※この作品はR-18です。

『うちはシスイ憑依伝』IFルート・ザ・ストーリー   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
IFルート・ザ・ストーリー続いてしまいました。
というわけで今回のお題は主人公の心因性勃起不全問題と家族の誕生です。
大体このIFルートを18禁で書こうと思った最大の切っ掛けも思えば、主人公の心因性勃起不全予備軍という裏設定のせいだったりします。
なんかエロシーン自体は前回より短いわりには、前よりエロくなってしまった気がしますが、それではどうぞ。


生に感謝を、命に喜びを。

 

 

 

 ―――――願うならば、家族を与えたいとそう思っていた。

 

 此処は火の国、木の葉隠れの里。

 里の立役者の1つたる名門うちは一族の集落の中でも、古い名家の奥室にて、月光の灯りだけが障子越しに差し込む刻限に、一組の若い男女が睦み合っていた。

「……ぁ、はっ、ぁあ、んぁ……あッ!」

「はっ、ィタチ」

 雄と雌の匂いと、求め合うが故の律動が月明かりに影を落とす。

 それに加え、切なげに喘ぎを漏らす女の艶声に重ねるように、彼女の名を呼ぶ若い男の熱に浮かされた声が夜闇に響く。肉を打つ音と交わりあっている故の粘着室な水音がジュブジュブと副音声として行為を彩っていた。

 女は顔を伏せて、快楽に応えるように白く整った美貌に朱を走らせながら、その肉厚の紅い唇より尚赤い舌をちらりと覗かせ誘うように時折男へと視線を流す。青年もまた、彼女に負けぬほどに蕩けるような瞳で愛しげに微笑み、そんな己の妻の様へ酔う。出るところは出ていながらも白くほっそりとしたくノ一の体にうっすらと浮いた珠のような汗が、あどけない少女の肢体を婀娜っぽく見せていた。

「んく、ぁ……!」

 背後から男に貫かれたまま、女はフルリと体を震わせる。下は性器同士を連ねた体勢のまま、男は彼女を抱き込むようにして少女の前へとその両手をまわし、ピタリとその鍛えられた胸板を妻たる女の背に這わせながら、その艶やかな黒髪と汗ばむ白いうなじの間に想いを込めた口づけを1つ落とした。

 腰を掴まれていた時よりも尚深い零距離密着を前にして、彼女の秘部の最奥へと男の魔羅がより深く入り込む。それに反応して、ギュウと女は膣内(なか)に収まったままの男自身を無意識に締め上げた。

「……っく、ンッ」

 忍びとして一流である引き締まったしなやかな肉体を持つ彼女の内壁からの締め付けは、男にとっても些かキツイものがあったけれど、自分で感じてくれているが故のそんな女の反応さえ愛おしくて、青年は首筋から耳元まで触れるだけの口づけを順繰りに落としていき、リズミカルに女の秘部に収まったままの自身の息子を動かしながら、前にまわしていた右手でやわやわと女の白く張りのある胸を揉みしだいて、左手で女の腹から臍のあたりまでを強弱をつけた指の動きでまさぐった。

「んァ、ふ、……ッハ、ぁあ、シスッ」

 時には悪戯にプックリと勃ちあがった乳首の先端を指で弾きながら、それでも尚優しく繊細な手つきで行われる愛撫を前に、女は所々息を詰まらせつつ艶めいた喘ぎ交じりに夫たる男の名を呼ぶ。その声に、肩口に顔を埋めながら青年は、彼女の臍を掻き穿るように弄っていた左手を女の下腹部……陰核へと移動させ、その小さな突起をクリッと人差し指と中指で挟むようにして弄ると、切羽詰まったような声で低く囁く。

「もう、オレ、イきそう……な、イって、いい?」

 懇願するようなその声に、ゾクゾクと女は背筋を震わせ、その熱く伸縮する膣で男の一物を強弱をつけて締め上げる。そのまるで男の欲望を搾り取るかのようなヴァギナの動きを前にして、男は小さく喘ぐような声を漏らしながら息を詰めた。そんな男に対して、彼女もまた切迫したような色の乗った擦れるような声で「いい……出して、イイから」と長い睫に彩られた切れ長の目を熱に潤ませながら、夫を横で振り返りつつ言った。

