神奈川県の箱根辺りに位置する第3新東京市に引っ越して来た綾波レイがシンジ達との学校生活に慣れ始めて数日後。
今日もいつものようにシンジ、アスカ、レイの3人で仲良く登校すると、2年A組のクラスはある一つの噂話で持ち切りだった。
「ねぇ知ってる? 昨日の夜、見回り中の用務員さんが校舎内を彷徨いてるのを見たんだって──」
「人とは思えない奇声を上げて襲ってくるんだって」
「怖いよね〜。それに可愛い女の子ばかり狙われてるって話だし」
そんな同級生達のヒソヒソ話を耳に入れながら、シンジ達3人はそれぞれの席に座る。すると待ってましたと言わんばかりの異様なテンションでトウジとケンスケがシンジの机に集まった。
「なぁ、碇セ・ン・セ──」
「ケンスケだろ」
すると開口一番、シンジがうんざりした様子で言い放つ。
「えっ? まだ何も言ってない……」
「ケンスケだろ、この噂流した奴」
今度はケンスケの目を見てはっきりそう告げると、ケンスケは驚いた様子でわざとらしい叫び声を上げた。
それを聞いたクラスの女子達が「なんだまた3バカか……」と呆れた視線を向ける中、頭の後ろで両腕を組んでいたトウジは豪快に笑ってからケンスケの肩を小突く。
「な? だから言ったやろ? 俺らのセンセには何もかもお見通しやって」
「フッフッフ……いやさすがだよ碇。これで準備は整ったわけだ」
トウジが茶化すように言うと、ケンスケは指先で眼鏡をクイッと上げてから意味深に言い出す。すると間髪入れずにシンジが反応する。
「嫌だ」
「ちょっ、まだ何も言ってない……」
「だ〜か〜ら、どうせその噂の真相を僕達で解き明かそうって考えてたんだろ? 二人の考えそうなことだし……とにかく、僕はパスだから」
ジト目になったシンジが身も蓋もなく言い返す中、シンジの机の上にあたかも当然の様に丸くて大きな桃尻を乗せて腰掛けていたアスカは気になるのかケンスケに問い質す。
「へぇ〜、どんな噂なの? ちょっと話してみなさいよ」
どうせ大した事ないしょうもない話なんだろうと内心考えていたアスカ。しかしケンスケは目を輝かせて語り始める。
「いいとも。これは元々ウチのクラス委員長から聞いた話なんだ」
「えっ? ヒカリから?」
……だからこそ意外だった。いつかの予言の時みたく、オカルトマニアのケンスケがオカルト好きが集まるサイトから手に入れたガセネタだと思っていたからだ。
しかし数少ない親友であるヒカリの名前が出てきた事で、この胡散臭い噂話に益々興味を持ったアスカは崩していた姿勢を正してケンスケとトウジに向き直る。
「あぁ。これはある日の放課後のことだ──」
『見てしまったもの』──体験者・洞木ヒカリ談。
──夕暮れ時のネルフ学園。その日、クラス委員会の仕事で帰りが遅くなったヒカリは、担任のミサト先生から特別に許可を得て居残り作業をしていた。
「──これでよしっと。あっ、いっけない! もうこんな時間!? 急いで帰らなくちゃ!」
セーラー服を着たヒカリは教室の時計を確認する。その時刻は既に夜の19時を過ぎようかという遅い時間。手提げカバンを手に慌てて教室を出たヒカリは明かりの消えた真っ暗な廊下を歩いていく。
「うぅ……暗くてやだなぁ……明かりくらい点けといてくれてもいいのに……」
ヒカリが足早に無人の廊下を進んでいると、ふと渡り廊下の向こう側で懐中電灯らしき光が見えた。
光の主はヒカリがいる場所とは渡り廊下を挟んで反対側の校舎を歩いているらしく、窓ガラスには時折反射されたライトが映し出されていた。
「あれ、ライト……? 誰だろう? ミサト先生かな?」
不思議に感じて首を傾げたヒカリは向こう側の校舎に見える窓ガラスに映るライトの揺らぎを眺める。いつものヒカリなら絶対にしなかっただろう。
……しかしその日は何故か偶々追い掛けてしまった。
ヒカリが校舎2階に位置する渡り廊下を歩いて反対側の校舎にやって来ると、既に先程見た懐中電灯らしきライトの持ち主は消えた後だった。
「ミサト先生……戻っちゃったのかな?」
この時点でヒカリが帰ろうと思わなかったのは、まだミサト先生が職員室に残っていると知っているからに他ならない。
