※当時のノリで某作品の展開を利用しております。
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時に、西暦二〇一五年。
ミカド教団が思っている以上に物事は難航していた。
人々の欠けた心を補完する――これは今もなお続いていたのだ。
だが、その凡てを記すにはあまりにも時間が足りない。
よって、主人公――江崎という少年。彼のことについて記すことにする。
CASE02:江崎の場合
恐怖。それは自分がいなくなること。
こんな自分なら居なくなってしまっても構わない。こんな自分はポッキー戦士として活躍する必要などない。今、自分のせいで多くの人間が傷つき、死んでいく。
耐え切れない。
耐えられない。
「どうしてだ?」
質問に答えたのはゼロだ。
「だって私はいらない人間……いや、人間というのも烏滸がましい。試験管の中で育った、『イキモノ』だからな」
「自分はいらない人間だ。どうだっていいんだ」
「果たしてそれはどうだろうな?」
ゼロはかけていたメガネをくいっとあげ、
「どうでもいいと思うことで、自分がしたくないことから逃げているだけでしょう?」
言ったのは能美だ。
失敗するのが怖い。
人から蔑まれるのが怖い。
弱い自分を見るのが怖い。
だったら投げ捨ててしまえばいいじゃない。死んでしまえばいいじゃない。選択の自由が、あなたに保証されている。
「でも、でも……怖いんだ」
怖い?
何が怖い?
失敗するのが? 蔑まされるのが? 弱い自分を見られるのが?
違う――。
「違う、違う、違う! そんなのは誰だっていっしょじゃないか! ぐり子ちゃんだって……能美さんだって一緒だった! きっと、きっと支部長だって……!!」
「ふうん。つまり君はこうだ」
ゼロは指をパチンと鳴らす。
「ひとつになりたいんだよ、他人と」
心がどこか欠けている。人はそれを怖がっている。だからひとつになりたい。だから誰かと一緒になりたい。誰かと一緒になることで欠けた一部分が埋まるんじゃないか……そんなことを思っているんだろう。そんな妄想にしがみついているだけなんだろう。
「人間って、そういうものよ」
言ったのは能美だ。
能美はパイプ椅子に座る江崎の後ろに立って、彼の体を抱きしめる。
「人はもろく弱いもので出来ている。……だから、心を一つにする。そして、我々は凡てひとつになるんだ」
支部長は言う。
「なぜ……ですか?」
訊ねる江崎に、支部長は頷く。
そして、その質問に答えた。
「そうしていかないと、人は生きていけないからだよ」
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「なぜ、生きている?」
訊ねたのはゼロだ。江崎は首をかしげることもなく、間髪を容れず答えた。
「……解らない」
「解らないのなら、どうして生きている?」
「解らないから、生きている」
オウム返しめいた会話を続ける江崎とゼロ。
対して、隣に立っているぐり子は違う。
「私はそれを知りたいために生きている……とでも言えばいいかな」
「なぜだい?」
「もちろん自分のため」
これは二人合わせて。
ゼロはさらに質問を続ける。
「生きていて、嬉しいかい?」
「解らない」
答える江崎。
「嬉しいに決まっているだろう。たとえ過去にあんなことがあったにしても……今は今だ」
答えるぐり子。
「楽しいことしかしたくない」
そう答えたのは能美。
「寂しいのは嫌いかな、諸君」
訊ねたのはゼロではなく、支部長だった。
「好きではないですね……」
答えたのは江崎。
「好きじゃないわ、当然のことよ」
答えたのは能美だ。
「だから……寂しいことから逃げるのか?」
「逃げちゃ駄目だ……!」
答えたのは江崎。
「どうしてだ?」
「だって逃げたら怒られるからです」
「だからどんなことがあっても、逃げないのかい?」
江崎は無言で、頷く。
「辛いことから逃げたのに?」
訊ねたのは再びゼロ。
「辛かったから……辛いのは解っている」
「だったら逃げればいいだろ。おまえが望んでポッキー戦士になったのかどうか知らないけど、この仕事を好き好んでずっと出来るなんて有り得ないよ」
言ったのはぐり子だ。