 許可の下りた青年は、入り口ギリギリまで男根を引き抜き、それから「イタチ、イタチ」と再びうわごとのように女の名を呼んで、速まった動きで何度もズチュズチュと奥を突いた。愛液で濡れそぼった女の狭く弾力ある蜜壷は、あまりに善過ぎて目眩がしそうだ。

「ッ……イきそう、な、いっしょにイこ? オレ、オマエと、ッ、イきたい」

「ぁ、シスィ……ンッ、ぁああァアあ……!」

 耳たぶを甘噛みしながら囁くように熱に浮かされたように漏らされた男の声。詰まったように息を吐き出す感覚さえリアルなその生々しさと暖かさに、女は幾度もゾクゾクと体を震わせギュウとシーツを握りしめる。そして子宮口目掛けた射精に合わせ、青年の右手親指と人差し指が敏感な乳頭部分を痛いくらいにつまみ上げ、同時に左手親指と人差し指もまたキュッと彼女の小さなクリトリスをつまみ上げるのに並行して、女もまた絶頂の声を上げ、ビクビクと体を揺らしながら一際強く男を締め付けた後その体を弛緩させた。

 

 

 1度終われば、もう2度交わることはなく、裸で体を寄せ合いながらただ同じ布団で眠る。

 それがこの男うちはシスイと、妻であるうちはイタチの夫婦としての営みの形であった。

 2人が結婚してから約1年が経った。イタチは16歳を迎え、シスイは22歳となった。その年齢のわりには一夜に交わりは1度きりなど、がっついていないと思われるかもしれない。忍びなどという、どこで命を落とすかわからぬ職業についているのなら尚更だ。

 しかし、これでも随分とマシになったと女……イタチは回想する。

 最初は、初夜を除けば、彼女が誘わなければ男は……そういう意味で寝ようとすらしなかった。ただ隣にいて、一緒にいられるだけで幸せだからと、男は微笑みさえ浮かべて口にした。

 だから、彼女は言った。

「これは自分も望んでのことだ」

 と、そう。

 そうして事に及んでも、また別の問題が出てきた。

 裸になるだけでも、キスをするだけでも、女の体を弄るだけでもそれだけでは中々男の一物は勃たなかったのだ。大抵若い男というのは性欲を持て余し、それらの条件を1つでも満たせば大概のものが全勃ちとはいかなくても半勃ちにはなるだろう。日常的に命のやりとりが身近な職なら尚更だ。肉欲は生物の本能の1つであり、人は命の危機に晒されれば子孫を残そうという本能が働く生き物だからだ。

 男の象徴が女の裸体を前にしても勃たないというのは、始めは性知識はあっても経験のないイタチは自分に魅力がないせいかと思ったものだが、そういったことが2回、3回と続けば流石に違うことが経験に乏しいながらもわかった。

 男のペニスは何をしても全くの無反応……というわけでもないし、いつも飽きずに行為の初めに己の裸体に見惚れる青年のことを思えば、彼が自分に向けてくれている視線の熱さや瞳に滲んだ情欲が気のせいというわけでもない。行為自体も初めはそれほど乗り気でなくても、終わり頃には男のほうから自分を求めてくれもした。

 けれど、勃起するまではいつも時間がかかり、中々ままならなかった。健全な魂は健全な肉体に宿るという。肉体面でいうのならシスイは健康体の筈である。持病を持っているなど聞いたことないし、観察眼に長けている彼女の目から見ても体には問題があるように思えない。ならば、本人は隠していたようだとはいえ元より精神的に情緒不安定なところが強かった男だ。おそらくその精神的な問題が肉体にも影響を出しているのだろうと、イタチの分析眼はそう答えを出した。

 だから最初の半年間、行為に至る夜は、イタチは自分から男に愛撫を施し感じさせるように努めた。性的な行為にどこか罪悪感らしきものを無意識に抱いているようにも見えたシスイに、感じてもいいんだと思わせてやりたかったというのもあったのだろう。

 夫婦の営みに置いて、女は毎度のように夫の一物を頬張り、玉を弄り、その両手の指と舌と口腔を駆使して男の感じる場所を見つけてはそこを執拗に攻め、肉棒が熱と芯を持ち出した際にはその鈴口に唇を寄せ、先走りを啜った。いくら感情を律することに長けたイタチとはいえ、好きでもない相手にここまでは出来ない。だから、そうすることにより少しでも自分の愛情が伝わればいいとそう思っていた。

