あれから右肩を脱臼&骨折してから何とかリハビリして戻って来れました。また時間が空き次第、投稿していきますので!
一切の光が届かない静寂な空間に、産まれたままの格好をしたシンジは一人立ち尽くしていた。
「なんだ……? ここは……どこだ?」
おかしい。自分はたしかにラミエルとの戦いで何もできないまま無様に殺されたはず……
まさかここは死後の世界という場所なのだろうか……
『……“待っていた”よ。ようやく逢えた』
シンジの脳内に響く少年らしき者の声。それは不思議にも自分自身の声にとても良く似ていた。あとなんか妙に落ち着いてかっこつけてる喋り方だ。
「だ、誰……!?」
『ボクはボクさ。キミがキミであるように』
「な、何を……何を言ってるんだよっ!?」
『わからないのか? そうか……キミをこの世界に転生させた“アダム”のチカラはそこまで及ぶか……』
「アダム……?」
『そう、第1使徒アダム。すべての次元世界に秩序を齎す“生命の木”、
「か、神様……それがいったい僕に何の関係があるって言うんだ!?」
『……“キミ”は、“碇シンジ”を感じているのか?』
「は? ……えっ!?」
『なに、答えはいずれ出るだろう。一つ言えるのはボクはキミの心の奥深くに棲み憑く“姿無き闇の魂”だということだ。キミとはこれからも長い付き合いになりそうだからな……クククッ……こうして早い段階でお互いを認識できたのは実に……そう、“運が良い”』
「お、お前はいったい……っ!?」
『……目覚めの時は近い。ラミエルの不始末はこのオレが片付けよう』
……だから、“今は眠れ”。
急激に薄れ行く意識の中でシンジはその心地良い邪悪な言葉に耳を傾け、ゆっくりと深い闇の底にその裸身を沈めた。そして……
夜遅く、使徒ラミエルとの戦いでいつの間にか気絶していたシンジは病室らしきベッドの上で目を覚ます。
「んぅ……? ここは……」
目を開けた先に映り込む天井とそれを取り囲む白いカーテン。この静かで無機質な空間に何時間眠り続けていたのかは覚えてないが、シンジは病室に自分しかいない事を確認して深く息を吐き出した。
「知らない天井、か……」
意味深に呟き、上半身を起こす。どうやらシンジは衣服を何一つ着ていない全裸の格好でベッドに運ばれて来たらしく、すぐ横に位置する枕元には真新しい着替えの制服が丁寧に折り畳まれて置いてあった。
そして、先日シンジが深夜の公園で拾って来た例の赤い玉も……
昨日のあれは夢だったのだろうか……
ベッドの上で振り返る。冷たい雨が降り出した放課後、両親が働く人工進化研究所……通称ネルフから派遣された同級生の雪風ミカサに連れ出され、待ち合わせしていたもう一人の美少女……綾波レイを加えて使徒アラエルを撃破、これを殲滅。
その直後、空から新たな使徒ラミエルが現れた。
そして始まる
優秀な
勝ちを確信したラミエルは傷付き倒れるミカサを抱く事しかできずにいたシンジに迫り、最大威力のプラズマボールは撃ち込んだ。
しかし……
「……思い出した」
あの刹那の時、シンジは迫り来る雷光を前に意識を手放し、自分の深層心理に足を踏み入れていた。そこで自分と同じ声を持つ謎の魂と出会い、「ラミエルは自分に任せろ」みたいな事を突然言われ……
そこから先は一切覚えていなかった。
(……まだ生きてる。僕が死んでないって事は“アイツ”がラミエルを倒してくれたのか……?)
