紅魔戦線(6)
体が疼く。
霧が収束して三日後の深夜二時過ぎ、霊夢は目を覚ました。
脳裏に紅魔館での絵がちらつく。
それは、ベッドで気絶している二人の女の姿だった。
洋館の主――レミリア・スカーレットの小さな体躯。
服は乱れ、申し訳程度に膨らんだ乳房は剥き出しで、スカートは捲られ、陰毛の生えていない幼い性器の周りは白い粘濁液で汚されていた。
もう一人は小児吸血鬼に折り重なるように仰向けで倒れている。
メイドの十六夜咲夜だ。
スカートが捲れ、下着を着けていない白いお尻が剥き出しだった。
見たこともない彼女たちの嬌声が聞こえた。
それは幻聴なのに――
発露した欲情は高ぶっていく。
布団の中で疼く女性器を指で慰める。
くちゅくちゅと指が奏でる水音と喘ぎ声が暗闇に響く。
でも、こんなことは慰めにはならない。
本当に欲しているのはあの性器による慰め。
薄暗い部屋の中、少女はふらふらと護符を納めた棚へと進む。
霊夢が使用する護符。
様々の物を封印した護符のオリジナルは実際に物を封印したものと、頭の中で想像した物を封印したものの二種類がある。前者は先日の紅魔館で使った氷柱を出す護符や辺りを暗闇にする護符などで、後者は傷を癒す護符や霊夢の分身を出す護符を指す。
後者の護符作成は手間がかかる。頭の中で細かな構成を行い、霊力を以てしてその構成を護符に送り込む。それは、一度で形になる事は少ない。何度も構成を修正し、積み重ねて形成する事が多い。しかし、一度出来てしまえば、それを複製する事は簡単で。傷を癒す護符のオリジナルはずっと前の先代が作った物である。下半身のそれをオス化させる護符もまた。他に色々あるが……
霊夢がオリジナルで作ったものが一つある。それは自分のコピー人形である。人間ではない。自己思考を持ち、作り上げたときの自身と同じ記憶を持つ。霊夢の意志で感覚を共有する事もできる。性能を落とし単純な命令だけを行使する偵察人形のベースとなっている護符は先の紅魔館での戦闘で使用したものだった。
霊夢はコピー人形の護符を取り出し、壁に貼り付ける。護符が広がり、そこから手が伸び、人形が顔を出す。霊夢そっくりの顔。人形霊夢は周囲を見渡す。薄暗い部屋に寝間着姿の自分と同じ顔の少女。
暗がりに光る、その少女の濡れた瞳。吸い込まれるようなその眼が、次第に近づき――。
「ちょっと霊夢、さん?」
互いの唇が重なり、舌が絡まり、そのまま布団に押し倒され……
二人の霊夢。
髪が乱れるのも構わず腰を振り続ける霊夢。
布団に仰向け 赤いリボンをつけた霊夢。
明かりは既に消えていた。夜明けが近く、室内はうっすらと明かりが差し互いの表情も見て取れる。
上になっている霊夢が一際大きく背中を仰け反り、抜かずの五度目の射精。
流し込まれた灼熱が、人形の子宮を満たしていく。
恍惚とした表情を浮かべる霊夢と、快感に耐えようとする霊夢。
引き抜かれた性器は白濁と愛液に塗れ、妖しく照り光る。
――↑↓――
続けざまに快楽を叩込まれた体をゆっくりと起こす。一方的に犯された仕返しとばかりに快楽の余韻に浸っている少女の萎んだ性器に右手を添えゆっくりと刺激していく。びくりと馬乗りになっていた霊夢が体を震わせる。
「ちょっと、やめて」
制止を要求する声に構わず、愛蜜と精液で濡れた性器を刺激させると、再び熱を帯び固く膨らみ出す。それとは逆に霊夢の表情は青くなっていく。制止の声は次第に震え、嗚咽混じりの懇願に変わっていく。
少女は手を止め、霊夢の乱れた髪を左手で梳き、抱き寄せた。
「ごめんね。あんまり一方的だったから、ちょっと仕返ししてみただけ」
「……」
「何があったの?」
「……」
「人に言えない事、なんでしょう。でも、今ここにいるのは霊夢だけ。ただの独り言よ」
「……」
長く長い沈黙。
やがて、ぽつりぽつりと霊夢はこれまでの出来事の一部を話し始めた。
◇◆◇◆◇
縁側のふすまを開けると、そこには同じ顔の少女が二人、抱き合うように寝ていた。
「うわっ!」
魔理沙は、思わず声を上げた。彼女と会うのはこれで二度目だった。一度目はいつだったかはっきりとは覚えていない。一年ほど前だったか。ホムンクルスの話をしたときだ。書物に載っているホムンクルスいまだ幻想郷の魔法使いは再現できていない。魔法使いの研究外だったが、再現できれば有名になれると話した。その数日、「作ったわよ」と魔理沙に彼女を見せた。作った理由は人形に直接は言わなかったが、もう一人の自分を作れば楽ができると言っていた。結局、彼女を使っているところを魔理沙は見なかったが……
「……なんだよ、これは」
リボンをつけた方の霊夢が目を開け、左手人差し指を唇に当てた。小さな声で魔理沙に声をかける。
