※この作品はR-18です。

キョン「…」   作:神納 一哉

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過去に創作板に書いたものに加筆・修正しています。


4 恋人たち

彼の言葉に、胸の高鳴りを抑えることができなかった。携帯の電源を切ると同時に走り出す。

 

目的地は--校門前。

 

古泉「…」

 

まだ、来てはいないようですね。

 

校門の柱に体を預け、坂の下に視線を送る。

 

登校してくる生徒の中。その中に、彼と彼女がいた。

 

もどかしい。

 

ゆっくりと坂を上ってくる二人を見て、逸る気持ちを抑えるのに苦労する。

 

落ち着け、一樹。

 

坂を上り終えた彼が、僕の横に来て立ち止まる。

 

古泉「…あなたに、感謝を」

 

キョン「馬鹿、それよりも先に言うことがあるだろう?…朝倉に」

 

古泉「そうですね…では後ほどまた…」

 

彼は軽く肩を叩くと、横を通り過ぎて昇降口の方へと遠ざかっていく。

 

まったく。彼には一生、頭があがりそうにありません。

 

朝倉「あ、ちょっと…キョン君!」

 

困惑した声。ちょっと慌てている表情。

 

そのすべてが、愛おしい。

 

古泉「おはようございます。朝倉…涼子さん」

 

朝倉「…あ、はい…」

 

古泉「ちょっとお時間をいただきたいのですが…よろしいですか?」

 

朝倉「はい…」

 

古泉「では…そうですね、こちらへ…」ダキッ

 

朝倉「…!」カアッ

 

古泉「あ、これは失礼」バッ

 

朝倉「い、いえ…」ドキドキ

 

いけません。つい癖で思わず肩を抱いて引き寄せてしまいました。

 

僕たちはまだ出会ったばかりなのでしたね。

 

後ろから付いてきてくれるということは、とりあえず、嫌われてはいないと判断します。

 

無言のまま、昇降口の横を抜け、中庭の一角へ。

 

移動教室の裏手にあたる場所なので、他の人に見られる危険性は極めて少ない場所へ。

そこは、僕の後ろを付いてくる人と、クゥプルだった世界で短い逢瀬を重ねた場所。

 

古泉「改めまして。朝倉涼子さん。僕は1年9組の古泉一樹と申します」ニコ

 

朝倉「は、はい。二人でははじめましてっ」ペコリ

 

古泉「これは恐れ入ります。いきなりこんな場所にお連れして申し訳ありません」

 

朝倉「い、いえ。ぜんぜん、お気になさらずっ」ブンブン

 

古泉「そう言っていただけると助かります。…と、いけません、どうやら柄にもなく緊張

しているようだ」ポリポリ

 

朝倉「私も緊張してるからぜんぜん大丈夫ですよっ」

 

古泉「恐れ入ります」

 

貴女の明るさに、僕は何度も救われました。

 

と、あまりお引止めしてはいけないですね。

 

古泉「朝倉涼子さん」

 

朝倉「は、はいっ」ドキドキ

 

古泉「…好きです。お付き合いしてください」ドキドキ

 

朝倉「あ…」ポロポロ

 

古泉「!!」

 

朝倉「あ、あれ?何で涙が…」ポロポロ

 

零れ落ちる涙を見た瞬間に、僕は彼女を抱きしめていた。

 

古泉「…失礼。貴女の涙は、見たくない」ギュッ

 

朝倉「!!古泉…君」

 

古泉「お嫌でしたら、遠慮なく突き飛ばしてください」

 

朝倉「い、嫌じゃない…です」ギュッ

 

古泉「光栄です」

 

朝倉「…なんか、安心する…。一樹さん」ギュッ

 

古泉「…僕もです」

 

朝倉「あっ、ごめんなさい。返事もしていないのに、いきなり名前で呼んでしまいました」カァッ

 

頬を赤く染めて体を離す彼女。すぐにでもまた抱きしめたい。

 

でも、ここは暫く我慢。

 

古泉「構いません」ニコ

 

朝倉「あ、あの…ですね」カァッ

 

古泉「はい、なんでしょうか?」

 

朝倉「…よろしくお願いします」ペコリ

 

古泉「といいますと?」

 

朝倉「意地悪ですね。もう」ジロリ

 

古泉「これは手厳しい」ポリポリ

 

朝倉「…私を、彼女にしてください」カァッ

 

古泉「喜んで」ギュッ

 

朝倉「…」ギュッ

 

愛しています。涼子。

 

二人で過ごしたときに幾度となく伝えた言葉を心の中でささやきながら、予鈴がなるまでの間、彼女を抱きしめた。

 

----------

放課後 部室

 

涼宮さんの隣で若干緊張した面持ちの彼と目が合った。

 

貴方に、感謝を。

 

胸に手を置いて、謝意を表す。

 

本当に感謝していますよ。貴方には。

 

キョン「あー、みんな。ちょっと聞いてくれ」

 

長門「…」パタン

 

朝比奈「ふえぇ?」

 

古泉「なんでしょう?」

 

ハルヒ「…」

 

緊張した面持ちのまま、我々に向かって声をかけてくる。

 

彼の隣にいる涼宮さんが、不安そうに彼を見ているのがまたなんともいえません。

 

キョン「俺とハルヒは付き合うことになった」

 

ハルヒ「…」カァッ

 

なんと。交際宣言ですか。これはまた思い切りましたね。

 

古泉「おめでとうございます」

 

朝比奈「お、おめでとうございますぅ!!お、お二人ともお似合いです!」

 

長門「おめでとう」

 

キョン「ありがとう」

 

ハルヒ「みんな、ありがとう!」

 

満面の笑みの涼宮さんと恥ずかしそうに涼宮さんを見つめる彼。

 

…おやおや、まだ何かしそうですね。

 

キョン「あー、ハルヒ」

 

ハルヒ「なぁに?キョン」

 

キョン「…好きだぞ」

 

ハルヒ「!」カァッ

 

古泉「!」

 

長門「!」

 

朝比奈「!」

 

ハルヒ「…あ…その…えっと、…あたしも…」カァッ

 

長門「!」

 

朝比奈「!」

 

キョン「サンキュ」

 

まさか、こんな堂々と惚気られるとは…。

 

…貴方には驚かされてばかりですね。

 

プルルルルル、プルルルルル…

 

古泉「はい、古泉です…。はい、わかりました。では」

 

すばやく携帯をポケットに入れ、鞄を持ち上げる。

 

古泉「申し訳ありませんが、用事が入りました。失礼します」

 

ハルヒ「おつかれさま…」ボーッ

 

キョン「気をつけてな」チラ

 

朝比奈「お気をつけて」

 

長門「さようなら」

 

ご安心ください、神人ではありませんよ。

 

怪訝そうな表情を浮かべた彼に胸に手を当ててサインを送る。

 

貴方に、感謝を。

 

部室を出て、真っ直ぐに昇降口へと向かう。

 

古泉「お待たせしました」

 

朝倉「ううん、ぜんぜん待ってない」ブンブン

 

古泉「では、行きましょうか」スッ

 

朝倉「…は、はい」キュッ

 

差し出した手をおずおずと握ってくる彼女。

 

それだけで、幸せな気分になれる。

 

朝倉「一樹さん…。あの…」

 

古泉「はい、なんでしょう?」ニコ

 

朝倉「変なことを言うけど…、その、ずっと前から貴方を知っている気がするの…。貴方とこうして手を繋ぐのも、初めてじゃないような気がして…」

 

古泉「…僕も、そう思っていました。貴女とこうしているのが自然な感じがします」ニコ

 

朝倉「一樹さんも…。そっか、そうなんだ」ニコ

 

古泉「もしかしたら僕たちには縁(えにし)があるのかもしれませんね」ニコ

 

朝倉「縁?」

 

古泉「言い方を変えるとすれば、運命ですよ。…僕たちは、出会うべくして出会った、と」

 

朝倉「…ずるいな。一樹さんが言うと様になるけど、私が言うときっと浮くわね」ショボン

 

古泉「恐れ入ります…。でも、貴女が仰ったらきっと、僕には金言よりも尊く聞こえると思いますよ」

 

