Prologue
Prologue
月人と月兎の住む月の都。周囲が慌ただしい。それは今に限ってのことではないのだが。
レイセンはこの頃主人である綿月姉妹に構ってもらえず、手持ち無沙汰だった。連日会議のため、帰りが遅い。
ここ一年の間、地上で様々なことが観測された。自然現象とは思えない紅い靄が観測されたり、長期間の寒波が続いたりといった気象変化が見受けられた。その為か、月では地上がこちらに戦争を仕掛ける準備をしているのかと疑念が高まっている。
千年前に起きた月面戦争。レイセンが生まれる前に起きたことだが、知識として月の歴史は知っている。あの戦争はこちらが圧勝だった。再び月面戦争が起こったとき、こちらが勝てるのか。ただでさえ今は、月の女神――嫦娥に対する騒ぎが頻発している。
レイセンの主は、月都と地上の監視を担う月の使者である。地位が高いこともあり屋敷は広い。大きな書斎もある。主が留守にしているときは、部屋の掃除を済ませ、書斎で本を読む。とはいえ、今では読みたい本はほとんど読んでしまった。歴史書、政治学、医学書など堅い本は読む気にはなれない。読むのは専ら文芸書で書斎にはそれらの本は数少ない。立場上屋敷から出ることはできない為、買いに行くこともできない。かといって主にお願いすることも今は難しかった。
レイセンは離れにあるガラクタ置き場と化している物置に入った。最近ここに古い本があるのを見つけたからだ。使い方の分からないものの中に数冊の書物があった。文字は月の都で使われているものではなく、地上のものだった。戦争時の戦利品なのかそれとも地上から手に入れたものなのか-、レイセンには分からない。読めなくはない。
内容は、古い娯楽小説の類で、まだ読んでいない本を手に取る。ページをめくる。と、一枚の紙切れがはらりと落ちた。
本のしおりと言うより古めかしいお札といった感じの代物。角が少しやぶれている。めくるときに破れたのか。
「……エスケープ?」
床に落ちた紙にはそう書かれていた。拾おうとレイセンが紙に触れた瞬間、
「えっ」
床が抜けた。紙切れを中心に穴ができ、一瞬の内にレイセンの両足の床が消える。不意の出来事に対応できず、レイセンは穴に落ちた。
レイセンの体は自然落下のスピードで落ちたり、ふわふわとあるいはゆっくりと落ちたりと安定しない。穴は真っ暗でなく、虹色に輝き流動的に色を変える。
どれほどの時間落ちたのか。急に周りが暗くなり、
「きゃっ」
尻もちをついた。お尻をさすりながら周りを見渡す。見覚えのない景色。蒸し暑さを感じる。見上げれば、灰色の球体が浮かんでいる。
「貴女は?」
レイセンは声の方を向いた。人で言えば十代前半。黒髪、赤目。薄桃色のゆったりとした服を着ている。レイセンと同じく白いうさ耳としっぽがついていた。
レイセンがこの因幡てゐと出会ったのは、満月になる七日前――上弦の月の出来事だった。
◇◇◇◇◇
夕方。といっても、今は夏で日は残り、まだ明るい。アリスは博麗神社へ向かっていた。
あの雪の降る春、ようやく霧雨魔理沙との接点が出来た。いつもは空を飛ぶ姿を見かけるだけで、声を掛けることもできなかった。
鮮やかな金髪。人形のように整った顔立ち。琥珀色の大きな瞳に、主張しすぎない朱色の柔らかな唇。しなやかな指。ずっと眺めていたいほど魅惑な容姿。
七月の初旬。再び魔理沙から衣服の破れた部分の修繕を頼まれた。
初めてはあの出会いから十日ほどだった。あの後すぐに来てくれるのではないかと、気が気でなくて、執拗に部屋を掃除してしまった。
聞けば、あの巫女が風邪にかかり看病していたとのことだった。
羨ましい。口には出さなかったが――
何にせよ魔理沙が自分を頼りにしているのが嬉しかった。
今回もその日のうちに繕い、アイロンを掛けた服を袋に入れ魔理沙の家――霧雨魔法店を訪ねた。
魔理沙は留守にしていた。おそらくあの巫女のいる神社に向かったのだろう。
出直そうか――
いやあの女の前で、家庭的さをアピールするのも悪くはないのではないか?