 そうしたお膳立てを何度もして漸く男の一物は性交に必要な分の硬度を保てるようになった。けれど、それもいつもというわけではなく、勃たない時は半刻ほど粘り続けても、どんな愛撫を施してさえやはり勃たなかった。そのことを男自身気にしていたのは知っていた。だからイタチはたとえ己が一方的に奉仕するだけで不発に終わった夜でさえ、男を否定し責め立てる言葉は決して口にしなかった。

 それが変わりだしたのはいつからだっただろうか。結婚してから5ヶ月から6ヶ月を越えるくらいからだったと思う。

 やがて、イタチの口淫無しでも青年のモノは前座の中で少しずつ存在を示すようになっていったし、それに伴って表の生活に置いても、次第に男は……きっと本来の、押し殺してきた素の表情を見せる割合が増えていった。

 その変化は、自然体となった……といえばいいのか。

 表面的には以前となんら変わらない。相変わらず男はよく笑ったし、よく子供に懐かれ面倒を見ていたし、誰彼構わず人に好かれ人を愛し、時には激昂し、ちょっとしたことでもよく涙を見せた。けれど、やはり以前とは何かが違ったのだ。

 それは、笑顔の質……なのかもしれなかった。そしてその変化を、今まで男が笑顔という名前の仮面を被っていたことにさえ気付いていなかった人々にまで悟らせるほどに、男は透明に柔らかくなった。

 そして3ヶ月前になるだろうか、その日、その晩初めてシスイは自らイタチとの行為を望んだ。

 今まで1度でさえ男から望んだことはなかったというのに。

 その日は、夫……うちはシスイはAランク任務明けで3週間ぶりに家へと帰ってきた日で、暗部の任務帰りであったイタチを抱き留めて、開口「欲しい」のだと、「抱きたい」のだとそう蚊の鳴くような声で口にしたのだ。

 男が一体どんな任務に割り当てられたのかは知らないし、聞くつもりもない。だけど、今まで本当に耐えきれない程に辛いことに対しては口にしたことがなかった男が漏らしたその言葉に、漸くああ、この男は弱音を吐けるようになったのかとイタチは安堵し、喜ぶ心を笑みに変えて、彼女はそれを受け入れた。

 その日はいつになく男は狂おしいまでに女の柔肌を求め、震える体で彼女の全身に口づけを落とし、その白い体を熱に浮かれるようにして愛おしげに抱いた。

 以来、長期の高ランク任務を成し遂げた後は、シスイはイタチを自らの意志で求め、抱くようになった。

 自ら望んだ行為の最中の男は情熱的で、子供のように素直だ。そのくせ、優しさと労りに満ちた手つきはいつもとそれほど変わってなくて、独りよがりに走ることはなく、絶頂(イく)時は共にイくことをいつも望んだ。

 甘えたような切羽詰まった自分を求める懇願の声が密かに好きで、絶頂が近いときにはいつも伺いを立ててくる男を可愛いと思うと同時に、ひょっとするとそうして毎回一緒に拘るのは寂しいからなのかも知れないともイタチは思う。普段は見返りなど求めない身勝手で独善的な愛し方しかしないくせに、ああいう時だけ1人はイヤだと縋り付く。おそらくあれはきっと隠し続けてきた青年の不安の表れなのだ。

 SEX中にしかそういう本音を晒せないなんて、つくづくこの男はどうしようもなく不器用なのだなと思う。人付き合いという分野に置いては男以上に不器用な身としては人のことを言えないのかも知れないが、しかしそんな男の繊細さを愛おしいとそう女は思った。

 

「……なぁ、イタチ、起きているか?」

 ふと、自分を胸板に抱き寄せたまま、上から子守歌のような声音でかけられた男の声に、少女は顔をそっと上げ、「……ああ」と短い言葉で答えると同時に、今までの回想を振り払う。

 そんな若妻の豊かな黒髪を指で梳きながら男は、「あのさ……」とどこか不安に揺れる子供のような色を瞳に宿しながら、次のようなことを言った。

「オレさ、今日火影様に呼ばれてただろ。それで……正式にアカデミーの教師になる気はないかって、そう言われたんだ」

 それは初耳だった。けれど、別段驚くようなことでもなかった。なんとなく、三代目はそうして欲しいと前から思ってたように感じていたからというのもあったのだろう。そうでなければ、シスイ程の手練れを臨時とはいえ幻術講師としてアカデミーに派遣なんて使い方はしなかっただろうとも思っていたからだ。