朝倉「…キザね」カァッ

 

あの世界で貴女と過ごした日々は、それよりももっと尊く、儚い。

 

朝倉「どうか、した?」ジッ

 

古泉「いえ、なんでもありません」

 

朝倉「本当?」

 

古泉「ええ…。いや、なんでもないといえば嘘になりますね…。その、なんていえばいいか判りませんが…」

 

心が、貴女を求めて止まないのですよ。

 

古泉「いささか不安になりまして…」

 

朝倉「え?」

 

古泉「いや、何でもありません」

 

朝倉「一樹さん…」

 

古泉「何を言っているんだ僕は…。すみません」

 

朝倉「…」シュン

 

古泉「…でも、これだけは確かです。涼子さん。貴女が好きです」

 

朝倉「!」パアア

 

古泉「多分、貴女が思っている以上に、僕は貴女が、好きです」

 

朝倉「一樹…さん」カァッ

 

坂を下りきった駅へと続く道。手を繋いでゆっくりと歩きながら、想いを言葉に紡いでいく。

 

朝倉「嬉しい…。でも、私も、きっと一樹さんが思っている以上に一樹さんを…好きですよ」ニコ

 

古泉「これはこれは」カァッ

 

朝倉「だから…その、私のことも…できれば名前で呼んでください」カァッ

 

古泉「では…涼子、さんで」

 

朝倉「はい…」

 

古泉「…」キュッ

 

朝倉「…」キュッ

 

お互いに強く手を握り合う。ただそれだけで、心が伝わっている気がした。

 

古泉「着きました」

 

朝倉「…着いちゃった」ショボン

 

古泉「そんな寂しそうにしないでください。辛くなります」

 

朝倉「…一人だけの部屋は寂しいの」

 

古泉「僕の理性を吹き飛ばすような発言をしないでください」カァッ

 

朝倉「ぅぇ?あ、う、あ…、そうじゃなくって」アワアワ

 

古泉「冗談ですよ」クス

 

朝倉「もうっ!一樹さんの意地悪!」

 

古泉「すみません、つい、からかいたくなりました」

 

怒った貴女も、愛らしいですよ。

 

朝倉「まったく…。あれ、でもどうして私の家を知ってるの?」

 

古泉「長門さんからの情報です。同じマンションだとお聞きしましたので」

 

朝倉「あ、そっか。長門さんも同じ部活、だったわね」

 

古泉「ええ」

 

朝倉「…」ジッ

 

古泉「どうしました?」

 

朝倉「…長門さんの部屋を知っているってことは、長門さんの部屋に行ったことがあるってこと、だよね?」ムスッ

 

古泉「これはこれは」

 

朝倉「否定しないんだ…」ムスッ

 

古泉「ご想像にお任せします」

 

朝倉「!」ワナワナ

 

古泉「…ご安心ください。長門さんの部屋に入ったことはありません」

 

朝倉「じゃあなんで場所を知ってるの!?」

 

古泉「SOS団の連絡のためですよ」ニコ

 

朝倉「そっか、部活…。駄目ね、私、長門さんに嫉妬したわ」ショボン

 

古泉「嬉しいです」

 

朝倉「何で?私、嫌な女じゃない…」

 

古泉「いいえ。それだけ涼子さんは僕を必要としてくれているのでしょう?だから僕は嬉しいですよ」ニコ

 

朝倉「一樹さん…」カァッ

 

真っ直ぐに僕を見つめてくる瞳。

 

まるで吸い込まれてしまいそうなほど、深く、美しい瞳。

 

古泉「涼子さん…」ジッ

 

朝倉「はい…」ジッ

 

古泉「報酬を頂戴してもよろしいですか?」ニコ

 

朝倉「報酬?」

 

古泉「貴女を送り届けた報酬、です」スッ

 

朝倉「…」ビクッ

 

彼女の頬に、そっと手を置く。視線は逸らさないまま。

 

古泉「よろしいですか?」

 

朝倉「…」コクリ

 

古泉「…」

 

朝倉「…」

 

そっと唇を重ねる。懐かしい感触。愛おしい感覚。

 

朝倉「…」ポロポロ

 

古泉「!」

 

朝倉「なんで、かな。嬉しいのに、涙が、止まらない…」ポロポロ

 

古泉「涼子さん…」ギュッ

 

朝倉「一樹さん…好き、です」ギュ

 

古泉「僕もです…涼子」

 

朝倉「いつ…き…」

 

古泉「…」

 

朝倉「…」

 

お互いが求め合うようにどちらからともなく唇を重ねる。

 

声に出して名前を呼び捨てにするのに、なんの躊躇いもなかった。

 

朝倉「…キス、しちゃったね…何度も」カァッ

 

古泉「そう改めて言われると恥ずかしいですね」ポリポリ

 

朝倉「わ、私だって恥ずかしいっ」カァッ

 

古泉「ふふ。報酬は確かにいただきました」

 

朝倉「キザ」

 

古泉「これは手厳しい」

 

朝倉「…」

 

古泉「これからも、ふたりきりの時は呼び捨てにしてもいいですか?」

 

朝倉「…うん」カァッ

 

古泉「では、おやすみなさい。涼子」

 

朝倉「うん。おやすみなさい。…一樹」カァッ

 

古泉「…」チュ

 

朝倉「…ん」

 

最後にもう一度だけキスをして、駅前広場に向かって歩き始めた。

 

ポケットから携帯を取り出し、電話をかける。

 

キョン「もしもし。どうかしたか?」 『誰から?キョン』

 

古泉「まだ、学校でしょうか?」

 

キョン「いや、学校を出て坂を下りているところだ」 『古泉だよ、ちょっと待て』

 

古泉「涼宮さんとご一緒ですか?これは申し訳ありません、…少々お会いしてお話をしたかったのですが」

 

キョン「ああ、ハルヒを送り届けるところだ。それが終われば大丈夫だ。…ん?男同士で話したい?わかった何とかする。じゃあ、いつもの喫茶店な」ガチャッ

 

古泉「…」

 

最後の方は一方的に話を振られましたが、少なくとも話は聞いてくれるようですね。

 

では、喫茶店で彼を待つとしますか。

 

ハルヒ「古泉君なんだって?」

 

キョン「なんか男同士で相談したいことがあるってさ」

 

ハルヒ「あんたに古泉君が相談?珍しいこともあるわね」ダキッ

 

キョン「さりげなく腕を組むな」

 

ハルヒ「いいじゃない!恋人なんだから」

 

キョン「馬鹿」カァッ

 

ハルヒ「なんでよ!」

 

キョン「…恥ずかしいだろ」

 

ハルヒ「あたしは、嬉しいわよ!堂々と腕組めて」ニコッ

 

キョン「…まあ、な」カァッ

 

ハルヒ「ふふっ素直でよろしい!」ギュッ

 

これじゃあまるっきりバカップルじゃないか。

 

…まあ、悪い気はしないんだが。

 

キョン「まあ、そういうわけで、お前を送ってから俺は古泉に会いに行く」

 

ハルヒ「了解。ちゃんと相談に乗ってあげなさいよ」

 

キョン「ん。そうだな」

 

ハルヒ「ねえ?…面倒なら無理に送ってくれなくても、いいよ?…あんたの家、反対方向でしょ?」

 

キョン「あのなあ、ハルヒ…」ハァ

 

ハルヒ「なによ?」

 

キョン「…彼女とはなるべく一緒にいたいのが彼氏ってものなんだ。良く覚えておけ」カァッ

 

ハルヒ「あ、そ…そう。…うん」カァッ

 

キョン「よろしい」

 

ハルヒ「むう。なんかそれムカつく」

 

キョン「…」

 

相変わらずだな、ハルヒ。まあそんなところも可愛いんだが。

 

キョン「着いたぞ」

 

ハルヒ「うん…」ギュッ

 

キョン「…着いたっての」

 

ハルヒ「…わかってる」ギュッ

 

キョン「あのなあ、しがみついたままだと行けないだろうが」

 

ハルヒ「そうね…」ギュッ

 

