※当時のノリで某作品の展開を利用しております。
11
第二のキャラクター。
ぐり子、彼女の場合。
空へと浮かんでいる彼女の姿を、彼女自身身近で感じていた。そしてその光景をすぐに違和があるものであると感じた。
「……これはいったいなんだ?」
彼女はその光景を理解できなかった。
しかし、その光景を嫌でも理解することになる。
彼女の身体にはあるものが絡みついていた。
――それは彼女自身。
「……あなたは私。そして私は私」
それを聞いてぐり子は振り返る。
そこに立っていたのはぐり子だった。だが、その姿は制服を着ているぐり子とは違い、一切の衣服を身につけてはいなかったが。
「あなたは私? ……それっていったいどういうこと?」
「私は、番号で言うなら1270号。そしてあなたは1300号。生体番号で言えば違うかもしれない。それでも私はあなたであなたは私。あなたの前には1299体の未完成である私でありあなたが居て、あなたが存在している。それと同様に私は1269体の未完成である私でありあなたが居て、かつ私はあなたの未完成であるあなたであり私に含まれているの」
「何を言っているの……?」
「それは今から、これから解ることだ」
1270号の隣に立っていたのは、ほかでもない支部長だった。支部長は笑顔でぐり子の手を取ると、言った。
「さあ、これからはじめよう。新しい世界の始まりを。ぐり子くん、君はこの時のために居たんだよ」
1270号はそれを聞いて、ぐり子に寄り添う。
――そして計画はゆっくりと始動していく。
12
再び江崎。
江崎は自分の内面から崩れていくような――そんな感覚を覚えた。
「自分が大きく、どこまでも広がっていくみたいだ……!」
――それこそが、ミカド教団の考える計画だった。人間をひとつの生命体へと進化させるための第一段階だったのだ。
その第一段階として、先ずは人の心をひとつにする。欠けている心を、埋めるのだ。
「これはただの前哨戦に過ぎない。そしてこれは虚無へと続くわけでもない」
これはただの『原点回帰』だ。支部長は笑みを浮かべながら、言う。この世界に失われている、そして今戻ろうとしている母へと還るだけなのだ、と。
彼女の中で眠り、人々は永遠の安らぎを得る。ただそれだけのことに過ぎないのだ。
そう思い、頷く支部長のとなりには血を吐いて倒れている能美の姿があった。
「これが『ミカド教団』のやりたい計画の内容……」
能美はミカド教団の計画を知った。それは支部長室に隠されていた資料から発見されたものだった。どうしてそこから資料が? ミカド教団と繋がっているのか? まったくもって解らなかったのだ。
「人間がひとつの生命体になろうったって難しい。なぜならそれは人間の心が等しく存在できていないからだ」
能美はその資料の一文を読み上げていく。
「だが、もし……もしも心をひとつにすることができて、永遠の安らぎを人類が得ることができたのならば、この計画も円満と行くだろう……。まさか、そんな馬鹿な……!」
能美は絶望する。自分が今まで信頼して仕えていた人間が、まさかこれほどまでに真っ黒だったなんて知らなかったからだ。
だから、彼女は決意する。
こんな計画は――止めなくてはならない、と。
13
CASE01:愛洲能美の場合(1)
「なあ能美さん。あんたは何を願うんだ?」
能美の目の前にはぐり子が立っていた。なにも彼女がそのまま能美の目の前に現れた――というわけではない。能美の心の中にいるぐり子がそのまま具現化された……といったほうが正しいのかもしれない。
能美は、唐突に言われながらも、しかし自分の置かれている状況を理解した。
ぐり子が能美の心の中にいるのならば、能美がぐり子の姿をここで見ているのならば、ぐり子もぐり子の心の中で能美の姿を、能美の心を見ているということになるのだ。
「私は――」
――大人でなくてはならない。
――ポッキー戦士を、若い力を見守る立場でなくてはならない。
「それはただのエゴだ。江崎と何ら変わんない。江崎のほうがまだしっかりと考え事を立てているのかもしれないな。……まあ、さておき。即ちそれが意味するのは、あんたはただのエゴでポッキー戦士を『監視』する立場にいたというわけだろ?」
「違う……!」
すぐに否定したが、しかし完全に違うわけではなかった。
ポッキー戦士を見守る立場にある彼女たちは、気がつかないうちに、或いは気づいていたかもしれないが、ポッキー戦士を利用していたのだ。人類の平和だのそういう理由でかこつけて、実際はポッキー戦士というレッテルを貼られた若い少年少女を使っているだけに過ぎないのだ――と。
「違う、違うの……!」
能美は崩折れる。だが、それでもぐり子の話は続く。
ぐり子の声が、頭の中に直接入ってくる。
――あなたはそれで幸せなの?
