その頃、支部長は町田の街を歩いていた。
デパートの立てこもり事件があるといはいえ、それから少し離れれば喧騒も戻ってきている。人間はそこまで他者に関心を抱かないことを改めて実感する。
「どこから入れるか……別の百貨店と繋がっていたりはしないのだろうか……」
「むむ、ここは」
その中にいかにも雰囲気が異なる店があった。
そして、その中に見覚えのある人間がいた。
「愛洲か、どうしたここで?」
彼はそう言って、店名を見る。『コミックメイト町田店』と書かれていた。コミックにCD、キャラクターグッズなどを売る専門店だ。いくら在庫を仕入れても在庫が余らないという優良店であることを支部長は知っていたが、裏を返せばそれほどの知識しかない場所であった。
「大方百貨店にはいれないだろうと思っていたから、ここで待機していたのよ」
「……ふむ、それで?」
「ついに開発が完了してね。新しいポッキー戦士の調整が」
そう言った能美のとなりには、ひとりの少年が立っていた。背は能美よりも十センチくらい高い、百八十センチ。両手に『COMIC-MATE』と書かれた紙袋を持っていた。メガネをかけた黒髪で青のダメージジーンズに黒いTシャツ、Tシャツにはコピーロボットが描かれていた、を着ていた。
男はだるそうな表情で呟く。
「どうも、十七夜樹(じゅうしちやいつき)といいます。何卒よろしく」
「……なあ? どうして彼と逢わせることと今のことが関係があるんだ?」
「それは、彼に理由がある」
そう言って取り出したのはアーモンドクラッシュポッキーの箱だった。箱を開けて、袋を取り出して、それを開けて、そして一口頬張る。
「……その場を離れないでくれますね」
樹はそう言った。
その、直後だった。
支部長と樹、それに能美は空中にいた。
「は?」
突然のことで、思わずそんなあっけない声が出てしまうほどだった。
「ど、どういうことだ?! いったいどうしてこんなことが……!?」
「あっ、離れないでくださいよ。僕の力の影響が及ばなくなって、落ちますから」
それを聞いて支部長は必要以上に体を動かすのをやめた。
そして、改めて彼に訊ねる。
「これはいったい、どういうことなんだ?」
「僕はアーモンドクラッシュポッキーを食べると高い跳躍力と浮遊能力を得ることが出来ます。浮遊とはいいますが、強いて言うなら重力場を限りなく0としている、ということでしょうか。詳しいことは解らないですが」
樹の言葉を半分近く理解出来なかった支部長だったが、一先ずそれに頷いた。
「これを利用して屋上に向かう。そこから潜入するわ」
能美の言葉が聞こえてきて、ようやく支部長は彼女の意図が理解できた。
能美はこのまま屋上に向かい百貨店内部に潜入、そしてそのまま敵を殲滅しようというのだ。
「なるほど、それならば可能だな。……しかし能美くん、助かるよ」
「これくらいはしなくては、ね」
彼らの視線の先にはデパートの屋上が迫ってきていた。
ぐり子ちゃんと僕は階段を降りて何とか一階までやってきた。
一階の光景も特に変わりなく――強いて言うなら人間が誰ひとり居ないというのに違和感を覚えるくらいだろうか。
「ねえ、ぐり子ちゃん」
僕はぐり子ちゃんに訊ねた。
「どうした、江崎?」
「何だかおかしいと思わない?」
「おかしい? どういうことだ?」
だってさ、と言って僕は話を続ける。
「彼らは何を望んでいるんだろうね?」
その言葉に、ぐり子ちゃんは首を傾げた。
だって僕たちは聞いていないのだから、彼らの目的を。
「そう言われると気になるが……やはり私が目的なのか? あのピエロも言っていたことだしな」
ピエロが言っていたこと……それはぐり子ちゃんをカミサマに仕立て上げること。
しかしそれはいったいどういうことなんだろうか? 聞いていて、まったく理解できない。
「そもそも人間がカミサマになれるわけがねえだろうよ……」
ぐり子ちゃんはそう言って舌打ちする。
「いや、でも実際カミサマになれるケースはあるみたいだよ。現人神、っていうのかな? そういうの」
「それでも私がそういうのになれるとは、到底思えないね」
「それはごもっとも」
「……まあ、いい。ここは一階だ。敵がどう出るかわかりゃしない。慎重に行くぞ」
その言葉に僕は小さく頷いた。
ちょうど、その時だった。
支部長、能美、樹の三名は百貨店へと侵入した。目的は勿論ポッキー戦士の安全の確認と、事態の解決である。
「……にしても、ここはとても湿っぽいな」
「非常階段なんてそんなものでしょう」
支部長の言葉に樹が答える。樹は疲れているのか、よく溜息をついていた。
「まあ、そうだが……だとしてもこんなものだったかなあ」
「百貨店とか行かないんですか、支部長は」
「行かないねえ。行く機会があるとしたら……ポッキーを買うだけの簡単なお仕事になってしまいそうだ」
幾らなんでもそれはひどいんじゃないか? と二人は思ったが特に突っ込まないでおいた。
支部長たち三人は非常階段を降りきり、とうとう一階の扉まで辿りついた。扉を開けると先程までの湿っぽい雰囲気ではなく、爽やかな空気が広がった。
「漸く一階ですか……さすがに十階建ての建物を階段で一階まで降りきるのは少々堪えましたね」
能美が言うとそれに賛同するように樹も頷く。
「君たちもまだまだだな! 私はまだ余力はあるぞ!」
そう言って支部長は拳を握る。
「あ」
能美が何かに気がついたのも、ちょうどその時だった。
「どうした能美くん。何か見つけたのかね……」
支部長が振り返ると、そこには――。
江崎とぐり子、二人のポッキー戦士がこちらを見つめていた。