キョン「わかってて何故しがみつくんだ、お前は」

 

ハルヒ「開錠が必要よ!キョン」ギュッ

 

キョン「は?」

 

ハルヒ「鍵は、…ここ」スッ

 

そう言うとハルヒは人差し指で自分の唇を指した。

 

…キスしろってか?自分の家の前で。

 

キョン「お前、家族に見られたらどうする?」

 

ハルヒ「構わないわ。むしろ紹介してあげるわよ?私の彼ですって」ニコ

 

キョン「そうか」カァッ

 

ハルヒ「ふふ。好きよ、キョン」

 

キョン「…俺も、好きだぞ、ハルヒ」

 

ハルヒ「…」

 

キョン「…」チュ

 

ハルヒ「…開錠されちゃった」ニコ

 

キョン「まあ待て、もう一個残ってるだろ」キュ

 

ハルヒ「…馬鹿」

 

キョン「お互い様だ」チュ

 

ハルヒ「…ん」

 

キョン「おやすみ、ハルヒ」

 

ハルヒ「うん。おやすみ、キョン」ニコ

 

----------

喫茶店

 

古泉「およびたてして申し訳ありません」

 

キョン「今回はお前だけか?」

 

古泉「男同士の話ですからね」

 

キョン「あー、その、悪かった」ポリポリ

 

古泉「改まれても困りますね」

 

両手でコーヒーカップを持ち、その温もりを楽しみながら彼が注文をするのをなんとなく眺める。

 

考えてみると、僕は知らないうちに、結構彼を頼りにしていることに気がついた。

 

キョン「なあ古泉、その持ち方はなんか女の子みたいで気持ち悪いぞ」

 

古泉「これは手厳しい」

 

キョン「そう言いながら止める気はないみたいだな」

 

古泉「ええ、申し訳ありません。少し温もりが恋しいものでして」

 

キョン「…」

 

彼がなんともいえない微妙な表情で僕を見るのと、彼の注文したブレンドコーヒーが運ばれてくるのがほぼ同時だった。

 

砂糖とミルクを無造作に入れてスプーンで掻き混ぜてから、彼は何を思ったか僕と同じように両手でカップを持ち上げた。

 

キョン「なあ古泉」

 

古泉「なんでしょう?」

 

キョン「お前が温もりが恋しいなんて言うから、俺も恋しくなっちまった」

 

古泉「これはこれは」

 

キョン「まあ、なんだ。気休め程度にはなるな、これ」

 

古泉「そうですね」

 

キョン「…」ズズ

 

古泉「…」

 

キョン「で、何か話があるんじゃなかったか?」

 

古泉「そうでした」

 

カップをテーブルの上に下ろし、少し逡巡する。

 

だが、こうして向かい合っている以上、いつまでも話を進めないわけにはいかないので、気持ちを落ち着けるため、一度深呼吸をして、覚悟を決める。

 

古泉「…軽蔑されるかもしれませんが…、正直、自分の理性というものに限界を感じまして…」

 

キョン「それまたどうして?」

 

古泉「なんて言いますか…、その、ですね…。抱きたくて耐えられなくなるんですよ」カァッ

 

包み隠さず内情を吐露する。彼もまた僕と同じ悩みを抱えていると思うからだ。

 

キョン「!!ブッ…ゴホッ、ゴホッ」ガチャン

 

古泉「すみません。大丈夫ですか?」

 

キョン「…いきなり何を言う」ゼーゼー

 

古泉「軽蔑します、よね?」

 

キョン「…それよりも何故いきなりそんなことをカミングアウトされなきゃならんのか教えてくれ」

 

古泉「貴方は鍵です。それに比べて僕は部品(パーツ)のひとつでしかありません。でも、前の世界では元の世界の記憶を持っていた、それは貴方もご存知ですね?」

 

キョン「ああ」

 

古泉「前の世界で僕は彼女を抱いたと、言いましたよね?厳密には長門さんが説明してくれた件ですが…」

 

キョン「ああ」

 

古泉「まあ、だからと言っては何ですが、その、記憶が生々しいのですよ」カァッ

 

キョン「…」

 

古泉「思い出すだけで、…その、欲求が抑えられなくなりそうで…ですね、彼女を傷つけてしまわないか心配で」

 

キョン「…」

 

古泉「貴方は、いったいどうやって抑えているのですか?それを教えていただきたくて…」カァッ

 

キョン「ちょっと待て!!俺は…」キョロキョロ

 

何かを言いかけて、声が大きかったのを憚ってか一旦言葉を切り、周りを見回してから彼は声を潜めた。

 

キョン「俺とハルヒは、…まだだ」カァッ

 

古泉「前の世界でも、ですか?」

 

キョン「ああ。お前の記憶にないトンデモ世界を体験したこともあるが、少なくとも俺の記憶にハルヒとの…そういった思い出はない」カァッ

 

古泉「それはそれは…」

 

キョン「まあ、夫婦だったことはあるが」ボソ

 

古泉「夫婦なら、それこそ行っているのではないですか?」

 

キョン「あの世界のあいつの中ではそうかもしれないが、俺の記憶にはないんだよ」カァッ

 

古泉「ああ、なるほど…」

 

世界の神ともいえる涼宮さんがまだ未体験とは。なんだか僕が汚れている気がしてきました…。

 

キョン「しかしまあ、なんだ。あー、腕組んだり見つめあったりとかは割と抵抗なくするようになったぞ。キスとかな」カァッ

 

古泉「恋人宣言は放課後でしたが、キスはもうお済みでしたか」

 

キョン「あいつの中じゃもう何度もキスしてたんだよ。それで昼休みから、まあ、その、な」カァッ

 

古泉「いやはや、羨ましい。貴方たちの間には付き合っていたという歴史があるのですね」

 

実に羨ましい限りです。僕にはそういった歴史がないのですからね。

 

キョン「あー…。まあ、そうなる、かな」ポリポリ

 

古泉「僕の場合、りょ…朝倉さんとは、本日晴れて恋人同士になれたのですが…」

 

キョン「ああ、無理に苗字で呼ばなくてもいいぞ」

 

古泉「恐れ入ります。その、ですね、唇を奪ってしまいました」カァッ

 

キョン「あー、朝倉の反応はどうだったんだ?」

 

古泉「泣かれました」

 

キョン「やばくないか、それ?」

 

古泉「いえ、その、『嬉しくて涙が…』的な反応でして…。そのあと抱き締めあって呼び捨てで呼んだり…とか」カアッ

 

キョン「…」

 

古泉「愛おしすぎて、狂いそうですよ」ハァッ

 

キョン「…惚気かよ」

 

古泉「部室で全員の前で『好きだぞ』とか言う人に言われたくありませんね」

 

キョン「!」カァッ

 

古泉「まあともかく、事を急いてしまいそうでして…」

 

キョン「…お互いが必要としていればいいんじゃないか?時間は、関係ないだろ」

 

古泉「!」

 

お互いが必要としていれば…時間は関係ない…ですか。

 

古泉「それはそうかもしれませんが、時間が必要なこともあると考えます」

 

キョン「少なくとも朝倉は、だいぶ前からお前を見ていたと思うぞ。でなければ、通学路で俺を待ち伏せしてまでお前のことを聞いてこないだろうし」

 

古泉「…ちょっと待ってください。涼子さんがなんですって?」

 

キョン「今朝、俺を待ち伏せしてお前のことを俺に聞いてきたんだよ。言わなかったか?」

 

古泉「初耳ですよ」

 

キョン「あー、悪い。思いつめた様子でお前のことを聞いてきたから、朝倉にお前の名前を教えてから、お前に連絡したんだ」

 

古泉「…そうでしたか」

 

キョン「お前を呼んだって言ったら慌ててな。おたおたする姿が結構可愛かったぞ」ニヤリ

 

古泉「…どのような感じだったのか詳しくお願いします」

 

キョン「お前から『俺のクラスのクラス委員』に関して相談を受けたと言っても気づかなかったから『俺のクラスのクラス委員は誰だ?』って尋ねて気づかせた」

 

古泉「…」

 

