「ぐっ!罠か!」
俺は腕から剥がれずにグネグネと体に向けて侵食してくる「少女だったもの」を見てそう叫んだ
彼の名前はヴィルテール・ヘムストル・メイサ、彼の剣の腕は勝利を与える腕とまで称される程であったし、彼を抱えようとする国はいくつもあったが彼はそれを全て断っていた、なぜなら彼は義によって臨んだ戦であり、それが終われば去らねば自分が原因となる争いが起こると知っていたからである。
そういった生き様を知ってか知らずか、彼に助けを求める人はたくさんいた、彼はその1つ1つを正しい形で導いていった、今回もその1つとしてダンジョンの奥深くにさらわれた少女を救い出しにきたのだ。
ダンジョンの奥深くに少女は居た、寒そうにして体を震わせていた、その手を取りダンジョンを脱出しようと歩みを進めると手ごたえがないので振り向くと「それ」はヒトではなく魔物だとわかった、手はヴィルの手をしっかりと掴み腕が異様な長さで体とつながっていてそれがヴィルの手から少しずつ、しかし確実に腕に張り付いて行く。
「くっ、離せっ!」
ヴィルは剣を取り「それ」の腕を切断した、そのとたんに「それ」の体部分が動き出して近寄ってくる、切り離された腕はまだグネグネと動いている、ヴィルは「それ」の体を斬り伏せる、ぶよっとした切りごたえがあり確かに切れた、切れたのだが「それ」は変わらぬ様子でにじり寄ってくる。
「再生力がつよいな、ここは一旦引く!」
ヴィルは状況判断を誤った、いや、歴戦の勇士の判断は間違って居なかった、なぜならこの時点で全ては終わって居たからだ。
「ぐわっ⁉︎」
ヴィルは転んだ、足元につるっとした感覚を覚えて、腕に張り付いた腕がいつの間にか脚へと移動して靴を覆っていたのだ、先ほどの魔物がそこに追い付いて来た、決して遅くはない、先ほどとは全く違う速度で、魔物は動けないヴィルに近づくと岩を排出した、岩をだ、そうすると魔物は先ほどと同じようにのろのろとヴィルに近づき、そして触れ、ヴィルの肌を覆って行く、ひんやりとした感覚、腕だけの時とは違う、視界を覆っていく、口にも真にしていく。
呑まれた、ヴィルはそう思った。そして理解した、この魔物はヒトに擬態して取り込んで喰らうのだ、ヴィルは死を覚悟した、酸に焼かれ、苦しんで死ぬ事を。
しかしそうはならなかった、魔物はしばらく動かなかった。
ヴィルの体温と魔物の温度が同じくらいになった頃突然内側が蠢き出した。
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ヴィルの指を、腕を、耳を、口内を、臍を、腋を、睾丸、肛門、尿道、髪を、ありとあらゆる場所を無数の触手がねぶっていく。
「ーーーーーーーーーーー‼︎‼︎」
感じたことのない感覚に声にならない声で絶叫する、それは何分、何時間、何日続いたかわからない、気が付いた時にはおさまっていた。
ゴツゴツした岩が見える
「俺は、助かったのか?」
そのつぶやきは俺の声ではなかった