※この作品はR-18です。

ぼくらはポッキー戦士   作:natsuki

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第十三話 突撃②

 

 身体が動かない。

 

 全身に痛みが走る。

 

 どうやらさっきのショーウィンドウに身体を打ったとき、骨を折ったらしい。

 

 支部長も、樹とかいう新しいポッキー戦士も、江崎もダメだ。

 

 だとすれば、どうすればいいか。

 

 

 

 ――結論なんて、とっくに見いだせていた。

 

 

 

 

 だけれど、身体が動かない。

 

 ゆっくりとゆっくりとあいつが迫ってくる。

 

 怖い?

 

 怖いのか?

 

 震えているのか?

 

 それが怖いのか?

 

 なんで?

 

 なんで私は殺されなくてはならない?

 

 私は死ぬのか?

 

 どうして?

 

 どうして?

 

 どうして?

 

 どうして?

 

「あーあ、もう。さすがにまだ死んじゃあいないよね」

 

 あいつはそう言って私の身体を蹴った。痛いのだろうが、全身に回る痛みのほうが勝っていて、まったく感じなかった。

 

「おい、動けよ」

 

 そう言ってあいつは私を強く蹴った。

 

 骨が折れた音がした。

 

 それに次いで、何かがパリンと割れた音。それを聞いてとても気持ち悪くなってきた。内臓でも破けてしまったのだろうか。それでもまだ意識を失う気配がないというのだから、ポッキー戦士は強い人間だということになる。

 

 だが、動けない。あいつには何か特殊な力でもあるのだろうか?

 

「なあ、動けよ。おーい」

 

 それを最後にあいつの声が遠のいた。

 

 数瞬おいて、背中に衝撃が走る。生暖かい気配が背中一帯に流れ込んだ。

 

「一度背骨が折れる音聞いてみたかったんだよねぇ。ねえ、これでもポッキー戦士は死なないはずよね?」

 

 少女は笑っていた。私が攻撃できないことを知っていたから。

 

 確かにポッキー戦士は並大抵のことなら耐えられる……はずだ。だけれど、ここまでの経験はない。当たり前だ。普通ならば背骨が折れれば死んでしまうはずなのだから。

 

 だけれど、私は生きている。もしかしたらポッキー戦士はもはや人間ではないのかもしれない。

 

「あーあ、つまんなくなっちゃった。もうこいつはぽーいっと」

 

 そう言って私の身体を持ち上げ、どこか遠くへと投げ捨てた。まるで私の身体がゴミであるかのように。

 

 着地したとき、また骨が折れる音がした。が、もうそれにすら慣れてしまっていた。

 

 たぶん私の身体を第三者が見たら人間とは思わないかもしれない。それくらいに骨は折れているだろうし、下手したら人間の姿形を保っているかすら危うい。

 

「さてと……次は、江崎くん、だっけ? 君は雑魚だから特に問題ないけどさ」

 

 その、言葉を聞いて。

 

 私はとても悲しくなった。

 

 私が死ぬことで、他の人間も死んでしまう。

 

 このままでは、ダメだ。

 

 

 

 ――私にもっと、力があれば――

 

 

 

 そう、願った。

 

 その時だった。

 

 ドクン。

 

 と、心音が一層強くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……次は、江崎くん、だっけ? 君は雑魚だから特に問題ないけどさ。あの子、骨があるように見えてからっきしだったから、少しは楽しませてくれるかな?」

 

 ぐり子ちゃんをゴミのように投げ捨てた少女は、ゆっくりと僕の方に向かって歩いてくる。

 

 そういえば支部長はどうなったのだろう――と一瞬首をそちらへ向けたが、

 

「勝負の最中に、ほかの方向を見るのかしら?」

 

 少女が気付かないうちに目の前までたどり着いていた。

 

「あなたの武器は……」

 

 少女はケースを指差す。

 

「そのライフルだっけ? 使いなよ」

 

 その言葉を聞いたが、僕は動けなかった。

 

 それを見て、少女は小さくため息をついた。

 

「何だ、つまらないの」

 

 そして。

 

 少女はあるものをポケットから取り出した。

 