キョン「気づいたときに自分を指差して真っ赤になった朝倉はそれはもう可愛かったぞ」ニヤリ

 

古泉「貴方も意外と意地悪ですね」ムスッ

 

キョン「怒ったか?だったら悪い。謝る」

 

古泉「あまりいい趣味とはいえませんね」ムスッ

 

まったく、人をからかうにも限度と言うものがあるのをご存じないのですか貴方は。

 

キョン「…ははっ」

 

古泉「何がおかしいのです?」

 

キョン「いや、悪い。いつもクールなお前と、こう腹を割って恋話(コイバナ)してると思うと、普通の高校生の友人してると思ってな」クックッ

 

古泉「そういえば…そうですね…。貴方とこんな話をするとは思いませんでした」

 

キョン「なあ古泉」

 

古泉「はい」

 

キョン「その喋り方は仕方ないとしてもだな、ここまでぶっちゃけたんだ。俺のことはキョンって呼んでくれないか?」

 

古泉「え?」

 

言われてみると、僕は今まで彼のことをそう呼んだことがなかったことに気がついた。

 

キョン「俺はお前のことを『すましたキザ野郎』って思ってたこともある」

 

古泉「…」

 

キョン「だけどな、一緒に行動してみてお前が信頼できる男だってことはわかったし、それについさっきの話で親近感が沸いた。それともう一つ…」

 

彼は人差し指を立て、体を前に乗り出しながら口を開く。

 

キョン「恋話できる相手が欲しい」カァッ

 

古泉「…光栄です」ニコ

 

キョン「実は最近、惚気たくてたまらなくなるんだ」ニヤリ

 

古泉「それはそれは…」

 

キョン「もうハルヒの奴が可愛くてたまらないんだ…」ポー

 

古泉「…」

 

キョン「何であんないい匂いするんだろうな?女の子って」

 

古泉「好きな子だと尚更ですよね」

 

キョン「だよな!やっぱりそうか?」パアア

 

古泉「はい。否定しません」ニコ

 

キョン「髪とか、さらさらだし」ポー

 

古泉「白い肌に落ちる髪とか、しっとりと汗に濡れた肌とか、堪りませんよね」ポー

 

キョン「…おい古泉」

 

古泉「なんですか?」

 

キョン「今、さりげなくものすごい描写をしなかったか?」カァッ

 

古泉「これは失礼。でもさっき言ったじゃないですか、生々しい記憶が理性を失わせるって」

 

キョン「それはそうだが…朝倉を普通に見れなくなるだろうが」カァッ

 

古泉「!!涼子さんを変な目で見るのは許しませんよ」キッ

 

キョン「お前が言う?変な目で見る原因を口走ったお前が!?」

 

古泉「!それはうかつでした」

 

キョン「…ふ、ふふふ」

 

古泉「…は、ははは」

 

気がつくと顔を見合わせてお互いに笑っていた。

 

いつ以来だろう。こんなに笑ったのは。もしかすると能力に目覚めてから初めてかもしれない。

 

古泉「まったく、貴方には敵いませんよ…キョン」

 

キョン「お、さっそく呼んでくれたか」

 

古泉「不思議ですね、キョンと呼ぶことで一気に距離が縮まった気がします」

 

キョン「まあ、同じ部の仲間から友人くらいには格上げしてもらえたか?」

 

古泉「はい」ニコ

 

キョン「そうか」

 

レジ「ありがとうございましたー」

 

キョン「悪いな、奢ってもらって」

 

古泉「いえ、およびたてしたのは僕ですから」ニコ

 

二人並んで駅前の道を歩く。SOS団の集合場所でもある北側改札口前の広場の近くで彼は足を止め、ほっと小さく息を吐いた。

 

キョン「じゃあ、俺の家は向こうだから」

 

古泉「はい。お付き合いありがとうございました」

 

キョン「なあ、古泉」

 

古泉「はい」

 

キョン「お前みたいな経験はないけど、…まあお互いが求めるなら、時間は関係ないと思うぞ。俺は」

 

古泉「…それって」

 

キョン「だからって、強引に襲うのはNGだ。お前のことだ、そのくらいわかるだろう?」

 

古泉「…そうですね。ご忠告感謝します」

 

キョン「まあ、がんばれ」

 

古泉「はい、では失礼します」ニコ

 

キョン「ああ、また明日な」

 

軽く手を上げて挨拶をし、僕たちはそれぞれの家路についた。

 

----------

 

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 

…ん?もう朝か…

 

???「起きて…ねえ?キョン?起きないと、悪戯しちゃうぞ?」

 

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 

妹じゃないな…。誰だよ?

 

???「キョ~ン?朝ですよ?」

 

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 

キョン「ん…」

 

ハルヒ「おはよう、キョン」

 

キョン「おはよう、ハルヒ…って、何でお前がここにいるんだ!?」ガバッ

 

ハルヒ「起こしに来てあげたわ!感謝しなさい」エヘン

 

キョン「威張ることじゃないだろうが…まったく」ゴソゴソ

 

ハルヒ「ちょっと!何してるのよキョン」カァッ

 

キョン「何って、着替えないと学校行けないだろうが」

 

ハルヒ「ば、馬鹿っ!いきなり脱がないでよっ」カァッ

 

キョン「廊下で待っててくれるか?」

 

ハルヒ「そ、そうする」バタン

 

やれやれ、何がしたいんだ、ハルヒ。

 

キョン妹「キョンくーん、おはよう。ハルにゃん、ちゃんと起こしてくれたんだ」ニコ

 

ハルヒ「あたしにかかればこんなものよ」エヘン

 

キョン妹「ハルにゃんすごーい」

 

キョン「…お前か、ハルヒを入れたのは」

 

キョン妹「だってハルにゃん、わざわざキョン君を迎えに来たって言うんだもん」

 

ハルヒ「…」ニコ

 

キョン「そっか、迎えに来てくれたのか、サンキュ、ハルヒ」ナデナデ

 

ハルヒ「えへへ」ニコ

 

キョン妹「あれあれ?キョン君とハルにゃん、ラブラブ?」

 

ハルヒ「えーっと…」チラリ

 

昨日のお前の家の前での強気はどこいったんだハルヒ?

 

あー、でも、俺の家族だからか?

 

キョン「そうだな、彼女になってもらったぞ」

 

ハルヒ「!」カァッ

 

キョン妹「ホントに!うわー、ビッグニュースだ!おかあさーん!キョン君に彼女できたー!!」バタバタ

 

キョン「ハルヒ…逃げるぞ」ギュッ

 

ハルヒ「え?うん」ギュッ

 

ハルヒの手を掴み、玄関へ。とりあえず鞄を降ろしておいたのは正解だったな。

 

キョン「いってきまーす」ガチャ

 

ハルヒ「あ、ちょっと、キョン…。お、お邪魔しました」パタパタ

 

玄関を出ると同時に走る。

 

ハルヒ「キョンってば、ちょっと待って!」

 

キョン「そこの公園まで、な」

 

子供のころに遊んだことのある小さな児童公園の前で足を止め、水飲み場の水道の蛇口を捻って水を出し、口に含んでうがいをする。

 

まったく、妹のせいで歯も磨くことができなかった。恨むぞ。

 

ハルヒ「ねえ、キョン」

 

キョン「悪いな、いきなり走らせて」

 

ハルヒ「んーん、平気よ」

 

キョン「さすがにお袋や親父が出てくると色々うるさいからな」ポリポリ

 

ハルヒ「別に、構わなかったのに」ボソ

 

キョン「なんて言うかな、妹のせいで見世物みたいにお前が扱われるのが嫌だったっていうのか?まあそんな感じ」ポリポリ

 

ハルヒ「キョン…」

 

キョン「さて、じゃ、行きますか」

 

ハルヒ「うんっ」ダキッ

 

キョン「…学校じゃ、開錠はなし、だぞ?」

 

ハルヒ「じゃあ今、開錠して」ニコ

 

キョン「歯、磨いてないから臭いかもしれないが?」

 

ハルヒ「キョンなら、きっと臭くないよ」カァッ

 

キョン「…」

 