「ええ。幸せよ。だってポッキー戦士は、あなたたちしかアンソウルド・モンスターを倒すことが出来ない。私はこの仕事を満足して行っているの」
――ただこの仕事が簡単だから……そんな理由で入っているんじゃないのか?
ぐり子からの質問が鋭く彼女の心に突き刺さる。
「違う、私は……っ!」
「満足しているのはただのエゴだ。ポッキー戦士を使役することで得られる利権を味わっているだけに過ぎない。甘い汁を吸う政治家のように、ね」
「違う、わたしは……ポッキー戦士たちの……あなたたちの保護者として……」
「それはただの地位。心からそれをしようと、一度でも思った?」
「違う違う違う違う!」
「あなたは簡単に自分の地位が守られれば、別にこの地位じゃなくても何ら問題なかったのよ。だってそうじゃない? ヒトは変わっていくものよ。でもあなたはその地位に甘んじて、きっと誰かが守ってくれるだろう……そんな甘い考えでずっとここまでやってきた。そして結果としてここまで誰かが……この場合はポッキー戦士が守ってくれていた。あなたはただその地位に縋りたかった。それだけなんじゃないの?」
苦悩する能美の目の前には、江崎が立っていた。
江崎は呟く。
「僕たちは、こうしていかないと生きていくことは出来ないのかな」
人間は弱い。人間が思っている以上に、あっけらかんと弱い。
そして人間はそれから――自分が弱いという事実から逃げるために苦悩する。様々な手段を行使する。弱く見せたくないために身体を鍛える人間もいる。だが、心を鍛える人間はそういない。
人間の心が弱いのは、殆どの人間がそうだ。自分は大丈夫だなんて言っても、深い闇は誰だって抱えているものだ。
苦悩する能美の姿を、江崎はただ見守ることしか出来ないのだった。
――果たして彼女は何を望むのだろうか?
14
三人――江崎、ぐり子、能美はそれぞれ心に闇を抱いた人間だった。
舞台に立っている三人は、演劇をする俳優のようにも見えた。そんな彼らにスポットライトが当たる光景を、江崎は見ていた。
「……これは何?」
「人間の心の補完ってやつだよ。元はミカド教団の考えた計画の前段階、ってやつだがな」
「これが……? まるで堂々巡りじゃないか」
「そう。堂々巡りだ」
現れたのはゼロだ。ゼロはけらけらと笑いながら、ぐり子のそばにたった。
「……なんだ、気色悪い」
「気色悪いとはひどいじゃないか。それに今、君はこう思ったね? 『あんたは死んだんじゃないのか』……って。そう思う気持ちも解るよ。でもね、真実ってのは誰にも解らないんだ。解らないものなんだよ。自分が感じているだけが真実となる。そしてこの世界は……ほかでもない、君が、君たちが願った世界だ。アンソウルド・モンスターとの戦いに疲れたのか解らないが、君たちは破滅を願った。世界の破滅を、ね。それによって世界はリセットされた。人類は衰退したよ。アダムとイブを残してね」
「アダムとイブ……」
江崎はぐり子の方を見る。
ゼロの話は続いた。
「まあ、簡単に言えば世界は滅亡した。誰も救われない、最悪な三流映画めいた結末を迎えたわけだ」
「違う。誰も彼も僕のことを解ってくれないだけだ……」
「甘えるなよ」
ゼロは江崎の言葉を、たった一言で切り捨てた。
「お前はいったい何を考えている? 人生がリセット出来ないのはリセットボタンがあるからではない。ゲームオーバー画面がないからだ。そういう設計なんだよ、人生ってもんは」
「……結果として、失うものがあるというのなら、僕はなにもいらない。終わってしまうなら始まらなきゃ良かったんだ」
「僕は生きていていいの……?」
「知らねえよ」
江崎の言葉にゼロは言った。
「この半端な世界は少なくとも、おまえたちが望んだ世界だ。誰も救われないセカイ。半端なゆりかごの中に閉じ込められたセカイ。小さな心の安らぎがある世界。そしてこれは……お前たち自身が導いた、この世界の『終わり』だ」
――そして、補完への道は、つづく。