※当時のノリで某作品の展開を利用しております。
8
存在理由。レゾンデートル。
ここにいても、よい理由。
江崎、彼の場合。
結風雪穂は自ら死を願った。江崎はそれを叶えた。それにより、ネオ・ポッキー戦士を倒すことに成功したし、彼女が持っていた資料からミカド教団について知ることができた。
「ミカド教団はこの世界をひとつの生命体へと昇華させようとしている。そのために、ポッキー戦士が必要となっている。神の遺伝子を植え込んだ人間がいる。だが……それが誰なのかははっきりしていない」
支部長からそれを聞いたとき、江崎は思った。
僕には関係ない。ポッキー戦士はアンソウルド・モンスターを倒すだけが使命。それさえしていればいい。
――ほんとうに?
誰からかの質問。江崎はそれに抵抗する。結風雪穂は自ら死のうとした。だから殺した。それだけだ。それ以外は通常の業務に勤しむ必要がある。
そもそもネオ・ポッキー戦士は僕に、僕たちポッキー戦士に仇なす敵だった。
――おなじ人間だったのに?
江崎はその問を否定しようとする。
しかし彼の背後に現れたのはぐり子だった。
「お前は敵だから、ただそれだけの理由で人間を殺すのか?」
僕は何も言えなかった。言い返せなかった。
でも、何か言い返さなくちゃダメだと思った。
「違う。ネオ・ポッキー戦士は敵だ。人間だからといって、彼女は敵だった。だから――」
「だから殺したのか? あいつはお前のことが好きだったらしいじゃないか」
ぐり子は江崎の腰掛けるパイプ椅子、その背もたれに腰掛ける。
もしそうしていなかったら、支部長が死んでいた。もしかしたら江崎も殺されていたかもしれない。
――だから殺した?
「……うるさい」
ぐり子の声は、耳を塞いでも彼の心に直接響いていく。
「だったら、助けてよ……」
か細い、今にも泣き出しそうな声をあげる江崎。
――だから殺した。
「誰か助けてよ……」
ぐり子の声はさらにさらにさらにさらに、彼の心の中へと染み込んでいく。
――だから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺しただから殺した……
「誰か僕を助けてくれ……!!」
9
支部長室で、僕は支部長と会話をしていた。いや、会話というのは間違っているかもしれない。どちらかといえば、支部長が一人で話しているのに近いのだから。
「……ミカド教団はこの世界をひとつの生命体へと昇華させようとしている。そのために、ポッキー戦士が必要となっている。神の遺伝子を植え込んだ人間がいる。だが……それが誰なのかははっきりしていない」
支部長は溜息を吐く。
「それに本部は今回の案件の解決を持って、ミカド教団との戦いは終わらせるとのことだ」
「……どういうことですか」
「ネオ・ポッキー戦士だった結風雪穂だがね、彼女が持っていたUSBから様々なものが出てきたよ。簡単に言えば、そこにはミカド教団という団体が滅んだことを証明するに値するものがあった。……遺書だ」
「遺書……」
「そうだ。結風雪穂はミカド教団のかなり高い地位にいる。いや、もう死んだから『いた』の方が正確なのかもしれないな。彼女が遺したテキストファイルにはミカド教団が壊滅したということが記されていた。本部もこれを了承……もしかしたら本部はミカド教団と癒着していたのではないかと考えられるが、まあ、それはいい。ともかく、これによってアンソウルド・モンスターがでなくなったことを確認した。これが意味すること……解るか?」
「ポッキー戦士は用済み……と言いたいんですか」
「あくまでも、それは対アンソウルド・モンスター用に限るがな」
支部長は面倒くさそうに言った。
「……生き残るのは彼女の方だったんですよ」
僕は思いを告げた。
支部長は、僕が彼女を自分の手で殺してから気分が落ち込んでいることを知っているからか、小さく溜息を吐く。
「……それは違う。結風雪穂は生きようとは思わなかった。生きる意志を持たなかった。生き残るのは、生きる意志を持った人間だけだよ。死を望んだのは彼女自身だ。死んだことで、希望に縋った。その希望が見せかけのものだったのか本当のものだったのかは、もはや誰にも解らないがね」
10
江崎は不安に苛まれていた。自分がやったことを後悔していた。これでよかったのか? これでよかったのか……そう後悔していたのだ。
気づけば彼にはあるひとつの感情が芽生えていた。
怖い。
たまらなく怖い。
――なぜ怖い?
解らない。彼はその声に答える。
――何が怖いのか?
質問がわずかに変わった。彼はその質問に、なんとか振り絞って答えを導く。
「自分が……怖い」
そう。彼は自分が怖かった。あんなことをして、平気な顔をしていられる自分が怖かった。彼の手のひらには未だに、結風雪穂を殺した時の銃の感触が残っている。アンソウルド・モンスターを駆逐するときは、そんなことなんてなかったというのに。
――何が怖いのか?
「自分が怖い。だけど、自分が嫌われることはもっと怖い」
江崎の家族は幼い頃にみな失ってしまった――と言われている。
何故ならば気が付けば彼は支部長に育てられていたからだ。
支部長曰く、江崎の父親と支部長は知り合いだった。そのよしみから、支部長が彼を育てることとなったのだ。
「そんなの自分の驕りじゃねえか。自分が怖いなんてまったくのハッタリ。結局はてめえがてめえの力を手懐けていないだけだ」
気がつくと、江崎の目の前に立っていたのはぐり子だった。ぐり子は江崎の目の前にたち、ただ江崎を睨みつけていた。
まるで、江崎を蔑むように。
「じゃあ、私の口からはっきりとお前に聞こうか。どうしてお前はポッキー戦士になった? 私はポッキー戦士になるべくして生まれたから、この運命に抗うことはできなかったかもしれない。だが江崎、お前は違う。お前は違うはずだ。選ぼうと思えば違う世界も見れたはずだ。なのにどうしてお前は……ポッキー戦士になった?」
「そうしないとアンソウルド・モンスターが街をめちゃくちゃにするからだ。だから戦わなくちゃいけないんだ」
「だから戦うの?」
「それが結果としてみんなのためになっている。平和にみんなが暮らしている。それでいいじゃないか。それで何が悪いんだよ」
「ほかの人のために、江崎……お前はポッキー戦士になったのか?」
「ああ、そうだ」
ぐり子は江崎の頬を叩いた。
「……嘘だな」
ぐり子は静かにそう言った。
ぐり子の話は続く。
「結局は自分のためだ。そんなことを言っても、所詮は欺瞞に過ぎない。自己満足に過ぎない。それがおまえというもの。それが人間というものだ。そうやってお前は、自分に言い訳をしているだけなんだよ」
その正論を、江崎は聞いて言い返すことができなかった。
「他人のことに頑張っている……お前は確かにそう言った。それこそが、楽な生き方をしていること……それくらい理解していないのかお前は?」
「そうなのかな……。解らないよ」
ぐり子は踵を返し、歩き始める。
数歩歩いたところで、上半身だけ捻って江崎の方を見る。
「要するにお前は寂しいんだよ」
「ただお前はほかの人に依存して欲しい。それを望んでいるだけだ」
「人から幸せを与えられようと、ただ待っているだけなんだよ! でもそれはただの幸せじゃない。偽りの幸せになるんだ!」
「それは君だって一緒だよ、1300号」
ぐり子の背後に現れたのは、ゼロだった。
突然の出現に、彼女の自尊心が大きく――揺らいだ。