別に一人でさっさと帰ってもよかったのだが、せっかくなら帰る前にもう一度職員室に立ち寄ってミサト先生に一声掛けてから帰ろうと思ったわけだ。
……するとどうだろう。今度は先程までヒカリが居残っていた2年A組の教室から懐中電灯らしきライトが漏れているのが遠目に分かった。
「えっ……あっちがミサト先生? じゃあさっきここを歩いていたのって……う、うそ……」
真っ暗な廊下に立っている事もあって次第に恐怖心が芽生えるヒカリ。そんな時だった。
ぺた……ぺた……ぺた……ぺた……
……まるで子供が裸足で歩いている様な、そんな場違いな足音がヒカリのいる廊下の後方奥から微かに聞こえてくる。
静寂な無音が続くあまり小さな物音にさえも敏感になっていたヒカリは恐る恐る歩き始めると、次第にその足音は早くなって近付いてくる。
ぺた……ぺた……ぺた……ぺた……
ヒカリの後を追い掛ける様に、不審な足音はすぐそこまで近付いて来ているのが気配でわかる。
「ひっ……! いやっ……! やだっ……!」
ヒカリは走り出した。しかし恐怖で頭がいっぱいになったヒカリは自分がどこに逃げればいいのか分からず、ただひたすらに闇雲に走る。
だが相手の方が早いのか……ヒカリの背後からはずっと一定の距離を保ったまま同じペースで足音がついて来る。
そしてとうとうヒカリのすぐ近くにまでやって来たそれは、ヒカリの背中に手を伸ばすと──
「グエッグェッグェェェェッ!!」
──それはまさに人外の叫びだった。ヒカリの前に現れた黒い物影は耳を劈くほどの恐ろしい奇声と共に襲い掛かると、狙われたヒカリは恐怖のあまりその場に倒れ込んでしまう。
そして──
「ひっ……い、いやあああああああああっ!?」
──次に気付いた時、廊下にいたはずのヒカリは何故か昇降口の段差の辺りに優しく寝かされていた。しかしどれくらい気絶していたのだろう……
襲われたショックにより我を取り戻したヒカリは悲鳴を上げて飛び起きると、自分の身体を触りながら無事かどうか確認する。
怪我はなくセーラー服にも乱れはない。それに痛みなどもない事を確認したヒカリはようやく落ち着きを取り戻すと、職員室で待つミサトに挨拶する事さえも忘れ、あの恐ろしい化け物から逃げる様に泣きながら走り去っていったという。
「………」
その様子を、校舎2階の窓ガラス越しに立つ不気味な黒い人影がゆらゆらと見下ろしているとも知らずに……
「──どや? なかなか怖い話やろ? さすがの惣流もチビッたかぁ?」
ケンスケの語る怪談話が終わり、トウジはニヤニヤしながらシンジ達を見回す。
机の椅子に座るシンジはやれやれと言わんばかりに頬杖を突き、シンジの隣に座るレイは興味無さそうに自分の教科書やらノートを何故かやたらと早いスピードで次々とスクールバッグから取り出している。
「べっつにぃ~。そんなのよくある話じゃない。どうせヒカリが何かと見間違えたりしたんでしょ?」
対するアスカ、敢えてケンスケやトウジの顔を見ないまま実に淡々と喋る。
元々アスカはこういったホラー話には耐性があったりするが。
シンジも何回か自宅でホラー映画の鑑賞会をアスカと二人でした事があるが、確かにアスカは女の子にしては珍しく幽霊などのオカルト的存在に怖がる素振りをほとんど見せない。
例えばゾンビや巨大生物というパニックもののB級映画では身振り手振りで興奮気味に観ているし、逆に女の怨霊系が多いジャパニーズホラー映画では驚くほど冷静沈着な態度で、幽霊とか呪いなんて今の発展した科学社会にあるわけないと、こちらが聞いてもないのに隣でぺらぺらとうるさく喋ってくる。
シンジとしてはいつも強気なアスカが実はお化けに怖がる可愛らしい一面が隠されている事を密かに期待しているのだが、そのアスカとくれば遊園地のお化け屋敷にはとうとう一度たりとも足を踏み入れなかった。と、そこに……
「おっ、3バカ〜。結構面白そうな話してるじゃな〜い」
担任教師のミサトが露出度の高いスーツ姿で教室に現れた。上はきちんと豊満な胸元を隠しているのでともかく、下に履いている黒いスカートなど膝上までしかない具合である。
