希美「私、部活に戻りたいんです!」
夏紀「………」
私は、あすか先輩に頭を下げた希美を横で見て、一瞬戸惑いながらも続けて先輩に頭を下げた。
夏紀「…私からも、お願いします」
あすか「……私に言ってもしょうがないでしょ。
私は副部長だよ? しがない中間管理職」
希美と私の精一杯頭下げに、あすか先輩は見た目は笑顔だが、嘲笑っているようにも見えた顔で私達に反論してきた。
希美「お願いします!
あすか先輩の許可が欲しいんです!!」
久美子・梨子・後藤「「「………」」」
顔だけ上げ、あすか先輩の顔を見つめながらもう一度吹部に戻りたいとお願いした希美。久美子ちゃん達も気まずそうな顔しながら無言でこの光景を見つめていた。
あすか「……悪いけど今、練習中なの。 帰ってくれる?」
夏紀「………」
まただ。これまでにも、時々自分に都合の悪いことがあると無表情になるあすか先輩が私達の目の前にいた。
梨子「………」
後藤「…1年生は、先に帰ってほしい…ちょっと話し合いたい」
(そう言われ、部活を切り上げ、校舎を出て校門前の階段を降りていた久美子、葉月、サファイア川島。外はすっかり夕方になっていた)
(コッ、コッ…)
(久美子達が階段を降りている音)
葉月「なんか、1年だけ仲間外れみたいでやだなー」
久美子「あれかなぁ…去年2年生がいっぱい辞めちゃった事件と関係してるのかなぁ…」
(数日後…)
希美「お願いします! 部活に戻りたいんです!」
今日も、翌日も、その翌日も、希美はあすか先輩の元にやって来た。私ももちろん同行して、一緒に精一杯頼み込んだ。
葉月「夏休みなのに、毎日来て練習終わるの待ってるんだよねぇ…」
久美子「そんなに戻りたいのかな…希美先輩」
(3年3組教室前の廊下で、毎日あすかの元にやって来ていた希美を気にかけている久美子達)
久美子・緑輝・葉月「「「…」」」
(閉め切られた3組教室のドア越しに、室内の声を盗み聞きしようと耳を当てている久美子達)
希美『…どうしてダメなんですか!』
あすか『…以上で閉廷する。 練習戻るよー』
(少しずつだったが、何とか室内の希美達の声が聞こえてきた久美子達)
夏紀「希美は、今からコンクールに出たいとかそういうのは全然なくて」
希美「そうなんです。 ただ、皆の手伝いをしたくて…」
久美子ちゃん達が廊下でこの状況を盗み聞きしていることなど知らず、私と希美は席に座りながら三者面談のような形であすか先輩と言い争っていた。
あすか「だーかーらー、私に決定権は無いって言ってるでしょ?」
希美「それでも先輩に許可して欲しいんです!!」
あすか「…ハッキリ言うよ? 私は希美ちゃんの復帰に賛成しない。 この部にプラスにならないからね。
だからもう来ないで欲しい」
(ザッ…)
久美子・緑輝・葉月「「「あわわ…!」」」
(厳しい口調でそう言い捨てて、久美子達がいるドアの方に、教室から出ようとしていたあすかが歩いてきたので、慌てて近くの柱の物陰に隠れる久美子達)
(ガラッ!)
(コッ、コッ…)
(あすか、久美子達に気付かずに教室から出て行った)
(その直後…)
晴香「何してるの?
もしかして…希美ちゃんまた来てるの?」
(あすかと入れ違いに階段を上がってきて、柱の物陰に隠れていた久美子達に気付いた晴香)
(スッ…)
(晴香、希美が来ていた教室の方を身体を傾けて見つめる)
晴香「…1年は気にしないで練習に集中して」
緑輝「…気になって練習にならないです!」
(晴香のその指示に、気になって練習できないと反論するサファイア川島)
晴香「…うーん…」
晴香「……去年辞めた部員が沢山いるでしょ?
その大半が南中の生徒だったの」
晴香「希美ちゃんも夏紀ちゃんも南中。
だから色々大変なんだと思う」
(数時間後…)
葉月「南中かぁ…」
緑輝「確か、今年も中学の部は金賞でした。 ダメ金でしたけど」
(学校帰り、いつも立ち寄るコンビニ前で仲良くアイスバーを食べている久美子達。葉月とサファイア川島のいつもの面子に、麗奈もいる)
久美子「私達が2年の時は銀だったよね」
麗奈「…優子先輩と鎧塚先輩も南中って聞いたことある」
久美子「あぁ…それで…」
(数日前、優子とすみれが仲良く夏休みどうするかと会話していた時のことを思い出した久美子)
緑輝「後藤先輩や梨子先輩を見てると…。
やっぱり先輩達にとって去年のことって大きいんだなって思います」
(その頃、北宇治高校正門出入り口にて仲良く下校するところだった後藤と梨子)
葉月「2年生は特に話したがらないもんねぇ。
その話になると、ピリピリするし…」
(その頃…)
夏紀「………」
希美「………」
葉月ちゃんに自分達の噂されていることなど知らず、私と希美は、この間久美子ちゃんを奢りに誘った時に学校帰りに寄ったファーストフード店にて一緒にシェイクを飲んでいた。
私も希美も、あすか先輩とやり合った後だからか、ピリピリしていてとても会話する気にはなれなかった。
(同じ頃…)
みぞれ「………」
(~~~♪♪)
(1人音楽室に残り、オーボエの個人練習をしていたみぞれ)
緑輝「そうやって出てった人が戻って来たいって言ったら、やっぱり嫌なものなんでしょうか」
久美子「どうだろう…」
(再び夏紀と希美がいるファーストフード店に場面が変わり…)
夏紀「………」
希美「………」
夏紀「…そういえば…」
希美「何?」
夏紀「明日…花火大会だなって」
希美「…ああ…。 そうだったね」
夏紀「そのことなんだけどさ…一緒に行かない? 気分転換ってことで」
希美「……そうだね…いいよ」
私と希美は、2人で明日の花火大会に行く約束を交わしていた…。