二十六振り目 最悪というのは当たることが多いです
ひよ・ころ・詩乃は小谷城で起こった一件を壬月達に伝えるための清洲城への先触れとして城を出た。今はアキラと久遠、そしてエーリカだ。久遠は真琴が越前に放った草の帰りを待っており、アキラは筋トレをしてエーリカは武器の手入れをしていた。そうやって時間をつぶしていると市が部屋に入ってきた。顔色ですぐに用件が分かった。
「お姉ちゃん!」
「わかっておる。いくぞ!二人とも」
「「ええ(はい)!」」
待ち望んだ草の帰還だ。
小谷城の評定の間にて。
「では、報告を頼む!」
「は!」
真琴の言葉に一人の足軽が話し始めた。越前はもう人の影が全く見ない国になっており、五十人の草を放ったが戻ってこれたのはたったの三人だった。そして、越前の最も重要拠点ともいえる一乗谷も既に鬼に支配されていて、その一乗谷を中心に鬼達は統率しているとのことだ。
「今までとは違い、鬼達は集まって行動している。組織化していると言うことですか?」
「そうです!今まで襲ってきた鬼達とは明らかに違っていました!」
アキラの言葉に足軽は肯定した。
「その話が全部本当の事として考えるなら、統率しているのは越前の国主、もしくは侍大将でしょう。鬼にも階級があります。どちらかもしくは両方が上級の鬼となって下級の鬼を率いていると思います。力のある鬼に従いますので」
「そ、そんな!義景姉さまが・・・鬼に」
エーリカの話に真琴の言葉はが弱弱しくなっていく。
『私達の世界では同盟相手だった織田信長を裏切ってまで朝倉に味方した浅井長政。ここでも相当強い縁だったようですね』
その悲しむ姿にアキラは少しだけ同情した。
「ねえ、エーリカさん。義景さんを救えないの?」
「申し訳ありません。私が知っているのはここまでです。鬼から人間に戻す方法があるなら私が聞きたいくらいです」
市の言葉に出すエーリカの辛い現実の言葉。でも、受け止めないといけない。
「真琴・・・今はおけい。とても悔しいのであろう。なら、その悔しさを持って朝倉義景を鬼としてでなく人として倒してやれ。それが一番の恩返しではないか?」
「姉さま・・・はい!」
久遠の言葉に気合を入れたのか、気持ちを切り替えた。
その後、様々な推測を話し合いをしたが、とりあえずエーリカを連れて尾張に戻ることにした。越前からの鬼の侵攻はとりあえず真琴達に頼むことになった。
『向こうではかつての壬生一族は死者をよみがえらせて奴隷にしたり、ここでは誰かはまだ分かりませんがこの国を鬼の国にしようとする。ましてや、既に越前は鬼の国と化している。これは、本当にどうなるのか分かりませんね』
今は尾張に戻る道中だ。
「それにしても、堺でエーリカに会い、京で一葉達に会い、北近江で真琴達に会い、越前が鬼の国になってしまった。この短い期間にいろいろありましたね」
「そうだな・・・でも、やれるべきことをやろう」
「ええ、一つずつやること。それが成功への道筋です」
「そうですね。少しずつ、やっていきましょう」
そのエーリカの言葉にアキラは疑問だった。
「あれ?エーリカなら「お気楽ですね」と言ってくるかと思ったのですが」
「はい、前だったらそう言っていたかもしれません。こうしてのんびりしているどこかで鬼に苦しめられている民がいるのではないのか?と」
一呼吸おいて、しっかりアキラの顔を見て言った。
「でも、アキラ様が言ったことが私を見つめ直すいい機会でした」
「私の言ったこと・・・ですか?」
「そうです。あれのおかげで私は変われたと思うのです。これから先はアキラ様のように努力をする・・・人に頼んだり文句を言ったりするのではなく自分でやるように」
「ふふ、エーリカならできますよ。その信念があればね」
昨日までの彼女の眼と思いが違うことに微笑むアキラ。だが、それを面白くしない人物がすぐ隣にいた。
「アキラ!さっきから金柑と話しおって・・・我とも話さんか!」
「いた!つねらないでくださいよ」
「妻がいるのにほかの女を誑しているからだ!」
この時アキラは察した。これはどんなに言っても聞かないと。
「・・・エーリカ。私、誑してました?」
言葉が出ないエーリカ。若干、赤くなって俯いている。
「ほれ見ろ!真っ赤になって言葉が出ないと言うことは、誑されている証拠だ!」
「いや、それは早合点かと」
「く、久遠様!あ、あの・・・あ、アキラ様。あの夜の事、絶対に忘れませんから」
自分を変えたアキラの言葉忘れない。と赤くなりながら言ったエーリカ。でも、タイミングが悪すぎた。
「あ、き、ら~~~!!!」
「天然ですが?それとも狙ってるのですか?・・・どっちにしろ、最悪です」
その後、先触れで先に帰っていたひよ、ころ、詩乃の三人が来るまで久遠の嫉妬満載の文句は口を閉じることはなかった。
『ですが、嬉しいですね。久遠が私にそういう気持ちを持ってくれるのは』
でも、少し嬉しくなり甘んじて文句を受けたアキラだった。
尾張に着くとまず久遠の家に行き、久しぶりにもう一人の妻に会った。
「おかえりなさい。アキラ」
「ただいま帰りました(ぎゅ)」
「な!あ、アキラ!」
「すいません。いろいろと(ちゅ)」
そう言って、結菜を抱きしめて接吻をした。
