春雪喧騒(5)
紫は淫らに蠢く快楽の中心から指を引き抜いた。指は少女の蜜を纏い、照り輝いている。
立ち去ろうとする彼女のドレスの裾を掴み、巫女は刺激を求め懇願する。紫は少女の服の袖で指をぬぐい、少女の手を振り払う。
拒まれたことが分かったのか、霊夢は自らの指で慰め始めた。
紫は妖夢が落としていった刀を拾い、絡み合う二人の側に転がっている鞘に二本の刀を戻した。
幽々子に頼まれたとおり、妖夢をたらしこんだ。
二人の側を離れ、紫は白玉楼の屋根より上にスキマを作り腰掛ける。五分咲きの桜の大木、よがる霊夢、囚われの二人の少女の姿が見える。
このまま放っておくべきか。
前の時はあの天狗にその役目を任せたが――
あの記者くずれの天狗は定期的に妖怪の山を下り、ネタ探しに魔法の森を中心に動き回る。
こちらが何かをしなくとも終了の時は必ず来る。
今回はどうだろうか?
あの刀の効果に個人差はあれど、半日から一日切った者を幻惑する。
初めは博麗霊夢に対して刀を使うつもりはなかった。
ただ博麗の血があれを弾くのか確かめてみたかっただけで――
彼女と戦うのは今度にするか――
夢中になって自慰行為にふける無様な巫女を観察していると、式神が宙を舞い側に寄ってきた。怪我を負った右腕を押さえている。
「藍、傷は大丈夫?」
「はい。ある程度は回復させました」
狐は掌を握ったり開いたりしてみせる。そしてため息をつき、
「やはり、骨や神経を修復させるのはかなり妖力を使いますね。完全に直すことも可能ですが、この後の事を考えるとある程度余力を残しておいた方がよいと思いましたので」
そこで一度言葉を切った。
「どうなされますか?」
「もう少し様子を見るわ。まあこの様子だと戦うことはなさそうだけど……藍は先に帰ってもいいわよ」
「……いえ。私は別の所で待機させて頂きます。万が一と言うこともあるので」
「そう」
式神は足元に空間を開けると、吸い込まれるようにして消えていった。
八雲紫は足を組み、頬杖をついて博麗霊夢を見る。その姿を見ながら、ふと考える。自身が子をなす為に行った行為には――
◇◇◇◇◇
「んっ」
今度は妖夢が声を上げる番だった。
幽々子の手で胸を犯され、入浴で体を洗うときには感じたこともなかった刺激が脳に伝達される。脳と口が直結したかのように、刺激に合わせて声が漏れる。主の舌を求めて蠢いた妖夢の舌が痙攣したように動かなくなった。嬌声。聞いたことのない自分の出す艶声が、どこか人ごとのように感じる。
幽々子の指で弄ばれる先端は指から伝わる熱以上に熱くなり、刺激から逃れようと体をよじる。
胸をいじられる官能に、股の間がじんわりと湿り気を帯びていく。
妖夢も負けじと主の豊乳を弄ぶ。
人差し指と中指で乳首を挟み、指の関節を曲げぐりぐりと先端を刺激しながら、残りの指で全体を揉みしだく。曲げた関節で乳首を引っ張り、放す。生卵の黄身を端で潰すように、人差し指で乳首をぐっと押しつぶす。乳房全体を揉みながら、胸の先端を様々な角度から刺激する。
「あんっ、妖夢ったら指使い、すごい」
妖夢が紡ぐ刺激に喘ぎ、幽々子はつまんだ乳首に少し力を入れた。
「っあ」
快感に混じった鋭い痛みで体の力が、乳房を揉み込んでいる手から力が抜ける。それを見透かしたかのように幽々子は妖夢の体を押し倒した。妖夢の頭と床の間に半霊が滑り込み、クッションのように衝撃を和らげた。幽々子は妖夢に覆い被さるように体を倒し、従者の右乳首に口づける。左で左乳房を揉みながら、右の乳首を舌で転がし、音を立てて吸う。
「んあ……ふぁぁ」
主が上になり、妖夢の掌にふくよかな胸脂肪のずっしりとした重さを感じた。変化する幽々子の乳房の揉み心地以上に乳首を這い回る舌の感触に体の力が抜けていく。主の胸を揉み込み為に上げていた腕がしんどくなり、だらりを腕を投げだした。掌から感じる肉の感触がなくなり、感じるのは乳首を弄ばれる感触だけ――
たっぷりと唾液を乳首に塗りつけ、音を立てて唾液を乳首ごと吸い立てる。幽々子は腰を下げる。揺れ踊る乳房の先端が妖夢のお腹を優しく擦る。
指と舌の動きに合わせて喘ぐ妖夢に変化を求めようと、幽々子は妖夢の乳首をコリっと嚙んだ。
「痛ぁ」
弱々しい悲鳴。体を仰け反らせ、幽々子の顔に乳房が押し付けられた。幽々子は舌で乳首を押しつぶす。今度は左乳首を指で軽くひねる。