 けれど、男はそんなこと露にも思っていなかったのか、不安に揺れる瞳のまま「いいのかなぁ」とそう呟く。

「問題でもあるのか」

 思わずイタチは問い返した。そんな妻に向かって、シスイは始め小さく息を詰め、それから何かを決意したようにキュッと眉間に皺を1つ寄せると、口調だけは穏やかなままに次のようなことを言った。

「……アカデミーの教師はさ、オレの親友の夢……だったんだ」

 そんな風にポツリポツリと漏らされた男の言葉に、思えばこうしてシスイが自ら過去のことについて断片ではなく口にするのは初めてなのかもしれないとイタチは思う。些細なことでは己の感情を恥ずかし気もなくストレートに出していた男なのに、肝心なことについては何も言わず内にひたすら溜め込む。自分の夫はそういう奴だった。

 けれどそのことで水を差すでもなく、イタチは1つ頷きを返すことで、話を促す。

「アイツはさ、本当に良い奴で、将来はアカデミーの教師になって忍術だけじゃない、色んな事を子供達に教えたいってそう言ってたんだ。外の綺麗なこととかいっぱい色々。そうやって木の葉の教育界に亀裂を入れてやるんだって、そう……言って」

 言いながらにどんどんと語尾は震えていった。同時に、イタチを抱きしめている腕もまた震えている。顔は涙こそ流していないけど、まるで泣いているような切なげで苦しげな表情を描いていた。

「なのに、アイツは死んで、オレが生き残って、オレが教師になるなんて……そんなの、本当にいいのかなぁ?」

「そいつはお前が教師になることを嫌がるような奴だったのか?」

 淡々と感情を排した声で上目遣いに問う。そんな己の妻に対して、夫たる男はフルフルと横に数度頭を振ると、「そんなわけない」そう呟くような声で口にした。

「アイツは、オレに夢がまだないって知ると、一緒に教師にならないかってそう言ってきたんだ。夏の太陽みたいな笑顔の眩しい奴でさ。キラキラした眼で、オレが居てくれたら心強いってそんなことを言ってた」

「なら、何も悩む必要はないだろう」

 イタチはそっとその形の良い右手人差し指をシスイの額に伸ばすと、軽くトンと押してから、その両の手で男の頬を左右から包み込む。

「夢を継ぐとそう思えばいい。それに……私から見ても、オマエに教師は天職だと思う」

 その言葉にシスイは「……そっか」そう小さく呟いて、泣きそうな顔で微笑って、それからギュッと子供が母親に縋り付くような仕草で細身の妻の体を抱きしめると、その黒髪に顔を埋めるようにして眠りに落ちた。

 

 

 男は変わったとイタチは思う。

 元より一定のジャンルに置いてはとても素直な男ではあったのだが、虚飾の笑顔より、本物の笑顔を浮かべることが増えるにつれ、段々と自身に対する愛情を信じていなかった男は、ほんの少しだけ、無自覚に嫌悪していた自身を許容しようとするそういう動きが見られた。

 それは些細なことだったのかも知れない。見逃そうと思えば見逃してしまえるそれを、しかしイタチは的確に捉え、男が情緒不安に揺れる時は何も言わず無言で抱きしめた。

 男は笑う。よく笑う。そして遠くに想いを馳せて、唄を歌う。なんの歌かは知らない。聞いたこともない歌だ。でもその歌は懐かしくどこか鎮魂歌(レクイエム)染みていた。

 そんな男に惹かれるようにしてよく子供達は集まった。時には数人の子供を家にまで預かってきて勉強を見てやってた時もあったように思う。元々は座学は苦手だと本人の言通り、勉学自体はそれほど得意というわけでもなかったようだけど、時には夜遅くまで自ら勉学に励んで、子供達の疑問に答えられるよう復習などにも身を窶していた時もあった。

 男は子供たちに勉強の合間に色んな話をした。聞いたこともないお伽話や冒険譚を、男は身振り手振りを加えながら多彩に表現し、伝えた。男は生徒達を前にしてよく笑い、褒め、叱り、撫で、そしてまた唄を歌った。一体なんの歌なのだろう。誰も知らない歌。でもそんな男に倣うように、子供達もまた青年から聞きかじっただけのその歌を競って歌いたがった。

 こうして見ると、この穏やかで優しく笑みを絶やさない男が、他国にまでその名を知られたうちは最強の幻術使いである「瞬身のシスイ」とはとても見えない。けれど、こんな平和な姿こそが男の本来の姿なのだろうと、それを見た誰もが思う。そう思わせるモノがシスイにはあった。

