というわけで、早速他の艦娘達を連れ戻すことにしたわけだが……
そこで私は、いくつかの問題があることを忘れていた。
一つ、私への絶対服従を強制するこの指輪は、私の所有していた全艦娘に与えたわけでない。
財政的な問題ももちろんあるが、私にも当然好みというものがあり、自分好みの艦娘達にしか指輪を与えていない。つまり、現状では、その指輪を与えていない艦娘達を操ることはできないということだ。正直、当初は自分好みの艦娘達さえ連れ戻せればいいと、心のどこかで思っていたが、やはり私を裏切った報いは受けさせねばなるまいと思い直し、全員連れ戻そうと決意した。
二つ目、この指輪の能力を発動させるためには、その指輪をはめた艦娘の半径十メートル以内に近づかねばならない。
そうしなければ思念が届かないのだ。一度発動させてしまえば、あとは好きな時に好きな場所で自在に操ることができるのだが、その最初の作動が問題だった。
どうしても私が直接近づかねばならないため、当然リスクを伴う。
まさか、裏切った艦娘達も、私を見た瞬間に攻撃してきたりはしないだろうが……いや、龍田辺りはやりそうか……
と、ともかく、以上を踏まえた上で、私の考えた作戦は……
次の日、私はついに練りに練った作戦を実行することにした。
その作戦とは、ズバリ『まずは指輪を渡している娘達からおとしていって、その娘達を使って芋づる式に他も娘や姉妹達をおとしていこう』という、まあ普通に考えれば誰でも思いつきそうな平凡な作戦だった。
基本的に艦娘同士は仲がいいのだが、姉妹間だとさらにその絆は強い。
比叡などはその最たる例だが、今回はその絆を利用させてもらうとしよう。
つまり、姉妹のうちの誰かに指輪を渡していた場合、まずはその指輪を渡している艦娘からおとしていって、その艦娘を利用して姉妹の方もおとそうというわけだ。
しかし、前言した通りリスクは伴う。
そう、この指輪を発動させるために、艦娘の半径十メートル以内に近づかねばならない時だ。
無論、私は生身の人間。故に、ゲームではたいして役に立たないような機銃でも軽く逝けてしまう。
よって私は、そのリスクを最小限に抑えるため、すでに私の忠実な僕となっている金剛と榛名を使うことにした。
そして現在、私はとある提督の鎮守府近くに潜伏している。
そこで私は待っていた。そこに潜入させた金剛と榛名が、お目当ての艦娘を連れてくるのを。
「ご主人様、お待たせしました」
薄暗い倉庫で待っていた私に声がかかる。私の忠実な僕、榛名のものだ。
そして、目の前の闇の中から榛名が姿を見せる。
その後ろから金剛も現れた。猿ぐつわをして縛り上げた駆逐艦の雷と電を連れて。
暁型駆逐艦電(いなずま)。ゲーム当初から手に入る艦娘で、その幼い容姿と可愛らしい言葉遣いでゲーム内での人気はかなり高い。
かくゆう私も、電の『なのです』や『電の本気を見るのです』のセリフにコロリとやられた一人だ。
その電の姉妹にあたる雷(いかずち)も、電同様人気の高い艦娘だった。
「他の者に見つかってないだろうな」
「はい。問題ありません」
「そうか。よしよし」
そう言って、私は虚ろな目をしていた榛名に軽く口づけして、キュッと引き締まった尻を撫でる。
「あっ♡」
榛名が小さく声を上げた。
「ご褒美にあとでたっぷりと可愛がってやるからな」
「……はい」
その様子を見ていた雷と電が、両目を大きく開いて驚愕を露わにしている。
「さて……」
私は二人の猿ぐつわを取り……
「久しぶりだな、二人とも」
顔を驚愕に染めた二人に向かってそう言った。
「し、司令官、何でここに……」
「決まっているだろう。お前達を連れ戻すためさ」
そう言って、私はニヤリと笑う。
「ふ、ふざけないで! 雷達は、アンタのところになんて戻らないわ!」
「コクコク」
自由を奪われながらも気丈に返す雷。
その横では、電もコクコク頷いている。
「何故だ、二人とも? 何故、私を裏切った? あんなに目をかけてやったというのに」
「そんなの自分の胸に聞いてみればいいじゃない! アンタのしたこと、忘れたとは言わせないわよ!」
「はて? 全く覚えがないな。私がお前達に何をしたというのだ? 少なくとも、暴力の類を行使した覚えはないが」
というか、ガチで喧嘩したら勝てるわけないしな。
「とぼけないで! 雷、知ってるんだから! アンタが夜な夜な洗濯前の雷達の下着を漁って、匂いを嗅いだり口に含んだりしてたこと! 全部知ってるんだから!」
「なのです。それに電のパンツをかぶって、鏡の前で『変態仮面、参上!』とか大声で叫んでポーズをとってるところも見たのです!」
「…………」
ま、まさかあの場面を見られていたとは。
