11
次の日、僕は泊まっていた旅館を出ると再びあの灯台へ向かった。
行くな、と言っていたがやはりどうも気になるのだ。気になる場所にはいかないと気がすまないのが僕の信条だ。
「確かここだったよな……」
昨日行った場所について、あたりを見渡す。
「……ん?」
僕の視界に何かが写った。
洞窟だ。小さな小さな洞窟だ。けれど、人一人は入ることができそうなくらいの大きさだった。
「……まさか、こんなところに?」
そんなわけはない。そんなわけはないのだろうけれど――でも気になってしまうのが僕の悪い癖だ。
洞窟に入ると、直ぐに何かを見つけた。
階段だ。地下へと進む階段。それも人工的に作られたような、それだ。
「……もしかして」
僕は何かがある、と思って地下へ続く階段を降り始めた。
◇◇◇
「懐中電灯を持ってきておいて正解だったな」
まさか一応持ってきておいた懐中電灯がこういうときに役立つとは思いもしなかった。これはラッキーだ。使えるものは使ってしまわないと。
階段の壁も床も、まるで人工に作られたように平滑だった。
「……この奥に何もなかったら、寧ろこの階段の意味を訊ねたくなる」
僕はそうつぶやいて、進んだ。
この先に何があるかも――解らずに。
12
私は培養液に浸かっている。
周りを見ると、誰もいない研究室のようだった。
「どうだい、実験番号1300号。身体の様子は?」
振り返ると、男がこちらを見てニヤニヤと笑っていた。
私はそれに対して頷く。
それを見て男も頷きで返した。
「今君をそこから出してあげよう。いいかい、騒ぐんじゃないよ。直ぐに出れるからね」
そう言って男は手元にあるスマートフォンで何かを操作した。
直ぐに変化はあった。培養液がみるみるうちに減っていき、軈てカラになった。
私は試験管の外に出ると、直ぐにタオルを渡された。
どうやら裸になっていたようだった。が、私はそれを気にしていない様子だったのを見て男は笑った。
「……ここは?」
「ここは研究室だ。君は今ずっと眠っていたんだよ」
「眠って……いた?」
「ああ、そうだ」
男はいうと、ペンで何かを描いて見せてきた。
「これは何かな?」
私に見せてきたが、それはどう見ても図形の丸だった。その旨を答えると、男は拍手で答えた。
「素晴らしい。さあ、君の部屋へ案内しよう」
そう言って男は笑った。
優しい人だ、と私は思った。
13
「第二実験は成功したようだ」
私は呟くと、笑いが止まらなかった。ここまでスムーズに行き過ぎると、逆に恐ろしい。
第一実験でほぼ絶命状態だった実験番号1300号を蘇生したのは事実だ。しかし、それだけじゃあ面白くない。ちょっとだけ小細工をしてみたのさ。するとどうだい。あっという間にうまくいってしまった。
「……さて、報告書にまとめておく必要があるな」
――第二実験、実験番号1300号の『外界脱出以前』の記憶消去に成功。
14
その階段を降りた先には鉄製の扉があった。僕はこの階段の先にどうしてそんなものがあるのか疑問で仕方なかったけれど、恐らく何かがあるのだろう――ということは一瞬で理解した。
理解した、というよりも疑問が募っただけに過ぎないけれど。どうしてここまで隠す必要があるんだろう?
気になる。非常に気になる。
でも入って見つかったら、捕まるだろうな。
とか思いながら僕は持っていたハンドガンで鍵を破壊していた。もちろんサプレッサーをつけて音を消している。
酸化臭を消すために匂いの少ない香水を直ぐに制服に振りまく。これで問題ないはずだ。
「……きっとここに何かがある」
そう思った僕は、その扉の中へ一歩踏み出した。
15
「侵入者が確認されたようです」
私はネオからの報告を聞いたが、それでも疑問に思うことはなかった。
この村は私のために制作された村である。だからみんなこの研究のことは知っている。そしてこの研究のことは誰にも言うことのないように莫大な資金を村に支払っている。だからあの村は裕福に暮らしているし、それを今更脱却しようったって甘い汁の味を知り尽くしてしまった村人がそれが出来るかというのは火を見るより明らかだ。
だからこそ、その状況を使って実験を行うことができるのだ。
今、1300号の知能は2歳児以下にまで低下している。おしゃべりが出来るくらいだろうか。もちろん、知能がそれほどまで低下しているのであり、身体自体は縮んでいない。もっぱら精神幼児といった感じだろうか。
1300号の寝室は今や赤ん坊のそれとかしている。オルゴールを鳴らした部屋の真ん中にある、柵が設けられたベッドにそれは眠っている。おしゃぶりが無くては眠れないらしく、おしゃぶりを嵌めていた。
理由? そんなものは簡単だ。
1300号は肉体自体は最強のポッキー戦士になるように教育したのに、精神は正義というくだらないモノに芽生えてしまったせいで、肉体に秘められている力をセーブしてしまっているのだ。これは非常にもったいない。だったら、私が今度は精神も悪に染め上げてやろう……私はそう思っていたのだ。
電話が鳴ったのはそのタイミングのことであった。
私はスマートフォンを手に取ると、着信を受け取った。
「私だ」
『……ゼロ』
静かな声だった。
だが、その声を聞いただけで私はその人間が誰か特定することが出来た。
「エニマ総帥ではありませんか。どうなさったのですか?」
エニマ総帥と私は言った。
エニマ総帥。本名は知らない。エニマというのも本名の一部かどうかも解らないが、彼女自身そう呼んでいるのだからそう呼ばざるを得ない。
エニマ総帥は微笑むと、
『あなたが独断で1300号の解析・再教育をしていることは存じ上げております』
「ご存知でしたか。いやはや、ミカド教団の調査力には恐れ入りますな」
『そんなことはどうだっていいのですよ、ゼロ。私が言いたいのは、1300号の再教育をする必要があるのか? という話です』
「と、申しますと」
『捨ててしまいなさい。あなたのことだから記憶を消したところまではいったのでしょう? 今なら殺してしまっても彼女は何の意味もなく死んでいくでしょう。それに、死ぬ痛みは一瞬です。蘇ることもなければ私たちに恨んで幽霊になることもない。そんな非科学的なもの……存在しないのですから』
「仮にも「神様」を信仰する教団の総帥が、そんな言葉を言ってしまって問題ないのでしょうか?」
『問題ありませんよ、そんなこと。とにかく、あなたがまだ生きていたいのなら、あなたがまだそんなマッドサイエンティストめいたことをやり続けたいのなら、1300号を捨てるか殺しなさい。どうせ捨てても乳飲み子同然の人間と化しているのなら殺してしまった方がマシだと思いますが』
「……ほんとうに凡てをご存知なのですね。あーやだやだ。これなら一人で自家発電することも出来ませんね」
『くだらないことを言っていると無条件で殺しますよ?』
「……冗談ですよ」
そう言って私は電話を切り、深い溜息を吐いた。
「どうなさいました?」
直ぐに私の異変に気づいたネオが訊ねる。
私はそれを聞いて頷き、「大丈夫だ。何の問題もない」とだけ言った。
そして私は立ち上がると、ある場所へ向かうため歩き出した。
その場所は。
1300号が眠る、寝室である。