紅魔戦線(5)
複雑な意匠を凝らした両開きの黒い扉があった。いかにもこの館の主人の部屋という感じ。霊夢は右のドアノブに手をかける。
紅魔館の主――レミリア・スカーレットはあのメイドに対してどれほどの感情を持っているのか。この血塗れの体を見て、従者の惨状を想起して怒るだろうか。相手が冷静でない方が、勝率が上がるかもしれない。
文から聞いたレミリアの能力にどう対応すればいいのか分らなかった。彼女の宣言に近似した状況を意図的に作れば、あるいは……
扉の先は広い空間だった。劇場と言えそうな広い部屋。霊夢がイメージしていた薄暗さはなく、煌々と輝くシャンデリアが赤い部屋を照らしていた。
部屋の奥には西洋風のベッドやテーブルや椅子といった生活感のある家具などが置いてあった。そして部屋の正面には西洋風の椅子。そこに足を組み座っている少女。二桁にも満たない年齢を思わせるほどの体躯。桃色のワンピースドレス。アクセントに紅いリボン。青い短髪。背中にコウモリのような漆黒の翼。少女は巫女を見つめ、従者の事を問う。
「貴女、咲夜を殺したの?」
「ええ、向こうからいきなり殺しにかかられたんでね。正当防衛よ……私の要求は表の霧を止めてほしいだけ。このまま放っておくと幻想郷の外にまで影響が出そうだから」
「別にそれはもう良いんだけど。……でも、咲夜を殺した償いはして貰うわ」
「でしょうね」
「随分軽く言うのね」
「さあ。そっちの受け取り方次第じゃない?」
「咲夜を殺した事、すぐに後悔させてあげるわ。一つ、貴女に運命をあげる。貴女の体にナイフが突きささる運命をね」
レミリアが立ち上がり、指を鳴らす。周囲に無数の紅いナイフが出現し、霊夢を目がけて次々に飛んでくる。
巫女はそれらをひらりひらりと交わしながら、紅い悪魔に向かって護符を投げる。
向こうも攻撃を予想してか、ひらりと攻撃をかわす。
命中し損なった護符はレミリアの背後の壁に突きささり、あるいは張り付く。
レミリアが右腕を掲げると、一際大きな紅い槍が出現し、紅白の巫女の軌跡を追うように投げつける。さらに左腕を上げ、同じ槍が出現し、目標目がけて投げつける。
霊夢はそれら弾幕を右へ左へと避けつつ、吸血鬼との距離を少しずつ縮めていく。
不意に背中に衝撃が走る。
思わず体を止める。
それを狙ってレミリアの大槍がせまる。
「封魔陣」
そう霊夢が叫ぶと目の前に矩形に輝く結界が展開し、槍を弾く。
ナイフと違い、槍を投げる方が、時間がかかっている。
右手を中心に展開した結界の盾を使い、巫女は吸血鬼との距離を縮めつつ攻撃する。
盾が消えると同時、霊夢は両手で一枚の護符を眼前構え、護符を解放する。
護符から一本の氷柱が吸血鬼の頭蓋を狙って飛び出した。
紅い悪魔は余裕を見せつけるかのように笑みを浮かべ、顔を右に傾けて氷柱をかわす。
霊夢は違和感を感じる。
顔を右に傾けてみる視線。
こちらを向いていない。
視線の先は霊夢の後ろ。
第六感が警告音を発する。
体をよじろうとするも――
背中に鋭い衝撃が走った。
背中を見ると青いナイフが突きささっている。
霊夢はナイフが飛んできた方を見ると、扉にもたれかかったメイドがいた。
思っていた以上に早い。
これは彼女の能力の結果なのか?