「ミサト先生! 先生はこの噂どう思います!?」
「ん〜。実はちょっち、“心当たり”があったりなかったりするかな〜なんて」
出席名簿を持って教卓まで歩いて来たミサトは興奮気味のケンスケとトウジに訊ねられ、朝のホームルームが始まる時間まで彼らの談笑に参加する事に。
「ホンマですか先生!?」
「えぇ。何でも“髪の長い黒髪の女の幽霊”が夜な夜な恐ろしい奇声を上げながら校舎を彷徨っているって話よ? ウチの用務員や保険医のリツコ、他の先生達も何回か見た事あるって目撃情報が──」
ミサトの話を聞いたトウジとケンスケは目を見開いて驚愕の表情を浮かべると、教室内のある一点がどうしても気になってしまう。
「ん? 髪の長い……」
「黒髪の……」
「女の幽霊……」
ミサトから貴重な情報を聞いたトウジ、ケンスケ、シンジの男子3人が揃って教室の後方に振り向くと、独りゆらゆらと不気味に立っている我がクラスの幽霊女──雪風ミカサを一斉に見つめる(ちなみにミカサは例の如く貞子セーラー服モードに変装中)。
(ふわぁ……ん……まだ眠いです……はふぅ)
ミカサはシンジ達に素顔と正体を明かした後も、相変わらずネルフ学園の中では不気味な貞子のウィッグを被って目立たない様に変装しており、教室ではヒソヒソと噂になっていた。
「「「………」」」
まさか、雪風ミカサが噂の幽霊なのか……?
シンジ達の頭に一つの通ずる答えが出掛かる中、シンジの机の上で話を聞いていたアスカはどういう訳か酷く慌てた様子で否定し始めた。
「そ、そんなバカな話あるワケないじゃない! くっだらない! この学校に貞子の幽霊なんて……そ、そんなオカルト非ィ科学的よ!」
必死に誤魔化すアスカの態度に、思わずシンジは内心で突っ込む。
(……うわ、なんか急に真っ向からオカルト否定し始めたよこのアスカちゃん)
そのあまりにも分かりやすい反応にシンジは苦笑い。だが、そんなシンジの肩をポンッと叩く者がいた。振り向けば、そこにはいつの間にかレイがいて、その顔は今にも失神してしまいそうなほど顔面蒼白だった。
「あ、綾波さん?」
レイの様子がおかしい事に気付いたシンジだったが、当の本人はシンジの声すら耳に入っていない様だ。
「ぎゅって……して」
まるで「お化けなんていない」と言わんばかりの怯える眼差しをシンジに向けている……実に可愛い。
するとアスカとレイの様子を見ていたミサトは何やら良からぬ事を閃いたのか、ニタリと意地悪く笑ってとんでもない事を言い出した。
「よ~し! こうなったらみんなで噂の真相を確かめるわよ!」
ミサトの突然の提案に、教室内の空気が一気にざわつく。ミサトが言うには、放課後の誰もいない真夜中の時間帯にこっそりと校舎へ侵入して、件の幽霊と奇声の主を探し出してみようという事だ。
「いやいやいやいや、先生それはさすがにまずいんじゃ……もし見つかったりしたら停学とか退学処分になっちゃいますよ?」
当然、面倒事に巻き込まれたくないシンジが真っ先にミサトの無茶な提案に反論するが、対するミサトは自信満々に答える。
「大丈夫大丈夫! 今日の宿直は私だし、何か問題あったら私がご両親に頼んで何とか解決するから。ねぇ、いいでしょシンジ君?」
そう言ってミサトはシンジの席の前にしゃがみ込み、上目遣いで懇願してくる。
「うっ……」
その仕草にシンジは一瞬ドキッとして言葉に詰まる。普段からユイやミサトの大人の魅力にやられているせいで、こういう風にされると弱いのだ。
するとそこにトウジとケンスケの援護射撃が入る。
「まぁ、たまにはええんちゃうか? それにセンセも興味あるやろ? 惣流がお化け相手に怖がるのかどうか……なぁ?」
「あぁ、僕達は別に構わないぜ? それに我がネルフ学園の理事長の息子であられる碇サマがいれば、これくらい大目に見て貰えるだろうしさ」
トウジとケンスケの言葉に、シンジは更に追い詰められていく。
「ったく……わかったよ。仕方ないから僕も付き合うよ」
結局、シンジが折れた事で今夜行われるネルフ学園肝試し大会が決定してしまった。
「やった〜!」
「よっしゃあ!」
ミサトとトウジが歓喜の声を上げる一方、アスカとレイの顔色は未だ青ざめたまま小さく震えていた。