 そうしてシスイが教師となって2ヶ月半が経過した。

 

「それでさ、ナルトの奴がまた逃げ出してきてさ。『イルカ先生はガミガミうっせーってばよ』って。全く悪戯ばっかしているから叱られてるってのにあいつ本当馬鹿だよなぁ。あ、それとさ、アカデミーではサスケちゃんがさ」

 クスクスと笑いながら、男は寝物語代わりによくそんなたわいないアカデミーでの話をした。こんな姿は1年前からは想像もつかなかったと彼女は思う。

 確かにシスイは臨時幻術講師としてアカデミーに時折派遣されていた時代から子供に好かれてはいたし、また「もの凄い子供好き」としてアカデミーでも有名人をやっていた男ではあったし、子供に向ける愛情自体は本物だったのだが、それでもイタチにしか見抜けないほどの些細さではあったが、どこか張り詰めたものが解けることはなかったし、子供達に無償の愛情を注いで尚、こんな風に自慢げにそれを誰かに言って聞かせたりなどはしなかった。

 と……イタチ自身もわりと楽しげに男の話を聞いていたのだが、突如として吐き気を感じて、彼女は口元をおさえながら、「すまない、シスイ」と男の言葉を遮り、素肌の上に1枚だけ羽織ってトイレへと向かう。

 そうして一通り出したあと、水で口を濯いで戻ってきたイタチに対し、シスイは心配気な顔をして言った。

「最近多いな……ひょっとして体調崩したんじゃないのか? 暗部が忙しいのはわかるけど、あまり無理するなよ」

 元々一流のくノ一であるイタチは、健康面にも普段から気を遣って生活をしている。そのため、忙しい時でも滅多に体調を崩さないのだが、この所イタチは原因不明の吐き気や胸焼け、倦怠感を感じることが増えていた。そこでふとあることに気付いた。

「……まさか、な」

「心当たりでもあるのか?」

 男は変わらず、心配そうな顔をしたまま、熱がないか測るように右手の掌をそっと妻の額へと宛てた。そんなシスイの態度に仄かに苦笑してイタチは言った。

「いや、まだ確証はないけど……今日母さんに聞いてみるよ」

「?」

 癖毛の青年はその時イタチが浮かべた笑みの意味がわからず、不思議そうな顔をしてただ首を傾げた。

 

 

「おめでとう」

 その日の夕方、アカデミーでの授業を終え帰るなり、開口一番、ニコニコとした笑顔で出迎えた義母ミコトの第一声がそれだった。シスイはなんのことかわからず、キョトンと目を丸くしてマジマジと彼女の顔を見返した。

「えーと、ミコトさん、ただいまです。ところで、おめでとうって?」

 本当によくわかっていないその青年の様子を前に、男の妻たる女性によく顔立ちの似た義母は苦笑しながら、「イタチのことよ」そう口にした。

「貴方とイタチの間に赤ちゃんが出来たのよ。だからおめでとう」

 その言葉に、男は目を見開いて絶句した。

「いつ出来るのかとあの人と2人楽しみにしていたのだけど、漸くね。ふふふ、孫の顔楽しみにしているわ」

「……子供?」

「そうよ、妊娠してから約3ヶ月ってところね。あの子ならもっと早く気付くと思ってたんだけど、案外あの子にも鈍いところがあったのね。ああ、イタチなら今日は検診のために火影様にお願いしてお休みにしてもらっているわ。部屋にいるから会いにいってらっしゃいな」

 その言葉を聞くか聞かないかと同時に、男はイタチと自分達夫婦のために与えられた部屋に向かって駆け出した。

「家の中で走るなよ、馬鹿」

 とそんなサスケの声が途中で聞こえたが、かまっていられず、バンと音を立てて部屋の扉を開いた。イタチは布団の上に白い寝着姿で、湯飲みを片手に座してそこにいた。

「シスイ……」

 あまりに慌てている男とは対象的に、彼女は冷静で、その凛とした姿はいつもと変わらないように見えた。それを信じられないような気持ちで見ながら、青年は言う。

「妊娠したって……そう聞いた。本当か?」

「ああ」

 コックリと頷き言うその言葉に、ヘタリと男は腰を落としながら、脱力したように呆然とした声で言う。

「本当に……オレとお前の子が?」

「信じられないか? 今は変わらないように見えるかもしれないが、そのうちイヤでも信じざるを得なくなるさ。それとも……お前は嫌だったのか?」

 最後のほうの言葉は彼女にしては珍しく、少し不安げに見えた。だから、シスイは我に返り、フルフルと左右に首を振って、それから言う。

「嫌じゃない。嫌なわけない。でも本当に、本当なんだな」

「ああ……本当だ」

 その言葉に男は駆け寄って、泣きそうな顔で妻の体を抱きしめた。

 