だとすれば一緒にいたミカサやレイはどうなったのだろう……シンジがベッドの上で思考していると、不意に医務室の自動ドアが開いた。
「よかった……目が覚めたのね、シンジ!」
開口一番。急いだ様子で医務室に入って来たいつもと同じ白衣姿にピンクのシャツを着たユイ。彼女はベッドを囲む白いカーテンを自分で開くなり、既に起きていたシンジの姿を見て安堵の声を漏らす。
「母さん、僕……どれくらい眠ってた?」
「3時間よ。まったくもう……いつまで経ってもミカサからの連絡が来ないから、私もスタッフと一緒に現場に駆け付けて……そしたら、あなた達が全員酷い状態で気絶していて……私、私ぃ……」
そう言って涙をぽろぽろと零す泣き顔のユイ。続けて彼女はシンジの頭を自らの柔らかい胸の谷間にぎゅむっと押し当て、しばらくの間優しく包み込む。
「母さん……は、恥ずかしいよ。今はその……」
白衣越しにはっきりと伝わるたわわな果実の感触……そこにこれ以上意識を向けないよう、シンジはベッドの横に目を泳がせながら困ったように言うが……
「あぁん、シンジったら甘えん坊ね……ふふっ、ちゃんと横になってなきゃダメじゃない。今日は母さんが手取り足取りエッチな看病をして……」
すっかり目元を泣き腫らしていたユイは何故か嫌がるシンジの顔を胸で抑え付けたまま、そっとベッド間際の白いカーテンを片手で閉めようと……
「「………」」
したところで、先程からじーっと二人の様子を見つめるレイとミカサとちょうど視線が合った。
「う、嘘……あなた達、いつから見ていて……」
「はぁ……母さん、だから“今は”って言ったのに……」
まさか母子の大切な時間を視られていたなんて……急激に青ざめた様子で固まったユイに若干呆れつつ、シンジはようやくそのけしからん乳圧から解放される。
「えっと……二人は何も言わないんだ?」
この微妙な空気をどうするかと、シンジはベッドの上でレイとミカサに話し掛ける。
「えぇ。ミカサはユイが自分の息子に身も心もお熱なのはとっくにご存知ですので。まぁ、彼女の方は何やらショックを受けてるみたいですが」
さすがは普段から何事にも動じない冷静沈着なミカサだ。その一方でレイは医務室の入口付近で頭からぷしゅーと湯気を出してショートしていた。
「えっ? うわあぁっ、綾波さん大丈夫!?」
「おばさまが碇くんと……おばさまが碇くんと……」
壊れたラジオのようにブツブツと同じ事しか呟かなくなった赤面状態のレイ。見ていてある意味新鮮ではあるが、こうなってしまった空気を変えるには一度落ち着いてみるしかない。
そう思いシンジがベッド横に置かれた着替えの制服を受け取ろうとすると、ふとある違和感に気付く。
「……って!? ちょっと待ってよ! 雪風さんは大丈夫なの!? たしか酷い火傷状態だったよねぇ!?」
今更ながら思い出した。そうなのだ。ミカサはシンジ逃亡の時間を稼ぐ為に単身ラミエルとの戦いに挑み、案の定手酷くやられたはず……
「気付くの遅いですよ。いつまで寝惚けてるんですか」
「いやいやいや!? だって雪風さん、その身体……!?」
シンジが震えて指差す先には火傷どころか目立った外傷一つ見当たらない、ネルフ学園の真新しいセーラー服を身に纏う健全な彼女の姿が。まるでラミエルとの戦いそのものが長い夢だったかのように、綺麗さっぱり“なかったことに”されていた。
「やれやれ……ユイの次はミカサの身体に興味津々ですか? まるで性欲猿ですね」
「んなっ……!?」
あんまりな言葉に堪らず赤面するシンジ。一応彼女とは今日が実質初対面みたいなものだが、今までシンジの周りにいなかったタイプの美少女という事も手伝い、シンジはミカサとの慣れないやり取りに戸惑いを隠せずにいた。
「冗談です。ですがこのままでは埒が明かないので、そろそろシリアスな本題に入りましょうか」
不意にシリアスな話と言われ、無意識に唾を飲み込むシンジ。それはどうやらユイやレイも同じだったようで、ミカサはショックから一時的に立ち直ったレイと共にシンジとユイがいるベッドの傍まで歩み寄る。