そして時は流れ──夜の23時40分。
静まり返るネルフ学園中等部の校門前に肝試しの参加希望者が集まってくる。シンジ達は放課後に一度自宅に帰って夜の準備をし、各自夕食を食べ終えてから改めて学校に集合していた。
「──で? 結局クラスで集まったのはいつものメンバーだけ?」
学生服姿のシンジが腕を組んで訊ねる。シンジ達がやってきたのはネルフ学園の校門の前。しかしそこにはシンジ達以外の参加者の姿はない。
──今夜の肝試しの参加人数は6人。シンジ、トウジ、ケンスケ、引率責任者のミサト、そして……
「「………」」
明らかに付き合わされたという顔をしているアスカとレイというメンバーだ。
……ちなみに心霊話の体験者である肝心のヒカリは、もう一度あんな怖い思いをしなきゃいけないなんて絶対無理という事で今回は不参加となっていた。
「ほ~う、さすがやな惣流。大口叩くだけあってちゃんと逃げずに来るなんてワイも見直したわ」
「ふんっ! シンジがどうしてもってしつこいから仕方なく来てあげたのよ! 勘違いしないでよね! べ、別に怖いわけじゃないんだから! アスカ様は幽霊なんて怖くないっての!」
アスカは強がりながらも、その青い瞳は見事なまでに泳ぎまくっている。どう見ても恐怖で怯えている様にしか見えないのだが、それでもアスカは必死に虚勢を張る。
シンジはそんなアスカを微笑ましく見守りつつ、一方でレイの方を見てみる。レイはアスカと同様に怯えているが、シンジが行くならと言ってついて来たのだ。
(ははは……やっぱり綾波さんも女の子なんだな)
そんな事を思いながらシンジが苦笑いしていると、校門の向こう側からミサトが歩いて来た。
「ごめんお待たせ〜。待った?」
「いえ、僕達もついさっき着いたばかりです」
シンジが代表してミサトに返事をする。ミサトの格好は昼間に見た女教師らしいスーツ姿ではなく、胸元が大きく強調されたノースリーブの黄色いシャツにデニムのショートパンツという、極めて露出度高めのだらしないラフな服装で、思春期真っ盛りなシンジの目にはなかなか毒であった。
「ちょっとミサト、教師のくせになんて格好してんのよ……」
思わず呆れるアスカだが、ミサトはアスカの呟きを適当に聞き流し、シンジ達の目の前に立つと全員を見渡して口を開く。
「──やっぱりこのメンバーしか来なかったみたいね。まっ、その方がこっちとしても助かるんだけど……それじゃあ早速出発しましょうか」
ミサトは事前に用意していた懐中電灯を片手に歩き出すと、他の者達もそれに続いていく。
校舎への入口は完全に施錠されていたが、ミサトが1階に位置する職員室の窓を昼間のうちにこっそり開けていたらしく、すんなりと侵入する事が出来た。
引率役のミサトを先頭に、シンジ、アスカ、レイ、トウジ、ケンスケの順で縦一列になって真っ暗闇な校舎の中を進んでいく。
ミサトが言うに、今回の肝試しはグループ分けせずに最初から全員で行動する予定だという。
「それでミサト先生。これからどこに行くんですか?」
まるで怖がる素振りを見せないシンジが質問すると、懐中電灯を持つミサトは前を向いたまま答える。
「まずは私達2年A組の教室に行こうと思ってるわ。最初の目撃情報だとそこが一番多いみたいなの。あと他の教室でも複数の人が幽霊を見たって話もあるから、念の為に全部の階を順番に回ろうかなって」
「なるほど……わかりました」
シンジはミサトの話を聞いて納得すると、隣を歩くアスカとレイをチラリと見やる。二人揃ってシンジの両腕にしがみ付いているので、二人の柔らかい胸の感触が伝わってくる。
「ちょっとシンジ、ゆっくり歩きなさいよ」
「えぇ~……やだよ。それよりそろそろ手を離してくれない?」
「「いや」」
シンジはアスカとレイから同時に拒否される。実はこの二人は肝試しが始まってからずっとシンジの腕を抱き締めて離れようとしなかったりする。
(まったく……アスカと綾波さんがこんな風に甘えてくるなんて……)
普段からアスカとレイはお互いに張り合ってシンジを取り合っている節があるのだが、この肝試しではそんな余裕がないのか、シンジの左右を二人がガッチリと固めて抱き着いている。
