その頃支部長は町田駅に降り立っていた。
「まさか小田急がここまで混んでいるとは……まったく予想外だったぞ!」
こんな寒いというのに支部長はタンクトップに短パンといういつもの姿だった。もう一度言おう、寒くはないのだろうか。
「やや! そこにいるのは、東日本在庫監視委員会西多摩支部支部長殿ではありませんか!」
そう言った声が聞こえて、支部長はそちらを向いた。
そこに居たのは少女だった。サイドツインテールの金髪の少女がそこに立っていた。
「長い、支部長で構わないよ」
そう言って支部長は手で彼女の言葉を制す。
しかし少女は屈しない。
「いやいや、それでは行けません。このコロン・ビスケットサンド、曲がったことが嫌いなのは、東日本在庫監視委員会西多摩支部支部長殿もご存じのハズ!」
コロン・ビスケットサンドと自らを名乗った少女は、ポッキー戦士の一人だった。金髪のサイドツインテールは巻き毛であり、さらに白を基調としたゴスロリ服を着用していた。彼女もまたポッキー戦士として東東京本部に所属しており、俗に『最強のポッキー戦士』とも言われている。
「しかしコロンくん、君ほどのポッキー戦士が来るとはよっぽどの事態だということか?」
支部長が訊ねると、コロンは頷く。
「なんでも、東日本在庫監視委員会の会長直々のご命令ですからね、今回の出動は」
それを聞いて支部長は目を見開いた。
「会長直々ということは……このデパートにいるアンソウルド・モンスターはなかなかの強敵だということか……!」
支部長の言葉を聞いて、コロンは右手の人差し指を出し、
「いえ、違います」
「違う?」
支部長はそれを聞いて首を傾げた。
「アンソウルド・モンスターは確かに危険です。しかし問題なのは……ここに立て籠っている連中が『アンソウルド・モンスターを発生させる何か』を持っている可能性が高いということです。百貨店というのは人の流れも大きいし、商品の回転率も高い。在庫が極端に余ることなど、そうないのです。ならば、なぜアンソウルド・モンスターが生み出されたのか? 過剰な在庫を抱えていないはずなのに? 百貨店側は過剰な在庫を抱えていないと強調していますから、嘘はついていないでしょうし、ならば結局何だというのだ……そうなります。どうしてだと思います?」
「結果だけを述べてくれないか、今は時間がないんだ」
「結論を急ぐのは、そういいことではないですよ」
そう言ってコロンはスマートフォンを取り出した。すぐに動画を起動し、『再生』と画面に出力されたところで支部長にその画面を見せた。
「これはつい昨日東日本在庫監視委員会東東京本部に送られてきたメールに添付された動画です」
そして、動画は再生された。
『ごきげんよう、日本国民の諸君』
第一声はラジオから聞こえてくる声を無理矢理に引き伸ばしたような、そんな声から始まった。
背景は黒く塗りつぶされていた。
そして、真ん中にあるパイプ椅子には一人のピエロが座っていた。しかしピエロの顔は正確には仮面だった。
『我々は「カカオテック」である。まあ、今は名前を覚えてもらう必要性もない。今回は宣戦布告、ひいては忠告のためにこの動画を撮影した次第だ』
ピエロは立ち上がると、背景を『引っ張った』。
背景――と思われていたカーテンはずり落ち、そこにあった何かが露になった。
そこにあったのはひと箱のダンボールだった。それだけならば、特に問題のない普通のダンボールだ。
『このダンボールはなんの変哲もないただのダンボールだ。見てもらえれば解る通り、何もない。何も入っていない、ただの空箱だ』
ダンボールを叩きながら、ピエロの話は続く。
『さて、ここでアンソウルド・モンスターの発生条件について再確認してみよう。アンソウルド・モンスターは過剰在庫によって発生する』
ここから、画面が揺れ始める。
『しかし』
ダンボールが、ゆっくりとその形を留められなくなる。
そして。
『アンソウルド・モンスターは、もはや人工的に開発することが出来る』
ピエロの目の前には、巨大な獣が立っていた。それこそが、アンソウルド・モンスターそのものだった。
そして、ピエロの高笑いとともに動画は終了した。
「……どうです?」
コロンが訊ねると、支部長は改めてコロンの方を向き直り、
「……予想外だったな、まさかアンソウルド・モンスターは人工的に出来るとは」
「この技術がどこまで知れ渡っているかは解らない。が……、少なくともこれは非常に脅威になるということは確かである。だからこそ倒しその方法を永遠に消滅させなければならない……というのが会長の指示によるものです」
「会長も人が悪い。西多摩支部にも伝えてくれてもいいというのに」
支部長が言うとコロンは、
「西多摩支部に伝えると必ずヤツが動くから、とのことで」
「……会長も人が優しい」
支部長は小さく頷く。
「だが、それで止まる私でもない」
支部長は振り返り、立ち去ろうとしたので、コロンが首を傾げる。
「どこへ向かう?」
「あの百貨店に入る方法はたくさんある。どうにかして潜入するさ」
「無理だ! あなたは『現役の』ポッキー戦士ではないというのに!」
「だから、なんだっていうんだ?」
「ポッキー戦士でなければアンソウルド・モンスターを倒すことはできない! 運良く内部にいるポッキー戦士と合流さえ出来ればいいが出来なかった場合はどうするというのだ?! その場合待っているのは、死あるのみだ!!」
コロンは柄になくそう激昂した。
叫びすぎて、肩で息をするくらいだ。
対して、支部長は冷静に、
「でも、行かねばならないのだよ。私の大切な部下が、待っているというのなら」
そう言って、支部長はその場を後にした。
心なしか、コロンはそれを見送る時笑っているようにも見えた。