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「……世界があと三日で滅びると聞いたら、あなたはどう思う?」
突然言われたその発言は、僕にとっては突拍子もないことだった。だから理解するには時間がかかったし、簡単に答えることも出来なかった。
そうしてそれは、目の前に居る彼女も理解していることだった。
「簡単に言ったつもりだったけれど、どうやら難しい話だったようね?」
クスリ、と笑みを浮かべたまま彼女は咥えていたストロベリー味のポッキーを噛み砕く。
「……じゃあ、思考を変えてみよう。ベクトルを変えてみよう。簡単に話をしたかったけれど、段階を踏んでから話をしたほうがいい。それはきっと、君が今一番欲しがっているものだろうからね」
それは確かだった。
今の僕にとっては、それが一番知りたい情報だった――そう言えるだろう。
「……じゃあ、問題。アンソウルド・モンスターはここ数年出現確率が増加傾向になっている。これは正しい?」
「確か……増加傾向にあったはずだ」
支部長がそんなことをこの前の定期ミーティングでぼやいていたような気がする。僕は即答した。
少女は笑みを浮かべる。
「そう。その通り。では、そのアンソウルド・モンスターの出現確率が増えているのは何者かによるものだとすれば?」
「……何だと?」
それは確か、支部長が言っていた推測だった。
確かに考えられるアイデアではあった。けれど、実際にそれを実行することは難しいはず。僕はそう思っていて、だから僕は支部長の推測には懐疑的であった。
少女の話は続く。
「そもそも、アンソウルド・モンスターを駆除する目的は? どうしてアンソウルド・モンスターを倒さないといけないのかしら? そもそも、どうして在庫が怪物に姿を変えてしまう? そういうことを、あなたは考えたことは無いの?」
アンソウルド・モンスターを駆除する目的。それは余りに余った在庫がその怨念を抱いて怪物に姿を遂げてしまうからだ。
日本には『八百万の神』という言葉があるくらい、様々なものに神様というものが宿っている。そうしてその考えから、不良債権として人々から疎まれ続けた在庫は軈て神となり、人々に反逆を示す。それは、僕たちがポッキー戦士になるとき、支部長から教えられたものだった。もっとも、支部長は在庫監視委員会の本部が作った資料を読んでいただけに過ぎなかったけれど。
「……八百万の神。日本らしいこじつけの仕方よね。そもそも、そんなことは有り得ないことだっていうのに」
「有り得ないこと?」
「だって考えても見ればわかる話でしょう? 在庫監視委員会は国の機関。要はあなたたちも国家公務員とかわらない扱いのはず。そんな国家公務員が総動員で在庫を処分している? 馬鹿馬鹿しい。だったら、メカニズムが解っているのならば、もっと早く在庫を処分してしまえばいいだけの話。そうして、世論をそう動かしていくのはマスコミ……マスメディアのはず。では、どうしてそれが行われない?」
何だか難しい話になってきた。
けれど、まだ答えられない範囲ではない。
「それなら君は……わざと在庫を処分させようと? 店そのものではなく、アンソウルド・モンスターという怪物を作り上げてまで、在庫監視委員会に?」
「アンソウルド・モンスターが生まれたのは、ここ数十年と言われている」
さらに、少女は話を広げていく。この話は、長くなりそうだ。
「アンソウルド・モンスターが生まれた要因に、この国の『飽食』という悪しき文化が影響している、そう言われている。簡単なことよ、戦後間もない時代の食べ物が欲しくても得ることの出来ない時代から、この国はわずか二十年でオリンピック開催までこぎつけた。そういった急激な経済の変化に、人々は堕落していくばかりだった。食べ物は捨てられていき、二十年前に自分たちが経験した飢餓の時代はすっかり忘れ去られてしまった。在庫は無残にも捨てられていき、軈て在庫に……『心』が宿った。これがアンソウルド・モンスターの始まりと言われている」
「アンソウルド・モンスターが……ああ、確かそんな始まりだったはずだ。支部長からそう教えられた」
それを聞いた少女はケタケタと笑い声をあげる。
何がおかしいのか、ぼくにはさっぱり解らなかった。
そして少女は途端につまらなそうな表情に変えて、
「それさあ、大人から教えられた都合の良い知識だってこと。気づかない?」
「…………、」
質問に答えることは出来なかった。
簡単に言ってしまえば、その少女が何を言っているのか解らなかったから。
そして、少女の言葉は信じられるわけがないと思っていたから。
「……何も考えていないガキは、ほんとうに面倒だよ。在庫監視委員会の考えにどっぷりと浸かっていやがる。お前はあれか? 百まで浴槽に浸かっていろ、と言われたらたとえ五十度の熱湯でもその命令を忠実に守るクチか? だとすれば、ただの馬鹿だ」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。確かに僕は中学生だけれど、そこまで分別がつかないわけでもない。馬鹿というのはお前のほうじゃないのか。在庫監視委員会は在庫を……アンソウルド・モンスターを管理するために生まれた団体だ。それを悪く言うなんて……。そもそも、その力はいったい誰からもらったものだ?」
一応言っておくけれど。少女はそう置いて、
「これについては一つしか答えることはできない。……私の能力、ポッキーを食べることで得られる能力は在庫監視委員会にて得られたものではない。また別の組織から得られたものよ。……さて、問題。そこはどこでしょう?」
答えに辿り着くまでそう時間はかからなかった。
「まさか……ミカド教団……!」
「ぴんぽーん。ご名答」
いちごポッキーをかみ砕いて、少女は言った。
「そして、私はある目的を立ててここにやってきた、ってわけ。ぶっちゃけ、世界が滅びようがどうだっていいんだよねえ。問題は寧ろその先。ミカド教団が狙う真の相手。そいつがくだらねえ。くだらないねえ。そいつをどうして狙うのかははっきりしている。そいつは強いからだ。圧倒的な力を持っている。世界を守るための力を。まさに『神様』だとよ。……ははっ、笑えるねえ。この世界に、ポッキーの神が顕在しているんだと。そして、その神は今、その力に気づいていない。いや、正確に言えば……まだその力の封印が解除されていないとでもいえばいいかな。いずれにせよ、その力を解除するにはあまりにも時間が足りない。だが、やらねばならない。ミカド教団はそう言って躍起になって、本拠地のフランスからここ極東まで足を運んでいるわけだ。……さて、ここで二問目。ミカド教団がわざわざこの国までやってきて、何を欲しているのか? 簡単だぜ、何しろあんたの近くに答えがあるんだからよ」
僕の周りに居る――誰か?
僕の周りに居るといえば、布律か? いいや、だったら彼女はさっさと布律を追いかけているはずだ。それこそ、僕なんかに目をくれることもなく。
ならば、支部長? それも無いだろう。在庫監視委員会を敵視しているような彼女がわざわざ出向くとは思えない。
となれば、答えは一つ。
「そのまさかだよ、日本のポッキー戦士」
ふうと溜息を吐いて、ニヒルな笑みを浮かべた。
「ミカド教団が躍起になって狙っているのは……あんたの相方、ぐり子だ」