ではついに五十一話目です!
小波の頑張りと詩乃と雫の予測をやった結果、探していた長尾本陣の場所を突き止め仕入れた情報を美空に伝えた。
「・・・私がいない間に、そんなことが」
「小波の話では一日に二、三回は無礼討ちがあったらしいです・・・私自身も一回見ました」
「春日山の城下でっすか・・・信じられないっす」
「早くしないと」
「・・・相当状況が危機に迫っているみたいですね」
「うん・・・早く取り戻さないと、もっとひどくなるの」
鞠の言葉に長尾の四人は言葉が出なかった。美空が険しい顔で考えをしている中、静かだったが秋子が口を開いた。
「美空様・・・一つ提案があります」
「何よ」
「・・・空様と我が娘の愛菜をむぐ「それ以上は言ってはいけません」」
提案を出そうとした秋子の口をアキラがふさいだ。
「そうっす!絶対に言っちゃダメっす!」
「私も賛成」
何を言おうとしたのか長尾勢はもちろん、共に来たアキラ隊の面々も分かっていた。少し顔の赤い秋子の口から手を離した。
「美空の部下として・・・そして、一人の母親として、絶対にそこから先の言葉は言ってはいけません」
『絶対に幸せにするから!あなた達は私が守るから!』
『このお腹の中の子は、私達のような生き方ではなく幸せになってほしいわ・・・』
脳裏によぎった母親となったゆやと朔夜の笑顔。それはとても輝くものだった。
「アキラの言う通りよ・・・絶対に言ってはダメ」
「で、でも、じゃあ、どうしたら」
却下を出しても案が出てこない。そこにアキラが提案をした。
「私達が城に侵入して二人を攫いましょう」
あっさりと言ったこの提案に長尾勢はキョトンとした。
「え?アキラさん・・・何て?」
「あなた達の娘を攫う、と言ったのですよ」
「ほ、本気だったの!冗談と思っていたのに」
美空の言葉は家臣三人の意見でもあった。
「アキラさん・・・それは無理じゃないっすか?」
「あの城、難攻不落」
居城の春日山城がどんな城か分かっている四人にとっては、無理と思う提案だった。
「難攻不落と言われる城ほど死角はたくさんあるので、そこを突けば大丈夫ですよ。街を出る際にちょっとだけ騒ぎになりましたが、美空の少数部隊が潜入して騒ぎを起こした。という見方になっているでしょう。私達織田の人間が入っていることなんて知る由もありません。それに、そういう城なら二度ほど落としたことがあります」
「・・・その時に口説くことさえしなければ完璧なのですが」
「全くじゃ!余だけを口説いておけばいいのに!」
「一葉様~、今はそういう話ではないでしょう?」
「詩乃に一葉ちゃん。アキラだから仕方ないの」
アキラの言葉にツッコミを入れる詩乃と一葉。とどめの鞠の言葉に苦笑いのアキラと長尾勢。
「織田の名を喧伝しておけば、美空様の名に傷もつきませんし・・・金ヶ崎の退き口でボロボロになったアキラ隊が金欲しさに空様を誘拐した・・・ということにしておけば大丈夫でしょう」
「雫の言う通りです。あそこでは本当にボロボロになりましたし、名が傷つくのは織田で済みます・・・結局、こうなってしまうのですね」
「すいません。でも、大切なことです」
「分かってますよ・・・でも、今回だけですからね!」
そうやって軍師二人の付け足しを聞いて、美空は決心した。
「織田久遠殿の夫アキラ殿!力をお借りしたい」
「任せてください」
笑顔で答えた。そのすぐ後だった。
「アキラ様。ご協力いたします」
後ろから葵が声をかけてきた。
「あら?あなた・・・誰だっけ?」
「織田久遠信長様の盟友の松平葵元康と申します?ご挨拶したはずですが?」
両者ともに仮面の笑顔を見せていた。
「化かしあいはまた今度にしてください・・・葵、協力というのは?」
「アキラ様が人質を取り戻しても追手が来るでしょう。その追っ手を私達松平が撃退します」
この言葉にアキラは内心驚いた。
「へ~、引きこもっていたあんた達がね~~。どういう風の吹き回しかしら?」
「人質を使って好き放題する城にいる者が許せないからです」
「ふ~~ん、力を貸してもらえるなら遠慮なく頼むわ」
「それは、我らが越後で動いていいと解釈しても?」
「そう言っているのよ・・・アキラ、頼んだわよ」
「ええ、もちろんです」
予想外の松平の援護ももらうことになり、アキラは自分の隊に戻った。
葵も自分の陣に戻った。
「葵様、何故アキラ殿の力になることを?」
「気になるからよ」
「もしや、葵様。アキラ殿に誑されたのですか?」
「・・・あの人は長尾を同盟に入れようとしている。少し静観していた間に、もう入れられる段階まで作り上げていた。人修羅とすら呼ばれた長尾景虎を同盟に入れようとするやり方・・・私とは全く逆のやり方。そのやり方を見ることが、私の理想を叶えるためにも必要と判断したからよ」
「そうですか・・・分かりました」
葵の目にはいったい何が映っているのか。それは悠季も分からなかった。でも、一つだけ分かったことがあった。
