気が付いたら犬夜叉に憑依していた件についてだれか説明を求む 作:nenenene
彼が犬夜叉に憑依した次の朝。漫画の登場人物(それも主人公)に憑依するという余りにもショッキングな出来事に遭遇し、昨日はほとんど眠れなかった彼のことを、少女の叫び声が叩き起こす。
「もう知らない! 妖怪とか! 四魂の玉とか! 帰る!」
その叫び声の正体。俺は日暮かごめ。どうやら、癇癪を起こしているもよう。
「はあ」
知らずまたも溜息が漏れる。癇癪を起こしたいのはこっちだよ。お前はまだいいだろ。自分の身体だし。俺なんてなあ。俺なんてなあ。赤の他人の身体なんだぞ! この糞女! どうやったら元に戻れるんだよ! これ!
内心で悪態をつく。もちろん、声に出したりはしない。彼は紳士だからだ。ちなみに彼の友人に言わせると、紳士と書いて変態と読む。などと失礼な感想が出てくるのだが。
彼がそんなことを考えている間に、かごめは荷物をまとめ本当に家から出て行く。ガシャンと乱暴に引き戸を締める。
「ふんだ! なんで私がこんなことに巻き込まれないといけないのよ!」
足音高く、村から出て行くかごめ。そんな彼女の悪態が聞こえてくる。
「はあ」
やれやれ。どうして女ってのは、こうも自分勝手で感情的な生き物なんだ? 彼は首を振る。
彼は考える。四魂の玉は強力なアイテムで、色んな妖怪や人間が狙っている。もしも悪者の手に渡れば、途方もない惨劇を巻き起こすだろうに。無関係の人間など死んでもどうでも良いとでも思っているのだろうか? ……まあ、どうでも良いことではあるな。彼は考える。所詮は他人だし。自分の身が一番。
「ん?」
と、そこで彼はある事に気が付く。
「待てよ……四魂の玉を使えば……」
戻れるんじゃね? 元の世界に。
そのことに気付いた彼は慌てて四魂の玉を探す。だが……
「ない!」
箪笥を開けても見つからない。
「ない!」
床下にも見当たらない。
「ここにもない!」
天井裏にも何もなし! どうやら、かごめの奴は四魂の玉も一緒に持って、村を出て行ったようだ。
「おいいいいいいいいいいいいいい! かごめえええええええ!」
彼は慌てて全力疾走。かごめの後を追う。
**********
かごめの追跡は容易だった。何せ、彼の身体は犬夜叉になっているのだ。その嗅覚はとてつもなく優秀。かごめの匂いを容易に判別した彼は、その後を追う。
だが、
「この臭い!? 血か!?」
彼の進行方向から血の臭いがしてくる。しかもこの臭いは、
「かごめ!」
癇癪を起して出て行ったかごめのものだ。クソッと悪態をつくと、さらに速度を上げる。だが遅かった。彼が追い付いたとき、そこには五人の人間が倒れていた。
一人はセーラー服を着た少女、かごめだ。残りの四人はくたびれた鎧を着崩した、武器を持った男たち。どう見ても堅気には見えない。盗賊だ。
「うそ……だろ……」
地面に倒れ伏す五人の人間。彼らは全員死んでいた。脈など測る必要はない。死んでいるのは明らかだ。なぜならば、彼らの全身はバラバラだから。首が、腕が、足が、鋭利な刃物のようなもので切裂かれている。傷口からは、夥しい血を流している。
あたりに立ち込める濃密な血の匂い。胃の奥から酸っぽいものがこみ上げてきて、
「ウゲエエエエ!」
吐いた。昨夜食べた、楓ババアお手製のクソ不味い鍋。それを地面にぶちまける。
「ウゲ! ウゲエエエエ!」
どれくらいそうしていたのか。やがて胃の内容物をすべて吐き出した彼は、吐くのを止めて立ち上がる。
「だれが……こんなことを」
哀れに転がる死体を見下ろしながら彼は考える。
「原作では……確か……」
盗賊の襲撃は恐らくカラス妖怪によるもの。しかし、
「何でかごめが死んでる? それに盗賊も?」
そこが不可解な点だった。かごめは犬夜叉世界のヒロインの筈。それがこうもあっさり死んでるなんて不自然だ。
「どういうことだ?」
考えられる可能性。それはただ一つ。この世界は、漫画通りには進まないということだ。ちょっとした失策が死につながる、リアル世界。
彼の背筋を嫌な汗が流れる。そう、彼は楽観していたのだ。自分は犬夜叉、この世界の主人公。だから、どうなろうとも死ぬことはない。
だが、その幻想は無残に打ち砕かれた。ここは現実の世界なのだ。殺されれば死ぬ。ほんの些細な選択ミスが死へと誘うことになる。
そう考えた彼は、必死になって現状を理解しようと努力する。見落とすわけにはいかない。なにか? 手掛かりは?
