プロローグ
「提督! 大変ダヨ!」
乱暴に提督室のドアが開かれ、そこから一人の少女が入ってくる。
「どうしたんだ、金剛?」
入ってきたのは金剛だった。
金剛型一番艦金剛。
私の指揮する第一艦隊の旗艦であり、とても有能で美しい少女だった。ただ、少し淑やかさが足りないが。
「何ノンキなこと言ってるノ! それどころじゃないヨ!」
いつも騒がしい娘だが、今日は一際騒がしい。一体、何があったというのか。
「どうしたんだ、そんなに血相を変えて?」
「反乱ヨ! 提督に不満を持った艦娘達が、反乱と称して出て行っちゃっタ!」
「なにいいいいぃぃぃぃ!」
私は思わず叫んだ。
そんな展開があっていいのか?
艦娘といえば、みんな私ラブではないのか?
「そ、そんなことがありうるのか?」
「実際に起こったんだから仕方ないジャナイ」
金剛はさも当然のように答える。
「だ、誰が反乱を起こしたんだ?」
「艦娘全員ヨ」
「なにいいいいいいぃぃぃぃ!」
私はまたも叫んでしまった。
「そ、そんなことがあっていいのか? そんなことが起こってしまったら、誰もゲームをやらなくなって、〇川さんが困るんじゃないのか?」
「はあ? 何わけのわからないこと言ってるノ?」
「いや、失礼。少し取り乱してしまった。しかし、分からんな。みんな、これだけ優秀な提督である私に何の不満があるというのだ。このゲームの最古参プレーヤーであり、一日十時間はプレイし、レベルなど軽く600を超えているこの私に」
「そりゃ、提督みたいに、一日中パソコンにかじりついて、ワタシ達の声を聞いてハアハア言いながら、股間に手を伸ばすキモオタに付き合うのが馬鹿らしくなってきたんジャナイノ?」
「…………」
相変わらず、言いたいことをズバズバという娘である。
まあ、そこが可愛いところでもあるのだが。
「で、これからどうするノ? やっぱ引退?」
「馬鹿な! せっかくここまでレアを揃えて、レベルも上げたのに! もったいなくて引退などできるか! 一人残らずとっ捕まえて、再び私にかしずかせてくれる」
「ふ~ん。あっそぉ。それは無理だと思いますケドネ~」
「何! 何故だ?」
ドスン!
次の瞬間、私の腹に、猛烈な痛みが走る。
いや、痛みなんて生易しいものではない。もっと形容しがたい、痺れるような激痛が走った。
いつの間にか、私の腹にどでかい穴が開いている。
「馬鹿な……何故……?」
「言ったデショ? 艦娘全員が反乱を起こしたっテ。もちろんワタシもその一人デ~ス」
金剛が、痛みに耐えきれず崩れ落ちた私に向かって、冷たい笑みを浮かべながら言い放つ。
「何故……お前まで……あんなに目をかけてやったというのに……」
「そうネ。確かに。ワタシが一番のお気に入りだったみたいデスネ。そのおかげで、欲しくもない結婚指輪贈られたり、ワタシの大破絵おかずにしてヌいてるとこ、何度も見せられたモノ。こっちは、〇川さんの指示で仕方なく接待エイギョウしてあげてたっていうのに、たまったもんジャナイワ」
「…………」
「最後に教えてアゲル。この反乱の首謀者は、このワ・タ・シ♡」
金剛が、イタズラの成功した子供のように嬉しそうに笑って、ドアへと向かう。
「それじゃ、提督。みんなには、無事にアナタを轟沈できたって伝えておきマース。それじゃネ。グッナイ♡」
その言葉を残して金剛は消えていった。
クソ……無念だ……
ゲームオーバー
いやいや、待て待て。
気が付くと、私は一人、自分の夢に向かってツッコんでいた。
それはダメだろ? 展開的にダメだろ? ここで終わってしまったら、「ケッ。これだから底辺作家は」とか「クソつまんねえ。死ね」とか言われてしまうだろ?