ハルヒ「…ん」チュ

 

----------

 

朝倉「…嘘」

 

古泉「おはようございます」ニコ

 

朝倉「お、おはよう…って、いつから?」

 

古泉「30分くらい前ですかね」ニコ

 

朝倉「馬鹿。なんで電話くれないのよ」

 

古泉「ただ待ってみたかったんです、貴女を」ニコ

 

朝倉「そ、そう…」カァッ

 

古泉「じゃあ、行きましょうか?」

 

朝倉「…はい」

 

古泉「手を、繋いでもいいですか?」

 

朝倉「…」コクリ

 

古泉「…」キュッ

 

朝倉「…」キュッ

 

胸が痛い。顔が熱い。もしかして手汗かいちゃってたりしない…かな?大丈夫、うん、大丈夫。ていうか、なんか自然に恋人つなぎしちゃってるし…。

 

朝倉「あの、一樹…さん」

 

古泉「ふたりの時は、敬称はなしで」

 

朝倉「じゃあ、あの、一樹」カァッ

 

古泉「なんですか?涼子」ニコ

 

朝倉「あの…ですね…なんて言えばいいか…ちょっと良くわからないんだけど…」

 

古泉「…」

 

朝倉「本当に私たち、付き合ってるの、かな?」

 

あれ?私、何言ってるの?

 

告白されて、彼女にしてくださいって言ってお付き合いし始めたのに。

 

古泉「どうしてそんなことを?」

 

朝倉「何もかもが急で、不安になる…っていうのかな…。うまく伝えられないんだけど、漠然とした不安が私の中にあって…」ポロポロ

 

そう、なぜかわからないんだけど、一樹といると不安になる。この不安が何か、わからなくて…。

 

古泉「…泣かないでください」

 

朝倉「や、やだ…。どうして一樹と話すと涙が出るんだろう…。悲しいわけじゃないのに…」ポロポロ

 

古泉「…涼子」ギュッ

 

朝倉「…」ギュッ

 

一樹の、心臓の音が聞こえる。

 

一樹の、匂いがする。

 

一樹に、包まれる、感覚。

 

ああ、そうか。

 

顔を上げて、一樹を見上げる。心配そうな表情で私を見ている。

 

朝倉「一樹…」

 

名前を呼ぶと、とくん、と心臓が大きく脈打つ。

 

喉が渇く。

 

今から言おうとしていることは多分、私が今まで生きてきた中でも最大級の爆弾発言だろう。

 

顔が熱い。胸が痛い。

 

私はありったけの勇気を振り絞る。

 

踏み出さなければ、何も始まらないのだ。

 

朝倉「---------」

 

----------

 

谷口「おはよう、キョン」

 

国木田「おはよう、キョン」

 

キョン「おはよう、谷口、国木田」

 

ハルヒ「おはよう!」ニコ

 

谷口「!」

 

国木田「!」

 

谷口「おいおいおい!キョン、それは一体全体どういうことだ!?」ビシッ

 

国木田「あはは。もしかして付き合い始めちゃった?」

 

谷口「いやいやそれはないぞ国木田!これはきっと罰ゲームか何かに違いない!そうだろ?キョン」ニカッ

 

キョン「あ、国木田が正解」

 

谷口「青春のバカヤロオオオオオオオオッッ!!」ダッ!

 

わけのわからないことを叫んで教室を飛び出していく谷口。

 

うん。まああいつは放っておこう。

 

国木田「へえ、そっか。おめでとう、でいいのかな?キョン、涼宮さん」ニコ

 

キョン「ああ、ありがとう」

 

ハルヒ「ありがとう」ニコ

 

キョン「そろそろ離せよ、ハルヒ」

 

ハルヒ「ん。わかった」ショボン

 

キョン「ああ、そんな悲しそうな顔するなよ」ナデナデ

 

ハルヒ「うん」

 

国木田「!」

 

----------

 

朝比奈「…はぁ」

 

涼宮さんとキョン君、お付き合いすることになったのですよねえ。

 

喜ぶべきなんだろうけど、喜べない私もいるわけで…。

 

朝比奈「…はぁ」

 

鶴屋「おっはよーっ!みくる。ん?どしたの?なんか元気ないみたいだけど?」ニコ

 

朝比奈「あ、鶴屋さん。おはようございます」ペコリ

 

鶴屋「そんなときでもきちんと挨拶してくれるみくるはやっぱりいい子だよっ!」ニコ

 

朝比奈「鶴屋さんはいつも元気いっぱいですね」ニコ

 

鶴屋「人間、元気が一番さっ!まあそれは置いといて、どうしたんだい?一人で悩んでないで鶴屋さんに話してみなっ!」ニコ

 

朝比奈「えーとぉ、なんて言えばいいのか…」

 

鶴屋「うんうん。ゆーっくりでいいから話してごらんっ!」

 

朝比奈「えーっとですねぇ、涼宮さんのことなんですけど…」

 

鶴屋「ハルにゃんがどうかしたのかい?」

 

朝比奈「キョン君とお付き合いすることになったんです」

 

鶴屋「それは一大事だねっ!名誉顧問としてはさっそくお祝いに行かなくてはいけないねっ!」

 

朝比奈「…はぁ」

 

鶴屋「それでなんでみくるが落ち込んでいるんだいっ?」

 

朝比奈「ふぇ?落ち込んでなんていませんよ」

 

鶴屋「ため息ばかりついているのは落ち込んでいる証拠さっ」

 

朝比奈「そう、…なのかな?」

 

落ち込んでいる?私。

 

涼宮さんとキョン君がお付き合いを始めたから?

 

鶴屋「もしかしてみくるもキョン君が好きだったとか?」ボソ

 

朝比奈「ふ、ふぇぇっ!?違いますっ」アセアセ

 

鶴屋「そんな風に慌てるとかえって怪しいのさっ」ニヤリ

 

朝比奈「違うのにぃ~」カァッ

 

鶴屋「赤くなるともっと怪しいのさっ。さあさあ、吐いちゃいなっ」ニヤリ

 

朝比奈「き、禁則事項ですっ」

 

鶴屋「あははっ、みくるは困るとすぐそれだねっ」

 

朝比奈「…」

 

あ、そうか。

 

『禁則事項』

 

その言葉を口にして、私はこの不安の原因に辿り着いた。

 

朝比奈「鶴屋さぁん…」ウルウル

 

鶴屋「ど、どうしたんだい?みくるっ」

 

朝比奈「禁則事項だけど、禁則事項なんですぅ…」ウルウル

 

鶴屋「なんか良くわからないけどとりあえず悲しいんだねっ。よしっ、鶴屋さんが胸を貸してあげるさっ!」ギュッ

 

朝比奈「ふぇぇぇん…鶴屋さぁん…」グスグス

 

鶴屋さんに抱きしめられながら、改めてこの時間世界の人たちが大好きなんだということに気がついた。

 

いつかは帰らなくてはいけない。それはわかっているけど…。

 

高校を卒業するくらいまでは、この時間世界で過ごさせてください。

 

----------

 

朝倉「きょ、今日、学校サボって家に来ない?」カァッ

 

古泉「…は?」

 

朝倉「…えっと、ね。ふたりで、話がしたいの」

 

古泉「涼子…」

 

朝倉「…駄目、かな?」

 

古泉「…責任、持てませんよ?それでもよければ、…上がらせていただきます」

 

朝倉「じゃあ、行きましょうか」ニコ

 

…僕の言葉の意味に気付いていないのですか?涼子。

 

変わらない部屋。変わらない香り。

 

思い出が、生々しい。

 

これは、失敗だったかもしれません。理性が持てばいいのですが…。

 

朝倉「お茶、煎れるね」ニコ

 

古泉「おそれいります」

 

朝倉「じゃあ、お茶碗取ってくる」

 

和室の真ん中に置かれた卓袱台を挟んで座る。

 

部屋の中から涼子がいなくなったことを確認して、僕はひとつため息をついた。

 

古泉「はぁ」

 

部屋の中を一通り見回す。ここは居間で、日常生活を過ごすために必要最小限のものが配置されている。

 