「っああ」
再び妖夢の悲鳴。びくりと体を震わせる。幽々子はその妖夢の反応に気をよくし、再び乳首を甘噛みしようとして――止める。
妖夢は泣いていた。白楼剣の効果はすでにない。それは妖夢が半人半霊という曖昧な存在であることと、半人側にだけにしか白楼剣が使用されなかった為である。加えて幽々子が与えた痛みが妖夢の意識をはっきりとさせ、結果十数分ほどで剣の呪縛から解き放たれた。
「わたしはただ、幽々子様のことが好きなだけで……こんなこと……したい訳じゃ……
ただ……ずっと一緒に……居たいだけで……」
「うっ」
幽々子はたじろぐ。真逆泣かれるとは思わなかった。つまみ食いをしようとして、めっと
叱られる程度だと思ったのだが――
妖夢は泣き止んでくれない。幽々子は狼狽える。どう声を掛ければ良いか――
しばし考え、妖夢の頭を撫でる。
「ご免ね、あまりに桜が綺麗だったから。妖夢と結ばれるなら、一度しかない桜吹雪の中でって思っちゃって……」
でまかせで嘘をつく。
妖夢は涙を腕で拭う。
「……幽々子様のわがままは知っています……でもこんなこと二度としないで下さい」
妖夢の忠告に、コクコクと幽々子は頷く。
妖夢ははだけた胸をなおし、刀を携える。
「私は頼まれた仕事がまだ終わっていないので」
言うと妖夢は庭に降りる。見れば、霊夢も自分同様地白楼剣の餌食になっている。を蹴り、蠢く触手を一閃する。たいした効果はなかった。妖夢は跳躍し、まずはメイド服の少女に絡まる粘る蔦を切断する。半霊を球状にして体をコーティングし、少女の胸元を掴み、引きはがす。そのまま幽々子の元に運び。介抱をお願いする。黒服の魔法使いも同様に生物から引きはがす。玉葱をみじん切りにするが如く、触手生物を徹底的に切り刻んだ。
少女を掴み、霊夢の元へ駆け寄る。桜の大木の根元で腰かけている。出会ったときの表情はそこにはない。トロンとした表情で快感を貪っている。はだけたスカート。左手で服の上から胸を揉み、右手は下着越しにアソコを慰めている。時々太腿が痙攣している。
なんとか正気に戻すには――
霊夢の頬を軽く叩くが、効果はない。自分の時はどうやって意識を取り戻したか。主に乳首を嚙まれた痛みからだ。だからといって同じ事をする気にはなれない。妖夢は長刀――楼観剣を霊夢の頭上の幹に突き立てる。木を傷つけて怒られるのは仕方ない。こんな痴態を晒す方が残酷だ。妖夢は霊夢の両手首を掴み、頭上――楼観剣の近くに掲げる。
巫女は官能を求め、身をよじる。妖夢はさっきより強く頬を叩き、顎を掴む。見て話を聞いてもらわなければ始まらない。
「……妖夢」
どうやらこちらを認識したようだ。霊夢の眼前に白楼剣をかざす。
「霊夢、これは切った者の迷いを断ち切る剣だ。今から霊夢の指を少し切る。その痛覚で隙間を作るから、それに合わせてこの剣をお前に使う。ルールは分かったか?」
顎から手を放す。微かに霊夢の顎が縦に動いたように見えた。
妖夢は霊夢の左手小指を楼観剣の刃先に近づけ、合図をする。
「いくぞ、霊夢。いち、にの――さん」
刃先が皮膚を切り、楼観剣を霊夢の胸に突き立てた。
◇◇◇◇◇
ピンク色の霧が消え、意識がはっきりする。下半身の熱は消えなかったが、ふやけた視界がクリアになり、こちらを覗き込む妖夢の顔を捉えた。
「妖夢」
「大丈夫か?」
「……ありがとう」
「もしかしたら、私が幽々子様に……言っていたらこんなことには……」
「別にあんたが気にすることはないわよ。こっちは妖夢に助けてもらったんだから」
言葉を一度きり、傷口を舐める。
「そのときは、あいつが別のことをやるだけよ」
そう妖夢に返事する。と、霊夢は生物がいた方を見やり
「魔理沙は……」
と呟く。妖夢は魔法使いを指さし、
「この子の事? これから介抱するつもりだけど。もう一人は幽々子様が先に連れていってる」
魔理沙を担ぎ、妖夢は霊夢に言う。
「この子もこっちに任せて。霊夢は服を直して」
気がつき霊夢は顔を赤くし、スカートを直し、立ち上がる。下着が濡れて少し気持ち悪い。
濡れた指先を服で拭う。
「相手は屋根の上」
妖夢は顎で指し示す。示した先には空中で座っている八雲紫の姿があった。
妖夢は屋敷の方へ歩いて行く。
紫は笑みを浮かべると後方に倒れる。そのまま体が消え、いつの間に開いていたのか
霊夢の前方に立っていた。