シンジとしてはアスカとレイの両方から密着されているのは嬉しいが、このままの状態でいるとさすがに動き辛い。
それに先程からやたらと嫉妬深い男二人の視線を後ろから感じてならないので、そろそろ勘弁して欲しかった。
「くそ~、碇のやつあんなに抱き着かれて羨ましい……」
「だいたいなんで肝試し言うとるのに全員で行動するんや? 普通こういうんは男女ペアとかやないか。何でよりによって碇のハーレム見せられなあかんねん」
最後尾を歩くトウジとケンスケが並んで愚痴を溢していると、ふとある事を思い付く。
そして二人は何やらコソコソと話し合うと、ニヤニヤと笑ってからピタッと足を止めて前方を歩くシンジ達4人を見送った。
──それから数分後。シンジ達はミサトの先導で2年A組の教室にやって来ていた。
「ここね……誰もいないはずなのに懐中電灯の灯りだけが目撃されるって噂の場所は」
ミサトが引き戸に手を掛けて開くと同時に室内へと入ると、シンジ達もそれに続く。
「別に変わったところはないけど……」
シンジは周囲を見ながら呟く。するとアスカが突然思い出した様に震えた声を上げた。
「ね、ねぇ……そう言えば鈴原と相田は?」
その言葉にシンジ達はハッとする。確かにいつの間にか二人がいなくなっていた。
(あいつら……また何か企んでるな)
……恐らくシンジ達に気付かれない様にどこかに隠れているのだろう。そんな事をシンジが思っていると、ミサトが突然懐中電灯を教室の窓側に向けて叫ぶ。
「──そこにいるのは誰ッ!?」
その言葉にシンジ達全員が驚いて振り返るが、特に変わった様子は見られない。
ただ、ミサトの持つ懐中電灯の光が窓の外を照らした瞬間、一瞬だけ懐中電灯の光が左右に大きく振れたが、それはすぐに戻ってしまった。
……気のせいだったのだろうか?
そう思いつつシンジが不思議そうな顔を浮かべていると、今度は自分達が居る場所から見て反対側の校舎の廊下を進む懐中電灯らしき光が揺れ動く不気味な光景をはっきりと目撃してしまう。
「ミサト先生! あの光! やっぱりこの学校には知らない誰かが徘徊してたんだ!」
「だ、誰かって誰よ!? だいたい、あたし達しか校舎に残ってないはずでしょ!?」
シンジの言葉にアスカが顔を真っ青にして反論すると、ミサトがシリアスな顔付きで小さく呟く。
「……使徒」
その一言にシンジ達は一斉に黙り込む。
「……まさか。いくら何でもありえないですよ。ここは学校だけど一応ネルフの施設内だし、使徒がこんな所まで入り込める訳が……」
「じゃあ他に誰がいるっていうの? もし仮に使徒だとしたら、これまで目撃されてきた様々な怪奇現象にも説明がつくわ」
ミサトの言い分は尤もだ。しかしシンジはどうしても信じられない。何故ならシンジは肝試しの間、使徒の気配を感じた事は一度も無かったからだ。
シンジはこれまでの人生の中で、何度か使徒の気配を感じ取った事がある。それは最初に出会ったアラエル、そしてあの恐るべき強敵ラミエル──
それはいつも、シンジが命の危機に瀕する様な危機的状況に陥った時にのみ現れた。
しかし今回に関しては、シンジ自身に何も危ない事など起こっていない。それ故にシンジはどうしてもこれが使徒の仕業だとは思えなかった。
……だが、ミサトの言う通り本当に使徒がこの学校に潜んでいる可能性は確かにゼロではない。
その事を踏まえ、シンジはズボンのポケットに仕舞った赤い玉──即ち自分の
「──ミサト先生、とりあえず今はこの場から移動しましょう。さっき目撃した怪しい光は不規則に廊下を動き回っているみたいですし」
「そうね……わかったわ」
シンジの提案にミサトは素直に頷くと、シンジ達は急いでその場から立ち去る。
──その後、シンジ達は教室ではなく廊下を中心に探索範囲を校舎全域に広げる事に。そして再び事件は起こった。
シンジ達が真っ暗な廊下を懐中電灯の光だけを頼りに歩いていると、ミサトが突然手に持った懐中電灯をシンジに渡してきた。
「ごめ~んシンジ君! ちょっち、宿直室に戻ってもいい? 忘れ物を思い出しちゃって──」