私の女子力をあの巫女に見せつけ魔理沙を――
などと妄想し体をくねらせながら、アリスは神社へと向かう。
博麗神社の鳥居をくぐるように着地する。
少しずつ日が暮れようとしている。
歩いて境内の方に回るが、誰もいない。
魔理沙はここには来ていなかったか――
足が止まる。
魔理沙の声が聞こえた。
閉じられたふすまの奥から。
少女の声というより女の声で。
艶めかしい嬌声。
さっきまで考えていたことが、あっさりと崩れる。
見るな――
起きていることは……分かる。
しかし意識とは裏腹に、足が、手が、動く。
好奇心からなのか――
それとも――
木の床に膝を折り、ふすまを少し開け、覗き込む。
想像通りの光景。
裸になった二人の少女が、霧雨魔理沙と博麗霊夢が抱き合っていた。
布団に寝そべった魔理沙に馬乗りになる巫女。
喘ぐ巫女が弓なりに仰け反り絶頂した。
やがて、巫女は魔理沙の乳房に手を添え、嬌声を漏らす口にキスをする。
口腔を貪る音。漏れる吐息。
粘り気のある音は、まるで空間をどろどろとした粘着質なものに変質し、アリスの体を硬直させる。
巫女の前髪と耳飾りをした一房の髪に隙間から覗く目が、アリスを見た。
栗色の瞳がじっとアリスを見つめる。
それは数秒。
逃げるべきだ――
そう思っていても体は動かない。
ただ二人の情痴を見続ける。
視線を魔理沙に戻し、唾液を絡ませながら、巫女は乳房を揉んでいた右手を枕元に伸ばす。
そこにあるガラスの小瓶の蓋を片手で器用に外す。
二人の舌は絡み合ったまま。
小瓶を倒し、中身を床にぶちまける。
光沢のある丸い錠剤。
巫女はその一粒をつまむ。
二人の唇が離れる。
唾液の糸が、蜘蛛の糸のように細くなり、すっと切れる。
巫女の左手が、二本の指が、魔理沙の膣に入っていく。
喘ぐ魔理沙に呼応するように膣内を掻き回す。
巫女はぐちゅぐちゅと口の中で唾液を貯め、右手の錠剤を口に含み、再び唇が重なる。
魔理沙の口を嚥下させた。
しばらくして魔理沙の呼吸が浅くなり、そして――
寝息を立てる。
そっと金髪の少女の頬を撫で、寝ているのを確認すると、巫女はアリスの方に顔を向けた。
視線が合う。笑っている。
逃げなければ――
思うが、とっくに体の自由が利かない。
四つん這いで、猫のようにこちらに向かってくる。
全裸の少女は戸に手を掛けた。
「のぞき見なんて、いやらしい子ね……それとも……こういうことに興味があるの?」
言葉は出ない。体も動かない。助けを求めようと自然と目が魔理沙の方を向いた。
その視線に気付いたのか、裸の少女は、
「ああ、もしかして貴女、魔理沙の事が……」
魔理沙の方をちらりと振り返り、クスクスといやらしい笑みを浮かべる。
「今なら、魔理沙の体見たい放題だよ……来て」
靴を脱がされ、手を引かれる。体が従順にそれに従う。
服を入れた袋だけが残る。
布団に包まれた魔理沙は、静かな寝息を立てていた。
長い金髪は妖艶に乱れ、少女とも女ともつかない表情を零している。
唾液に濡れた柔らかそうな唇。
シミ一つない肉体。
膨らんだ乳房は所々唾液にまみれ、テラテラと妖しく光っている。
ナメクジが這ったような唾液の道は乳房からお臍へと流れ、うっすらと膨らんだ下腹部を通り、僅かに生えた金色の陰毛を湿らせ、子宮に至る入り口に続いていた。
申し訳程度に開いたその入り口は唾液より、どろどろとした白濁スープが溢れ出て布団を濡らしている。
肩幅ほどに開いた白い足も所々唾液に濡れている。足の指も濡れていた。
霊夢はアリスに顔を近づけ、ねっとりと囁く。
「それに……触りたい放題だよ」
無邪気に笑う声。
巫女はアリスの腕を掴み、手を魔理沙の乳房に押し当てた。
唾液のぬめりと肌の柔らかさと温もりが伝わってくる。
少女はアリスの手の甲に手を重ね、指に力を入れ、アリスの手越しに乳房を揉んだ。
魔理沙がか細い声で喘ぐ。
「魔理沙ってHだね。寝ているのにこんないやらしい声だしちゃうんだから」
クスクスと笑いながら巫女は重ねた手を放し、喘ぐ唇を指で撫でる。その仕草がすごく淫猥に見える。
少女は唇から指を放し、アリスの肩に手を触れる。
「さあ、次は、貴女も愉しみましょう」
少女の方を振り向こうとした瞬間、触れていた手に力を込められ、仰向けに押し倒された。
アリスに覆い被さるように裸の少女の顔が眼前に近づく。
垂れた黒髪が鳥かごのようにアリスの顔を囲う。
無邪気に笑う霊夢の手がアリスの胸を服の上から撫でる。
人差し指を立て、アリスと口に押し当てる。
「あんまり声を出すと魔理沙が起きちゃうわよ……見せつけたいなら構わないけど」
霊夢は膝を突いた右足を、アリスの両足の間に挟んだ。
スカートがはだけ、膝小僧まで晒した足を、ふくらはぎを撫でる。
その嫌な感触に視線が足元に写る。
無意識に避けていたものを直視してしまう。
少女の股間に濡れてそそり立った男性器が見える。
その手が上へと伸び、スカートの中の太腿を撫でた。
手がさらに上へと伸びる。
その先は――
アリスは抵抗する。
闇雲に手を動かす。
巫女が何かを言っているが聞こえない。
何か固いものに触れた。
手探りでそれを握り、巫女の頭に叩き付ける。
鈍い音とともに呻く巫女。
アリスの体を這わせていた手で、霊夢は頭を押さえる。
倒れ込む巫女を引き剥がし、アリスは霊夢の体下から逃げ出す。
黒髪の隙間から覗く項に紙切れが見えた。
巫女の呻き声が聞こえる。
袋を掴み脇に抱え、靴を手に取り空中へ飛ぶ。
淡い妄想は打ち砕かれ、黄昏時の空をアリスは泣いて帰った。
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月の異変。魔里沙は博麗神社に行くと言った。
一緒に来て欲しい。そして霊夢に説明して欲しいと言う。