「も、もう!い、いきなり、な、何するのよ!」
笑顔で文句を言っても迫力がない。むしろ、嬉しいのが一目瞭然だ。何気に彼女もアキラの背中に手を回している。
「あ、き、ら~!。貴様は、また!」
「でも結菜は私の妻です。一人で寂しい思いをしていたのですから、これくらいはしてあげないと夫として冷たいのではないのですか?それに、久遠も結菜の夫でしょう?抱きしめるくらいはしてあげるべきかと」
「そうよ、久遠。そっちは二人でイチャイチャしていたのでしょう。これくらいはむしろしてもらって当然よ。というわけで、さあ久遠」
アキラから離れて、今度は久遠を迎え入れる準備をした結菜。それを見て慌てる久遠。
「う・・・っは!い、いやイチャイチャなどしていない!」
「はいはい。それより・・・とても珍しいお客様ね」
久遠いじりはここまでにして、エーリカに目をやった結菜。その後、自己紹介した際結菜とエーリカが遠い親戚にあたることが分かりすぐ仲良くなった。
だが、すぐに城に行き越前の状況の説明と自分達の方針を家臣達に伝えて戦準備に入り、ここで食事という流れになったのだが、先に戻っていた詩乃達の説明のおかげか、城に向かう途中なのに既に上洛準備に入っていた。
清州城では久しぶりの壬月に麦穂や三若達との再会して、すぐ上段の間で話に入った。エーリカの紹介で和奏達が初めて見た異人に盛り上がり、壬月から拳骨を食らったのはいつもの事。
エーリカの話が終わり、次はアキラが越前の説明をすることになりできる限り時間をかけてやった。何しろ、鬼の存在を認めていても未だその実力は未知数なことに気づいているのは織田家中でも今評定の間に出ているものくらいしか知らない。だからこそ、しっかり話して事態を把握してもらう必要があった。
『本当に私もこの人達と会って変わりましたね・・・前の私だったら、ここまでの説明何て面倒くさいの一言で片づけそうだったのに』
説明が終わると、久遠は方針を出して家臣達に指示を出した。三河にいる仲間の松平勢も加えて一緒に上洛ということになり、その松平への使者は詩乃が名乗り上げた。
『松平・・・確か徳川ですよね。ということは、徳川家康と顔合わせということになりますね。紅虎の父親がここでは女性ですか・・・何か複雑ですね。いったいどんな女性なのか』
『あの狸親父が生きとる限り、わいは一生不幸や~~!』
笑ってしまいそうな言葉を思い出したアキラ。そうしている間に家臣が皆いなくなり今は久遠の二人だけとなった。彼女は真剣でも辛そうな顔をしていた。
「久遠、鬼との戦いは不安と恐怖。それを家臣や兵にやらせる。だが、それを恐れてびくびくして臆病になっている。今のあなたの心境はこれですね」
「・・・・・・ふん!」
『やれやれ、相変わらずですね・・・素直に言わない。それが可愛いですけど』
「そう言えば結菜に接吻してあなたにはしてなかったですね」
「・・・は?」
そんな彼女の顔を包んで、接吻をした。逃がさないように手に力を入れ、そして結菜の時とは違いすぐに離れない時間をかけた接吻をした。
「いい加減に周りを見なさい。私達織田家中の皆は、あなたを支えたいと思い、それをすることに喜びも感じています。だから、あなたはそれを素直に喜び、私達を信じてください」
『そう、紅虎が私を支えた。だから今度は私が久遠を支える。あいつと同じ立場になって支える嬉しさ。それを久遠に分かってもらいたい』
自分達の喜び、それが久遠の支えであることを伝えた。
「・・・うつけめ。急にこんなことを」
「でも、これでわかったでしょう?あなたを支えたいと思う気持ち・・・そして、あなたを愛しているという気持ちが」
「ふん。たった一回の接吻で全部わかるわけなかろう」
照れながらそう言った。ワンモアプリーズのサインだ。そんな彼女の要望に思わず心から笑顔になった。
「それならもう一度」
「・・・・・・」
そして、再度接吻をしようとして久遠が目を閉じた時に
「アキラ。それは自宅でやるべきよ。そして私にも・・・ね!」
すぐそばに結菜がいた。その声に、一瞬でアキラから離れる久遠。
「なああ!なななななな、ゆゆゆゆ、ゆ、結菜!!」
「あらあら、真っ赤っか。うふふ」
「お頭・・・久遠様だけですか?」
「えへへ、じつは、おねだりしているところからいたりして・・・」
「むう、羨ましいです」
地味に羨ましそうに見るアキラ隊もいた。
「く~おん。夫婦なんだし、遠慮しないでいいのよ~。ほらほら、さっきの接吻を頼む恥ずかしがる久遠を見せてちょ~~うだい♪」
楽しそうに迫る結菜。
「こ、こ、このうつけものどもが~~~!!!」
思いっきり真っ赤な顔で久遠は逃げていった。
『やはり、久遠はこうでないとね』
遠ざかる背中を見て笑顔をだすアキラ。その時、何か結菜が詩乃と話しているのが見えたが気にしないことにした。
『さて、豆腐の味噌汁と結菜の手料理が私を待っています。早く行きましょう』
久遠が先に逃げ帰った屋敷に、話の終えた結菜と二人で歩き始めた。
はい!第四章開幕です!
遂に、ついに!つつついいいににに!アキラと最も関係の深いあの一族と対面です!
う~む、最近のアキラ。女との接し方が大胆になってきたな・・・。