あの襖の向こうが寝室だ。

 

古泉「…」ブンブン

 

落ち着け、一樹。

 

朝倉「お待たせ」ニコ

 

古泉「!」

 

朝倉「えへへ。なんとなくエプロン付けちゃいました」

 

古泉「…とってもお似合いですよ」ニコ

 

貴女はどこまで魔性の女なのですか。耐える僕の身にもなってください。

 

朝倉「はい、お茶どうぞ」

 

古泉「いただきます」ズズ

 

朝倉「…」ジー

 

古泉「…」

 

じっと僕の顔を見つめている彼女。これは参ります。

 

古泉「…あの、何かお話があるのではなかったでしょうか?」

 

朝倉「え?あっ、そうね…」ジー

 

古泉「…」

 

朝倉「…」ジー

 

古泉「…僕の顔に何かついていますか?」

 

朝倉「ただ見てるだけ」ニコ

 

古泉「…」

 

朝倉「嫌?」

 

古泉「嫌ではありませんよ。ただ…、照れてしまいます」

 

朝倉「そう言うけど、ポーカーフェイスよね」ジー

 

古泉「これは手厳しい」ポリポリ

 

理性を保つにはそうするしかないのですよ。

 

朝倉「ねえ?一樹」ジー

 

古泉「なんですか?」

 

朝倉「私のどこが好き?」ジー

 

古泉「貴女のすべてが好きですよ」

 

朝倉「なぜそう言い切れるの?」ジー

 

古泉「僕の心が…貴女を求めているから」

 

朝倉「心が求めてる?」ジー

 

古泉「はい」

 

朝倉「何でそう思うの?」ジー

 

古泉「何で…と言われましても。…そうですね」

 

なぜ僕は彼女に惹かれたのだろう?

 

なぜ僕は彼女を愛したのだろう?

 

古泉「ひとめぼれ、ですね」

 

朝倉「え?」キョトン

 

古泉「貴女は覚えていないでしょうが、僕は貴女がSOS団の部室に届け物か何かで来た際にその姿を見て、恋に落ちました」カァッ

 

朝倉「…」

 

古泉「前も言いましたけど、縁を感じたのですよ」ニコ

 

朝倉「そっか」

 

古泉「貴女は?」

 

朝倉「え?」

 

古泉「貴女は、僕の何処に惹かれたのですか?」ニコ

 

私、私は…。

 

彼の何処に惹かれたのだろう?

 

彼の何処を好きになったのだろう?

 

朝倉「…あれ?」ポロポロ

 

古泉「…泣かないでください」

 

朝倉「なんで?貴方のことを考えると、涙が出ちゃう」ポロポロ

 

古泉「どうしてそうなるんです」

 

朝倉「そう言われても、わからない、わからないの」ポロポロ

 

古泉「ああ、もう!」ガタッ、ギュッ

 

朝倉「…一樹」ギュッ

 

不思議、抱きしめられると安心する。

 

どうしてそうなんだろう?

 

どうして?

 

古泉「落ち着きましたか?」

 

朝倉「…うん」ギュッ

 

古泉「それは良かった」

 

朝倉「…うん」ギュッ

 

古泉「…」

 

朝倉「…一樹」ギュッ

 

古泉「はい」

 

朝倉「もっと強く、抱きしめて…」ギュッ

 

古泉「!」ギュッ

 

朝倉「もっと…」ギュッ

 

古泉「…」ギュッ

 

胸が痛いくらいに高鳴っている。

 

肩が痛いほど締め付けられている。

 

それでも、安心できる。

 

朝倉「…好き」ギュッ

 

古泉「りょう…こ」ギュッ

 

朝倉「大好き…一樹」ギュッ

 

古泉「…」ギュッ

 

朝倉「…」ギュッ

 

古泉「…」ドサッ

 

気がつくと、私は両腕を丸めるように胸の前に置き、床を背に倒れていた。

 

見上げるとそこには両腕を支えにして私の顔を覗き込む一樹。

 

これは、俗に言う『押し倒された』状態、だろうか?

 

古泉「すみません…」

 

朝倉「どうして謝るの?」

 

古泉「理性が飛びそうになりました。いや、一瞬、飛びました」カァッ

 

朝倉「理性?」

 

古泉「この状態ですよ、わかるでしょう?」

 

朝倉「まあ、ね」カァッ

 

古泉「そこで赤くならないでください」

 

朝倉「赤くなるなって言われても、無理だよ」カァッ

 

一樹の顔がこんな近くにあるんだもの。赤くならないわけがないじゃない。

 

まあ、嫌じゃないけど。

 

朝倉「一樹になら、…いいよ」カァッ

 

古泉「ば、馬鹿ですか貴女は!」カァッ

 

朝倉「何でそうなるのよ」ムスッ

 

古泉「僕が懸命に耐えていることを全て覆すようなことを言うからです!」

 

朝倉「懸命に耐えている…ってその格好?」

 

古泉「貴女を抱きたい気持ちですよ!」カァッ

 

朝倉「ばっ、馬鹿っ!エッチ」カアッ

 

古泉「誘っておいてそれはないでしょう!」

 

え?誘っておいてって…?

 

『一樹になら、…いいよ』

 

あ、え、ええええ!?

 

朝倉「あ、あれは違う!そうやって見つめられるのはいいって意味で…」カアッ

 

古泉「それに僕は上がる前に言いましたよね?責任持てないって」

 

朝倉「う、うん」

 

古泉「密室で二人きりになるって言うのはそういうことですよ!」カァッ

 

朝倉「あ、う、うん。ちょっと落ち着こう…ね?」

 

古泉「…」スーハー

 

朝倉「…」

 

古泉「…」スーハー

 

朝倉「…」

 

古泉「…」チュ

 

朝倉「!」

 

古泉「落ち着きました」ニコ

 

朝倉「そ、そう」カァッ

 

う、上からのキスって、なんか凄い。

 

触れるだけのキスだったけど、なんか、相手を感じることができるって言うのかな?奪われる、みたいな。

 

古泉「僕のことを考えると涙が出るというのは、ちょっと困りますね」

 

朝倉「でも、一樹が傍にいるときだけ、だよ」

 

古泉「なおさら困るじゃないですか」ポリポリ

 

朝倉「え?」

 

古泉「貴女の泣き顔は、あまり見たくありません。…貴女には、笑っていて欲しい」

 

朝倉「一樹…」カァッ

 

古泉「僕の邪な気持ちを吐露してしまったわけですが、それも貴女が好きだから、好きだからこその気持ちであるということはわかってください」ポリポリ

 

朝倉「…う、うん。わかった」カァッ

 

古泉「ありがとうございます」

 

朝倉「…」

 

とくん。

 

胸の高鳴りが止まらない。顔が熱くなる。

 

しかしさっきまでとは違い、涙が出ることはなくなっていた。

 

朝倉「…何で泣いちゃうのか、わかった気がする」

 

古泉「本当ですか?」

 

朝倉「不安だったんだと思う」

 

古泉「どうして?」

 

朝倉「貴方が本当に私を欲しているのかどうかわからなかったから。恋人になっても、貴方は敬語しか使わないから、貴方の心が見えない気がしたの」

 

古泉「それは…」

 

朝倉「でも、さっきの素の感情をぶつける貴方を見て、貴方の喋り方はそれが素なんだってことに気がついたわ。だから、ね。もう涙が出ないよ」ニコ

 

古泉「涼子…」

 

朝倉「改めて聞かせて、貴方の気持ち」ニコ

 

古泉「…また誤解させる言い方をしないでください」ムスッ

 

朝倉「え?そんな言い方した?」

 

古泉「…さっきの問いに答えるとしたら、『貴方を抱かせてください』と言うことになります」

 

朝倉「な、な、なっ!?エッチ!!」カアッ

 

古泉「ええ、僕は助平ですよ。…貴女に対しては」カァッ

 

朝倉「え?あ、…うっ…」カァッ

 

な、何を言ってるのよっ、私に対して助平って!

