Long Epilogue, or ……
結界で拘束される二人の前で、青の巫女は自分の分身を大量に生み出した。それらはあっという間に霊夢によって駆逐される。手足が切り落とされた巫女。お腹、胸に札が突き刺さった巫女。眉間に護符が突き刺さった巫女もあった。
隣でアリスが、小さく悲鳴を上げる。
夥しい作り物の亡骸に魔理沙は恐怖を覚える。
巫女同士の戦いの様子は、ここからでははっきりとは見えない。
倒れこむような音。霊夢の怒号。
魔理沙は巫女の名を呼んだ。
静まりかえる。
そして、うめき声と破壊音。
しばらくして、また静かになった。
二人は顔を見合わし、意を決して廊下を進んだ。
血で汚れた床。
さらに進むと、壁にもたれかかるように赤の巫女が座っていた。
「霊夢……どうなったんだ」
殴られたのか頬が赤い。顎に少し血が付いている。服のところどころに血の飛沫が染み込んでいた。露出している肌に傷はなかった。すでに直したのだろう。
「……逃げられたわ」
「追わないのか……いや、そもそもどうしてこうなったんだ?」
霊夢は片手で頭を押さえ、説明し始めた。
「私も少し前に聞いたんだけど、私の家系は精神が分裂しやすいみたいなの。だからそれに対する治療法を自分たちで作り出したの。方法は仮初めの肉体を作り、そこに意識を移す。あとはそれを吸収するだけ。あの子は八雲紫にそれを促す薬を投与されたのよ。だから私を助けるために……私はあの子を吸収したのよ」
「じゃあ、これは八雲紫の計画通りってことなのか?」
「……多分、そうでしょうね。消してしまいたかった。これから……かもしれないのに……」
霊夢の声は次第に小さくなり、言葉の最後の方は二人には聞き取れなかった。
「今頃、あいつは紫に捕まっていると思うわ……もう……帰りましょう」
「けど、まだ異変は解決してないんじゃないの?」
アリスは霊夢に問う。
「いいえ。異変の交渉は紫が直接行っていると思う。あの子の記憶を見たんだけど、途中で道が分かれていたのよ。それで、あの子は紫の指示で蓬莱山輝夜の方に向かい、紫は八意永琳の方に向かった。薬に長けているんでしょう、確か。いかにも相手を色々利用しそうじゃない?」
「止めに行かないのか?」
「正直、かなり血を失ってしんどいの。それに多分無駄だと思うわ。あいつの思惑通りに進んでいる感じがするの……いずれどこかで対決しないと……」
ゆっくりと霊夢は立ち上がり、神妙な顔でアリスを見た。
「アリス、ごめんなさい。謝って許されることじゃないけど」
「……」
次いで、もう一人に顔を向ける。
「魔理沙も、ごめん」
「……」
魔理沙が何も言えずにいると、人形遣いが口を開いた。
「正直、いろんな事が起きすぎて気持ちの整理ができていないの」
一拍おいて続ける。
「貴女と一緒で、こっちも魔力をかなり消費して疲れたわ。後日改めて、貴女の口から何があったのか聞くわ、判断するのはそれから……魔理沙も、それでいいでしょう?」
アリスの言葉に、魔理沙は小さく頷いた。
◇◆◇◆◇
「てゐ……さん、じゃないですよね……あのぉ……できれば、殺さないでほしいのですが……」
足音から、それが永遠亭の住人でないことが分かった鈴仙は命乞いをした。ここに戻ってきたと言うことは、師匠が勝っての退場なのか、またさか師匠が負けて一家惨殺でもしようというのか。
「別に兎だからって取って食うわけじゃないわよ」
聞き覚えのない少女の返答に安堵はせず、助けを乞うてみた。
「そうですか。それでは、できれば助けて欲しいのですが……」
「それは構わないわ。ただ、教えて欲しいことがあるのよ」
「私で答えられることなら……」
拘束を、目隠しを解かれ、視界を、体の自由――寒さで幾分震えていたが――を取り戻す。
三人の少女が立っていた。
「貴女の能力とこの永遠亭に住む住人の能力、それと月の事について教えて欲しいの」
紅白の巫女がそう聞いてきた。
◇◆◇◆◇
月は既に元通りだった。
月明かりに照らされた幻想郷を飛ぶ。もうすぐ夜が明ける。背後から日の光が体を照らすだろう。
青の巫女は西北西の方向に向かっていた。魔法の森の西。そこに立っている建物を目指す。