「……シンジ様、改めて言います。貴方が待つ使徒のコアをこちらに渡してください」
やはりそうきたか。しかし何度言われたところで返す言葉は決まっている。
「今更だよ……それに渡したところで僕はこれから使徒に狙われる。そう言ってたのは君じゃないか」
「仰る通り。ですが貴方は目の前の現実から逃げ出し、我々と共に使徒と戦う事を拒んだ。違いますか?」
「そ、それは……」
使徒に狙われると分かっていながら、言い返す事もできない。そんなシンジを見てミカサは溜息混じりにはっきりと告げる。
「貴方では戦えない。ならば代わりのチルドレンに戦ってもらうだけです」
「代わりって……僕の他にこんな玉コロに選ばれたのがいるって言うのか!?」
「惣流・アスカ・ラングレー……たしか貴方の幼馴染みでしたか。エヴァンゲリオンに選ばれた
「!? まさか、まさかお前らアスカをあんな化け物達と戦わせようと……!?」
「貴方が眠っている間にネルフ内で緊急の話し合いが行われましたが、連れて来られた彼女の方は随分やる気でしたよ。“誰かさん”と違って」
まさかそんな……信じられない。シンジにはそれだけ衝撃的な話だった。たしかにアスカは昔から好奇心旺盛だし、勝ち気な性格も相俟ってこういった話には基本乗りやすいタイプだ。
そして母親のキョウコもユイと同じ研究所で働いている事から、もしかしたらキョウコが学校まで出向いてアスカに協力を頼んだのかもしれない。
「アスカがセカンドって……
もう一つ、聞き捨てならないのはアスカが“セカンド”と呼ばれている事。それはつまりアスカの前にファーストがいて、他にもサードやフォースがいるかもしれないという事だ。
そしてその中には当然シンジも含まれるのだろう。でなければミカサもここまでシンジに言い寄ってはこないはず。
「ミカサが把握している仲間は今のところ6人。ファーストの綾波レイ、セカンドの惣流・アスカ・ラングレー。そしてサードが貴方……碇シンジです」
「雪風さんは? たしか自己紹介した時にフォースって言ってたよな?」
「はい、ミカサはフォースチルドレンです。その後に続く“フィフス”と“シクスス”はミカサも詳しくは知りませんが、どうやら既に別の任務を遂行しているものと」
フィフスとシクスス……神の予言に選ばれた子供がそんなにもいるなんて。ミカサの説明はシンジの予想を遥かに越えていた。言い方を変えれば
そんな危険を伴う命懸けの仕事に自分はもちろん、幼馴染みのアスカを巻き込みたくはない。シンジなりの男のプライドだった。
「……シンジ、本当にごめんなさい。すべては私達大人が悪いの」
「母さん……?」
そんな時、今まで黙っていたユイが言い辛そうな様子で口を挟む。
「シンジにはこれまでずっと秘密にしてたけど……母さん達が働いている人工進化研究所はあくまで表向きの仕事だったの。本当は『
「人類補完計画……じゃあ、学校でケンスケが言ってたのは本当だったんだ」
「そう、もう聞いてたのね……いいシンジ? 詳しい事は何も話せないけれど、人類補完計画は地上に残された私達人類が助かる唯一無二の方舟なの。あの空の向こうから舞い降りた28体の使徒は私達人類を滅亡させようとしているの」
「その為の計画って訳か……じゃあ、エヴァンゲリオンとかチルドレンとか
「計画の一部よ。ネルフのコンピュータプログラムシステム『MAGI』は迫り来る使徒の襲撃に備え、その対抗策を提案した……それは
「その為に必要な武器が綾波さんや雪風さんが使っていた
「そうよ。
「なるほど……だから二人はただの人間なのにアラエルやラミエルとあんなに戦えてたのか」
「………」
“ただの人間”……その言葉に若干の反応を見せるミカサだったが、シンジの前では何も言わずに握り拳を作る。本当はもっと使徒相手に頑張れるはずなのだが、今回のラミエルはミカサが今までに単独任務で戦ってきた格下レベルの使徒とは遥かにランクが違う上位個体──加えて最上級クラスの超エリート集団『七大使徒』に属する。