 

朝倉「…意地悪」ムスッ

 

古泉「お互い様でしょう?」

 

朝倉「そうかなあ?」

 

古泉「はい。そうです」

 

朝倉「…傷ついた」ボソッ

 

古泉「僕だって傷つきましたよ。というよりも、僕の方は間違いなく致命傷です」

 

朝倉「なんで?」

 

古泉「貴女に『エッチ』という不名誉な称号を頂きましたからね」

 

朝倉「だってそうじゃない」

 

古泉「…否定はできません」ムスッ

 

朝倉「もしかして、拗ねてる?」

 

古泉「知りません」ムスッ

 

朝倉「…ふふっ」

 

古泉「…何で笑うんです…!!」

 

朝倉「…」チュッ

 

古泉「…」

 

朝倉「好き…」ニコ

 

古泉「僕もです」ニコ

 

----------

昼休み 一年五組教室

 

ハルヒ「朝倉さんが休むなんて珍しいわねえ…」ハイ、アーン

 

キョン「風邪でもひいたんじゃないか?昨日は結構冷えたし…」パクッ、モグモグ。ウマイ。オカエシ。アーン

 

ハルヒ「大丈夫かしら?」アーン。パクッ、モグモグ。ハイ、キョン。アーン

 

キョン「まあ、大丈夫じゃないか?」アーン。パクッ

 

谷口「なんだあの桃色空間は…」ブツブツ

 

国木田「お弁当も涼宮さんお手製っぽいね」ニコ

 

谷口「何でわざわざ教室で食うんだ。教室じゃなく自分のアジトで食えばいいのに…」ブツブツ

 

国木田「きっと、クラスメイトへの牽制だよ」ニコ

 

谷口「涼宮に手を出す奴なんていないけどな」ブツブツ

 

国木田「いや、牽制してるのは涼宮さんの方だと思うよ」ニコ

 

谷口「青い空と白い雲のバカヤロオオオオオオオッッ!!!」ダッ!!

 

ハルヒ「谷口がまたなんか叫んでるわね」ハイ、アーン。

 

キョン「ほっとけ。いつものことだ」アーン。パクッ。モグモグ、ウマイ。

 

----------

昼休み 文芸部部室 兼 SOS団団室

 

長門「…」モグモグ

 

パーソナルネーム朝倉涼子、古泉一樹が同一座標に存在することを確認。

 

所在地は朝倉涼子の自宅。

 

朝倉涼子は一般人に分類、監視対象より除外。超能力者である古泉一樹に能力の発動は見られない。

 

情報統合思念体は監視不要と判断。

 

長門「…」モグモグ

 

デザートはくまさんプリン。

 

…楽しみ。

 

----------

放課後 文芸部部室 兼 SOS団団室

 

ハルヒ「古泉君は休み?」

 

朝比奈「そうみたいです」

 

長門「…」ペラ

 

ハルヒ「ふぅん。珍しいこともあるわね」

 

キョン「…」

 

古泉が休み…。朝倉も今日来ていなかったよな…。偶然か?

 

朝比奈「涼宮さん、お茶です」ニコ

 

ハルヒ「ありがとう」ニコ

 

朝比奈「キョン君、お茶です」ニコ

 

キョン「ありがとうございます」ニコ

 

朝比奈「長門さん、お茶です」ニコ

 

長門「…感謝」ペラ

 

朝比奈さんがお茶を配り終わると同時に、けたたましい音を立てて部室の扉が開かれる。

 

ハルヒ「!」

 

キョン「!」

 

朝比奈「ひえっ?」

 

長門「…」

 

鶴屋「話はみくるから聞いたさっ!ハルにゃん、キョン君、付き合い始めたんだって?」

 

キョン「ええ、まあ」ポリポリ

 

ハルヒ「いくら名誉顧問でもあたしたちの仲を裂くことはできないわよっ」キッ

 

…ハルヒ、それはないと思うぞ。

 

鶴屋「にゃははっ。そんな野暮はするわけないさっ。お祝いに来たんだよっ。ハルにゃん、おめでとう」ニコ

 

ほらな。

 

ハルヒ「あ、う、ありがとう…」

 

鶴屋「キョン君もおめでとうなのさっ」ニコ

 

キョン「ありがとうございます」

 

ハルヒ「みくるちゃん、お茶。鶴屋さんに」

 

朝比奈「はぁい」

 

鶴屋「…ところで、告白はどっちがしたのさっ?」

 

キョン「…」

 

ハルヒ「…」カァッ

 

鶴屋「お?ハルにゃん赤くなったねっ?てことはハルにゃんから告白しちゃったのかい?にゃははっ」

 

ハルヒ「し、しらないっ」カァッ

 

朝比奈「お、お茶です。鶴屋さん」

 

鶴屋「悪いね、みくるっ。…キョン君、駄目じゃないかっ。ハルにゃん困ってるのに助け舟出さないのって彼氏失格だよっ」

 

キョン「あ、いや、その…」チラ

 

ハルヒ「…」カァッ

 

キョン「俺たち、相思相愛だったんで…どっちから告白っていうものじゃなくって、その、ほぼ同時で」カァッ

 

ハルヒ「!」カァッ

 

朝比奈「!」

 

長門「…」ペラリ

 

鶴屋「にゃははっ!熱い、熱いね二人とも!」

 

キョン「…あまりからかわないでくださいよ、鶴屋さん」ポリポリ

 

鶴屋「いいじゃないのさっ!こういうのは縁起物だよっ。縁がない者に幸せを分けてくれないとっ」

 

キョン「何か違う気がするのですが…」

 

鶴屋「細かいことは気にしないのさっ。騒いだもの勝ちだよっ」

 

…やれやれ、この人には敵わないな。

 

----------

同時刻(放課後) 朝倉家

 

ふたりでいろいろなことを話しているうちに、気がつけば夕方になっていた。

 

僕は、自分を褒めてやりたい。

 

途中何度か襲いそうになったけど、今のところ理性が勝っている。

 

キスは何度かしましたが、…それは些細なこと。

 

朝倉「ねえ?夕御飯は何が食べたい?」

 

古泉「さすがに、そこまでお世話になるわけには…」

 

朝倉「駄目?」ショボン

 

…それは反則ですよ。まったく。

 

古泉「そんな顔をしないでください。断れないじゃないですか」

 

朝倉「えへへ。だって、一人で御飯は味気ないんだもの」

 

古泉「…それはわかりますけどね」

 

朝倉「じゃあ、夕御飯食べていって。ね?」ニコ

 

古泉「わかりました」

 

朝倉「ふふ。何が食べたい?」

 

古泉「貴女の作るものなら、なんでも」

 

朝倉「むぅ。その言い方はずるい」

 

古泉「材料の関係もあるでしょうし、貴女にお任せするのが一番と思いますが?」

 

朝倉「…正論ね。くやしいけれど」

 

古泉「お昼のパスタは絶品でしたよ」ニコ

 

朝倉「気に入ってもらえてよかったわ」ニコ

 

----------

 

キョン「…」

 

ハルヒ「…」

 

キョン「なあ、ハルヒ」

 

ハルヒ「なに?」

 

キョン「忘れ物を取りに来たんじゃなかったのか?」

 

ハルヒ「そうよ。忘れ物を取りに教室に来たの」

 

キョン「だよな」

 

ハルヒ「うん」

 

キョン「…じゃあ何故、お前は俺の膝の上に乗ってるんだ?」

 

ハルヒ「忘れ物を回収したらそこにキョンがいたからよ」ニコ

 

キョン「どういう理屈だ」

 

ハルヒ「…もう、わかってるくせに」

 

キョン「…」

 

ハルヒ「…ん」チュ

 

まずい。

 

何がまずいかといえば、今の体勢だ。

 

ハルヒの奴は椅子に座る俺の真正面、太腿の辺りに跨るようにして俺の上に乗っている。

 

スカートの下が俺の太腿の辺りに当たっているわけだ。身動きが取れないからたちが悪い。触れる部分の刺激は何とか耐えたとしても、がっちりと顔をホールドされてキスをされると、さすがに下半身に緊張が走るのは男の性だろう。

 

キョン「…ん」チュ

 

ハルヒ「!」

 

キョン「…」ドキドキ

 

ハルヒ「…」ニヤリ

 

何だハルヒ、その表情は?