ほどなく目的地に着いた。霊夢が射命丸文に介抱された家屋。
取りあえずは欠損した体を再生させるため、針を抜く。背中に腕を回し、引き抜こうとしたが、身を抉るような激痛が走る。痛みに耐え、脇腹の一本をなんとか抜く。
針には返しがいくつも付いていた。こちらの針の形状を加工したようだ。もう一本も引き抜く。
忌々しく毒々しい形状。こんなもの、よくすぐに思いついたもんだと悪寒と同時に感心する。
近くの木に手を触れる。木の生命力を霊力に変換し取り込む。葉が次第に枯れ、ひらひらと落ちる。生命力をまるまる吸い取ることはせず、数本の木から必要な霊力を分けて取り込み、足や傷を直した。
玄関の戸を開ける。そこに射命丸文の姿はなかった。深閑とした、明かりのない暗い室内。囲炉裏の側にあった座布団に座る。体を倒し、天井を見つめる。あわよくば、文と……なんて考えはなかった。正確にはあったが、時間と共に消えてしまった。肉欲の権化のような意識にあの人形の意識、記憶、感情が次第に頭に浸透していき、頭の中の炎は鎮火されてしまった。
もはや、自分の居場所は――
「紫……いるんでしょう?」
何もない暗い天井に向かって呼び掛ける。やがて空間が切り裂かれる。
「ええ」
言葉と共に境界の妖怪は姿を現した。
「デートの相手なら、山にいるわよ」
「まあ、予想はしていたんだけど。他に行く当てなんてなかったからね」
「私がここに来た理由は分かっているわよね」
「当たり前でしょう」
青の巫女は八雲紫に向かって、手を差し出した。
「連れて行ってよ。貴女のところへ」
結界の境界近くの八雲紫の家。
人里にある家々と大差のないどこにでもある家。
巫女は紫に断りをいれ、彼女と離れる。
近くから情報を簡単に集め、二人が既に入った玄関の扉を開けた。
明かりの付いた廊下を歩き、明かりの付いている部屋に入る。フローリングの床に四角のテーブルと三脚の椅子。
藍が椅子をひいて、席を促す。
青巫女は椅子に座り、対面する紫に話しかける。
藍は氷の入ったグラスに酒を注ぎ、主の手元に置いた。
「紫、あんたは私が霊夢に取り込まれる事を期待していたの?」
「別に……どちらでも良かったわよ」
「素っ気ないわね。どうせ、私は霊夢が戦えないときのスペアなんでしょ?」
「そうよ」
一転し、はっきりと紫は明言し、グラスに口をつける。
「それに……少し試してみたいのよ」
もったいつけるように一拍おき、青の巫女に言った。
「……神降ろしを」
◇◆◇◆◇
月の異変が終わった二日目の昼。
鈴仙は人里にいた。大きな笠をかぶり、長い耳を隠している。服装もブラウスにスカート、ではなく行商人のような出で立ちで大きなつづらを背負っている。人里に入るときは、耳を隠す。妖怪だとばれない方が仕事がしやすいとてゐは言う。昔ほどではないが人と妖怪は対立関係にあるという。
仕事とは薬売り。
元々因幡てゐが行っている事だが、昔は変装しても幼い外見が災いしてか中々売れなかったそうだ。しかし、師匠の薬の効果が広く認知されると、一気に売れるようになったそうだ。
因幡てゐは何かにつけて、鈴仙に金銭を要求した。ギブアンドテイク。働かざる者食うべからず。それがこの地上のルールだという。地上の通貨、いや月の通貨すら持った事ない鈴仙は、てゐから借金を背負われる事となった。結果、彼女の仕事を自分が受け持つとなった。
永遠亭に籠もっていても、月での生活と大差はない。
月の生活に比べ、ここにはたいしたものもない。
師匠から渡された本の知識を、そのまま相手に伝えても、商売は上手くはいかない。つづらの中に入っているてゐにフォローされ、なんとか一日目は終わった。
「鈴仙、帰りにXX屋の焼き鳥を買って帰ろう」
つづらの中に隠れている素兎が鈴仙にこっそりと話しかけた。それが何なのか、鈴仙には分からなかったが、「案内していただければ」と言い、こちらの要望を付け加える。
「その前に、ちょっと寄りたいところがあるんですけどいいですか?」
「……長くならなければね」
鈴仙は町中を眺めながら、人伝に聞いた貸本屋――鈴奈庵を目指した。
◇◆◇◆◇
月の異変が終わった二日目の夜。
博麗霊夢が訪れたため、満月の日の夜に行う恒例の一月の歴史の編纂を慧音は行っていた。