しかもラミエルは今回初めて“使徒による人間への寄生”が確認された事例であり、それまで蜘蛛やカラスといった小動物に寄生するしかなかった格下の使徒達とは実力も知能も桁違いと言えよう。故に“本来の実力が出せない”今のミカサでは最初から勝ち目などなかった訳だ。
せめて、
「碇くん……私はただの人間じゃない。使徒と戦う為に小さい頃から訓練してきたから。そしてフォース……雪風さんも恐らく同じ」
「……そうです。ミカサはネルフのアメリカ第二支部で密かに調整されてきました。日本の研究施設で育てられたファーストと同じく、
「そんな!?」
「碇くん……忘れているかもしれないけれど……私は昔、碇くんやおばさま達と一緒に山にピクニックに行ったの──覚えてない?」
「はっ……!?」
その言葉を聞いた時、シンジはようやくすべてを思い出した。綾波レイと出会った時に薄々と感じていた違和感……それを今更ながら理解した。
「じゃ、じゃあ君が……あの時の女の子……?」
震えるシンジに小さく頷く事で肯定するレイ。すると傍に居たユイが彼女の肩に手を乗せて告げる。
「シンジ……レイとミカサはね、生まれた時からネルフの施設で育てられた親のいない娘で、ゼーレが描いた予言の通りにいずれ地上に現れる使徒を倒す
「なんだよ、それ……」
シンジは今すぐ叫びたい衝動に駆られる。ユイの言う通り、レイやミカサは最初から使徒と戦う為だけに生かされてきた女の子で、それはすべてネルフやゼーレに仕組まれた計画の一部だったのだろう。
そしてそれに母親であるユイは深く関わっている。その事がどうしてもシンジには我慢できなかった。
「みんな、そうやって……ぜんぶ、ぜんぶ! みんなぜんぶ汚い大人が仕組んだ事だったんじゃないか! どうせ僕が公園で拾った使徒の玉も母さんが用意してたんだろう!? 偶然にしては出来過ぎだからな!」
声を荒げて激昂したシンジを前にユイ、レイ、ミカサの3人はそれぞれ暗い顔で俯いてしまう。ユイは母親なりの親心でシンジが14歳になるまで黙っていたのだが、それがかえって裏目となり、シンジは生まれて初めて自分の母親に明確な敵意を向けていた。
「黙ってないでなんか言えよ! そうやって女々しくしてれば許されると思ってるのか? 僕の気持ちを裏切ったくせに!」
「待ってシンジ、私達は──」
「うるさい! ここから出ていけよ! もうみんな僕を放っておいてくれ! 僕は今まで通り僕のやりたいように生きてればそれでよかったんだ!」
言い切った直後、シンジはユイ目掛けて傍に置いてあった白い枕を力強く投げつけた。白衣を着た彼女の豊満な胸元にぽふんと当たった枕は重力に引かれて床下に落ち、枕の直撃に遭ったユイはショックを受けた様子で声を押し殺して涙ぐむ。
すると見兼ねたレイが咄嗟に動く。明らかに怒った顔で黙々とシンジの傍まで歩み寄ると、パァンッ!と強烈な音のするビンタをシンジの頬に一発喰らわせた。
「痛っ、てぇ……」
「碇くん。やる前から“決まってる”の? あなたの未来は」
「な、なんだよ……急に」
「いいから答えて」
「っ……ああそうだよ! 僕やアスカ達が
「そう……変わってるのね」
それは明らかに失望した口調だった。レイは手形の残る赤く腫れた頬を押さえながら不満を言い続けるシンジから背を向け、泣いているユイと黙っているミカサに合図を送ってから3人一緒に医務室から立ち去っていく。閉ざされた扉の向こうを呆然と見つめるシンジを一人残して……
「──そうやって、“嫌なこと”から逃げ続けるの?」
医務室から出ていく去り際、怒ったレイが扉の前でふと立ち止まって告げた冷たい一言がシンジの脳裏から離れない。
3人がいなくなった後、重苦しい空気から解放されたシンジは苦々しい表情を浮かべたまま、何度も何度もベッドに向かって自らの拳を荒々しいままに振り下ろす。
「わかってる……わかってるんだよ……ッ! このままじゃいけないってことくらい!」
それでも心はまた逃げ出してしまう。目の前の理不尽で残酷な現実から何度も目を逸して……