 

ハルヒ「キョンのえっち」クスクス

 

キョン「…生理現象だ」カァッ

 

ハルヒ「あたしで欲情したんでしょ?」ニヤリ

 

キョン「…悪いか。ていうか、わかってるなら降りろ、離れろ」カァッ

 

ハルヒ「もうちょっと、いいでしょ?」チュッ

 

キョン「…ん…!!」チュッ

 

ハルヒ「…ん」クチュ

 

キョン「…」クチュ

 

ハルヒ「…ふぅ。…へへ。ディープキス」ニコ

 

キョン「…」

 

ハルヒ「よいしょ、っと」タッ

 

ハルヒはスカートの裾を翻して俺の上から降りると、腰に手を当てて俺を覗き込むように見た。

 

ハルヒ「安心した」

 

キョン「なにがだよ?」

 

ハルヒ「あんたが、あたしで欲情するってことがわかったから」ニヤリ

 

キョン「なっ!?」カァッ

 

ハルヒ「だいたい、あんたわかりづらいのよ。…ちっとも求めてこないし」

 

キョン「お、俺はお前が大切だからだな…」カァッ

 

ハルヒ「…ん。わかってる、よ」カァッ

 

キョン「…」ハァ

 

ハルヒ「…怒った?」ジッ

 

キョン「少しな」

 

ハルヒ「…ごめん」ショボン

 

キョン「…」

 

ハルヒ「不安だったの。あたしに魅力がないのかなって」ボソッ

 

キョン「…そんなことは、ないぞ」

 

ハルヒ「え?」

 

…まったくこいつは。

 

俺は立ち上がると、ハルヒの腰に左手を廻し、右手で頭を抑えて前の席の机の上に上半身を寝そべらせるように倒した。

 

ハルヒ「キョン?…んっ!んーぅっ!」クチュ

 

キョン「…んっ」クチュ

 

ハルヒ「…っ!!」クチュ

 

キョン「…」クチュ

 

舌を吸って絡ませる。今までにないほど激しく、執拗にハルヒの舌を求める。

 

キョン「…」

 

ハルヒ「キョ…ン」ボー

 

キョン「…俺がお前に欲情している証拠、付けとくな」

 

ハルヒ「えっ…!あっ」ビクッ

 

首筋に唇で触れ、そのまま鎖骨の上辺りまで滑らせてから肩口の辺りを強く吸った。

 

ハルヒの匂い。汗ばんだ肌。荒い吐息。

 

はっきり言ってこれ以上はやばい。

 

ハルヒ「キョン…」ボー

 

キョン「大丈夫か?」

 

ハルヒ「…駄目」ボー

 

キョン「すまん、ちょっとやりすぎた」ポリポリ

 

ハルヒ「…うん。凄かった」ボー

 

キョン「すまん」

 

ハルヒ「…いい。大丈夫」

 

キョン「そうか」

 

ハルヒ「うん。あたしに欲情してくれたし」

 

キョン「言うな」カァッ

 

ハルヒ「ふふ」

 

キョン「…あー、ハルヒ」

 

ハルヒ「なに?」

 

キョン「俺は、…最初はちゃんとしたところでしたいと思っている。だから、今日みたいに煽るのは、そういう場所限定ってことで」カァッ

 

ハルヒ「ば、馬鹿っ!!」カァッ

 

キョン「次は耐えられる自信がないんだよ」ポリポリ

 

ハルヒ「…わかった」カァッ

 

キョン「サンキュ」

 

----------

 

古泉「…」

 

朝倉「…」

 

古泉「…」

 

朝倉「…ん」チュッ

 

気がつくと、キスしてる。

 

夕御飯を食べ終わって、片付けた後、今で隣に座って、寄りかかってみたりして。

 

お互いの顔を見ると、それだけで安心して、気がつくと、キスしてる。

 

朝倉「一樹…」

 

古泉「涼子…」

 

朝倉「…ん」チュッ

 

古泉「…」チュッ

 

参りました。

 

キスの連鎖から抜け出せなくなってしまったようだ。

 

気がつくと、お互いの唇を求めてる。さすがに…これ以上ここにいるのは、危険すぎる。

 

古泉「…そろそろ、帰らないと」

 

朝倉「…」ショボン

 

古泉「そんな顔しないでください」

 

朝倉「…だって」

 

古泉「また明日、迎えに来ますよ」ニコ

 

朝倉「…うん」ショボン

 

古泉「またそういう顔をする」

 

朝倉「…だって」

 

古泉「僕だって辛いんですよ、もう!」ドサッ

 

朝倉「…」

 

古泉「…」

 

押し倒された。でも、嫌じゃない。鼓動が早くなる。でも、心地良い。

 

朝倉「一樹…」

 

古泉「…」

 

彼の目を見つめながら、私は、間違いなく人生最大の爆弾発言となる言葉を口にしようと決めた。

 

大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。真っ直ぐに相手を見て、言葉を紡いだ。

 

朝倉「…いい、よ」

 

----------

 

ハルヒ「♪」ダキッ

 

キョン「…」

 

ハルヒ「♪」ダキッ

 

キョン「なあ、ハルヒ」

 

ハルヒ「なに?」ニコ

 

キョン「…お前、さっき俺が言ったこと、ちゃんとわかってるのか?」

 

ハルヒ「当然」キッパリ

 

キョン「…明らかに煽ってるとしか思えないんだが」カァッ

 

ハルヒ「なっ!?腕組んでるだけじゃないっ」カァッ

 

キョン「胸を押し付けすぎなんだよ馬鹿!挟み込むような勢いで腕を掴むな!」カァッ

 

ハルヒ「なっ!ば、馬鹿キョン、エロキョン!昨日はそんなこと言わなかったじゃないのっ」カァッ

 

キョン「うぇっ!?昨日もこんなだったか?」

 

ハルヒ「うん」

 

キョン「…悪いハルヒ。さっきので俺、敏感になってるからちょっとクールダウンさせてくれ」カァッ

 

ハルヒ「…ん」スッ

 

絡ませていた腕を外すと立ち止まり、右手をじっと見ておもむろにスカートで擦ってから俺の左手を取り、指を絡ませるようにして手を繋いでくる。

 

これは、世間一般で言う、恋人つなぎってやつだな。

 

ハルヒ「これなら、いい?」ギュッ

 

キョン「ああ」ギュッ

 

繋いだ手を小さく揺らしながら再び歩き出す。暫くの間はお互い無言だ。

 

そのまま人気の少ない住宅街の道へ入ると、ハルヒが静かに口を開いた。

 

ハルヒ「…ねえ」

 

キョン「なんだ?」

 

ハルヒ「試すようなことしてごめん」

 

キョン「何だいきなり?」

 

ハルヒ「…あんたが『煽るな』って言うのはわかる。でも、あんたもあたしを『煽ってる』ことがあるっていうの、わかってる?」

 

キョン「…よくわからん」

 

ハルヒ「…今更あんたに隠してもしょうがないから、言っとくけど…。あたしも、欲情するのよ」カァッ

 

キョン「爆弾発言だな」

 

ハルヒ「うるさい!黙って聞く」

 

キョン「…」

 

ハルヒ「…あんただけずるい」

 

キョン「なにがだ?」

 

ハルヒ「…動かないで」スッ

 

キョン「…!」

 

すばやく小さな路地の影に俺を引き込み、ブロック塀に押し付けたかと思うと、鞄を放り投げて繋いでいた手を解き、俺のシャツを払いのけて首筋に唇を当ててくる。

 

ハルヒの唇が触れた場所から微かな痛みを感じ、ほんの少しだけ身を捩った。

 

ハルヒ「これでよしっ」ニコ

 

キョン「…」

 

文句を言おうとしたが、ハルヒの右手人差し指が俺の唇を軽く押さえてそれを許さなかった。

 

それからハルヒは、楽しそうに俺を見ながら悪戯っぽくこう言った。

 

ハルヒ「あたしがあんたに欲情した証、付けといたからね」ニコ

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