うっ! 後ろの二人から「そんなことしてたんだ~、へ~」的な視線をヒシヒシと感じる。
仕方ないだろ。そういうことに興味津々なお年頃なんだから。
「それを知った時、雷達は、アンタのもとを出ていくことを決めたの。ね、電?」
「なのです」
「なるほど。二人の気持ちはよく分かった。だが、私としては、どうしてもお前達二人に戻ってきてほしいのだ」
「はあ? 雷達の話聞いてた? 雷達は絶対アンタのとこには戻らないわ!」
「コクコク」
「ほんとに? どうしても?」
「どうしても! 絶対イヤ!」
「なのです!」
頑なな二人に、私は大きくため息を吐いた。
「なるほど。それなら仕方ないな。分かったよ」
「分かった? それならさっさと帰ってよ! 二度と雷達の前に姿を見せないで!」
「なのです!」
「いやいや。勘違いしないでくれ。分かったと言ったのは、お前達の気持ちがよく分かったという意味で言ったんだ。別にお前達を連れ戻すことをあきらめたわけじゃない。できれば、自分達の意思で戻ってきてほしかったが……こうなっては仕方ない。強制的に連れ戻すとしよう」
『えっ?』
次の瞬間、私は二人に思念を送る。
私の与えた指輪をはめたままの二人に向かって。
「おい、金剛。二人の拘束を解け」
「……ハイ」
金剛が、言われた通りに二人を解放する。
戒めを解かれた二人は、キョトンとした顔で私を見つめていた。
「さて、雷ちゃん、電ちゃん。二人とも、私のもとに戻ってきてくれるな」
「はあ? アンタ、ついに頭がイカれたんじゃないの? 言ったでしょ、戻る気はないって」
「なのです!」
「そうかそうか。快く戻ってきてくれるか~。しかも、謝罪の証に、私のほっぺにチューまでしてくれるか~。いや~、嬉しいな~」
「コ、コイツ……ついに頭がおかしくなったみたい。電、今のうちに逃げるわよ!」
「はわわっ! 了解なのです!」
そう言って、踵を返そうとする二人。
しかし、二人の体は、その意思とは逆にピクリとも動かなかった。
二人の顔が驚愕に染まる。
「ああ、一つ言い忘れていたが……、私が君達に贈ったその指輪、それは特別製でね。単に君達のレベルキャップを外すだけでなく、君達の体を私の意のままに操ることができるのさ」
『えっ?』
「まあもっとも、この指輪を発動させるためには、君達の半径十メートル以内に近づいて、私の思念を指輪に送り込む必要があるわけだが……いやぁしかし、この指輪を使う前に、二人が戻ることを決めてくれてよかったよかった」
「な、なに馬鹿なこと言ってんの! 雷達は、アンタのところになんて死んでも戻らないわ!」
「コクコクコクコク!」
「ははは。照れなくていい。お前達の気持ちはちゃんと分かっている。本当は、私のことが好きで好きで仕方ないんだろ? 早く私のもとに戻りたくて仕方ないんだろ? その証拠に、少しずつ私のもとに近づいているものな」
「ウソッ!」
「はわわっ!」
指輪によって操られた二人が、少しずつ私のもとに近づいてくる。
私は、ニヤリと笑って少し屈んだ。
「さあ、仲直りしよう。ほっぺにチューでな」
私に近づいてきた二人――悔しげな表情を浮かべる雷と、泣きながら嫌そうな顔をしている電が、私の頬に軽く口をつけた。
湿り気を帯びた小さな唇が、私の頬に触れる。
「フフッ、これで仲直りだ。どうだ、二人とも? 大好きな私のもとに帰ってこれて嬉しいだろう?」
「クゥ……」
「ううっ……」
二人が、その小さい唇を噛みしめる。
その表情に、私はたまらず笑みをこぼした。
「さて、二人とも。私はこれまで以上に、お前達と仲良くしたいと考えている。そこで私は、君達にこんなプレゼントを用意した」
そう言って、私が未来から来た猫型ロボットのように取り出したのは、白と黒のネコミミ。
そう、美少女の魅力を一層際立たせるナイスアイテムだ。
……おい、金剛に榛名よ。そんな蔑むような視線はやめろ。
私は、二人の突き刺すような視線を何とかこらえながら、口を開いた。
「雷ちゃんに電ちゃんよ。早速これを着けてくれたまえ。ああ、言い忘れていた。これを着けた瞬間から、二人は、私の可愛い子猫ちゃんだ。故に、当然これからは語尾に『ニャ』もしくは『ニャン』を着けるのを忘れずに。ああ、そうそう。ついでに、これから私のことは『ご主人様』と呼んでくれたまえ。その方が、より忠誠心も高まるだろう」
「ふ、ふざけないで! 誰が……クッ!」
口では抵抗しつつも、指輪の効力により、二人はあっさりとネコミミを装着する。
「ううっ……こんなの……恥ずかしいニャ……」
白いネコミミを装着した電が、顔を真っ赤にして俯いた。
さて、それでは今回も愛の教育的指導を施すことにするか……