 それからの日々は緩やかに過ぎた。

 シスイは妊婦となったイタチの体を常に気遣い、「体は大丈夫か」「無理はしていないか」「辛くはないか」「何か食べたいものはあるか」と毎日のように尋ね、イタチはそれに「大丈夫」と答える。そんな過保護にさえ思える男の姿に、周囲の人もクスクスと微笑ましそうにそれを見守り、イタチの弟であるサスケは少し面白くなさそうな顔をしてブスッとすることが増えた。

 そして更に3ヶ月が過ぎた頃、イタチの腹部は大分膨らみを帯びてきた。

「その……暗部の任務は大丈夫なのか。その体だろう。休ませてもらったほうがいいんじゃ」

「大丈夫。流石に妊婦相手に無茶な任務なんて割り当てられない。来月からは1年の育児休暇ももらえることになっているし、シスイは少し心配しすぎだな」

 そういってクスクスと笑うイタチに対して、男はふと陰りを帯びた顔を見せた。

「どうした……?」

 流石に普通とは思えない男の表情を前に、イタチは笑いを止めて夫を真っ直ぐに見上げる。そんな妻に対し、男は「なぁ……」とそっと蚊の鳴くような小さな声で言葉を落としながら、壊れ物を扱うように震える指で少女の体を抱き締めた。

「……オレ、本当にオレなんかが、父親になって、いいのかな……」

 それは漸く吐き出せたような不安と恐怖に満ちたような言葉。嗚呼、そうかとここでイタチは漸く合点した。何故あれほどまでに必要以上に男が妊婦となった己を気遣っていたのか。自分の抱える恐怖を飲み込むためだったのか、と。

「オレが父親で……その子は、幸せになれるんだろうか」

 きっとずっと思い悩んできたのだろう。まるで泣き出しそうな暗闇の中の迷子みたいな声で、男は震えながらに自身の不安を吐き出した。だから……。

「シスイ」

 そう穏やかな声でイタチは敢えて青年の名を呼んだ。そしてその右手を男の後頭部に添えて、その顔を自身の腹部へとそのまま誘った。

「聞こえるか? この音が。今、中で動いた」

「……!」

 そうやって囁くように優しい声で告げられたそれに、男は一瞬泣きそうな顔をするが、そのまま耳を女の腹に当てて「聞こえた……」そう呟いた。

「お前がどう言おうとどう思おうとこの子の父親はお前だけだ。お前と私に会うためにこうしてこの子は精一杯この中で生きている。父母に会いたいと望まない子供はいないだろう。それに、私はお前との子が出来たことが嬉しいし、この子にも早く会いたいと思っている。お前はどうだ? お前はこの子に会いたくはないのか?」

 その言葉にクシャリと顔を歪ませて、男はボロリと涙をこぼしながら苦しそうな声で言った。

「会いたいよ……凄く会いたい。抱き締めて、やりたいよ」

 そんな男の髪をそっと指で撫で梳きながら、「ならそうすれば良い」そうイタチは静かな声で答えた。

「お前はいつも考えすぎだ。抱き締めて愛してやればいい。それだけで子供は……幸せになれるものなのだから。きっとこの子もお前に会える日を待っている」

 それに「うんうん」と頷いて、男はズビズビと鼻を啜った。

 

 それから色んな話をした。子供の性別はどちらだろうという話や、名前はどうするかなど、男は泣きながらも幸せそうに微笑んで、子供は出来ればイタチ似の女の子がいいなとそんな話をした。

 男の子だったら、イズナ。女の子だったら、クシナ。話し合いの末そう決まった。

 勿論名前の由来はイズナは最初に万華鏡写輪眼を開眼したとされる開祖うちはマダラの弟から取った名であり、クシナは4代目火影である波風ミナトの妻だったうずまきクシナから取ったものだ。

 イズナは、平和主義者だったと聞いているし、なんだかイタチの名前とおそろいっぽいからと男は笑って言った。クシナはうずまきクシナのように元気で活発な女性に育ちますようにとのことだ。