ミサトが申し訳なさそうに両手を合わせてお願いしてくる。シンジとしても別に構わないと思ったので、一旦別行動するミサトから懐中電灯を受け取って自分達は引き続き幽霊騒ぎの調査に向かう。
懐中電灯を手に持ったシンジが走り去っていくミサトの背中を見送っていると、突然アスカがもじもじと内股気味にシンジの制服の裾を引っ張ってきた。
「……どうしたの?」
「っ……ト、トイレ! もうちょっとで漏れちゃうのっ!」
「えっ、こんな時に!? 早く言ってよ」
シンジは慌ててアスカの手を掴むと、最寄りの女子トイレを目指して走る。幸いにもシンジとアスカがやってきた方向から少し離れた場所に女子トイレはあった為、そこまで全力疾走で駆け抜ける事が出来た。
「ね、ねぇシンジ……ちゃんとそこにいる?」
「いるってば」
女子トイレの個室に入ったアスカが不安げに聞くと、シンジはその個室の前で待機しながら返事をする。
「ほ、ほんとにほんとに待っててくれる?」
「うん、ここにいるってば。だから安心して膀胱にたっぷり溜まったおしっこ出してなよ」
「ぜ、絶対よ!? 絶対にあたしの前からいなくならないでよ!?」
「はいはい。まったく、アスカも実は怖がり──ん?」
シンジはそこで言い掛けた言葉を途中で止める。先程から真っ暗な女子トイレの個室からはぷしゃあぁぁ……っという何とも気持ち良さそうな排出の水音だけが長い時間ゆっくりと響き渡る。
そんな時にシンジがふとトイレの入口に顔を向けると、そこには消えたはずのトウジとケンスケ、更には宿直室に戻ったはずのミサトまでもが一緒に手招きしているではないか。
(……な~るほど。そういう事か)
ここでシンジはようやく合点がいった。要するに、今回の肝試しは最初からアスカをターゲットにする為に画策されていたのだろう。
そしてまんまとミサトの演技で罠に嵌まったシンジは、そのままトウジ達に誘われるまま懐中電灯をアスカが居残るトイレの個室の前に置いて静かに立ち去る。
そして──宿直室にやって来たシンジ達。そこには魘される様に気絶してしまったレイが寝かされていた。
「綾波さんはどうしたの? アスカがトイレに行くって言う辺りからいつの間にか逸れちゃってたみたいで──」
シンジが状況を質問すると、ミサトが何やら困った様子で頬を掻く。
「実はね、例の怖い噂話……あれは幽霊なんかじゃないのよ」
その言葉にシンジはやっぱりか……と内心呟く。最初から事の真相を知っていたミサト曰く、幽霊騒ぎの正体はみんなの予想通り変装していたミカサだったのだ。
レイと同じで両親の居ないミカサには住む家が無く、それまでアメリカに位置するネルフ第2支部で暮らしていたミカサはレイ同様、碇家のマンションで一緒に暮らさないかとユイとゲンドウに声を掛けられたらしい。
しかしそこは譲れませんとミカサは頑なに断り、結局住む家が見つかるまではネルフ学園の宿直室で寝泊まりしていたという。
ミサトはその事を最初から知っており、今回の幽霊騒ぎに乗じて孤独な学園生活を送るミカサをどうにかして更生させようと考えた結果があの肝試しだった訳だ。
しかしトウジとケンスケがそんな事情も知らないまま勝手に動き出した結果、面白そうだと思ったミサトが二人の悪戯に乗っかる形でわざとらしく使徒の話題を持ち出したりと、ミサトの作戦がどんどんややこしい方向に進んでしまったのである。
その結果が現在進行形で口から泡を吹いて気絶している顔面蒼白のレイと、今頃すっかり怯えきって完全に孤立させられてしまったと思われるアスカだ。
「ミサト先生……」
「やり過ぎちゃったわね……ごめんなさい」
ミサトの説明を聞いてシンジがジト目になって呆れた表情を浮かべると、ミサトは素直に頭を下げて謝罪する。
しかし……待てよ? ここでシンジはまだ何か今回の幽霊騒ぎには解決していない違和感がある事に気付く。
「真夜中の学校を歩き回る幽霊女がミカサだってのは分かったけど……それじゃあ委員長が最初に目撃したっていう奇声を上げて襲い掛かる黒い化け物ってのは──」
──そうなのだ。肝試しが始まって以来、シンジは一度もその化け物の気配を感じていない。