妹紅の事が気にかかり、すらすらとは進まなかった。少しお茶でも飲んで休憩しようと立ち上がったとき、月明かりが照らす窓を叩く音が聞こえた。これを行うのは妹紅だけだ。声をかけ、玄関の閂を抜き、招き入れる。
「丁度お茶を飲もうと思ったんだけど、妹紅も飲む?」
生返事で返し、妹紅は勝手知ったる感じで部屋の奥に入っていった。
いつものように全裸だった。靴と靴下は履いていた。体が不死身だが、衣服はそうはいかない。輝夜と戦った後は、服はぼろきれと化している。妹紅の家は迷いの竹林の中に建っているが、けんかの愚痴を言うため、慧音の家を訪れる。けんかの決着――というより一時的休戦――はいつも夜だった。妹紅の家には風呂はない。戦いでのすす汚れなどを落とすため、人里から少し北に歩いたところにある河で、彼女は沐浴をする。そしてその帰り道という形で、慧音の家を訪れる。冬の時だけは例外だが。
お茶を入れ、戸棚から揚げ餅を取り部屋に運んだ。
妹紅はいつものように座布団を敷き、壁にもたれかかるように座っていた。既に服を着ている。ズボンをはき、白いシャツを身につけている。ズボンの留め具は床に転がっていた。長い髪にリボンはつけていない。どうやらすべてぼろぼろになったようだ。
服の予備は置いてはあるが下着は置いていない。白いシャツのボタンは留めていないので、首筋から臍まで一直線に綺麗な肌が見える。
「今回は決着が早かったのね」
いつも一週間から十日という長い時間二人は戦っている。食事もせず、寝ることもせず、ただひたすらに殺し合う狂気の遊戯。不死者だからこそできる無限の遊戯。慧音自身それを見た訳ではないのだが、今回は二日ほどしか経っていない。
「……ああ、あいつとの馬鹿騒ぎはこれでおしまいさ」
「珍しいのね」
「……そうか?」
いつものように、酒を飲みながら愚痴を言うことはしない。
静かで、お茶を啜ることも憚られるほどの静寂が二人を支配する。
沈黙を破ったのは、妹紅だった。
「あいつは、これから同じ事を続けていくのか?」
生に縛られた妹紅。
血に縛られた博麗霊夢。
何か自分に近いものを感じたのだろうか?
「彼女の意志に関係なく、八雲紫がそうさせるでしょうね」
「難儀な世界だな」
「この世界を成立させているのは、八雲紫の結界。博麗の結界はあくまでも補助的なものなの。彼女が心変わりでもしない限りは、ずっと続くと思うわ」
「……慧音、お前はこのままでいいと思うのか?」
こちらの返答に不満があると言いたげな台詞。
「良い悪いで言えば後者よ。でも、変わらないと思うわ。変わっても別の誰かが貧乏くじを引くだけよ」
別に、ここの世界に限った話ではないと慧音は思う。
光と影、陰と陽。表裏一体。
完璧な世界など存在しない。
不服そうな顔の妹紅。
ただ妹紅があの女と手が切れたことが喜ばしい。
今の慧音にとって、博麗などどうでも良かった。
たとえこの世界が終わろうとも、目の前の彼女と一緒に居られれば自分は幸せなのだから。
◇◆◇◆◇
今日は比較的温度が高い。
高度を下げ、目的地に向かう。
あの異変から五日、アリスは博麗神社を訪れた。
賽銭箱に小銭を一つ放り込み、境内にまわる。霊夢が座っていた。
こちらの足音に気付いたのか、巫女はこちらを向いた。表情はなかった。
無愛想な彼女に挨拶をし、近づく。
「彼女の願いを叶えにね」
そう言い、アリスは彼女の前にそれを差し出す。
人形だった。どちらかといえばぬいぐるみに近い。かなりデフォルメされた二等身の人型で手のひらに乗せるには少し大きい。丸い眼は黒いボタンで、口はゆるやかに下方向にカーブした黒い紐で表現されている。厚めのフェルト生地で黒髪、赤い服と独立した白い袖がシンプルに表現されている。
無愛想な彼女に少し笑みがこぼれた。
「あの子のリボン、まだ持っているでしょう?」
「ええ」
霊夢は立ち上がり。部屋の奥へ歩いて行くと、戸棚からリボンを取り出し戻ってくる。
アリスはそれを受け取り、人形の髪を留めた。そよ風がリボンをひらひらと揺らす。
「ありがとう。大切にするわ」
巫女は人形の頬を撫でる。
「魔理沙は?」
「来てないわ」
一瞬、表情が曇ったように見えた。
