…ここに真弓が居る…
悟堂刑事の車に乗り遂に到着した病院の前で僕は黙ったまま眺めていた。
「…翔五くん、彼女はキミを交えて自身に起こった出来事を話したいと申した。
私も刑事である以上は事件の全貌を詳しく聞き出さなければならない……キミには辛く不愉快だろうが」
悟堂刑事は申し訳なさそうに呟く。
ここに来るまで僕は車の中で悟堂刑事に色々と問い掛けられ時にはこっちからも幾つか質問もした。
曰く被害者は真弓とそしてもう一人はあの小田昇だった。
分かっている事は午前五時ごろにとある廃墟ビルの地下室で全裸のまま椅子に座り両手両足をヒモで結びつけられた状態で、小田のスマホからの連絡で駆けつけた警察の人に発見されたそうだが、その時の二人の姿は想像を絶していて特に小田の方が一番酷く惨かったらしい。
なんでも…手足の指全てを基節骨まで切断されてて両耳も切られていたらしく…そして極めつけは両目を抉られ無くなっており
其処までされたのにもかかわらず小田は幸いにも命を取りとめたようだ…“死ねばよかったのに”…と小田によって真弓を奪われた僕ならそう考えた筈だけど真っ先に思った心境は…“狂ってる”…と言う小田への憎しみや軽蔑以上に犯人に対する恐怖心だった。
聞いただけでも悍ましくしかもそれを恐らく真弓の目の前でも行われていたんだとしたら……セックス動画、こういう場合は寝取られ動画だろうか…それを送らされ見せつけられたのに僕は未だに真弓の事を心配していた。
幼馴染で仲良くてもあんな動画を見せられたら普通は「もう知らない!無関係だ!」って突っぱねられると思ったけれど……僕は自分が思ってる以上弱くそして甘すぎなのかもしれない…。
「…いえ、御気になさらずに…案内してください、真弓の病室に」
まだ整理しきれない思いで一杯の僕はそれを押し殺しながら悟堂刑事に真弓の病室へと案内された。
「失礼、星野真弓とそのおかあさん…只今戸上翔五くんをお連れいたしました」
「…どうぞ、入ってください」
真弓が居る病室の前でノックした悟堂刑事の声に返事をしたのは真弓のおかあさん、即ちおばさんの声だった。
許可が下りた事を確認した悟堂刑事はスライド式のドアをゆっくりあけ中に入り僕もそれに続いた…そして僕が最初に見た者…それは…。
「……まゆ…み…」
ボーイッシュな髪型がよく似合うその子真弓は女性用の患者着を着て上半身を上げて僕の声がする方へ顔を向けていた…両目位置から真後ろまでグルグルと鉢巻の様に巻かれた包帯が嫌でも彼女の現状を物語っている。
…真弓は小田と違って目を抉り取られたんじゃなく…ナイフのような刃物で両目を切り裂かれてしまった…そう悟堂刑事が言っていた。
「いらっしゃい翔五くん!わざわざ来てくれてごめんね、疲れたでしょう?」
「ま…真弓?」
「まぁ色々あったからさ、幼馴染の間柄で全く無関係とも思えないし翔五くんにも聞いてもらった方が良いと思って刑事さんに呼んでもらったのよ」
何時もの様に明るく話し掛ける真弓…その時点でこれは異常だと言うのを僕以外の人達も感じていたのか目を見開いていた。
特に僕とおばさんは知っている、今真弓は僕の事を“翔五くん”と言うが…今まで真弓は僕の事を“ショウ”としか呼んでいなかった筈だ。
「…さ、さっそくで悪いんだけどキミには辛い事だろうがキミと彼の身に起こった出来事を聞かせて欲しい」
刑事さんは戸惑いながらも真弓に問い掛ける、きっと僕達と同じように考えたのだろうけど刑事である以上は仕事として割り切ったから言ったのかもしれない。
「ええ分かりました!ええとですね……ええとですね……えっと…えと…………て……めて……やめて…」
明るい声で言いながら身に起こった事を話そうとする真弓…でも段々と声が小さくなりうわ言の様にぶつぶつ呟き…そして。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
病室全体をそして窓ガラスが割れるのではと思ってしまうほどの真弓の絶望の悲鳴がこだました。
「やめてぇええ!もうこれ以上中に入れないでぇええ!気持ち悪いのに気持ちよくなっちゃうよぉおおお!!!
違う違うちがうチガウチガウ!アンタの物が良いんじゃないのおぉお!あたしはあたしはぁああ!
どうしよう!気持ち良いよぉ!良くなっちゃううう!体がうずうずしちゃううう!!!
もっとズボズボのグチュグチュにしちゃってえええ!嫌だ!そうじゃない!そうじゃないの!
騙されたんだ!最初からハッタリだったんだ!!あたしなんでこんなバカなことをぉおおお!!!
ああ御免なさいごめんなさいゴメンナサイゴメンナサイショウごめんなさい!あたしショウを、ショウを捨てちゃったんだぁあああ!!!
もう嫌だイヤダいやだいやだ!!あたし汚くなったんだ!汚くなったんだ!体も心も全部気持ち悪くなったんだぁぁあ!
そうだ!これは罰なんだ!セックスを選んだ!気持ち良い事を選んだ!ショウを捨てたあたしへの罰なんだぁああああああああ!!!」
…真弓が…壊れた…。
暴れ狂う真弓をおばさんは必死に止めそして真弓の悲鳴は廊下の方まで響いたのか医者と看護婦の何人かが駆けつけ同じように止めに入った。
鎮静剤をと誰かが叫んだのを耳にしたけど段々何もかもが遠くなり何も聞こえなくなってしまう。
僕の体が誰かに引っ張られる…たぶん刑事さんがこの部屋から連れ出そうとしてるんだろう…。
泣き叫ぶ真弓のその姿が遠くなるのを感じた僕は只黙って見詰める事しかできず…僕自身も何もかもが痛くなり始めた……真弓……まゆみぃ…。
つづく。