「クソっ……! こうなったのも全部、“お前”のせいだからな……?」
歯軋り、手の平に乗せた赤い玉を憎々しげに見下ろす。少年が求める答えに無口な天使は何も示してはくれない。
……ただ、心地の悪い沈黙だけが続いていた。
医務室でシンジと別れた後、怒る彼に追い出された3人は研究所内の休憩スペースに設置された長い椅子に腰掛けていた。
「……シンジ、大丈夫かしら……」
微かに残る涙の跡で目元を赤くしたユイが悲しげに呟く。今までずっと責任を感じていたユイ。
二人っきりの時は人前での親子としての立場が逆転するふしだらな主従関係にあるが、それもすべては14歳になったシンジの過酷な行く末を想っての彼女なりの償いだった。……いや、たしかに彼との相性抜群な性行為にユイとしても進んでハマってしまったのも一応事実ではあるのだが。
「……私って、最低な母親よね……夫を裏切って、今度は息子の気持ちも裏切っているんだから」
──時計の針は元には戻せない。夫であるゲンドウが普段から口癖のように言っているこの言葉が、今はどうしても思わずにはいられない。まだ使徒との戦いやゼーレとの対決も胸の中に仕舞って忘れられていた、10年前のあの頃が懐かしい。
「──ユイ、あなたはこうなると分かっていながら、彼に真実を告げたのでしょう?」
隣に座るミカサの言葉に目を伏せて頷くユイ。いつもは20代と勘違いされる事の多い若々しいエッチな姿も、この時ばかりは年齢相応に老け込んで見えた。
「
そう言って椅子から立ち上がるミカサにユイは勇気付けられたのか、細い指先で目元に残る涙を拭うと、安らいだ微笑みでミカサの手を取って感謝する。
「ミカサ……いつもいつも、本当にありがとう。おかげで少しは元気出た、かな」
「“私達”から見れば放ってなどおけない大切なヒトですから、ユイとあの少年は」
(……? おばさまと雪風さん……さっきから何を話してるんだろ……?)
この中で唯一、二人の意味深な会話についていけないレイであった。
一方、しばらく医務室のベッドにいたシンジは昂ぶった頭が冷えてきたのか、ベッド脇に丁寧に置いてあった着替えの制服に袖を通し、ふらふらと医務室を出ていく。
そうして一人寂しく研究所内の通路を歩いていると、途中で誰もいない休憩スペースを見つけた。
(そう言えば、さっきから叫びっぱなしで喉渇いたな……何か買うか)
何台か設置された自動販売機に持っていた財布から小銭を入れて天然水のペットボトルを購入した。そして下に落ちたペットボトルを受け取ろうと身を屈めたところ、背後から突然声を掛けられた。
「シンジ」
聞き覚えのある声だった為にシンジは飲料水を右手に掴んだまま背後に振り返ると、そこにはネルフ学園のセーラー服を着たアスカが腰に手を当てて立っていた。
「アスカ! アスカもここに連れて来られたの?」
「まぁね。学校でアンタ待って帰ろうとしてたらあの幽霊女に声を掛けられてね。それで仕方なく職員室に行ったらミサトが待ってて、そのままミサトの車でこの研究所まで連れて来られたってワケ──シンジ?」
普段通りの口調で話すアスカに対し、シンジは突然自らの両腕を伸ばすと、自動販売機の前で彼女の身体をやや乱暴に抱き締めたではないか。
「えぇっ!? ちょっ、ちょっとシンジ!?」
「──アスカ、ここにいたらダメだ。僕と一緒に二人で遠くまで逃げよう」
「なっ!? 何を言って!? そ、そんなこと急に……」
シンジの真剣な表情と眼差しに思わず赤面してしまうアスカ。それは普段からお姫様願望の強い彼女にとってはあまりに不意打ち過ぎた。
「言うこと聞けって! このままじゃあ二人とも“ヤバい奴ら”に殺されるかもしれないんだぞ!」
「……シンジ、それって使徒って敵のこと?」
「ッ!? どうしてそれを……」
自分と同じで“巻き込まれた身”だと思っていたアスカの発言に衝撃を覚えるシンジ。なんてことだ……アスカは既にネルフが隠していた真実を聞かされていたのだ。
「ここに来る途中でミサトから説明されたわ。おばさまやママ達の本当の仕事のこと、幽霊女やあたし達が仕組まれた子供、
