赤城の出番はここだけですが、かなり何もかも分かったキャラに仕上がったのは
自分でも意外でした。
訓練スケジュールを胸元に抱きかかえた加賀は反芻していた。
――五航戦の子はどうでもいいし、あの若手の提督もどうでもいい。なのにどうして私はあんな態度を。
眉間にしわを寄せながら俯いて歩く一航戦を見た駆逐艦たちは怯えて道を譲るが、加賀はそれにも気付かない。
曲がり角で青い一航戦は障害物と衝突した。
「気をつけー、あ、赤城さん」
一航戦の片翼が加賀を受け止める。
「どうしたの? 浮かない顔をしてたけど」
「い、いえ、何でもありません」
本来は同格であるはずなのに、加賀は赤城を前にすると、どうしても一歩引いてしまう。その感情は尊敬の念に近い事をまだ加賀は知らない。
落ちた指令書を拾うった赤城は内容を確認しながら、
「うそ、顔に書いてるわよ。『私は素直な五航戦の子が羨ましいです』って」
直球であった。しかも球は加賀の心臓を捉えて本心を揺り動かした。
「わ、私はそんなのじゃ! 私は訓練の時間よりも色事にうつつを抜かすあの子の甘さが」
「ほんとにそれだけ?」
赤城は命令書を脇に挟むと、腰まで届く長い髪を持ち上げて水平にする。
「わたし『たち』は、訓練に訓練を重ねたトップエリートだった。でもそれが為に生じた「慢心」で滅びた。その記憶は今でも残っているわ」
水平に持ち上げられた長い黒髪に大穴が出来て髪がゆっくりと沈んでいく。
「五航戦を見下し、敵を見下し、状況さえ甘く見た。そんな記憶が私を苛むの。過去は過去の筈なのに」
赤城が髪を蛇のように自分の指に巻き付ける。
「わた、私は・・・・・・」
加賀が言い返そうとするも、同じ記憶を共有しているだけに言い返せない。
「もっと自分の気持ちに素直になってもいいんじゃないかな、。少なくともあなただけは驕りから来る過ちを繰り返してほしくないの」
「お、驕りからの過ちって、何ですか! いくら赤城さんでも言っていい事と悪いことがあります!」
ようやく反撃らしい反撃が出来た。だがそれは一斉応射への誘導に過ぎなかった。
「このままだとあなたの提督が、身も心も取られちゃいますよ」
「あんな若い提督なんか!」
赤城は取り合わず、命令書に何かを書き加えた。
「一航戦の赤城は単独で訓練がしたいので、加賀さんは邪魔なの」
「そんな、赤城さん!」
「じゃあ、命令書を提督に渡してね」
言うだけ言うと、赤城はカツカツと背を向けて歩き出す。
書類を確認すると、加賀は五航戦との合同訓練に移動していた。
置いてきぼりにされた加賀の手が力なく下がる。
「私は別に、提督なんて・・・・・・」
しばらくして、加賀は執務室に足を向けた。