『葵様・・・アキラ殿と出会って変わられた。自然な素顔を時々見ることが多くなってきた。私以外には心に鎧を着て見せないようにしていたのに・・・やはり葵様もアキラ殿の事をあの三人と同じように』
忠誠を誓った主が、アキラに心を動かしているということだった。
神社に戻って、アキラ隊は対策会議をした。その際、美空からもらった春日山の縄張り図を見せるとみんなびっくりした。何しろ、それ一枚あるだけで城攻略の手口を何十通りも見つけることができる秘中の秘だ。それをよそ者のアキラ隊に渡すということは相当本気と見ていい。
詩乃と鞠がいないことには軍師役が少ないからその援護と、美空の本陣がまた移動するだろうからその時の連絡役として残ってもらった。
「今回は少人数で行きます。二人の誘拐ですから、暴れることは控えないといけません」
「・・・いつになったら暴れるのじゃ(グスン)」
「暴れることが生きがいみたいな小夜叉さんみたいなことを言わないでください」
「話を聞くところによると、空さんはとても人見知りらしいです。私や小波に綾那の三人で侵入するつもりですが、警戒される恐れがあるのでそういった子に慣れているであろう庵樹も来てほしいのですが」
「別に慣れているというわけではないが・・・いいわ、手伝う。それで、もう一人の愛菜って子はどんな子なの?」
庵樹が聞いたら、アキラやころは困った顔をした。
「何でも、とても変な子・・・らしいです」
「秋子さん直々に、扱いが面倒ですから無視していいというくらいです」
「・・・公方様みたいですね」
「何じゃと!余がそんな面倒な人間なわけないであろうが!」
「・・・自覚してほしかったですな~~」
「思いっきり迷惑しかかけないダメ公方様ですね」
詩乃のツッコミに一葉は反論したが、幽と朱雀の二連口撃にぐさりと来た。
「ぐ・・・主様~~」
「はいはい・・・よしよし「(なでなで)えへへ」、さて漫才もここまでです。明日からは訓練に入りますよ」
「「「「「訓練?」」」」」
「ええ、山登りのね」
ニヤリと笑うアキラに全員冷や汗を流した。
次の日、早速山登りの為の道具を買いに街まで行った。その際に商人から話を聞いたりもした。
「相当、期待していましたね」
「そうですね・・・美空様が兵を集めていることは知られているでしょうし」
「早くこの悲惨な状況を終わらせないといけませんね」
「ふむ、そんなにひどいのかい?」
ころと話していると、後ろから声をかけられた。その声をかけた女性の方を見るとアキラは驚いた。
「?あなたは」
「おや!奇遇だね」
「?アキラ様?知り合いですか?」
「知り合いと言えば知り合い・・・ですね」
「ははは、安心したまえ。大津の団子屋で知り合っただけさ」
油断できない笑顔でそう答えた。
「それより・・・仕官はまだですか?」
「これは痛いことを聞くね~。まあ、ここがそんなにやばいと聞けばさすがにやめようと思うさ・・・現に街も元気ないしね」
「ええ、南の方がよさそうかもしれませんね・・・甲斐とか三河、駿府辺りがね」
この言葉に一瞬の違和感をアキラは見逃さなかった。
「そうだね。せっかく来たけど諦めてそっちに行こうかな?」
「その方がいいですね。それにしても、私達って面白いところで会いますね」
「うん・・・そちらの奥さんには悪いけど、運命みたいな感じだね~」
「全くです」
「「ははははは!」」
「(何この人・・・お頭についていけてる)」」
せっかく奥さんと呼ばれたのに、笑っている二人に冷や汗を流すころだった。
「では、よい仕官ができることを願っていますよ」
「ありがとう・・・じゃあね」
女性が歩いて行った。その後姿を見て、警戒する顔つきになった。
「アキラ様・・・あの方ってどんな人なんですか?」
「確実に言えるのはどこかの勢力の人間・・・越後の内部を知るためにやってきたと言うところでしょう」
「なるほど・・・間者ですか」
「ええ。でもただの間者ではありません。幽と互角に戦える実力を持っています。そう・・・武将でしょうね(越後の情報を一番知りたい勢力と言えば南・・・あえてその言葉を出した時に一瞬だけど目を見開いた。つまり・・・)」
あの女性が見えなくなったと同時に、買い物を終えた綾那と歌夜がやってきたので考えをやめた。
「では、行きましょうか」
「「「はい!」」」
その女性はというと。
「どうだった、一二三ちゃん」
「湖衣はどうだい?前回の調査に比べて」
「全く変わってないわね・・・少し辛さを感じた無礼討ちがあったわ」
「こっちもそんなものさ。でもお土産は見つかったかな」
「お土産?なにそれ?」
「内緒・・・それはそうと、蹴鞠の少女の件はどうだった?」
「とんでもない人だった・・・氏真様だった」
「ほう~、ということは」
「ええ、おそらく駿府は私達の推測通りに」