「そうか、ミサト先生もネルフ学園の教師……いや、本当は母さんやキョウコさんと同じネルフで働く仲間だったのか。だからか、学校でミサト先生はクラスで孤立していた雪風さんと僕を執拗に接点持たせようとしてた……」
「そうだったわね。ねぇ、多分だけど、あの幽霊女──いえ、雪風さん? あの娘、ミサトやママ達に頼まれてあたしとシンジを密かに見守ってた気がするの。要はあたし達の監視役ってことよね。そう考えたらクラスの席も毎回何故か近かったし、担任のミサトとは休み時間に結構コソコソ話してたみたいだから」
シンジにはアスカの考察が妙にしっくりきた。たしかにミサト先生がネルフ側の人間ならば、彼女をネルフ学園の教師として着任させたのは十中八九ユイとゲンドウの仕業だろう。そして組織の権力を使ってミサトをシンジ達クラスの担任に選び、そこに大人しくて目立たない(それは変装だったが)雪風ミカサを二人の監視役に置く──すべてはこの時の為に予め計画された事だったのだ。
「これじゃあ、あたしらに逃げ場なしってことよね……まったく、こういう時大人達ってほんとズルいわよね」
溜息混じりに漏らすアスカ。その表情は既に諦めが入っているようだが、不思議と暗く沈んではいなかった。気になるシンジは口を開いて問い掛ける。
「……なぁ。アスカは……怖くないのか?」
「……怖くないかって聞かれたら正直怖いわよ。そりゃあね。たしか雷を操るラミエルって物凄く強い使徒にやられたんだってね?」
「うん……僕達はその前にアラエルって鳥の使徒と戦ったんだけど、はっきり言って人間の姿をしたラミエルは比べ物にならないくらい“ヤバかった”」
それこそ生まれて初めて味わった圧倒的な絶望感と恐怖心。死を間近にした時に人間は隠された本性をさらけ出すというが、あの時に感じたラミエルの存在感はシンジにかつてないトラウマを与えていたのだ。
「そっか……そんなにすごいんだ、使徒と戦うのって」
「そうだよ。だからあんな危険な奴らとアスカを戦わせる訳にはいかないよ。雪風さんだって僕を逃がす為にあんな酷い目に遭ったってのに……」
「それで? そういうアンタは使徒から逃げた後どうしたの? 聞いたわよ。雪風さんが身体張って時間稼いでる間、もう一人の綾波レイって可愛い女の子に“お手て引かれて一緒に走らされた”んだって? あ~あ、これじゃ男のプライドもズタズタね」
小馬鹿にした態度でアスカはシンジにジト目を使う。明らかに安い挑発ではあったが、今の不安定なシンジにそれを無視できるほどの強かな理性は残されていなかった。
やれやれとばかりに他所へ振り向こうとしたアスカに、シンジは堪らず詰め寄って冷たい壁際にアスカの身体を乱暴に叩き付ける。
「きゃっ──!?」
「黙れよッ! アスカまで僕をバカにするのか!? 僕があの場所でどんな怖い目に遭ったかも直接見てないくせにッ!」
荒ぶる呼吸に見開く眼──壁際に押し付けられたアスカの肩を掴むシンジは完全に怒気を含んでいた。しかしアスカも負けじと強めに言い返す。
「なによ! じゃあアンタは、目の前で傷付く女の子が、それでも誰かを守る為に身体張って命懸けて戦おうとしてたら、今度は自分がやらなきゃって思わないワケ!? アンタ男でしょ!? 負けてもいいから、戦う勇気くらい持ちなさいよ!」
「ぐっ……ああ思ったよ!? 思ったさ! 僕にも使徒と戦う力があればって! 綾波さんや雪風さん、そしてアスカを守れる強さが欲しい! このままじゃいけないって! そんなの僕自身が一番分かってるんだよッ! でも、何度決心したってまた逃げたくなるほど、この世界の理不尽な現実が怖くて怖くてもう嫌になるんだよ……ッ!」
それはシンジの心からの叫びだった。気付くとシンジの目には大粒の涙が溢れ出し、アスカの肩を震えながら掴んでいた両手は自然と垂れ下がっていく。その先には立派に育ったアスカの豊満な谷間が聳え、シンジの手は力無く吸い寄せられるように彼女の巨乳に弱々しく触れていた。
