの時、麗奈がどんな思いでいたかを、私は知ったのだ)
(その頃…)
夏紀「…」
私は1人、自分の自宅の自室にこもっていた。いつもみたいに優子や、こないだみたいに香織先輩も連れ込んではいない。
久美子ちゃんが関西大会予選参加から脱落したと聞いてから、まるで自分のことのように、なぜか凄く悔しくて、1人でいたかったからだ。
夏紀「…久美子ちゃん…今頃…どうしてるんだろう…」
そんなことを、1人ベッドの上に寝ころびながら考える私だった…。
(そして、ついに関西大会予選の日がやって来る…)