「一度も?」
「……ええ」
「……そう」
重い沈黙が、二人の間に降りる。
一つため息をつき、アリスが沈黙を破った。
「魔理沙も気持ちに整理がつけば、いつも通りに遊びに来ると思うわよ」
その言葉に、霊夢は小さく頷くだけだった。
異変が終わって一週間が過ぎた。
博麗神社に、霧雨魔理沙は今日も訪れる事はなかった。
了
NEXT STAGE
終わる幻想郷 -Last Word-
あの月の異変が解決しても、私の胸騒ぎは、収まりはしなかった。むしろ酷くなってきている。胸騒ぎが知らせる異変は、これから起こるのだ。
◆
東風谷早苗は、にとりから貰った地図を見ながら、新天地――幻想郷を見てまわる。
◆
天子が見ていたとおぼしき紙切れが、床にひらりと落ちた。
衣玖はそれを拾い上げる。
そこには天狗が書いた地上で起きた異変の内容と、東の巫女の写真を貼った記事だった。
*
大地が大きく揺れ、二人の巫女と一人の魔法使い、三人の目の前で博麗神社本殿が崩れた。
*
秦こころは薙刀を構えると、???に向かって空を蹴った。
*
八坂神奈子の合図と共に、大地のあちこちから六角形の柱が勢いよく現れた。一本が???を狙うかのように生える。前方からは洩矢諏訪子がこちらに手をかざした。
*
比那名居天子は衣玖の言葉を遮り、得意げに喋る。
*
「輝夜の出番のようね」八意永琳は落ち着いた声で言った。
*
オレンジ色の巨大なレーザーが地を削り人里をかすめていった。それだけだった。発生した衝撃波が民家を、そこに住む人々をなぎ払う。それだけではない。鳥居を含めた博麗神社全てが瓦礫と化した。
*
豊聡耳神子は跳躍し、布都の名を呼ぶ。一人で相手にするには分が悪い。二人は???の結界に囚われた。
*
霊烏路空の右手の砲身が、???の眼前で構えられた。
*
霊夢の胸ぐらを掴み引き寄せ、魔理沙は声を荒げた。「なんで、お前は――
*
遠くで光の柱が立ち上った。白く神々しいほどの真っ白な光。
*
白い首に手がかかる。締め上げられ、声が出ない。
*
瓦礫の中にあった人形を拾い上げる。ところどころが裂け、綿がはみ出している。
人形の首がぐらりとゆれ、瓦礫だらけの地面にぽとりと落ちた。
CAST
博麗霊夢 霧雨魔理沙
ルーミア チルノ
紅美鈴 パチュリー・ノーレッジ
十六夜咲夜 レミリア・スカーレット
フランドール・スカーレット
アリス・マーガトロイド 魂魄妖夢
西行寺幽々子 八雲藍
八雲紫
伊吹萃香
上白沢慧音 因幡てゐ
鈴仙・優曇華院・イナバ 八意永琳
蓬莱山輝夜 藤原妹紅
射命丸文 メディスン・メランコリー
小野塚小町
河城にとり 東風谷早苗
八坂神奈子 洩矢諏訪子
永江衣玖 比那名居天子
黒谷ヤマメ 水橋パルスィ
古明地さとり 霊烏路空
古明地こいし
ナズーリン 村紗水蜜
寅丸星 聖白蓮
姫海棠はたて
物部布都 豊聡耳神子
秦こころ
マエリベリー・ハーン 宇佐見蓮子
稗田阿求 本居小鈴
森近霖之助
先代の巫女
……
*
*
●目次(予定)
前章:花束
・東風谷早苗(1)
・博麗霊夢(1)
・???(1)
・十六夜咲夜
・アリス・マーガトロイド
・霧雨魔理沙
・東風谷早苗(2)
・博麗霊夢(2)
・鈴仙・優曇華院・イナバ
・八雲紫
・???(2)
終章:幻想郷騒乱
・先代の巫女+八雲紫(過去)
・マエリベリー・ハーン+宇佐見蓮子(外の世界)
・博麗霊夢ら(現在)
三つ並行展開
(計30~50話程度)
例外のエロについては
・触手プレイ
・【文×霊夢】
・【レミリア×咲夜】
・【霊夢×霊夢】
・【幽々子×妖夢】
・【霊夢×魔理沙】 投稿済み
・【アリス×魔理沙】
・【霊夢×アリス】
・【鈴仙×てゐ】
・【慧音×妹紅】
・霊夢妊娠END
・【第二部キャラ×第二部キャラ】
本編詳細版、分岐路、BADENDの方向で考えるとこんな感じ。
全て書くかどうかは未定です。
話の中のいくつかはPIXIV絵に触発されたものです。
ご興味があれば……
19話[illust_id=8093019 レミ咲 純]で検索
青巫女を出そうと思った絵[illust_id=33606534 二色蓮花蝶 Red and Blue NEKO]で検索