「……ずっとこうしていたかった……アスカや母さん達とエッチしながら、“ただの碇シンジ”として幸せに生きていたかった……本当にただそれだけなんだ……僕は、僕は……」
赤ん坊のように嗚咽を漏らし、シンジはアスカの絶賛発育中なFカップにしがみつく。離れたくないとばかりに、何度も何度も彼女の柔らかいおっぱいを弱々しく揉んで……
「……逃げたっていいじゃない! 人間なんだから! 大事なのは逃げた後でアンタ自身がどういう選択をするかでしょ!?」
しばらくそうしていると、僅かに顔を赤らめたアスカが泣き続けるシンジに向かって叫ぶ。
「アタシだって! ママと一緒に“嫌なこと”から逃げてきた! あの忌まわしいクズ男との関係も、ドイツでの裕福な暮らしも全部捨てて……でも、日本に逃げて来ておばさまやシンジがあたし達母娘を救ってくれた! そのおかげで楽しい今があるの! 逃げた後でまた前を向いて戻ろうって思えたの!」
シンジと同じで、アスカも最初から強かった訳ではない。父親がいない事を理由に周囲から虐められ、いつしか父親というものを嫌い恨むようになった事だってある。しかしそこで見た母親キョウコの涙や苦しみを分かち合った時、初めてアスカは強くなろうと頑張れた。
そしてドイツでの生活を断ち切り、惣流母娘は遠い日本で不死鳥の如く蘇った。もちろん、未だにドイツでの辛い過去は母娘揃って夢に見る事もある……が、今はそれ以上の輝く未来がある。その切っ掛けを作ったのは他でもない……シンジだ。
「だから……ね? シンジ……あたしと
そう言って優しく手を差し伸べるアスカを見てシンジはふと思い出す。それはまだ幼稚園にいた頃、周囲からずっと孤立していたアスカに今のようにしてあげたこと……
一度は絶望を知って涙を流し、母親と一緒に逃げも隠れもした。しかし彼女はそこから再び這い上がった。
それだけの心の強さがあった訳じゃない。ただ周りが、他ならぬシンジが、あのまま逃げ続ける事を良しとしなかっただけの事だ。
そして今はシンジがその苦しい立場に陥っている……だとすればアスカにできる事は最初から決まっている。
「あたしもシンジと同じで
それは実にアスカらしいシンプルな理由だった。しかしだからこそ力強く、頼もしく思える。気付けば泣き止んでいたシンジは軽く噴き出し、久しぶりの穏やかな笑顔を浮かべてアスカに微笑み掛ける。
「……ははっ、アスカはいつもそうだよね……僕なんか、ずっと大好きなアスカが死んでほしくないって一心で使徒と戦う事を拒んでたのに」
「当然でしょ? あたしを誰だと思ってんの? ドイツが生んだスーパーミラクル巨乳美少女、プリンセス・アスカ様よ!」
腰に手を当ててビシッとポーズを決めるアスカに敵うものはいない。穏やかな心で見ていたシンジは何故かそう思うと、この先に待ち受ける未来でも安心できた。
不安なのは自分だけじゃない。でもみんな──アスカやレイ、ミカサだってそれぞれ胸に秘めた想いを以て使徒に立ち向かおうとしている。
未来はやる前から決まっている? ──否。
未来はいつだって自分の手の中にある。それを生かすも殺すも自分自身の頑張り次第。ならば次はシンジが彼女達の為に男を魅せる番だ。
「……わかったよ、お姫様。もう、僕は逃げない。これから先、アスカ達に近付いて気安く触ろうとする邪魔な奴らはすべて薙ぎ倒してやる」
「それができるといいんだけどね。まっ、頼りにしてるわ、
【次回予告】
柱の間で語られる
倒すべき使徒を可哀想と言うシンジに、ミカサの様子が急変する。
その頃、倒したはずの使徒ラミエルは不穏な動きを見せ始めていた。
次回、『決められた役割』
今後、ヒロインたちとのエロ回がかなり増える予定です。そこで少しでもキャライメージをしやすいようにAIを使った挿絵を導入しようか迷ってます。アンケート結果によって採用するかしないか決めるので、もしよければ皆さんお答えください。
-
AI挿絵が欲しい
-
AI挿絵は要らない
-
原作キャラの挿絵だけ欲しい
-
オリキャラの挿絵だけ欲しい