そうならば――
霊夢はレミリアの操作するそれは、彼女が主語だと思っていた。
赤白の巫女は忌々しく青いメイドを睨むと指を鳴らす。
咲夜が引きずっている右すねを一本の細いつららが貫いた。あらかじめ保険としてセットした右すね貼られた札。そこから飛び出した。
悲鳴を上げ、咲夜は倒れ込む。
霊夢は後ろに飛び退き、距離を開ける。
「咲夜!」
従者の悲鳴に、主人はメイドの名を呼ぶ。
霊夢はナイフを抜き、治癒の護符を貼る。痛みと熱が背中を焼く。
博麗の巫女はこれから起こる未来を予想し、一つ合図をする。
レミリアは忌々しげに巫女を睨む。
彼女の周りに無数のコウモリが躍り出る。そのコウモリは姿を変え紅く鋭い槍と化す。
吸血鬼は槍を構える。
「よくも、咲夜を。あんたはこの槍で刺し貫いてあげる」
レミリアの合図と同時に、彼女の周りの紅蓮の槍が巫女に襲いかかる。
槍を霊夢は躱しつつ、一枚の護符を吸血鬼と自身の間の床に向かって投げる。札は床に張り付き、底を中心に部屋が真っ暗になった。
正確には部屋全体ではない。数メートル程度だ。
道中で出会った闇を操る能力を持った妖怪。その妖怪の力の一部を封印した物を解放した。
吸血鬼と巫女の二人が、闇に囚われる。
従者には突然漆黒のドームが、部屋にできあがっているように見えているだろう。
夜目の利くレミリアも突然の闇に瞬時に対応できず――と、背後から気配を感じ、体を翻し、それに向け槍を放つレミリア。
槍が肉を貫くイメージ。
数秒後、暗闇が取り払われた。正面には槍に体を貫かれ、壁に縫い付けられた巫女の姿があった。
レミリアはもう一本の槍を紅白巫女の頭蓋を砕こうと構えた瞬間、違和感を覚える。自身の能力で見たそれと同じ光景なのに――と、磔の少女が白煙をあげ、一枚の護符へと変わる。気づいたときにはもう遅かった。
振り返った瞬間、レミリアは頭をわし掴まれる。そして顔面に、巫女の膝蹴りが叩きこまれた。衝撃で吸血鬼の脳が揺れ、すぐに巫女の手を振りほどく動作できない。
霊夢は地面に急降下し、レミリアの頭を赤いカーペットの床に叩き付けた。吸血鬼が呻く。遠くでメイドの悲鳴が聞こえた。打ち付けた鼻から血が流れる。霊夢は左手でレミリアの胸ぐらを掴み、冷徹な声で問いかける。
「私のお願い、もう一度言った方がいい?」
「……」
「どうなの?」
「……」
吸血鬼の首筋に、巫女は一枚の護符を突きつける。
霊夢は掴んだ腕を動かし、相手に凄んだ。
宙に浮いたレミリアの脚が揺れる。
「早く返事を頂戴。貴女の能力のことは知ってる。だから早くしないと貴女の首を切って、しゃべれなくするわよ」
「……分った……わよ」
巫女は首筋に当てた手を下ろす。それを合図に吸血鬼は紅霧を消失させた。
外の様子を確認するため、霊夢は近くの窓まで歩いて行く。
彼女の言ったとおり、緋色の霧は消えていた
「ほら、これでいいでしょう」
レミリアは短く言い放つ。
恐らくはこの宙吊りの状態がつらいからなのだろうが、どこか癪に障る言い方だった。
吸血鬼を睨む。
頭痛がした。
「いい加減離しなさいよ」
紅い悪魔の声が響く。
霊夢は頭を押さえた。
――↑↓――
額を押さえた手を離し、巫女は顔をあげた。何を見ているかレミリアには分らなかったが、再びこちらに顔を戻した巫女の瞳は先ほどとは異なり……
巫女はレミリアの胸ぐらを掴んだまま、ベッドの方に飛んでいく。ベッドにレミリアを放り投げると、あさっての方向に何かを飛ばす。
巫女は吸血鬼に馬乗りになると、困惑するレミリアの服のボタンを外し裸に剥いてしまう。
人形巫女はメイドを連れ、レミリアの横に転がす。
メイドの耳元で巫女が囁く。
ぞっとするその命令にメイドは更に顔を青くする。
巫女はどこから取り出したのか一枚の護符を咲夜のうなじに貼り付ける。
咲夜の股間に感じたことのない刺激が走る。
スカート捲られ、下着をはぎ取られた先にあったのは、グロテスクな男性器だった。
レミリアの感情は一切無視される。
幼い吸血鬼が抗議の声を上げると、巫女が頬を叩いた。
従者はそれを止めるため、言われたとおりに主人の股間に顔をうずめる。
主人の性器を舐め指で解し、男性器を挿入する。腰を前後に動かす。
緩慢な動きに、巫女は苛立ち、メイドの尻を足蹴にし、不規則で強弱の付いた腰振りになる。
痛みに悲鳴を上げる主人に対し、殊更慚愧の言葉を吐く従者は、言葉と裏腹に、主人の中に精液は吐き出してしまう。
一度では終わらない。
無様な二人の姿を見下し、巫女は高らかに笑った。
――↑↓――
不意に霊夢の意識がはっきりとした。
「何なのよ、これ」
ベッドの上には折り重なるように脱力した吸血鬼とメイドの姿があった。
NEXT
続けざまに快楽を叩込まれた体をゆっくりと起こす。