アキラ達は崖の前に来た。その崖は今回の城の侵入口の下の崖だ。今回アキラ達はここから侵入することにした。
『崖からの侵入なんて、普通はあり得ませんからね』
対策会議の時にその一言を聞いて、朱雀・時人・庵樹以外の全員が唖然とした。三人は伊達に二年間後ろを追いかけてきただけあって、アキラの事をよく理解していた。ここの侵入口は、空と愛菜の二人が閉じ込められている屋敷のすぐ近くだからすぐに脱出もできることもあって、アキラはここを選んだ。
「時間もあまりありませんので、しっかり覚えてもらいますよ」
「こ、こんなところ・・・本当に登るんですか?」
「もちろんです。さあ、始めますよ!」
びくびくするひよを無視して崖のぼりの訓練を開始した。でも、彼女以外はもともと体力もあり基礎もできているので、すぐにできるようになった。
数日経過して、ついに決行日となりアキラと綾那、小波と庵樹の四人は登り始めた。残りの皆にはすぐに逃げられるよう撤退の準備を頼んでおいた。ちょうど半分くらい登ったところで銃声が聞こえた。侵入する際にばれないよう、美空には挑発するよう頼んでいたのだ。
その中で詩乃からの句伝無量の報告で、呆れることも起こった。
「・・・城方が出た?」
何と大将が挑発で出てきたのだ。
「私も二度確認しましたが、間違いないそうです」
「・・・美空がバカという理由がよく分かりました」
「挑発ごときで出るなんて、普通は籠城だろう」
「綾那でも出ませんよ?」
「とりあえず時間稼ぎは出来ているということで・・・先を急ぎましょう」
全員で呆れ顔をしながら、登りを再開した。
そして、同じようなことを本陣でも言っていた。
「だから任せたくないのよ。バカだから」
「本当ですね・・・私なら無視して籠城しますよ」
「でも、大丈夫かしら?楽しくなって挑発以上の事をしたりしないかしら?」
不安になる秋子に詩乃は笑顔で肩を叩いた。
「大丈夫ですよ。そのための策もありますし・・・牡丹はアキラ隊にもいます」
「詩乃さん・・・お互い苦労しますね」
「全くです。しかも自重しませんしね」
「・・・どうして私を見るのよ(むかむか)。私も牡丹だと言いたいの?」
「「いえ、別に」」
二人の言葉と態度に、更に怒りを増したが我慢した。
「しかし・・・策を建てられる軍師がいるとこんなに楽なんてね」
「長尾家は考えるより動く!が多いですから・・・胃が痛いです」
「心から同情しますよ、秋子さん」
自分の隊長であり、愛する人がそうなので本当に心から同情した詩乃だった。
「ねえ、半兵衛家に来ない?禄ははずむわよ」
「私は、アキラ様だけのものですので遠慮します」
「鞠もアキラの護衛だからアキラのところがいいの~!」
「二人とも即答ね・・・そんなにあいつがいいの?」
「私も、鞠さんも、アキラ様に助けられました・・・身も心も。その時から私達の全てはあの人のものになりましたから」
「そうなの!それに、詩乃ちゃんも鞠もアキラのお嫁さんなの!」
「・・・羨ましいです」
二人の惚気に聞こえる話に、独身秋子は羨ましがった。
「あら?秋子もなる?別にいいわよ」
「な!なななな、何をなると!」
「・・・まあ、こうなるんじゃないかと思ってました」
いつかこの話題が出るのでは。と予想していた詩乃は頭を抑えた。
「秋子ちゃん!いいよ!アキラはとっても優しく抱いてくれるの!」
「ま、まままま、鞠さん!だ、だ、だ、だだ抱くって!」
鞠の抱く発言に焦る秋子。話を聞いてどんどん赤くなっていった。
「二人は放っておいて・・・半兵衛、アキラは空を無事連れてこれるかしら?」
「そうですね・・・難しいかと思いますが、アキラ様はどんな困難も乗り越えようと頑張るお方です。成功させますよ」
「ふ~ん・・・そうね、でないと攫うなんて言葉出せないわね」
城をじっと見る美空と詩乃。お互いどんな思いで見ているのだろうか。
春日山城の内部に侵入成功したアキラ。予め先に入った小波に、二人の緊張をほぐすよう頼んでいたが。
『ご主人様!助けてください!』
句伝無量でヘルプが来たことにより、すぐに現地に急いだ。
「どや~~~~~~~~!」
だが、その途中でとても大きな声が聞こえた。
「・・・何ですか今の声は」
「・・・嫌な予感しかしないです」
「・・・私も同じだけど、行くしかないよね」
頭痛を抑えながら、襖を開いて中に入った。そこには困った顔の小波と見た目からしておしとやかそうな少女が一人。
「長尾美空景虎様の娘長尾空景勝様は!空様の忠実な僕!樋口愛菜兼続が命を懸けてお守りいたしますぞ!どや!」
そして、どや顔の変な少女が二人の間にいた。話すたびに必ず「どや!」と言ってどや顔をして、「どーん!」と言って表情をころころ変える。
『・・・変な子ですね・・・本当に』
呆れ顔をしながらどうしようか悩むアキラだった。
( ・´ー・`)この顔のどや娘がついに登場です!
次回は脱出と誘拐です!