※この作品はR-18です。

終わる幻想郷   作:くけい

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紅と春の幕間+[紅(5)]拡張


例外【Lunatic】
ミルク【レミリア×咲夜】■□□□□


 ミルクの話 【レミリア×咲夜】

 

 紅魔館の主人――レミリア・スカーレットが差し出した小さな掌には、一粒の錠剤があった。直径一センチほどの白い円盤形の錠剤。

 それはキッチンで、午後の休憩用に門番――紅美鈴に出したホットケーキと紅茶の食器を洗っている時だった。

 

「パチェが咲夜に、って」

「お嬢様、これは何の薬ですか?」

 

 紅魔館のメイド――十六夜咲夜は身につけているエプロンで手を拭き、妖しげな錠剤を親指と人差し指で抓み、観察しながら主に質問した。

 

「ただのビタミン剤、だって」

 

 ニコニコと笑顔で従者の問いに答える紅の吸血鬼。

 咲夜にとっては何度も見たことのある笑顔。

 嫌な笑顔だ。

 メイドはそう思う。

 この笑顔は何か企んでいる顔だ。

 日頃のねぎらいの意味を込めてと差し出された錠剤。

「別に健康なので、必要ないですよ」などと答えても、あるいは言葉を変えて拒否をしても、おそらく無駄だろう。不必要な癇癪を起こされ、ただ無為に時間が過ぎていくだけだろう。

 こちらを見つめる幼い吸血鬼の顔は、これを服用しないかぎり反らすことはないだろう。

 

「そうですか。ありがたく頂戴しますね」

 

 果たしてどんな効果をもたらすのか? それが分からない以上、演技もできない。逃げ道を考えている時間もあまりない。

 錠剤を観察すると、割線が入っていた。どうやら割って飲むこともできそうだ。

 

「もしかして、咲夜、口移しの方がいいの?」

 

 すぐに経口摂取する気配がないのを見てか、催促の声がかかる。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 洗ったばかりのティーカップに水を入れ、少し顔を上げ錠剤を舌の上に置いて、時間を止めた。

 すぐさま、錠剤を手に取り、メイド服のスカートから隠れた左太腿に装着したナイフホルスターからナイフを取り出す。すぐ脇にある調理台の上に錠剤を置き、布巾をかぶせる。その上から、錠剤にナイフを押し付け二つに割った。素早く、布巾を戻し、半分をスカートのポケットに半分を口に放り込み、時間を再生させた。

 カップの水を口に含み、ごくんっ、と多少わざとらしいが喉を鳴らして飲み込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 話は一昨日前に遡る。

 最近、食後に飲む紅茶に変化があった。ミルクティーがでないのだ。だいたい、三日あるいは四日に一度はミルクティーで用意される。しかしここ一週間は、アップルティーやレモンティーなどだ。疑問に思い、レミリアは理由をメイドに聞いた。

 

「異常気象が原因で、ミルク不足で値段が高騰しているんです。ですので、元に戻るまでのしばらくは我慢してください」

 

 申し訳なさそうにメイドが訳を言った。そういえば、例年通りであれば、雪は溶けてなくなっている。しかし、今も雪は残り、ときには吹雪いていたりもする。美鈴も作物の芽が出ないと嘆いていた気もする。

 

 

「と言うわけで、パチェの魔法でミルク作れない?」

 

 場所は紅魔館の地下にある図書館。薄暗いこの部屋には天井にまで届きそうなほど背の高い本棚が乱立し、数多の本が収められている。魔道書や歴史書、果ては料理本など様々な本が収められていた。

 部屋の中央には読書スペースとして、アンティーク調のテーブルと椅子、大きいソファーがある。気分に合わせて、どちらかを利用して読書をする。今は魔法使いのパチュリー・ノーレッジと、館の主人がソファーに腰掛けていた。

 

「確か、里で出回っているものは、牛と山羊のものだったかしら……私には無理ね。大人しく待っていた方がいいと思うわよ。」

「他にもミルクを出す動物がいるの?」

「色々いますよ。人間もそうですし」

 

 紫色の髪をふんわりと揺らし、友人に答えた。

 

「じゃあ、咲夜も……」

「必ずしもじゃないけど、妊娠して子供を産んだら、ね」

「それじゃあ、私が咲夜を妊娠させたら……」

「レミィは女の子でしょう……種を蒔いても、花が咲くのは一年後位よ」

「それじゃあ、意味がないわ」

「そうでしょうね」

「むぅー」

 

 頬をぷくぅっと膨らませ、レミリアは唸る。目を閉じ、思考を巡らす。友人のうなり声を無視し、読みかけの分厚い本に目を通す。

 

「ねぇ、一時的にそういう体にすることってできない?」

「一時的に、ですか?」

「そう、パチェの魔法とか、魔法のアイテムとかでさぁ」

「ん-」

 

 友人の問いかけに、今度はパチェが唸り、目を閉じて記憶を検索する。

 

「昔作った薬があったような……」

「え? あるの?」

「もらい物の薬草? 毒草だったかしら? などで作れるものがあったので、試しに作ったものが残ってたような……」

「それよ、それ、それ頂戴」

「私、調合作業は昔から苦手で……」

 

 小さく呟くパチェの背中をレミリアは押す。

 面倒といった感じで、図書館の奥にある研究用として宛がわれた部屋へと入っていった。

 

「きゃっ」

 

 短いパチュリーの悲鳴と共に、何かが崩れるような音が聞こえた。

 

 

 ▲レミリア▲

 

 

「お嬢様」

 

 私を呼ぶ声。その咲夜の声に混じって聞こえる水音。

 肌に感じる暖かく湿った空気。後頭部に感じる人肌の温もり。腰から下は温水の水流が肌を舐めている。

 

「お嬢様」

 

 再び私を呼ぶ声。頬に柔らかな感触を感じた。ぺちぺちと軽く頬を叩く音が次第にはっきりと聞こえ、重い瞼を少し開ける。

 

 

続く

 

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