東地区ピ ブロック19a 聖なる怪物で参加します。
オペラ座の怪人、ホームズ ノートルダムのフロローのバスティーシュです。
それは初めての顔合わせといってもよかった。
幽霊と呼ばれた過去を隠し、現在はオペラ座の支配人という立場についたエリック・デスラー。
倫敦では誰もが名前を知っている有名な探偵、シャーロック・ホームズ。
ノートルダム寺院の僧、クロードフロローの三人だ。
正直、彼らはこの招待を心から喜んで応じたワケではなかった。
皆、それぞれの立場から、のんびり夕食の招待など受ける気にはなれなかったのだ。
だが、オペラ座と寺院に多額の寄付をした侯爵家の誘いなら、無下に断るわけにはいかない。
大司教の代わりということで屋敷を訪れたフロローは緊張した面持ちで仮面の男と探偵を見たが自分から声を
かける事はしなかった。
「倫敦に帰る前に一度、お目にかかりたいと思っていたんです、ホームズさん」
「そうですね、私も色々と聞きたい事があります、マダム・アドラー」
探偵の言葉に女は笑いフロローと仮面の男を見ると、にっこひりと笑った。
「お二人とも、お忙しい中、わざわざお越し頂いてありがとうございます、さあ、どうぞ」
部屋に案内されると、食卓にはフランス料理と言うだけでなく、見た事のない外国の料理も並んでいた。
ワインやブランデーなどの酒類もあったが男達は口をつけようとはしない事に毒などは入っていませんからと
女は、にっこりと笑った。
「マダム、僕が聞きたいのは教授のことだ、侯爵家とはどんな関わりが」
「その件に関しては関係ないと申しましょう、倫敦で犯罪者でも、この巴里では何もしておりませんもの、司祭様、どうでしょう、犯罪者でもないのに裁くというのは」
「感心できませんな」
フロローはグラスに口をつけて水を一口飲んだ。
「私が巴里にいない間、随分と妹をつけ回してくれたそうですね」
「何も聞き出せなかった」
探偵の声に女は、でしょうねと言いながら笑った。
「フランス語や英語、すべてが理解できるわけではありませんもの」
外国人だからという探偵の言葉に、ずっと病院で暮らしていたんですと女は答えた。
「外国の病院で数年、寝たきりでした、でも回復してようやく巴里に戻る事ができたのです」
「それで探偵に追いかけられたとは気の毒なことだ」
仮面の男の台詞に本当にと女は肩をすくめた。
「フロロー様は」
女が声をかけたとき、扉が開きメイドが入って来た。
「お戻りになりました、食事は部屋に運びましょうか」
「そうね、でも、ここに来るように言って、来客の事は内緒で」
メイドは女主人の顔を見ながら、テーブルに着いている三人をちらりと見た。
「ただいま、今日はね」
ドアの開く音と女の声、部屋に入ってきたのは、その声とは不似合いな格好の男のような、なりをした白い髪
の女だった。
てっきり部屋には自分の知っている人間だけだと思った野だろう。
お客様と言いかけて、そこに探偵の顔を見ると困惑の表情になった。
「お客様よ、紹介するわね、オペラ座の支配人とノートルダム寺院の司祭様は大司教様の代わりとして、二人とも、お忙しいのにわざわざ来て下さったのよ
女は緊張した顔になった、慌てたようにようこそと小声で二人に向かって頭を下げたが、もう一人の男の顔を見るとわずかに顔を強ばらせた。
「それから探偵さんは教授の事で色々と失礼な事を聞いて、謝りたいと来て下さったのよ」
女は当惑したような探偵を見た。
部屋の中はしんとなった、居づらくなったのか女は再び皆に頭を下げて出て行こうとしたが、待ってと引きとめられた。
「週末にオペラ見物はどうかしら、支配人さんがご招待して下さったの」
「アイリーンが誘われたんでしょう」
「私は舞台の練習もあるし忙しいわ」
一人が嫌なら付き添いを頼むわというと女は首を振った。
「そうだわ、ホームズさんと出掛けたらどうかしら、オペラ座にいらしたことはありまして」
いきなり視線と言葉を向けられて探偵は水の入ったグラスを落としそうになった。
「どうでしょう、ホームズさん、一緒にオペラ見物というのは」
「本人は乗り気ではないようですが」
返事もせず部屋を出て行った様子からして、探偵としても断るつもりだったのだろう。
だが、女主人は照れているんですわとベルを鳴らした。
「週末に、オペラ見物だから、あの子の支度をしてあげてちょうだい、あらどうかしたの」
表情から何かを察したのだろう、するとメイドは少し困ったような迷った表情を見せた。
「玄関に大根と人参が置かれていました、奥様への贈り物ではないことは確かです」
でしょうね、女主人は肩をすくめた、舞台に上がるようになってから自分が巴里にいるときには突然、花やプレゼントを自宅に届けてくる熱心なファンや信奉者がいるのだ、珍しい事ではない。
だが、大根や人参は珍しい。
「後ろ姿を見ました、僧、若い修道僧だと、凄い勢いで走っていきましたから」
聖職者がいるので遠慮したのだろう、メイドはフロローの方を遠慮がちに見ながら花もと付け足した
「あら、では、贈り物は私じゃなくて」
メイドは怒りを爆発させるように声をあげた。
「奥様、注意なさって下さい」
寺院の手伝いをするなといっているのではないとメイドは、その場に来客がいるのも構わず言葉を続けた。
「畑で人参や大根を作る代わりに、子供でも作ってきたら大変だとおまえは思っているの」
とんでもないとメイドは首を振った。
「先だっては修道僧が破門されました、ご存じないですか、若い娘を孕ませたらしいです、その、司祭様のおられる前で、このような事は言いたくないのですが」
フロローは、いいえと首を振っただけで口を開く事はしなかった。
反対に女主人は、そんなことがあったの、若いっていいわねえと笑いだした。
そのとき、庭から悲鳴が聞こえた、女の悲鳴だった。