「…すまない、私が迂闊に話を進ませようとしたばかりに…彼女を」
「……」
休憩所へと移らせ、顔を俯かせながらイスに座る僕に隣で座る刑事さんから謝罪の言葉を貰う…でも僕はそれに何も返事が出来なかった。
いつも元気で常に明るく一緒に遊ぶ事が多かった真弓…それが小田によって嬉しそうに犯された挙句、犯人によって切り裂かれ二度と映る事が無くなった目へと変えられてしまった…。
「…刑事さん、なんでこんな事になっちゃったんだろう」
「翔五くん…」
「ずっと続いてくんだと思ってました…何の変哲もないけどそれでも心が温かくてとても幸せでいられるそんな日常が…それが……ボロボロになって…ズタズタになって…何で真弓がこんな目に…」
「…キミは彼女、真弓さんの事を恨んでないのかな?」
「それって…」
「事件現場には二人の私物であるスマートフォンがあり証拠の一つとして回収した、その際に犯人の形跡が残ってないか確認するために調べたのだが…彼とプレイする動画がありその内容の中で彼女が君の名前を呼びながら行ってる事からもしやその動画は君に送られたのではと考えた…そして意識が回復した二人にその事を問い掛けると彼は「俺は知らないアイツが勝手にやった」と否認、逆に彼女は震えながらも認めたようだ」
「……」
そうか、だからあの時「不愉快だろうが」何てことを言ったんだこの刑事さん…僕の身に何が起こってるのかを前もって知ったから気を使っていたんだね。
「だがあくまで“認めた”だけでそれに至るまでの経緯を彼女はまだ自供してない…個人的な言い分だが裏切り行為とも言える事を行った子に普通は恨んだり縁を切ったりする筈…キミはどうなんだ?」
僕はそう問い掛けられると自分を落ち着かせる様に目を閉じ考えた。
…確かにあんな光景を見せつけられると、内側の物を抉られ千切れるような感覚に何時爆発しても可笑しくない程に激しく心臓が動き続けるこの感じ…平気な訳がない、ましてや相手は幼馴染の真弓だ。
ずっと友達だからとプレイ中に言ったって納得なんてできる筈がないよ!だって僕は!僕は……あ。
そうか…そうだったんだ、僕は今頃になって漸く気が付いた…あんな動画を見せつけられてこんなにも苦しい思いをしたのは何も友達や幼馴染だからじゃない。
余りにも遅すぎた、僕は真弓を…。
「刑事さん」
「ん?」
「今頃になって僕本当の気持ちに気付きました…真弓の事が好きだったんです…一人の女の子として」
「……」
真っ直ぐに前を見てる僕にきっと横で見つめてるだろう刑事さんに僕は湧き上がる思いの丈を語りだす事にした。
「小学校で初めて出会った時から真弓は明るい子でした、彼女から友達になろうと迫られた時は戸惑いましたけどその明るさと優しさに僕も惹かれてすぐに打ち解ける事が出来ました。
公園で遊ぶ時も一緒、魚釣りや虫取りの時も一緒、そしてどっちかが遊園地に連れてもらう時なんか必ず誘い誘われて一緒に沢山遊びました…僕にとって真弓は常に傍にいる当たり前の様な存在だった…だから…だから…っ」
激しくなっていく僕の想いを抑える様に体をプルプル震わせ目に涙を溜めながらも僕は必死に口を開く。
「あ、あいつと…小田とセ…セックスしてる所を見せられたら怒りよりもこんな奴に持って行かれた絶望感しかありませんでした…「なよなよしてムカつくんだよ!」って難癖付けて暴力を振う様な奴は真弓が嫌いなタイプの人間なのに!こんな…こんな事を嬉しそうにしてたらもう滅茶苦茶で狂いそうになりました…!
それなのに!…それなのに僕は…こんな事になっても…真弓を心配するほど……やっぱり好きなんです」
「……」
「分かっています…僕が自分の気持ちに気付かずに真弓の温もりに甘え続けたから…全部自業自得だって。
投げ出せれば…あんな奴と楽しくしてるお前なんて知らないって見捨てれば少しは楽になれる…そうする事だって出来た筈…でも…今回の事件を聞いて凄く不安で堪りませんでした。
きっと殺されるんだろうって怖い思いをし続けて…隣で小田が切り裂かれる所を見せ付けられて…その光景を最後に二度と周りの景色を…おばさん達の顔を見られなくなる様に目を切られて…未来を断たれて…絶望して…っ!」
もう抑えきれなくなった僕は溜め続けていた涙を流し始めた。
「小田の事に怒りや憎しみは無いと言えば嘘になります…でもあいつの事なんか今はもうどうでもいいんです!
僕の中は真弓の事で一杯なんです!どうしてこうなってしまったのか、何で真弓まで傷つける必要があるんだって!…何もかもが分からな過ぎて…もう…っ!」
小田の手で真弓は抱かれそして目を奪われて…絵に描いた余りにも最悪な展開…僕と同じでまだ17歳なのに…まだまだやりたい事が一杯あるのに…今まで普通にできた事がもう二度と出来なくなる…こんなの残酷すぎる。
その理不尽なそして覆す事が出来ない結果の前に、改めて僕は無力だと思いながら流れ続ける涙を力ずくで止めようと両手で覆った。
「それが奴の…“アルフ”の犯行方法さ」
「…え、“アルフ”?」
聞き慣れない名前の様な言葉を発した刑事さんに拍子抜けしたのか涙は止まり僕は思わず刑事さんの方を見た。
刑事さんは“アルフ”の事を説明した、そして同時に知る事になった…この事件は何も僕達が最初ではなく既に何年も前から他の所でもほぼ全く同じ方法で事件を起こしていた事に。
つづく。