「辛かったら……逃げればいいの。逃げないでその辛いのを押し込めたままでいれば……人は壊れてしまう」
言ったのは能美だ。
「でも……もう逃げられない。逃げるのは嫌だ。嫌なんだ……!」
――そう、逃げちゃダメなんだ。
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逃げ出した辛さを知っているからだ、とぐり子は過去を振り返る。彼女は病室を抜け出して、ゼロのいる研究室へと向かった。あれは調査でもなんでもない。ただ、逃げただけだ。
「なぁるほど。だから逃げるのが嫌なのかい」
「だって逃げたら誰も相手にしてくれない。僕に相手にしてくれるのはポッキー戦士だから。きっとそうなんだ。僕がポッキー戦士じゃなかったら誰も相手にしてくれない。そうに決まってる」
「別にそう思ったつもりなんてないけど……」
言ったのは能美だった。
「嘘だ!!」
江崎は激昂する。
「ポッキー戦士としての活動がなければ、誰だって、能美さんも、支部長も容赦なく切り捨てるくせに!! 僕のことを、何一つ理解していないくせに!!」
「自分が傷つくのが怖い……そう思い込んでいるだけではないのか?」
訊ねたのはゼロだった。江崎は飽きたのか、うんざりとした様子で溜息を吐く。
「傷ついているのは君だけじゃない。みんな、みんなそうなんだよ」
江崎の周りにいるのは、今まで彼と関わり合ってきた人たち。
「僕のことなんてどうでもいいんだよ」
「そう言ってまた江崎、お前は自分の殻に閉じこもるつもりか?」
「僕には価値なんてないんだ。価値なんて……全然ない」
「だからポッキー戦士になっているのか?」
ぐり子の問いに躊躇いなく江崎は頷く。
「君だってそうだろう、ぐり子? 君もポッキー戦士になっていることに意味がある。君自身になんの価値もない……そう思っているのだろう?」
ゼロの言葉を聞いて、ぐり子は目を丸くする。
そして、ぐり子は俯くと――小さく頷いた。
「ポッキー戦士でいられるから、僕は僕でいられる」
「ポッキー戦士だからこそ、私は私という存在を保っていられる」
「ほかには何もないのか?」
ゼロの言葉に江崎は頷く。
「僕には何もない」
「何もない」
「何もない」
「何もない」
ぐり子、布律、能美に言われる。
――僕には生きる価値が……
「ない」
だから。
だから。
だから――僕は僕が嫌いなんだ。
「嫌いだ」
「嫌いね」
「失望したよ、君には」
「本当にだいっきらいだ。反吐が出るよ」
布律、能美、支部長、ぐり子に次々と言われていく。
次第に、彼の頭の中をあるひとつの単語が支配していく。
嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い……!!
みんな、みんな……大嫌いだ。
「でも褒めてくれるんだよ。ポッキー戦士として戦って、アンソウルド・モンスターを倒すと褒めてくれるんだ」
「嬉しいんだね」
ゼロの言葉に江崎は頷く。
「人に褒められると、嬉しいんだね」
ゼロの言葉は続く。
江崎はさらに頷く。
「でも……嬉しくない」
「どっちがおまえの想いだ?」
訊ねたぐり子の言葉を聞いても、江崎ははっきりとしなかった。
「解らないけど……たぶんどっちも同じ気持ちだと思う」
「だからポッキー戦士として戦うのか」
能美の言葉に江崎は頷く。
そうしないと自分を保つことができない。だけれど、ポッキー戦士として活動していくにも様々な制限がある。死ぬまでポッキー戦士をやっていくことなんて到底不可能だ。
だから、ポッキー戦士というあなたの存在が、気が付けばあなたというポッキー戦士にすげかわってしまうだろう。そういうことで何が発生するか? 逆転現象によって、あなたがあなたで無くなってしまう。
「いいんだよ、それで。もともと僕には何もない。両親もすぐに亡くなってしまったし……。だから唯一の『親』という存在が支部長しかいないんだ。支部長に褒めてもらえるだけで、僕は……」
「だから、ポッキー戦士としてやっていくんだ」
「でもポッキー戦士として活動できなくなったら、何もなくなってしまうかもしれないんだぞ。私みたいに……」
言ったぐり子を見て、江崎は頷く。
「いいんだ。――これが僕の凡てだから」