 それは、ルアーだった。釣りとかに使う、ルアーだ。だけれど、サイズがそのルアーよりも十倍近く大きい。

 

「これはね、ルアーだよ。この返しがあるでしょう? これにひっかかるととても痛いんだよねえ……。ねえ、これをさ……君の口に入れるとどうなるかなあ?」

 

 少女は無邪気に笑った。まるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のような、無邪気な微笑みだ。

 

「やめろおおおおおお!!」

 

 その時だった。ぐり子ちゃんの声と共に走ってくるぐり子ちゃんを見たのは。

 

 彼女は血だらけだった。歩くのもやっとの姿にも見えるのに、こちらに向かって走ってくる。

 

 それにはさすがに少女も慌てたらしかった。

 

「馬鹿な、あれほど甚振ったのに動けるわけが……!」

 

「でも、現に動けているよ」

 

 ぐり子ちゃんはとうとう少女の目の前までやって来て、回し蹴りを食らわせた。

 

「がはっ……」

 

「散々人を虚仮にした罰、いや、報いだ」

 

 ぐり子ちゃんはそう言って、手を叩いた。

 

 少女はゆっくりと態勢を整えると、小さく微笑む。

 

「くくっ……まさかあそこまでやられておいて力を解放するとは……。敵でいて、ほんとうに悔しいよ。ぐり子」

 

 そう言って、少女は消えた。

 

 僕は、ふと思い出して支部長の方を見た。

 

 

 支部長は植え込みに犬神家よろしく突っ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、テロリストは全員確保された。人質の証言からするに僕らと対峙した、あの少女がやったのだと推測している。

 

 ネオ・ポッキー戦士。

 

 ミカド教団。

 

 いったい彼らは何を目的にして、そして何を狙っているのか。

 

 カミサマ――とはいったいなんなのか。

 

 思うことはたくさんあるけれど。

 

 今はまあ、訪れた平穏というやつを大事にすべきかな、と思った。

 

 僕は今病室に来ている。理由は単純明快、ぐり子ちゃんのお見舞いだ。

 

 支部長の指示でぐり子ちゃんは景色のいい病室になった。そのほうが回復も早いだろうという判断だった。

 

 それについて僕は否定もしなかったし肯定もしなかった。だって、実際に使うのはぐり子ちゃんだから。

 

 病室の扉を見て、僕は一拍おいて。

 

 そうして僕は扉を開けた。

 

「――あれ?」

 

 ここはぐり子ちゃんの病室のはずだったのに。

 

 ぐり子ちゃんの姿は、そこにはなかった。

 

 

 






行間Ⅰ



 デオキシリボ核酸。

 またの名を、DNAという。人間の、いや、地球上の多くの生物の遺伝情報の伝承と発現を行う高分子生体物質。

 人間ひとりひとりにあるDNAは勿論凡てが違うものである。そして、その中には様々なものがある。

 例えば、風邪をひきにくい身体。例えば、生まれつき抗体がない身体。例えば、花粉症にかかりやすい身体。その種類は様々であり、十人十色といっても過言ではない。

 そしてある日、ある科学者がこのような研究データを世界中に報告した。

 『人間の遺伝情報書き換えによる人工生命の構築について』。

 この研究データは、発表されるや否や世界の反感を買うこととなる。

 そもそも人間の遺伝情報を書き換えること自体が御法度と言われているのに、それから人工生命を作り上げようというのだから、反感を買うのは間違いない。

 さて。

 それを発表した科学者がどうなったかは、一先ずおいておくとして。

 その科学者は最後にこのようにその研究データによる報告を終えている。


 ――もし、万物凡てに構成番号が与えられていて、それがカミサマにも適用されるのであれば、遺伝情報を書き換えることで、カミサマの構成番号を手に入れることも可能となるだろう。


 ――そして、我々はそれをついに作り出すことに成功したのだ。その結果が真に評価されるのは未だ先となろうが、我々の研究が正しいことは何れ解ることとなろう。


 今現在、その『構成番号を手に入れた何か』というのは解らないし、いつその結果が現れるのは解っていない。

 ただ解っていることといえば。

 この研究データを発表した科学者は、この年を最後に失踪している――ということだけである。
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