「この子、ようやく寝たところなの」
「ん。ああ。そうなのか……いや」
「魔理沙。新しい布団持ってきてくれる? 場所、分るよね?」
「ああ」
魔理沙が敷いた布団の上に、リボンの少女が寝間着を着せた霊夢をそっと寝かせた。下着を着けた少女と魔理沙は座布団に座り、霊夢の顔を見る。寝息は穏やかですぐに起きる気配は感じない。
「お前は、人形の方なのか?」
分かりきったことではあったが、異様な光景で魔理沙の頭は働かない。
「ええ。」
「……」
「魔理沙はこの子としたのよね? なんか、あんまり驚いてないし」
魔理沙は頬を赤らめ、頷いた。いや、否定した。
「いや、かなり驚いているぞ、私は」
「なに今更赤くなってんのよ。まったく。きっかけは? どっちが責め? 受け?」
「そんないっぺんに聞くなよ。って言うか聞くな。恥ずかしいだろ」
巫女がじっと魔理沙を見つめる。
こちらを茶化すような眼ではない。
仕方なく、魔理沙はしゃべり出した。
「……簡単にいうと告白されたんだよ、霊夢に。別に逃げればよかったんだけどさ。あの時はそういう雰囲気じゃなくなって……だから……まあ……受け入れたんだ。拒んだら……なんというか……くずれそうと言うか」
「それで?」
「……」
「それで?」
「……」
変わらず魔理沙の顔を赤い。
「今聞いているのは別に興味本位じゃないの。この子の為に聞いているの」
「どういう……」
「貴女の知らないところで、この子はかなり酷い目に遭っているのよ。詳しくは言えないけど。魔理沙も予想はしているんじゃないの? 雰囲気がおかしかったんでしょう? だからこの子に関する情報が少しでも欲しいのよ」
「……私はさ、何となく女同士でそういうのって、その時々だっておも……いや、なんていうなすがままって感じかな?」
「やっぱりそうよね。それでよかった……かもね」
「よかった?」
「さっき、こっちから責めようとしたらすごく怯えたのよ」
意外な顔をする魔理沙。
「……」
「かなり情緒が不安定すぎるのよね。まあ、魔理沙がきちんと受け皿になってれば大丈夫かな」
「治癒の護符は効果がないのか?」
「あれば傷を治すだけ。一時的に体の治癒能力を上げるだけだから。精神的なものはちょっとね難しいのよ」
「……」
「とりあえず、ここはなかったにしておきましょう」
「?」
「さっきまでの事を無かった事にするの。その方があの子もショックは少ないでしょう」
「んー。そんなにヤワ」
少女は一枚の護符を出し、汚れた布団を封印した。
「私は体洗ってくるから、この護符処分しといて。あと窓とか開けて空気入れ替えといて」
「おう」
「残りは……布団の位置の戻さないと」
「他には?」
「その子の側にいてあげて。好きな子が側にいれば安心できるでしょ……私も好きだし」
――↑↓――
口をすすいだ。
あまり時間はかけない方がいい。
少女は桶に水を貯め、髪や体にかける。
水が冷たい。その冷たさが心地良い。
申し訳程度に膨らんだ乳房の間に手を当てる。
心音は聞こえない。
人形としての使命は主と同じ、異変の解決なのか?
私は単なる慰み者?
そのために生まれた?
流れる水音を聞きながら少女は――
少女は着替えを済ませ、髪を乾かし、部屋に戻る。自身が封印されている護符の収納場所を魔理沙に伝えた。
「こまった事があったら、あの子のいないときに相談してくれればいいわ。できればそうならない方がいいけど。無理はしないでね、魔理沙」
「まあ、あんまり気にしなくてもいいさ」
少女は一度魔理沙の方を振り向いた。魔理沙を霊夢の枕元で座り、彼女の寝顔を眺めていた。
護符を手に触れ、少女は護符の中へと眠りについた。
◇◆◆◆◇
おでこを撫でるさわやか風が心地よい。そう感じ霊夢は目を開けた。
顔を横に向ける。
魔理沙がいた。逆光でその表情は分らなかい。掛け布団からはみ出た左手を魔理沙が握っている。大きく開いたふすまから光と心地よい風を運んでくる。
「魔理沙」
声をかける。魔理沙が顔をこちらに向けた。
「もう大丈夫か? 随分うなされてたぜ。……手、握ったら落ち着いたみたいだからさ……もう、いいか?」
「……ううん……もう少しこのままで、いさせて……」
霊夢の頬が少し赤くなる。
「珍しくしおらしいな、風邪でも引いたのか?」
「ひどい夢……なのかな?……見た気がするの」
「そうか……」
「魔理沙にしては珍しいわね。こんな朝に来るなんて」
「何言ってんだよ。もう昼だぜ」
「でも……この風」
「今日から気候が変わったんだよ。夏は昨日で終わったんだぜ」
秋風が、二人の少女の髪を優しく撫でていた。
NEXT
咲夜は頬を赤らめながら、小声で言った。