「あんただけは許さない」
呪いの言葉を小さく口にする。
巫女の言葉に気にも止めず、妖怪は指を鳴らす。全体に紫色の壁が立ち上がる。
そのまま霊夢は半透明な紫色の結界の中に閉じ込められた。
あちこちに空間の裂け目が展開している。五十や六十では足りないほどのデッドゾーン。それらは不規則に移動する。さらに八雲紫は青と赤のくないの弾幕を展開した。霊夢は躱しつつ、護符を投げ攻撃する。投げた護符の複数枚は氷柱を封じている。それを紫の近くで解放する。
彼女はそれを予想していたのか。表情を変えず避け、弾幕を展開する。
「封魔陣」
半透明の赤い壁が展開し、スキマ妖怪の弾幕を弾く。続けて霊夢は、数枚の護符を飛ばし
結界内を暗闇する。これは賭け。空間の裂け目はどこか分からない。あまり動くべきではない。左右に一枚ずつの護符を飛ばす。護符が広がり、人形の霊夢は飛び出す。八雲紫は紅魔館の戦いを見ている。だからこの仕掛けだけならすぐに見破るだろう。あともう一手は――
暗闇で満たされた。八雲紫は弾幕を止める。一度相手の出方をうかがう。攻撃と防御は同時にあまりするべきではない。被弾率が上がる。今まで見たかぎりあの巫女は攻撃と防御を同時には行っていない。
視界が晴れる。
赤い壁は存在しない。
見えるのは三人の巫女。
注意を分散させるため、自分をごまかしたのか。
本物の巫女はこの三人の中に――
見分けがつかないわけではない。
なぜなら、本物は髪留めのリボンが少し違うのだから。
おそらくあの吸血鬼はそれが分からなかったのだ。
いや気付くのが遅かったのか。
いずれにせよ、負けたのだ。
――が。
八雲紫の目には全てが同じだった。
どこに消えた?
三人は同時に一枚の護符を紫に向かって投げた。
だが複製の巫女は単純な命令しか、行動しか出来ない。
攻撃と言うに値しないそれらを、紫はひらりと躱した。
スキマ妖怪に放った護符の一枚が、紫の背後で急速に広がり、中から博麗霊夢が飛び出した。
霊夢は妖怪の背後から左の肩口を狙って、護符を持った右手を振り下ろした。
周囲を見渡す。
博麗霊夢は見当たらない――
が、気付いたのは偶然だった。
左肩に少し影が見える。
霊夢の振り下ろした右手は、八雲紫の左腕を切り落とした。
その切り口から血が噴き出す――
前に、紫は霊夢に対して攻撃を叩き込む動作を行う。
紫は腕を切り落とされる直後に上半身を捻り、残った右腕で巫女のこめかみに肘鉄を見舞った。
「うぐっ」
呻く霊夢はそのまま床に叩き付けられる――
こともなく、空中で体を捻り、裂け目の端を足場にする。膝を曲げ、バネのように跳躍する。
間髪入れずに振り返る妖怪に迫り――
八雲紫の頬に拳を叩き込んだ。
八雲紫はあっけないほど簡単に吹き飛ばされ、紫色の結界が解除された。
地面に倒れた紫に、霊夢は飛びつく。
両手で妖怪の首に手をかける。不殺がルール。殺せば負の連鎖が展開する。幻想郷に敷かれた結界。そんなものは、今の霊夢にとってそんなことはどうでもいい。
よくも魔理沙を――
霊夢は両手に力を込める。
が――
「どうして……」
気管を潰そうとする手に力が入らない。
八雲紫は歪んだ顔に笑みを浮かべて言い放つ。
「どうしてって、決まっているでしょ。そういう風に貴女の頭をいじったのだから」
その言葉で、霊夢の中の何かが切れた。
「あんたは、どこまで人を弄べば気が済むのよ」
激高する巫女に、その攻撃は見えない。
いつ間にか巫女の側に立っていた八雲藍が、霊夢の腹部を蹴り上げた。
博麗霊夢はあっけないほど簡単に吹き飛ばされた。
藍は主の体を起こし、切断された左腕を渡す。
切断面を合わせると傷口は消え、簡単に左腕はくっついた。
「今日はこれぐらいにしましょう。今日は貴女の勝ち。でも貴女の母親に比べたらまだまだね。彼女は私を十分足らずで王手をかけたのだから」
白玉楼の広い庭から、二人の妖怪は消えた。
妖夢と幽々子は二人を介抱するためにいない。
博麗霊夢ただ一人。
この異変で咲き乱れた一本の桜が、静かに彼女を見下ろしていた。
NEXT EPISODE
春雪喧騒(6)
*
射命丸文は言葉を続ける。
「この間の春が来ない事件、通称『春雪異変』のあらましを記事にするので、解決人の霊夢さんの写真を入れたくてきました」
*
そこに並ぶ異常な――の数々。
おそらくあの妖怪の目的は――