しかし、それがもし本当に存在するとしたら……シンジはそこでハッとする。
そして同時に嫌な予感を覚えたシンジは、女子トイレに置き去りにしてしまったアスカの安否を心配するのだった。
一方で──シンジ達が宿直室に向かった後。女子トイレで一人残されたアスカが目を真っ赤に泣き腫らしてシンジが置いていった懐中電灯を手に暗闇の廊下を歩き回っていた。
「ひっぐ……うぇええん……シンジどこぉ~……!」
アスカはもう限界だ。アスカは今までの人生でここまで恐怖に震えた事など一度もなかった。
いつも愛するシンジが隣に居てくれたからこそ、アスカはこれまで様々な苦難(ホラー映画鑑賞の事)を乗り越える事が出来たのである。
しかし……今のアスカにはそのシンジがいない。たった一人で真夜中の校舎を彷徨うアスカは、まるで迷子になった小さな子供の様に泣きながらビクビクと足元を震わせて歩いていた。
「うぅ……シンジぃ……やだよぅ……」
涙を拭う事さえ忘れて歩くアスカは、とうとう足を止めてしまう。そしてその場で膝を抱え込むと、アスカは遂に嗚咽を漏らして本格的に泣いてしまう。
「……ひっく……シンジ、お願いだから助けに来てよぅ……あたしを一人にしないでよ……ぐすっ」
アスカはシンジに会いたい一心で何度もシンジの名前を呼ぶ。
……その時だった。
ぺた……ぺた……ぺた……ぺた……
廊下の真ん中で蹲るアスカの背後から、何者かが裸足の足音を鳴らしてゆっくり近づいてくる音が聞こえてきた。
「……ッ!? し、シンジ!? シンジなの!? お願い、あたしを一人にしないで! 何でも言う事聞くから!」
その音を聞いた瞬間、アスカは反射的に振り返って音の鳴る方へ駆け出す。恐怖心のあまり錯乱状態にあるのか、逃げずにむしろ自分からその方向に向かっていくアスカ。
「シンジ! シンジ! シンジィ!」
しかしその時、アスカの耳に届いたのは聞き慣れているはずのシンジの声ではなく──
「グエッグェッグェェェェッ!!」
──暗闇の中、遂に現れた噂の化け物が発する耳障りな鳴き声だけだった。アスカの目の前に現れた全身が黒く染まった二足歩行でペチペチと歩くナニカ。
その体躯は人間とは似ても似つかない程に小さく、口と思われる部分は鳥類らしき大きな嘴で覆われている。アスカは思わず悲鳴を上げそうになったが、それを何とか堪えると恐る恐る化け物の顔を泣きながら見つめる。
「ふぇ……? ペン、ギン……?」
アスカがぽつり呟くと、目の前のそれもアスカの存在に気付いたのか、アスカのすっかり怯え切った顔を見て可愛らしいペンギンの鳴き声を上げた。
「ギェー♪」
「ペンギン、なの……?」
アスカはもう一度その生物の名前を呟くと、アスカの瞳から大粒の涙が溢れ出る。更には本物のお化けじゃなかった安心感からか、アスカは先程トイレに行ったにも関らずまたも尿意を覚えてしまい、気が緩んだ事で一気に膀胱のダムが決壊してしまった。
「うっ……いやぁぁ……んっ……」
アスカのぐっしょり濡れた股間から生温かい黄金色の液体が太腿に伝っていく。
ぷしゃあぁぁ……という卑猥なシャワー音と共にアスカの下半身が温かく湿っていき、アスカは恥ずかしげもなく座り込んだ状態で両足をM字に大きく広げ、染み付いた可愛らしいピンク色の紐付きショーツを履いたまま一気に放尿を始めた。
するとそこに……
「──ペンペン、そこにいたのですね」
暗闇の向こう側から懐中電灯を手に持った一人のセーラー服を着た美少女が姿を現す。
変装用に用意したウィッグの黒髪ロングヘアーではなく、彼女本来の腰辺りまで伸ばした綺麗な緑髪を靡かせ、トレードマークである赤いロングマフラーで口元を覆い隠す様に巻いたそのクールな雰囲気を身に纏う少女は、紛れも無く雪風ミカサその人だった。
「ミ、カサ……?」
勢いよく放出されていく黄金色のシャワーを運悪くミカサに見せ付ける形になってしまったアスカ。ミカサはそんなアスカの傍に歩み寄ると、優しい表情でしゃがみ込むアスカに声を掛ける。
「姫……あなたが怖がっているのに気付かなくて……まさかこんなに怯えていたなんて──」