 そうして少しずつ色んなことを話しているうちに、男が胸の奥に抱えた澱みは少しだけ晴れていったような気がした。

 

 そうしてその日が訪れた。

「イタチ、踏ん張って、もう少しだから!」

「……ッ!」

 妊娠10ヶ月と6日目にして、酷い陣痛と共にイタチは出産の日を迎えた。母であるミコトの応援の声が響くが、元より細身で余計な肉がついていない体躯のイタチにとって出産は楽なものとはいえず、滝のように汗をかきながら尋常ならざる痛みに耐えていた。明らかに難産であり、只人であれば気絶しそうな程の痛みを前に、けれど意地なのか泣き言は一切漏らさず、終いには助産婦が直接手を突っ込み子供を取り上げる始末であった。

 こういう時男は役立たずなものである。

 一応医療忍術と医療の知識を基礎的なものは覚えているシスイにとってもそれは例外ではなく、あまりにもオロオロしすぎているため、仕舞いには産婆に部屋からたたき出される始末であった。

 そして部屋の外でその声を聞いた。

「オギャアオギャア」

 赤ん坊の声が、あれほどの難産であったとは思えぬほど元気に響く。そして生まれた子の祖母となったミコトは「シスイくん、生まれたわ、元気な男の子よ。早く来て頂戴」そう義息へと声をかけて、またイタチや赤子のいる部屋へと戻り、慌ててシスイはその後を追った。

 中ではイタチは額から滝のような汗をかき、疲労したような目元を晒しながらもそれでも産婆によって手渡された赤子を胸に抱いて、優しげに微笑んでいた。

 そして。

「シスイ」

 そう名を呼んで目線だけで手招きをする。それに惹かれるようにして、未だ現実感のない足のまま男はフワフワと女に近づく。そして、女はそっと夫に向かって生まれたばかりの赤子を掲げた。

 抱けと言ってるのだとわかって、シスイは震える腕でそのしわくちゃで赤らんだ顔の泣き声逞しい赤子を受け取った。その感動をなんと呼べば良かったのだろう。

「あったかいな……」

 最初に浮かんだのはそんな言葉。

「柔らかくて、軽い……」

「そうだな」

 イタチは穏やかな声でそれを肯定する。

 それと時を同じくして「姉さん、子供が生まれたんだって」そんな言葉と共にバタバタと少年が部屋へと乗り込んできた。けれど、そんなことさえ意識の欄外でシスイは震える指をそっと赤子の頬に這わす。

 そんな光景を見て、少年……イタチの弟たるサスケは「わ、オマエなんで泣いているんだよ」とぎょっとした声を上げた。

 少年の指摘の通り、男は……赤子の父となった男うちはシスイは泣いていた。

「生きてる……」

 一生懸命に呼吸をするように泣き声をあげる我が子を前に、震える声で男はそんな言葉を漏らす。

「……生きてる」

 それは、死にばかり触れてきた男が新しい命と出会えた事への感慨だったのか。

 男は赤子を腕に抱えたまま、そっと震える足で妻の元に向かい、その額に額を合わせながら、何度も擦れるような声で「ありがとう」、そう繰り返した。

「ありがとう……イタチ、ありがとう。オレ、オレ……」

「お前はすぐに泣く。全く、まだこれからだろう」

 そんな風にぐずる男を前に、そう言いつつもイタチは仕方なさそうに微笑み、そして回想した。

 

 ―――――かつて雨の降りしきる神社の中で1人傘も差さずに、古い血のついた木の葉の額宛を眺める少年がいた。

 少年は涙も流さずけれど確かに泣いていて、その手にした額宛を見ながらそれは「形見」なのだとそう答えた。

 それが、あまりに寂しげで、苦しげで、だから思ったのだ。

 いつか、男に家族を与えてやれる日が来ればいいと。

 

 きっと青年についた傷が癒える日は来ないだろう。それでも、少しでも和らげることが出来れば、そう出来るのが自分であればいいとそう思っていた。

 その願いは、今この日叶った。

 

 そして次の約束を口にする。

「気が済むまで泣けばいいさ。嬉しいならいくらでも泣けばいい。……辛いなら寄りかかってもいいんだ」

 

「だって私たちは家族なのだから」

 

 だから、生まれたばかりの生に感謝を、命に喜びを。

 

 

 

 了

 

 

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