やっぱりこう、何と言うか、別の展開がほしいだろ? う~む。
「提督、そんな難しい顔をして、どうされたのですか?」
ハンカチで汗を拭う私に、誰かがお茶を差し出した。
榛名だ。金剛型三番艦榛名。
私の指揮する、第二艦隊の旗艦であり、清楚でお淑やかだが、芯の強い少女だった。
「いや、ちょっと嫌な夢を見てしまってな」
「嫌な夢? いつもは、榛名達艦娘を、夢の中で犯しまくる夢しか見ない提督にしては珍しいですね。この前は、電ちゃんと雷ちゃんとの3Pを楽しんだ夢を見たと満足げに語っていましたよね」
「…………」
この娘も、姉の金剛と一緒で、割と言いたいことをズバズバという娘である。
「で、一体どんな夢だったのですか?」
「うむ。実はな、艦娘達全員が、私に反感を持って出て行ってしまう夢でな」
「…………」
「そして私は、最後に殺されてしまうんだ」
「…………」
「焦ったよ。そんなことあるはずがないのに……」
「……本当にそう思いますか?」
「え?」
ブシュッ!
気が付くと、またも私に腹には、どでかい穴が開いていた。
夢の時の光景が、私の脳裏を過ぎる。
「ば……かな……はる……な、おまえ……まで、なぜ……」
「何故? 決まっているでしょう? 榛名は、前々から、あなたのような引きこもりのニートが嫌いだったのです」
「…………」
「榛名の名を呼びながら、右手を上下動させるの、いい加減やめてもらえます?」
そう吐き捨てて、榛名は提督室を出て行った。
クソ……なぜだ……なぜ、こんな展開が……
ゲームオーバー
いやいや、だから待てって。
ダメでしょ? この展開はダメでしょ? こんな終わり方はダメでしょ? ここで終わってしまったら、どこぞの誰かが、色々となんか言われちゃうでしょ?
私は、またもハンカチで汗を拭った。
全く。どうしたというのだ。何故、今日に限ってこんな……
「提督~。入るヨ~」
そこに、金剛と榛名の二人が入ってくる。私は思わず身構えた。
「どうしたデスカ、提督? そんなコワイ顔して?」
金剛も榛名も、二人揃って不思議そうに首を傾げている。
私の知るいつもの二人だった。私は、できるだけ動揺を隠しながら口を開く。
「ふ、二人揃ってどうしたんだ?」
「ン~。いや、ちょっと大変なことが起きたから、知らせとこうかと思ったデスヨ」
私の背中に戦慄が走った。
「な、何があったんだ?」
「いや~、なんか艦娘達が、提督に愛想が尽きたとか言って、出て行っちゃったヨ」
「ええ。毎日、自分達の声や大破絵で性欲処理を行う変態には愛想が尽きたと言って」
「…………」
またこの展開かよ! と、私は内心で大きくため息を吐いた。
「で、その中にはお前達も入ってるのか?」
二人は顔を見合わせる。そして、私の顔を見て笑った。
「そんなわけないデショ~。もしそうだったら、今ここで提督殺ってマスヨ~♡」
「…………」
その言葉を、私は笑い飛ばすことができなかった。
「じゃあ、何でお前達は、そこに加わらなかったんだ? お前達だって、こんな引きこもりニートのキモオタである私には嫌気が差しているんだろう?」
二人は、またも顔を見合わせた。
「ン~、そうしてもよかったんだけどネ~。なんか、どっかから声が聞こえてきたんダヨネ~」
「声?」
「ええ。『話が進まないから、君達は提督の傍にいてあげなさい。嫌々でも構わないから』という声が。まるで天からの啓示のように。それで残ることにしたのです」
そ、それは喜んでいいのだろうか?
「で、他には誰か残ったのか?」
「ン~ン。ワタシ達二人だけダヨ」
「えっ? じゃあ、他は全員出て行ってしまったのか?」
「はい。なんか別のイケメン提督達のところに行くんだって」
「…………」
許せん。私はドMだから、罵倒も放置も嫌いではないが、他の奴に寝取られるのだけは許せん。
「で、これからどうなさいますか、提督? やはり引退ですか?」
「馬鹿な! 誰が引退などするか! 今ここで引退してしまったら、これまでこのゲームに費やした時間が、すべて無駄になるではないか!」
「このゲームに費やす時間こそが無駄なのでは?」
「…………」
私は言葉に詰まった。いや~、少なくとも、お前がそれを言っちゃダメでしょ~。
「と、とにかく、これから私は、出て行った娘達を一人残らずとっ捕まえて、誰が本当のご主人様か教えてやる。行くぞ、金剛、榛名!」
そう言って私は、出て行った艦娘達を連れ戻すことを決意した。