「ん?」
そして気付く。
「首がない?」
かごめと盗賊達の死体。その死体には首から上が付いていなかった。獣に食い荒らされたのでもない。誰かが鋭利な刃物で切断し、首だけを持って行ったのだ。
物語序盤に出てきて、人間の頭部を持っていくようなキャラ。彼には、犯人が誰かの予想がついた。
「ということは……逆髪の結羅か」
彼は呟く。
逆髪の結羅。それは一巻と二巻に出てくる敵女。あっさりと死んでしまうモブ女だ。そんな結羅を彼が知っている理由。それは、
「すごかったなあ。あのオッパイ」
彼が結羅好きだからだ。犬夜叉世界で一番の巨乳を持ったナイスバディの美少女。しかもその美少女が、下着同然の破廉恥な衣装を身に纏って登場。犬夜叉との戦闘で全身をズタボロニ引き裂かれながらも、果敢に戦闘を挑むのだ。
これで結羅好きにならない理由がない。彼にとって逆髪の結羅は、犬夜叉キャラの中で一番のお気に入りだった。
先程まであった、死への恐怖や死体への嫌悪感は一気に消失。彼の心は結羅のことで一杯になる。
これから、逆髪の結羅に出会えるのだ。そう考えると興奮が止まらない。彼の股間はビンビンになる。
**********
一方そのころ、肝心の相手。逆髪の結羅。彼女は最初の村にいた。
結羅はこの日ついていた。四魂の玉が復活したという噂を聞いて、この村の近くへ移動。村はずれの森の中から様子を観察していたところ、生まれ変わりの巫女がたった一人、護衛も付けないで村から出て来たのだ。
しかも、妖力から言って、その巫女が四魂の玉を持っているのは確実。四魂の玉の妖力は圧倒的で大妖怪ですら凌駕するため、間違えようがなかった
それは四魂の玉を奪う絶好のチャンス。結羅は直ちに、その巫女の後を追った。途中、人間の盗賊団がかごめと遭遇。小癪なことに、盗賊達も四魂の玉を狙っていたようだ。
無論、そんな抜け駆けを結羅が許すはずもない。結羅は早速行動を開始。両手で操る髪を使い、かごめともども盗賊連中をなます切りにしたのだ。
その後、結羅は四魂の玉を回収。ついでに人間達の首を切り落として、その頭部も手に入れる。
巫女の生首は中々だった。キチンと手入れしていたのだろう、枝毛も全くない艶やかな黒髪。女の髪だけあって、そこそこの長さもあった。
盗賊の髪の方は、大して手入れをしていなかったようだ。枝毛だらけでバサバサ。でもまあ、髪は髪。一応まとめて回収しておいた。
そして、生首を回収している途中で気付く。半妖が一匹、急接近していることに。恐らく犬夜叉だろう。生まれ変わりの巫女の手下になって、四魂の玉を守っている出来損ない。
半妖などどうでも良い。
結羅はそう考え、長居は無用とばかりにその場を後にしようとした。だが一瞬、犬夜叉の姿が目に入った。
「あ!」
思わず声が漏れる。
「何て綺麗な銀髪……」
うっとりとした言葉を漏らす。その言葉通り、犬夜叉は銀色の髪をしていた。銀髪など珍しい。というよりも、見たことが無かった。色素が抜けた老人の髪が白くなるのとは違う。正真正銘の銀髪だ。それを見て結羅は、犬夜叉の髪が気に入った。結羅は、髪を集めてソレを操るのが趣味の妖怪なのだ。銀髪に反応しない訳がなかった。
「うふふふ。次の獲物は決まりね」
結羅は残忍な笑みを浮かべる。
「でも、その前に……あの村を滅ぼして生首を晒さないと」
結羅は視線を動かす。結羅が見つめる先。そこにあるのは楓たちの暮らす村。
「くすくすくす。あの半妖、どんな顔するかしら?」
結羅は、悪戯を思いつた表情をする。半妖が絶望する表情が見たい。ただそれだけの理由で村を滅ぼし、住民を虐殺。その生首を晒して遊ぶ気なのだ。
これは別に、結羅が特別残忍な妖怪という訳でもない。妖怪にとって、人間など虫けら同然なのだ。
「うふふふ。さーて、さっそく準備しなきゃ」
そう言って、結羅は跳躍。無数の髪を操りながら村への襲撃を準備する。