ミカサはそう言って悲しげに目を伏せると、そっとアスカを抱き締める。
「もう大丈夫ですから。さぁ姫、私と一緒に宿直室まで行きましょう。恐らく皆さん待ってますので」
ミカサはそう言いつつ、未だに止まらないアスカのおしっこを気にする事なく見届けると、ようやく長かったアスカの放尿が終わる。
アスカは排出の余韻でしばらく放心状態になっていたが、やがて自分が今何をしていたかを思い出すと見る見るうちに顔を真っ赤に染めて爆発させた。
「いやあぁぁっ!? なんであんたに見られてるのよぉぉっ!?」
慌てて青色のスカートを両手で押さえて立ち上がるアスカ。しかし時既に遅く、アスカのスカートと下着はたっぷりと水分を含んですっかり変色してしまっていた。
「ま、待ってください。私はただあなたが心配で……っ、それにしてもすごい量でしたね。やはり人間とは溜め過ぎると大変なのですか? 生理現象とはいえ、少しは身体に気を使って──」
ミカサは真面目に考察しつつ、羞恥心で震えているアスカの手を優しく握ってくる。しかしミカサのその行動が、より一層アスカを辱める結果となってしまった。
……その後、アスカは校舎内を徘徊していたペンペンを抱くミカサによって無事に宿直室まで連れられていき、シンジ達と再会を果たしたのだが……
「ごめ~んアスカ! ほんとこの通り! だからもう許して~!」
ミサトからの説明を聞いたアスカは顔を真っ赤に染めてそれはもう烈火の如く暴れ回り、ミサトとミカサは揃って正座させられていた。
……ついでにシンジ、トウジ、ケンスケの男3人は全員アスカにタコ殴りにされて未だ気絶中のレイの傍にバタリと倒れ伏し、散々な目に遭ったのであった。
……ちなみに、シンジ達と逸れたレイを襲った黒い化け物もここにいるペンペンの仕業である。
ペンペンは世にも珍しいオスの温泉ペンギンらしく、普段はミカサやミサトがネルフ学園内で飼育していたのだが、事ある毎に逃げ出しては真夜中の校舎内を徘徊し、様々な生徒達にちょっかいを出していたのだ。
ミカサはネルフ学園の七不思議にされていた噂の正体がペンペンだと最初から気付いていたらしく、夜な夜な校舎を徘徊する謎の温泉ペンギンを連れ戻す為、担任のミサトに頼まれて毎日密かに探し回っていたらしい。
ヒカリが目撃したという怪しい光もミカサの懐中電灯であり、彼女がペンペンと出会して気絶したおかげで無事にペンペンを保護し、哀れヒカリを優しく介抱してあげていたのだ。
幽霊騒ぎの一部始終を知ったアスカはクエスチョンマークを浮かべた何も分かってないペンペンをギュッと抱き締めると、そのモフモフした羽毛に顔を埋めて静かに「このバカペンギン……」と呟くのだった。
──こうしてアスカの恐怖体験は終わりを告げ、ネルフ学園最初の七不思議──『真夜中の校舎を徘徊するお化けと幽霊の女』の真相は解明され、多数の犠牲者を出しながらも何とか平穏無事に幕を閉じたのだった。
【次回予告】
ある日のネルフ学園の帰り道、シンジの前に突如として現れる謎の金髪巨乳美女。
それは復活した使徒ラミエルとの決戦を意味するのか。
監禁されたラブホテルの一室で少年は叫ぶ。
ラミエルの卑劣な罠に屈する時、シンジは逃れられない快楽の園へ堕ちていく……
次回、『決戦!
今後、ヒロインたちとのエロ回がかなり増える予定です。そこで少しでもキャライメージをしやすいようにAIを使った挿絵を導入しようか迷ってます。アンケート結果によって採用するかしないか決めるので、もしよければ皆さんお答えください。
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AI挿絵が欲しい
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AI挿絵は要らない
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原作キャラの挿絵だけ欲しい
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オリキャラの挿絵だけ欲しい